『ロウソクの科学』 by  マイケル・ファラデー

ロウソクの科学
マイケル・ファラデー
渡辺政隆
光文社古典新訳文庫
2022年9月20日 初版第1刷発行

 

図書館の新着本の棚にあったので、借りた。名作中の名作。ずっと読もうと思っていたけれど、実は、読んだことがなかった。光文社古典新訳文庫は、読みやすくて好きなので、迷わず借りてみた。

裏の説明には、
”科学者ファラデーが少年少女相手に行った連続講義録。ロウソクの種類、製法、燃える仕組みから、燃えるときに起こる物理・化学現象までを、さまざまな角度から優しく解説する。原著出版から160年以上経たいまでも、ノーベル賞受賞者他、世界中で読み継がれてきた不朽の名著。”


マイケル・ファラデーは、1791~1867年、イギリスの科学者。ロンドンで貧しい鍛冶職人の息子として生まれる。13歳でリーボー書店の徒弟となり、読書によって独学を重ねる。1813年に ロイヤル・インスティチューションの実験助手となり、1825年には所長に就任。化学と物理学の分野で数々の業績をあげた。1826年からはインスティチューションにて金曜講話とクリスマス・レクチャーを開始するなど科学教育にも熱心に取り組んだ。1867年に自宅にて死去。本書は、1860年、61年のクリスマス休暇に自らおこなったクリスマス・レクチャーの連続講義をまとめたもの。

ファラデーの法則でも知られるファラデー。本書は、インスティチューションで実際に実験をしながら、ロウソクが燃えると水が発生すること、炭素が残ることなどを講義している。その様子をファラデーの語りのように綴られている。この講義の様子を著書にすることを、チャールズ・ディケンズに頼まれた時、最初はファラデーは嫌がったそうだ。実験の様子を文書で説明しても、正しく伝わらない、と。でも、イラストがあって、読むだけでも結構よく伝わってくる。本文としては、173ページの薄い文庫本。あっという間に読める。読みながら、実際の実験現場をみたかったなぁ、と思う。

最後に、渡辺さんによる「解説」、「あとがき」もついているのだが、その部分も面白い。ちょっとしたファラデーの伝記を読んでいるような気になる。ファラデーは、敬虔なクリスチャンだったそうだ。でも、彼の中で、科学と信仰は矛盾しなかった。ファラデー自身が、心から科学を楽しんでいたんだなぁ、という感じがする。この講義、受けてみたかった!
2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典さん、2019年にノーベル化学賞を受賞した吉野彰さんも、子ども時代に影響をうけた本として、本書をあげられたらしい。

科学実験ほど、ワクワクするものはない。
私にとってもそうだった。
私の場合、中学生の時、授業でやった理科の実験の続きを、先生が特別に放課後にもやらせてくれた経験が、理系に進むきっかけの一つになったと思う。わたしと、もう一人の同級生と、たしか二人だけに、理科室を使わせてくれたのだ。アルコールランプを使った実験だったと思う。もう、何の実験をしたのかは忘れてしまったけれど、物質を取り出すか、変化させるか、、、加熱が必要でアルコールランプをつかった。火を使うので、先生も一緒に放課後付き合ってくれた。別に、化学部だったわけではないけれど、実験が大好きだった。

と、本書にでて来る実験の数々は、確かにやろうと思えば家でもできることだ。ロウソクを燃やすことは、家でもできる。その燃え方をどれだけ仔細に観察したことがあるか。。。ロウソクについての説明を読んでいると、今度ロウソクを燃やすことがあったら、もっと観察してみよう!!とおもった。

面白い!
やっぱり、名作だ。
イラストもいい!!
写真じゃないのだよ、イラストなのだよ!!

 

目次
序文
第一回 ロウソク
第二回 ロウソク(つづき)
第三回 燃焼の産物
第四回 ロウソクの中の水素
第五回 大気の正体
第六回 呼吸とロウソクの燃焼

 

そう、講義の最後は、私たちが呼吸しているのも、酸素を使って二酸化炭素を発生させる燃焼がおきているのだ、という話につながる。

実に、6回という短い講義の中で、ロウソクから呼吸の話までつながるのだ。これがワクワクしなくてどうする!!!

最初の二回では、ロウソクの種類や、どうやってロウソクを作るのか、また、なぜロウソクは芯だけが燃えて、ロウそのものは燃えないのか、など、ふと考えると、あれ???不思議だな、と思えることが説明される。

なぜ、ロウソクのロウそのものは燃えないのか???炎がでているのは、ロウからではなくロウソクの芯から。それは、芯が溶けたロウを毛細管引力で吸い上げ、ロウを気化することで炎とする事ができるから。

毛細管引力の説明に、キッチンのザルは水で洗った後、振ったくらいでは水が切れないこと、濡れた手をタオルでふくと水がタオルに移ること、などの現象が使われている。そうだそうだ、タオルだって、毛細管引力による水分吸収なんだった。
身の回りにたくさん起きている毛細管引力。それをうまく使ったのがロウソクの原理。よく考えたもんだ。

そして、ロウソクの炎は、風が無ければまっすぐ上に一つの炎として立ち上るのは、炎による上昇気流、温まって溶けたロウと周辺の冷えた空気とでできるロウソクのくぼみによるもので、ロウソク芯があるくぼみの周囲(壁)が風によって炎が揺らぎ、一部溶けてしまえば、そのバランスは崩れてしまう。
それでも、芯が燃えているロウソクは、一つの炎にしかならない。

当たり前のようでいて、不思議。

対象的な例として、「スナップドラゴン」という遊びが引用されている。聞いたことないけど、イギリスでは一般的な遊びなのか?
皿と干しブドウとブランデーを用意して、ブランデーを浸したブドウに火を付け、それを素手で拾い上げるのだそうだ。その時の炎は一つの炎にならない。チロチロとあちこちに炎があがる。空気が一定方向に流れないときは、炎がチロチロと揺らめき、不規則になるのだ。
複数のロウソクが別々に燃えているような状態になるのだ、と。

あぁ、なるほど。
お料理中、フライパンにブランデーを注いで、フランベするときの炎がそれだ。一つの炎ではなく、チロチロとあちこちに炎の先端が上がる感じ。

ロウソクが燃えると何ができるか、という話から、水素や酸素を燃やす実験が行われる。水素は、水素爆弾になるほどの気体になるほどのなので、実験室で水素に火をつけるなんて!!と思うのだけれど、それを実験室でやってみせるのがファラデー。もちろん、少量の期待なので、爆発とまではいかない。

そして、重要なことが、さらっと伝えれている。
燃焼の産物として水しかできないのは、水素だけ
ということ。

そう、だから、昨今、未来のエネルギーは、水素エネルギーと言われるのだ。H原子だけを燃やしても、C(炭素)が含まれないので、CO2二酸化炭素は発生しない。また、最近エネルギー源として注目されるアンモニアもNH3なので、Cが含まれずもやしても、CO2は発生しない。

でもね、水素やアンモニアをどうやってつくるか?ってことが問題なのだ。。。アンモニアに存在するHは、水素をつくってから窒素と反応させられる。アンモニアを作るというのは、水素をつくるということと同義といってもいい・・・。
その水素はどうやって作るか、、、、。多くは天然ガスから作るのだ。エネルギーを使って。。。、あるいは、水の分解でも水素は作れるけれど、これまた大量のエネルギーを必要とする・・・・。

水素もアンモニアも、別に、単純な夢のエネルギーじゃないんだよね。

と、はなしがエネルギーに飛んでしまった・・・・。

 

他、酸素の中でリンを燃やす実験では、やはりリンはすごく燃えやすい物質だから、空気中より酸素の中で燃やせば、大変なことになる。
だから、
これからする実験は、燃え方をわざと抑え気味にします。そうしないと、実験装置が破裂してしまうからです。ガラスビンが割れたら大変です。何事も注意深くやって、物はこわさないようにしないといけません。”
と言っている。
ちょっと、微笑ましい。

そうそう、実験装置が壊れた時に科学者の残念ぶりって、、、、実験が出来なくなること、また装置を買うお金がかかること、、、、。そう、どんなものも、壊さないように、大切に使わないとね。

空気における窒素の存在意義についても説明されている。窒素は、匂いもなければ、水にも溶けない。酸性でもアルカリ性でもない。体に対して、いっさいどんな作用も及ぼさない・・。
でも、空気中に窒素があることが、空気の素晴らしさだというはなし。窒素は、酸素のなんでも燃やしてしまう性質を、緩やかにするのにやくだっているのだ、と。ロウソクが燃焼したあとの煙を大気中に拡散してくれるのも窒素。夏の大空に挙がる花火の煙を吹き流してくれるのも窒素のおかげ、ってことだね。

ちなみに、空気中の酸素(O)と窒素(N)の体積比は、20:80。その空気をつかってCを含む物を燃焼させるとCO2ができる。

大気の話から、大気圧の話へ。大気は通常、1平方センチメートルあたり、1Kgの圧力をかけている。コップに満杯に水を入れて、紙で蓋をして、綺麗に真っ逆さまにすると紙はコップに吸いついて水がこぼれない。それは、大気圧が紙を押しているから。
そんな、実験も行われている。

一つ一つ、細かく追及していくと、そこは今の実験で証明されていない!っていうこともあるのだけれど、ある原理原則がある前提での実験だから、、、まぁ、こうなるんだな。

面白い。
やっぱり、面白い本だった。

燃焼から、呼吸まで。
燃焼には、炎のある燃焼と、炎のない燃焼がある。呼吸は、炎のない燃焼だね。
そして、ガスと蒸気の違い。
ガスは、いつまでもガス。蒸気は温度が下がると元の状態に戻る。。。窒素ガスは液体窒素に。水蒸気は、水に。。。。

やっぱり、科学は面白い。
ちなみに、ファラデーの時代の科学は、サイエンスではなく、ナチュラルフィロソフィーと言われる。

サイエンスは、哲学の一つなのだ。 

 

ほんと、すごい本だなぁ。

古典、読むべし!