『広き迷路』 by  三浦綾子

広き迷路
三浦綾子
公益財団法人三浦綾子記念文化財
令和3年10月30日初版発行 


図書館の新刊の棚で見つけた。紙が白くて字も大きい。読みやすそうと思って借りてみた。
三浦綾子記念文庫の手から手へ 三浦綾子記念文学館復刊シリーズ、というものの一冊だった。三浦綾子記念文学館は、北海道旭川市にあるそうだ。

三浦綾子さんといえば、『氷点』、『塩狩峠と、号泣間違いなしの作家さん。目次を見て、短編集なのかな?とおもったのだが、一冊が一つの物語だった。

 

感想。
なんと、まぁ、、、。
読み始めて、こんな俗っぽい話も書いていたのか、三浦綾子さん!と、驚いた。でも最後には、やっぱり、悲しい・・・・悲しい・・・なんともやるせない最後だった。でも、涙は、ジワリとも出ない・・・。

馬鹿な男と、馬鹿な女の物語。
そして、それを利用した、もっと馬鹿な男たち・・・・。
おろかな・・・・。
でもそれが、人間なのかもしれない。
そんな、人間の弱さを描いた物語、って感じ。

そして、時代を感じる。
底本は、「三浦綾子全集 第7巻」主婦の友社 1992年4月8日。というけれど、描かれているのは、昭和30年代とか、40年代とかだろうか。高度成長期の日本だと思われる。でてくる「銀座Mデパート」は、三越のことだろうし、「六井財閥」は、三井でも三菱でもいいけれど財閥が日本経済を動かし、デパートが流行の最先端といった時代。そんな時代に、出世のために女を道具とした男の悲劇の物語、、とでもいおうか。
ろくでもない男の話、、、、だ。
そして、そのろくでもない男に恨みをはらすために、結局ろくでもないことになった女の話だ。。。

 

ね、暗いでしょ。
救いようのない話しだ。
話しの中には、こういう人と出会ってみたいと思う人は一人も出てこない。。。。
ハッキリ言って、どいつもこいつも!!と思ってしまう。
でも、高度成長期って、そういう人を人ともおもわない、人を利用するということが特別なことでもなく、出世のための政略結婚も当たり前の時代だったのかも、、、しれない。もちろんそんな人ばかりではないけど。
ほんと、TVのワイドショーのような物語。昼ドラか・・・。

こんな話を書いた三浦さんの意図は何だったんだろう・・・。
こういう、ばかな生き方はしなさんな、、、、ってことだったのか。
普通に生きている普通の人も、こうまで弱く愚かになるのだということか。

読んだら、びっくりすると思う。
こんな絵にかいたようなろくでなし、、、、。

 

以下、ネタバレあり。

ストーリーは、わかりやすい。

 

社内の派閥闘争で溝渕専務派についていた町沢加奈彦(27歳)は、銀座Mデパートの店員の早川冬美と付き合っていたが、冬美を捨てて、溝渕専務の娘・登志枝と結婚する。

 加奈彦は、自分の出身を偽り、憧れの同級生のハイソな家庭であるかのように冬美に語っていた。また、同級生の家で出会った彼の兄嫁・六井財閥の令嬢・六井瑛子と不倫関係でもあった。

 登志惠と無事に結婚できたものの、瑛子との不倫関係を溝渕家に出入りしていた謎の男、田條(でんじょう)九吉に指摘され、ばれされたくなければ瑛子から六井財閥の動きを探って報告しろと言われる。加奈彦は、瑛子もダマしながら情報を流し始めるのだった。そして、その情報を流していたある日、田條に「冬美から永遠に逃れたい」と言い、「消す」ことを依頼する。冬美は、田條によって、千葉の海岸断崖「おせんころがし」から突き落とされたのだった。

ある日、加奈彦は社内の別の派閥だった上原常務の結婚式に参加する。花嫁が別の専務の娘・琴子で、加奈彦は登志枝と共に披露宴に出席するのだが、そこに「冬美に瓜二つ」の女性「川島トミ子」が参加していた。冬美のお化けをみているのか、はたまた、田條が殺したと言ったのは嘘だたったのか・・・。加奈彦は、冬美にそっくりな女とであったことを田條につたえ、「川島トミ子」の素性調査を依頼する。30万円という高額で。

給料を掏られてしまったと嘘をいい、30万円を瑛子に用立ててもらった加奈彦。田條の調査によれば、「川島トミ子」は大阪に住む川島興産KK社長令嬢で、冬美とはまったくの別人であるとのこと。一度は安心する加奈彦だった。

その後、加奈彦は札幌支社へ転勤となり、登志枝と札幌の社宅に住むようになる。そして、その隣に引っ越してきたのが、上原常務の妻・琴子だった。琴子は、静養のために一人で札幌にきていて、友人「川島トミ子」が付き添っていた。再び、冬美の酷似したトミ子の顔を見るようになった加奈彦は、やはり、冬美ではないかと、びくびくと暮らす。

そうしているうちに、札幌にきた瑛子との不倫現場のホテルで、登志枝や琴子にあったり、、、、で、結局、瑛子とのことが登志枝にバレる。かつ、「川島トミ子」は、「私は、早川冬美です」といって、すべては田條が仕組んだことで、加奈彦が田條にダマされていたことに気づく。

瑛子との不倫、冬美殺人未遂だったことが溝渕専務にもばれ、全てを失った加奈彦は、その日の夜に睡眠薬で自殺する。

冬美は、加奈彦が死んでやっと恨みがはらせたと思うとともに、むなしさに襲われる。そして、加奈彦が死んだことでようやく加奈彦を独り占めできる、、、と感じ、加奈彦の元へと旅立つ。

”冬美は、海をめがけて身を踊らせていた。”

THE END

 

なんて、暗い話だ・・・・。

でも、思わず読み切ってしまった。
途中で、ろくでもない話しに、読むのをやめようかと思ったのだが、加奈彦がどうなるかが気になって、結局読んでしまった。
なんて、愚かな男だ・・・・。

そして、最後に死んでしまう冬美も愚かだ・・・・。

 

自分の人生を、誰かに乗っ取られてはいけない・・・。
ただそれだけをおもった。 

 

ちょっと、後味が悪い物語。

でも、こういうサラリーマンの派閥闘争物語も昭和の話で、過去のことのように思うから小説として娯楽にもなるのかもしれない。

 

出世失敗物語。。。サラリーマンだなぁ。。。

不倫失敗物語。。。人間だなぁ。。。

 

もうちょっと、明るい小説が読みたくなった。

まぁ、こういう本も、たまにはいいか。。。

三浦綾子さんの本でなければ、最後まで読まなかったと思う。