『後白河院』 by  井上靖

後白河院
井上靖
新潮文庫
昭和50年9月30日 発行
平成19年8月1日 31刷改版
令和元年12月20日 38刷 

 

図書館で、新着本の棚で目に入ったので借りてみた。やはり、図書館の本でも新しい本は、気持ちい・・・。

井上靖歴史小説。今年の本のテーマの一つに、歴史、とおもっているので、借りてみた。

 

本の裏の説明には、
”朝廷・公卿・武門が入り乱れる覇権争いが苛烈を極めた激動の平安末期。千変万化の政治状況において、常に老獪に立ち回ったのが源頼朝に「日本国第一の大天狗」と評された後白河院であった。保元・平治の乱、鹿ヶ谷事件、源平の争乱、平家滅亡・・・・。
その時、院は何をどう思いどう行動したのか。側近たちの証言によって浮かび上がる謎多き後白河院の肖像。明晰な史観に基づく異色の歴史小説。”と。

 

感想。
面白かった。けど、この時代の基本をしらないと、ちゃんとは理解できない。時々、注解を見返すのはもちろん、日本史の教科書も引っ張り出しながら読んだ。本の最初にあった、天皇家系図も活躍。正直言って、初めて保元の乱とか平治の乱がどういう内乱だったのかがわかった気がする。。。

本を読んだ楽しさもあったけれど、歴史の勉強になったなぁ、って感じ。歴史をよく伸ている人なら、この構成といい、語り口と言い、もっとす~~っと読めて、楽しめると思う。

 

本書は、本のタイトルの通り、後白河院にまつわるお話なのだけれど、本人が登場するというより、後白河院の身近に仕えた人たち、4人がそれぞれの言葉で、自分の思いを語る形で展開する。

 

第一部は、兵部卿平信範(のぶのり)が、藤原兼実(九条兼実に語って聞かせる、という形。


第二部は、建春門院後白河院の女御、高倉天皇の母)中納言藤原俊成の娘で、歌人)が、女院に関する思い出話の中で、語る。


第三部は、藤原経房(吉田経房が、兼実に反発する思いを抱えながら後白河院について語る。


第四部は、九条兼実が、信範に話を聞いたのはもう何十年も前、、、と振り返りながら、自分自身の関白としての経験を交えて語っている。

 

第一部から第四部まで、時代も順々に流れるので、わかりやすい。
それにしても、院政がひかれ、摂関政治が行われていた時代、だれが誰の奥さんで、誰の母親で、誰が誰と兄弟だか?!?!ほんと、歴史音痴の私には、家系図とにらめっこしながら読み解かないと、なんのこっちゃ?!ってなってしまう。

 

天皇の継嗣問題も、たんに年齢順でもないし、母親が違う兄弟がいるということは、年齢もバラバラだし、複雑。しかも、取り巻きはみんな自分の娘を天皇に嫁がせようとするものだから、ますます、血縁相乱れる・・・。

 

後白河院崇徳天皇は兄弟で、第77代と75代。その間に、母親の違う近衛天皇が76代で即位。後白河院は、3年しか即位せずに、息子の二条天皇(守仁王子)を即位させている。自分は、のんびりと上皇として政治に関わりたかったとういことか?

 

本書の中で語られる後白河院は、結局のところ、誰のことを信用していたわけでもなく、孤独のなかにあったのではないか、ということ。第一部の信範のことばを借りれば、
”白いふくよかなお顔立ちで、お身体も大柄でありますし、立ち振舞いも万事おっとりとして、ほかの競争者を排して、即位あそばすお人柄のようにはとうていお見受けできませんでした。 (近衛天皇の後継問題のときのこと)
ただ、高貴な血は争われないもので、ご装束をお着けになるとご立派であるというのは、帝のお姿を拝した人みなが口にしたことでございます。畏れ多い言い方ではございますが、はっきり申し上げると、平生は到底天子の器にはお見受けできないが、然るべきに場所にお据え申し上げさえすれば、さすがに自らの御血筋が物をいい、何をお考えになっているか判らないおっとりしたご風貌も却って威厳となって、なかなかどうして立派なものである。”
と。

 

内乱の一つ保元の乱(1156)後白河院は、崇徳天皇(with藤原頼長)と対立し、藤原忠道(頼長の兄、信範が語って聞かせている兼実の父)と手を組む。
保元の乱は、頼長と忠道という兄弟が、崇徳天皇派と後白河院派として対立した戦いでもあったということ。

 

そして、その3年後の平治の乱では、藤原道憲(入道して出家し、信西後白河院側となり、それを支持した平清盛と、道憲と対立していた藤原信頼を支持した源義朝が戦うこととなる。勝ったのは平清盛側。ちなみに、源義朝は頼朝・義経・範頼らの父。

 

第二部では、だんだんと力をつけてきた平清盛(入道相国)にたいして、後白河院がだんだんと距離をとろうとする様子が垣間見える。建春門院との子供、後の高倉天皇中宮として迎えられたのが、入道相国の娘、徳子姫だった。天皇家平氏との血縁がさらに増えていく。でも、この高倉天皇と徳子姫との子供こそ、第81代天皇安徳天皇。源平の戦乱の中で命をおとした天皇だ。

 

第三部は、当時、大地震、飢饉、戦い、病いなどで、どれほど国が疲弊し、京都を含めて治安がみだれていたか、という話。

 

第四部では、全盛期を迎えるも、衰えていく平家と、それを淡々と見つめている後白河院
九条兼実がそれを語る。そして、この九条兼実こそが、源頼朝征夷大将軍に任命し、鎌倉幕府の時代へと・・・。

 

一つの時代の勉強としては、流れがわかって、なかなか面白かった。

時々、後白河院が側近のことを本当には信頼していなかったかのようなそぶりの観察が語られたりして、ちょっとスリリング。

 

様々な文献をもとにして、こうした時代小説に組み立てるって、すごいなぁ、、、と思う。やっぱり、井上靖もすごいひとだ。

昭和の本であり、今も刷られ続ける本というのは、やっぱり名著なのだ。

勉強になるなぁ。

しかも、なんというのか、筋肉質というのか、贅肉がないというか、文章読んでいて研ぎ澄まされていく感じがする。背伸びしていなくて、裸足で大地にどっしりと立っている感じ?うまく言えないけれど、密度が濃い感じがするのだ。

文学も、時代とともにかわってきているってことかな。

 

加えて、歴史小説は、やっぱり、読み応えがあっていい。

ちょっと、読むのに時間かかっちゃうけどね。

 

薄い単行本。それでいて、充実感たっぷり。

図書館で目にしなかったら読まなかったと思う。

読書は、出会いだ。

読書は、楽しい。