『おいしいもののまわり』 by  土井善晴

おいしいもののまわり
土井善晴
株式会社グラフィック社
2015年12月25日 初版第1刷発行
2020年4月25日 初版第8刷発行
*本書は、雑誌「おかずのクッキング」テレビ朝日・刊)に2007年から2012年まで連載されたものを加筆・修正し、まとめたものです。

 

図書館の棚で、不思議な色合いの表紙が目に入った。土井さんの本だったので借りてみた。

皆さんご存じ、NHK「今日の料理」の土井善晴さん。語りもおもしろければ、本も面白い。


中は1ページ3段構えになった読みやすい文字配置、そしてカラーの写真。紙の質もやや厚めで、しっかりしている。手に取ってページをめくるごとに、土井さんの声が聞こえてくるような、やさしい響き。

素敵な本だった。

お料理好きの私としては、ふむふむ、家庭料理とは確かにそうかもしれない、、、と肩の力が抜けつつ、背筋を伸ばしつつ、聞き入ってしまう、、もとい、読みいってしまう感じ。

 

「はじめに」の中に、土井さんの心からの声がつまっている。土井さんは、食べる人というのは、感情的で自分勝手なものだ、という。お腹が空いていれば、量の多いものを求め、 お腹を空かしてデパ地下をあるけば、なんでも美味しそうに見えて、気が付けば食べきれないほど余計なものを買っている、、と。時に激辛の刺激にはしったり、、、スイーツを求めたり。

 

そして、
料理とは命を作る仕事である。ゆえに、料理は作る人が主役でなければならない。つくる人は、料理の背景にある大自然、その土地の風土に育まれた食材を生かし、歴史的事件に影響されながらも、もっとも最善の調理法を見出してきた。土産土法を持って民族の命を健全に繋いできたのだ。加えて、食べる人を愛して、その人の健康を願って料理する。人は自分の都合で料理するのではない。たとえ戦地にあっても、子供の手を引いて、大切な鍋をかぶって逃げるのだ。どんな状況であっても、何か食べさせなければならない。
 料理をすることはすでに愛している。食べる人はすでに愛されている。それを当たり前のことと信じて疑わない。そうして料理を作る人が食文化を担っている。
(中略)
真の美味しさとは舌先で味わうのではない。肉体が感じる心地よさ、一つ一つの細胞が喜ぶものなのだ。”
と。

う~~ん、好きだなぁ。こういうの、と思う。

 

私が「明石の仙人」と呼ぶ知人は、御年70を過ぎた料理人でもある。彼は、「畑も見んと野菜買うてる奴は料理人じゃないなぁ」とおっしゃる。野菜だけじゃない。彼のお店で出されるお魚は、彼が明石漁港で仕入れる本当の活魚だ。どんな土地で育った野菜なのか、どこで取れたお魚なのか、それがわかって初めて料理ができる、と。そう、作る人が食文化をつくっている。

 

もくじ

はじめに
季節を感じること、信じること
食の場の区別
台所のお布巾
計量とレシピと感性
お料理をする箸
まな板
たまじゃくし
味を見ること・味見皿
パイ缶/保存容器雑 味のない味にするために
火の通り加減をみる串
落し蓋を使う煮物
白いエプロン
おひつご飯のおいしさ考
水を料理する
混ぜ合わせる
洗い物から、学んだこと
焼き色の美味しさ
食卓の味つけの考え方
お料理の火加減
肉を美味しく焼いて食べること
お料理の温度のむずかしさ
茶碗の感性
日本のだし汁
お塩の美味しさと健康のこと
海苔の香り、ゴマの香り
とろみのおいしさと効用
包丁するという調理法
器を使いこなすための器の見方
お茶を頂く「湯のみ」の話
大根の一年
日本のお米、日本のご飯
お料理の姿、人の姿
あとがき

 

どれも、 難しい料理の話ではなく、家庭料理の話といっていい。お芋は、美味しく煮えるお芋をえらべば、だれでも美味しく炊ける。おばあちゃんは、それをよく知っていたのだ。だから、おばあちゃんのお芋は美味しかった、とか。

今は、旬でなくても、野菜、魚、様々なものが手に入る時代だけれど、旬の素材をえらぶというのが、お料理の第一歩、ってこと。

 

下処理は、野菜も魚も外と中を区別すること、とか、生でたべるものと火をいれてたべるものは、別々に調理するべき、とか。。。ずぼらだと一緒くたにしてしまいそうな基本が次々と語られる。難しいことが書かれているのではない。ほんとに、基本で、おっくうがって飛ばしてしまいがちなことが、丁寧に書かれている。見習おう。

 

布巾は白で、汚れたらすぐにわかるもの。白いエプロンも常に清潔さを保つため。

 

料理中は、右手は道具を持つ手、左手は素材に触れる手、として右手はいつでも綺麗な状態に保つこと。

 

冷めて食べる物は、温め直す必要はない。かぼちゃの煮つけ、茄子の煮つけ、切り干し大根、ひじきなどは、冷めていてもよいのだそうだ。冷蔵庫から出した温度ということではない。アツアツに温める必要はないということ。たしかに、電子レンジがあるからついつい温めてしまうけれど、、、。温度で味の感じ方も変わる。冷えながら味の入るものは、そのままでもよいのだ。

 

焼き色として「キツネ色」というのはよく聞くけれど、「タヌキ色」という言葉がでてきた。え??ふざけてる??と一瞬おもったのだが、本気で料理の世界で「タヌキ色」というのがあるらしい。タヌキ色は、どら焼きの色、だそうだ。キツネがもうちょっと焼けた色。

 

もくじにもなっている「パイ缶」。一体、何の事かと思ったら、料理の保存容器で熱伝導性のよいステンレス製で蓋つきのもののことだった。料理屋さんの厨房には必ずあると言っていい。フレンチの厨房でもよく見かける。使い勝手がいいのだろう。熱伝導がいいので、料理を素早く低温にすることができ、雑菌繁殖防止にもなる。プロっぽくてかっこいいな。ジップロックのタッパーではなかなか冷めない。少し冷めてから冷蔵庫に入れよう、、、と思っても結構時間がたって忘れてしまうことがある。こんど、パイ缶、買ってみよう。また一つ、お料理が楽しくなる気がする。

 

お豆腐の話で、昔は半分に切ると、正方形になった、と。確かに!!!私が子供のころのお豆腐は、タテヨコが1:2だった気がする。半分に切ると、正方形。正しくは、上から見たら正方形ってことだけど。だから、8等分すると、たいてい綺麗な立方体。いつからスーパーで売られるお豆腐の大半が、ずんぐりむっくりになったのだろう・・・・。

お豆腐といえば、父が晩酌をするとき、かなりの頻度で湯豆腐をたべていた。8等分して綺麗な立方体になったお豆腐。しかも、我が家の湯豆腐は、昆布、豆腐、ねぎ、にタラの切り身が入っていた・・・。タラが入っているのがスタンダードな湯豆腐だとおもっていたら、大人になってそうではないということがわかって、結構、ショッキングだった。。。しかも、我が家では湯豆腐でしか登場しなかったのではないかと思われる白い陶器?の鍋があった。白い鍋にガラスの蓋の中で、白い豆腐と白いタラの身が踊っているのが我が家の湯豆腐だった。あれは、父のレシピだったのか、母のレシピだったのか?というか、レシピというほどのものでもない、、、。ぜんぶ鍋に入れて、火が通ったら出来上がり、、、。ポン酢で食べる。シンプルだけど、美味しい。

 

1つだけ、レシピの覚書。

◎そうめんつゆ
・1/4カップの醤油
・1/4カップのみりん
・1カップの水
・一つかみの鰹節
を鍋に入れて、火にかける。以上。

ただし、分量を倍にすれば、倍出来るというものではない。火にかけた時の時間で、蒸発具合、風味の失われ具合が変わる。

 

そう、レシピというのは、ただの算数ではない。
つくる分量、鍋の大きさ、火力、時間が変われば同じものは出来上がらない。
そう、それが料理。
自分の知恵と感性をはたらかせることで、はじめて美味しい料理ができる。
そう、だから、料理は楽しい。

毎回、同じ料理を作っているつもりでも、毎回、ちょっと違う。
それが、楽しい。

 

やっぱり、料理ほど実用的な趣味はないだろう。

旬の素材を手ごろな価格で仕入れて、美味しく仕上げる。

美味しくできると、「やったね!!」と思う。

コンビニの「サラダチキン」より、自分で作った「鶏むね肉ハム」の方が、何倍も美味しいし、安い!

 

お料理が、キッチンに立つことがもっと楽しくなる一冊。

お料理好きにも、食いしん坊にも、お薦め。

 

 

おまけ

Megurecaレシピ:鶏むね肉ハム

・鶏むね肉 1枚

・塩 むね肉の0.8%重量 (400gの肉なら、3.2g) *塩小さじ1は5~6g

・砂糖 塩と同量か少ないくらい。*味ではなく保水のため

皮をとった鶏むね肉をビニール袋に入れて、塩と砂糖をもみ込んで、半日程度冷蔵庫へ。

お肉がしっとりした感じになったら、ビニール袋から取り出して、ラップで丸い円柱になるように、形を整えて包む。巻きずしの要領でラップで包んで、転がしながらキャンディーのように左右をキューって絞るようにすると形が整う。包んだラップごと熱耐性のビニール袋に入れて、鍋にいれた水につけながら空気を抜いてからビニール袋の口を縛る。

そのまま、水からビニール袋ごと火にかけて、沸騰状態で5分。火を止めて鍋ごと冷めるのを待つ。完成。

 

注意事項1:鍋が小さすぎると、速く冷めすぎるので、大きめの鍋にたっぷりの水で。

注意事項2:火にかける前の肉が冷えすぎていると火が通りにくいので、室温にもどしてから火にかけると安心。

注意事項3:鍋にいれて火にかけるビニール袋は、耐熱性のシャパシャパしている素材の物を使用。スーパーで無料でおいてある不透明な素材に近い感じの物。透明で伸びるタイプはNG。

 

そのままでも薄めの塩味はついている。好みで、しょうゆでも、マヨネーズでも、ドレッシングでも。作っておくと、数日は冷蔵庫で日持ちするので、便利。サラダにしてもいいし、炒め物にちょっと肉を入れたい時にも。チャーハンにしても、焼きそばにしてもいける。

 

安く仕入れた素材で、美味しいお料理が完成すると、満足度は高い。加えて、後片付けまですっきり綺麗に終わると、気持ちもすっきり。

料理は、深い。

そして、無心になれる。

 

おいしいものにかこまれて生きていこう!