『君たちの生存戦略 人間関係の極意と時代を読む力』 by  佐藤優

君たちの生存戦略
人間関係の極意と時代を読む力
佐藤優
ジャパンタイムズ出版 
2022年12月20日 初版発行

 

本屋さんで目に入った。帯には佐藤さんの写真が眼光鋭く 「読んだ方がいい」、と言っているような。。。ということで、買ってみた。

 

帯の佐藤さんの写真の横には、
”冷たくて寄る辺ない社会に投げ出された君たちが、居心地のいい人生を送るために。
左手に〈人脈〉、右手に〈時代を読む力〉”とある。

 

表紙カバー裏には、
”・人のような冷たい 『妖怪シェアハウス』
・直接的な人間関係  その暴力性
・感化は自己犠牲・洗脳は暴力
・強制参加の「永遠の椅子取りゲーム」
・価値の体系・利益の体系・力の体系
第三の道  小芝風花の目的論
・世直しとテロリズム  ミネルヴァの梟は夕暮れに飛び立つ
・人類共通の課題を考える余裕のないわたしたち
・加速するメリーゴウランド
・街のスナックは交換様式 D の予兆”
と。
これだけ見ると、なんだかよくわからない、、、けど、佐藤さん視点の切り口で、今の社会の問題、自分はどうすればよいのか、が述べられている。

 

227ページ、1500円(税別)。わりと文字が少なく、、、見た目の厚さのわりには、さ~っと読める。まえがきで、佐藤さんの持病が悪化しつつあって、残された時間が少なくなっているなか、その時間を有効に使いたいと思って書いた、と述べられている。ご自身の経験で得てきた貴重なノウハウを若い世代に伝えるのが本書の目的、と。

 

目次
第一部 明日から職場で使える人間関係の極意
第一章 人脈づくり
第二章 スキルアップ 
第三章 管理職になったら

第二部 仕事力をアップさせる「時代を読む力」
第一章 時代を読むための洞察力
第二章 歴史の転換点
第三章 社会の危機と未来の破局
第四章 危機を乗り越えるための考え方

 

さ~~っと、読めるけど、読みごたえはある。
これで1500円なら、安い。20代、30代なら一冊手元に置いておいてもいいかも、、、なんてね。
第一部は、既に脱サラしている私には、これから参考にするというより、うんうん、そうだよね、と共感することがたくさん。第二部は、やっぱり生涯学び続けるって、楽しいよな、っておもえる。「時代を読む」には、歴史を学ぶのは必須だと、よくわかる。

 

心に響いたことを、覚え書き。

・うんと深く付き合うのは五人でいい
 親密な関係を築く相手は、多ければいいのではなく、本当に自分にとって大事な五人くらいで十分ということ。すくなそうだけれど、その五人もそれぞれその先の人脈を持っている。そこをたどれば広い人脈をつくることは出来る。人脈を作りたかったら、むやみに広げるのではなく、本当に信頼できる人を五人つくること

うん、そして、信頼できる友達というのは、頻繁に会う友達ということでもない。ということが歳をとるとよくわかる。

 

・一緒に食事をすることの重要性
 一緒に食事をすることは、親しい関係がより親密になる。お通夜でお斎をみんなで食べるのも、つながるため。会食することで、つながる、というメッセージになる。
だから、大事な人とはできるだけ一緒に食事をするといい。

 

・自腹を切ってはいけない。もう一つの公私混同。
 人脈を広げるうえで、ある程度お金は必要。公私混同というと、会社のお金を私的につかってはいけない、というのは当たり前だけれど、「仕事のために身銭を切る」こともしてはいけない、と。滅私奉公のように自分のお金を会社のために使っていると、 自分が使ったお金を取り戻してやろうという気持ちが起きることがある。そして、会社のお金がある程度自由に使えるような立場になった途端、交際費を使いまくる。。。極端な場合は、横領に走る・・・。

あ、、ちょっとわかる。横領という現場は見たことないけれど、そこまで交際費でおとすか?!?!というお金の使い方をするひと、、、、たしかに、いたなぁ。。。
「とりもどしてやろう」という気持ち、わからなくはない。いつか見返りを、、、と期待して使うお金は、やはりある意味、公私混同というか、間違ったお金の使い方かもしれない。お金は、使うなら、執着せずにどーんと使おう。

 

・人物を見極める基準 意思と能力のマトリックス
 横軸に意思、縦軸に能力をとったマトリックスで、人物を見る。「やる気があって、能力も高い」はいい。危険なのは、「やる気があって、能力が低い」・・・・・。

部下を持ったことのある人なら、だれもがうなずいてしまうだろう・・・・。
できることなら、こういう「やる気があって、能力が低い」タイプは距離をとったほうがいい、と。やる気があって前向きなので、やたらと名刺を配りまくり、自己アピールをするタイプ。本当に能力がある人は自己アピールをしなくても、周りがちゃんと評価する・・・。こういうタイプが、上司になった部下もつらいけどね。

 

・内在的論理がわかれば鬼上司も怖くない
 人には、それぞれ「内在的論理」がある。つまり、その人にとっての「理屈」だ。機嫌が悪いなら悪いなりの理屈が本人にはある。難しい人ほど、周りには見えにくい「理屈」を持っているもの。それが見えてくると、気難しくてちょっと面倒な人でも付き合いが可能になる。

 

うん、わかる。自分の基準では理解できない相手のことは、相手の内在的論理を考えると、相手に振り回されずに済む。だって、自分とは違う価値観で生きているんだから、自分と同じように考えるわけもなければ、行動するわけもない。そういう相手こそ、「内在的理論」がどうなっているのかを考えることで、過度なストレスになるのを防ごう。

 

・伝える力 ロジック・レトリック・アナロジー
自分の意思や考え方を伝えるのに有効な方法は、ロジックとレトリックがある。
 ロジック:論理
 レトリック:修辞学・弁論術
ロジックは、帰納法など、いくつかの事例を列挙して結論を説明する。もっとも一般的。レトリックは、同じことをいうにも、いかにうまい言い方をするか、、、。
相手に対して、「お前、嘘をつくなよ」といえば角が立つ。「お互い正直にやりましょう」といえば、角が立たない。
言い方って、大事。
そして、レトリックを使うときには、アナロジー(類比)が基礎となる。~のような、という比喩的な表現をつかうことで、伝わりやすくなる。

ワインの香りを「トロピカルフルーツのような」とか言うのも、アナロジー。「スミレの花のつぼみのような」というワイン用語があるのだが、それはそれで、スミレのつぼみなんて香りしないから、わからんわ!となるけれど・・・。

 

・ノート一冊主義
 佐藤さんは、日記も仕事も勉強も、すべて同じ一冊のノートを使っているということ。一冊のすべての記憶が収まっている。予定の変更も、コンピューターなら消えちゃうけど、ボールペンで書いたものなら、消した跡が残る。使っているのは、コクヨのCampasノート100枚綴りだそうだ。厚さ、11cm。だいたい、2か月で使い切るくらい、と。

ノートは、何を使うのか、結構、悩ましい・・・。私は、仕事用、読書用、アイディア用、と使い分けているのだけれど、厳密にそれぞれを分類するのは難しい・・・。たしかに、ノート一冊主義もいいかもなぁ。私は、Campasの5㎜方眼罫を好んで使っている。読書用には、100均のお絵描きノート。でもこれは、紙が分厚くて書くにはいいのだけれど、保存場所をとるので困る。Campasノート100枚つづり、一度使ってみようかな。

 

・思考の鋳型を持つ
「思考の鋳型」とは「哲学」。自分の中に、その鋳型があると、ものごとを迅速に判断できるようになる。それは、自分なりの人生、社会、人間に関しての視点と視座をもつこと。

つまりは、「自分の頭で考える」だ。自分の頭で考えるためには、それなりの基礎が必要。それを積み上げ続けるのが人生。。。

 

・物事を判断する三つの基準:価値の体系、利益の体系、力の体系
国際政治学者・高坂正尭さんの古典的名著『国際政治 恐怖と希望』のなかの概念だそうだ。

価値の体系とは、資本主義とか自由とか、イデオロギー的な基準や宗教、道徳の価値観。

利益の体系は、そのまま経済的利益の損得。

力の体系とは、権力の有無、地位や立場の関係。

利益はでるけれど、道徳的によろしくない、という仕事を続けていると疲弊する。社会に貢献できる価値を提供しているけれど、上司の権力によって自分の時間が搾取されている状態は、やはり疲弊する。
3つの基準が、自分のなかでバランスをくずしたり、自分の価値体系にあわないなら、そこから逃げるべし!と。

 

・歴史の転換点は、客観的事実として知っておく。
世界史として重要な歴史の転換点が挙げられている。
1347年 黒死病(ペスト)の流行
1419年 フス戦争 (教会の腐敗を訴えたフスは、焚刑)
1517年 ルターによる宗教改革プロテスタント運動へ)
1648年 ウェストファリア(ウェストファーレン)条約 
1755年 リスボン地震 (近代国家の災害対策の始まり)
1789年 フランス革命 (人権宣言へ)
1814年~1815年 ウィーン会議 (ヨーロッパの均衡と秩序へ)
1914年~1918年 第1次世界大戦
1939年~1945年 第2次世界大戦
1991年 ソビエト連邦の崩壊
1995年 地下鉄サリン事件
2001年9月11日 アメリ同時多発テロ
2011年3月11日 東日本大震災
2020年 新型コロナウイルスパンデミック
2022年2月24日 ロシアのウクライナ侵攻

 

・国家とはなにかを見極める
国家とは、ある一定の領域で「物理的暴力の行使の権利を独占し、他の組織や団体が暴力を行使することを制限する権力を持っている」。ロシアは、ウクライナ侵攻のために国民に兵士として戦え、と強制した。戦争とはその暴力性が顕著になったもの・・。

 

・街のスナックは交換様式Dの予兆。
最後に、国際平和について語られている。国と国との付き合い方から、人と人との付き合い方へ展開し、街のスナックの話に飛ぶ。交換様式Dというのは、柄谷行人さんが展開している社会の構造を分類するときの一つの考え方。
経済的な交換様式を4つに分類する。

交換様式A:互酬(贈与と返礼)
交換様式B:略奪と再分配(服従と保護)
交換様式C:商品交換(貨幣と商品)
交換様式D:A,B,Cを超える新たな交換様式 (交換様式Aの高次元での回復)

スナックは、利害関係のない人が互いにおしゃべりできる場。会社でも家庭でもないところで、心を許して話せるママがいる、マスターがいる、そいういう場所がこれからの時代、結構重要かもしれない、と。 

 

どの話も、中庸をとっているな、という感じがする。極端な方に寄りすぎるなということより、極端なことがあることを理解した上での中庸が大事。世の中には悪もある。善もある。それを分かったうえで、自分はどの立ち位置に行くのか。広い視野を持って考えるって、大事。

まずもって、自分が知っている世界というのが、どれほど小さい世界なのかってことを自覚するのが大事なんだろう。でも、それは経験を積み重ねていくことでわかること。本書を読んだからといって、いきなり世の中がわかるわけではない。でも、そういう世界もあるんだ、ということに触れておくことが大事。コロナワクチンじゃないけど、社会の悪も、人の悪も、そういう悪が世の中にはあるのだ、とちょっとだけ予防接種的に知っておく。そういう世界に免疫をもっておくって、生存戦略として大事かもな、って思う。

 

うん、面白い一冊だった。