『サロメ』 by  原田マハ

サロメ
原田マハ
文春文庫
2020年5月10日 第一刷

 

図書館で目に入ったので、未読の原田マハさん、借りて読んでみた。2020年とは、結構新しいではないか。単行本は、2017年1月文藝春秋刊、だそうだ。

 

オスカー・ワイルドの『サロメ創作の舞台を物語の舞台にした物語。

 

裏の説明には、
”退廃に彩られた19世紀末のロンドン。病弱な青年だったビアズリーはイギリスの代表的作家で男色家のワイルドに見出され、『サロメ』の挿絵で一躍有名画家になった。二人の禁断の関係はビアズリーの姉やワイルドの同性の恋人を巻き込み、四つ巴の愛憎関係に・・・。美術史の驚くべき謎に迫る傑作長編ミステリー。”
とある。

 

オスカー・ワイルドと言えば、数々の名言で知られる。
・仕事とは、他にすることがない人々の逃避所である
・人気者になるためには、凡庸でなくてはならない
などなど、、、皮肉屋さんって感じ。『ドリアン・グレイの肖像』、『サロメ』、『幸福な王子』等の作品が有名だけれど、私は読んだことがない・・・。

そして、本書の主人公になる画家は、オーブリー・ビアズリー。名前をきいても、私にはさっぱりどんな絵を描く人なのか、思い浮かばなかった。調べてみると、白黒のイラストで有名な人で、ウィキの言葉を借りると、”悪魔的な鋭さを持つ白黒のペン画で鬼才”といわれていたとのこと。そして、本書の中での生涯の通り、結核を患っていて、25歳の若さで亡くなった。

本書で中心になる画家は、たしかに、オーブリー・ビアズリーなのだけれど、もしかすると、、、本当の主人公は、オーブリーの姉である、メイベル・ビアズリーなのかもしれない・・。ウィキの中に女優になったとでているけれど、はたして本当なのか、原田マハの『サロメ』を読んだ人が、かきこんだのか???

原田さん得意の、フィクションだかノンフィクションだか、わからなくなるアートにまつわる物語だ。

 

感想。
面白かったよ。やっぱり。
そして、つくづく、ノンフィクションの史実から、これだけのフィクション物語を創り上げる原田さんの妄想力に完敗!って感じ。
面白かった。読みだしたらとまらない。
ほんとに、、はっぱり、原田マハ、面白い。


オスカー・ワイルドの『サロメ』そのものが、聖職者殺害というタブーを描いたセンセーショナルな本。新約聖書の聖マタイ伝や聖マルコ伝に記述にあるエピソードから、オスカーが創作した物語。そして、史実として、その本『サロメ』のイラストをオーブリー・ビアズリーが描いた。そのイラストがまたセンセーショナルだったのだ。

 

本書の装丁に使われているのも、オーブリー・ビアズリーのイラスト。おどろおどろしく、白と黒だけで描かれた絵は、たしかに、ドキッとするほど魅惑的ともいえる。若く無名のオーブリー・ビアズリーが、一世を風靡していたオスカー・ワイルドの本へ魅惑のイラストを描いたことで、一躍有名になる。でも、オスカー・ワイルドが同性愛者であることから投獄されてしまい、オーブリー・ビアズリーは仕事を失ってしまう。そしてオーブリー・ビアズリーは25歳の若さで亡くなる。そんな史実をもとに、原田さんが創作した物語が本書『サロメ』。

 

オスカー・ワイルドの『サロメ』が本として出版され、戯曲として舞台になるまでのオーブリー・ビアズリーやその姉メイベル・ビアズリーとの出会いと別れの物語、とでもいおうか。

 

オスカー・ワイルドの戯曲『サロメ』の内容は、原田さんの『サロメ』から引用すると、
ユダヤヘロデ王は、兄弟の妃であったヘロディアを娶ったが、これに意見した預言者ヨハネ(ヨカナーン)を牢につないだ。ヨハネに、ヘロディアは殺意を抱くが、ヨハネが聖人であると知っているヘロデ王は、それを許さない。ヘロデ王の誕生日に、ヘロディアの娘が踊りを披露し、喜んだ王は、何でも褒美をつかすと約束する。娘は母と相談して、ヨハネの首が欲しいと言う。衛兵が獄中のヨハネの首を刎ね、盆に乗せて娘に差し出す―――というのが、聖書の中の記述である。
 獄につながれた予言者、彼を恐れる王と、殺意を抱く妃、年若い姫君のダンス、そして少女が成人の首を所望する異常性・・・”

王の前で踊った姫こそ、サロメ、その娘。娘を利用して聖職者を殺した母。サロメ自身も、牢獄につながれたヨナカーンを見て恋におちる。手に入れることのできない愛しい人を殺して、その生首にキスするサロメ・・・。

そういう、おどろおどろしいお話。

 

原田さんの『サロメ』では、弟オーブリーの絵の才能を信じる姉メイベルが、気がつけばサロメのような執念の女に・・・・。

オスカー・ワイルドの『サロメ』の内容、そして、実際にオスカー・ワイルドが当時のイギリスでどういう評価をうけていたのか、なぜ投獄されたのか、などの史実をしっていると、もっと本書が楽しく読めるのだろう。 

 

ちょっとだけネタバレすると、本書の中ではオスカー・ワイルドサロメを英訳する約束をしたのは、オーブリーだった。でも様々な嫉妬の飛び交う中で、別の男爵男性が翻訳することになるのだ。それを仕組んだのは、メイベル。メイベルは、弟のためを思って策略をしこんだのか、、、あるいは、自分の女優としての地位を得るためだったのか、、、。

 

オスカーも、オーブリーも、最後は悲劇的だ。それでも歴史に名が残っている。それだけの影響力のあった人たち。それを陰で操っていたのは、、、、、。

 

と、妄想が妄想をよんで、、、。読者の想像もかき立てられる。

本家本元のサロメ、読んでみようと思う。

 

白黒のペン一本で書くイラストっていうのも興味深い。落書き好きな私としては、モノクロのイラストでどこまで表現できるのか、、、、それも見てみたい。

モノクロと言っても、水墨画のように濃淡があるわけではなく、線の太さ、細かさだけですべてを描くペン画。ペンと紙があればどこでもかけるのもいい。

 

ふと、この原田さんのサロメに、ヤマザキマリさんがイラストを描いてくれたら楽しそう、と思った。

 

ちなみに、本書の中にはただの真っ黒な塗りつぶしのページが何枚か挟まれている。一応、場面と場面を区切るページだけれど、真っ黒塗りのページというのも、一つのイラストかもしれない・・・。

 

原田マハ、面白い!

読書は楽しい!