『星がひとつ ほしいとの祈り』 by 原田マハ

『星がひとつ ほしいとの祈り』 
原田マハ
実業之日本社
 2013年10月15日 初版 第1刷発行

 

図書館で見つけたから借りてみた。短編集。出版社の実業之日本社は、経済雑誌『実業之日本』の創業会社だ。『「修養」の日本近代 自分磨きの150年をたどる』(大澤絢子 NHK出版2022)で、新渡戸稲造が修養のためにつくった出版社として紹介されていた。

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こういう小説を出版するのは珍しいのかな?とおもったけれど、以前読んだ『硝子の塔の殺人』(知念実希人 2021)がそうだった。

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本書の裏の説明には、
”時代がどんなに困難でも
あなたという星は輝き続ける
 売れっ子コピーライターの文香は、出張後に寄った 道後温泉の宿でマッサージ師の老女と出会う。盲目のその人は上品な言葉遣いで、戦時中の令嬢だった自らの悲恋、献身的な女中との交流を語り始め・・・・(「 星がひとつほしいとの祈り」)。 表題作ほか、娘として妻として母として 20代から50代まで、各世代女性の希望と祈りを見つめ続けた物語の数々。 解説/藤田香織
とある。

あっという間に読める、短編集。

 

目次
椿姫      La traviata
夜明けまで        Before the Daybreak Comes
星がひとつほしいとの祈り         Pray for a Star
寄り道     On Her Way Home
斉唱        The Harmony
長良川     River Runs Through It
沈下橋        Lorelei 

7つの作品が入っている。

それぞれの、英語のタイトルもいい。直訳なだけではなく、原田さんの想いが入っているかんじ。

 

ちょっとずつ、ネタバレ。

 

「椿姫」は、不倫相手の子供を中絶する女性の話。同じ産婦人科で見かけた女子高生の相手とみられる高校生男子にやさしさを分けてもらう。主人公の不倫相手は最低男だけれど、高校生の純粋な愛に救われる感じ。

 

「夜明けまで」は、人気女優の娘が、母の危篤をきいて日本に駆けつけるが間に合わず、葬儀後に母が自分をシングルマザーで生んだ理由を知る物語。

 

「星がひとつほしいとの祈り」は、人気コピーライターの文香が、不倫出張の後に一人で立ち寄った道後温泉できいた、老婆の恋愛物語。マッサージ師の盲目の老婆が、語るように話が進む。マッサージで夢うつつになっていた文香は、翌日になって、夢か幻の話をきいいたような、、、。

 

「寄り道」は、世界遺産青森県白神山地へ女二人旅に出かけたハグとナガラの物語。よんでいて、あれ?なんかこの二人の話、知っているかも?とおもったら、『さいはての彼女』のなかにあったひとつの短編「旅をあきらめた友と、その母への手紙」の二人組と一緒だった。今回は、旅先で出会った派手派手女子をめぐる物語。遠く離れた家族の死と故郷。セツナイはなし。

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「斉唱」は、14歳の多感な少女とその母親。母子家庭でそだった繊細な少女が、佐渡の自然にふれて、人との交流を取り戻していくような物語。斉唱は、佐渡で出会った青年と少女の心の響き、ってかんじだ。日本の最後のトキ「キン」を看取った先人の話は、きっと実話なんだろう。

 

長良川」は、結婚前のカップルと、彼女の母親との三人旅。一緒に来るはずだった父親は、病気で亡くなってしまった。長良川は、その父親の仕事の一部であり、一番好きな川だった。長良川と鵜飼。幸せな娘の姿と、隣の夫の不在。寂しさと嬉しさが交差する母親の姿が、胸に迫る。

 

沈下橋」は、人気歌手になった娘と、その継母の物語。薬物容疑で逮捕状がだされた由愛は、父親と離婚して以来連絡をしていなかった継母に、電話する。何も言わず、由愛を受け入れる多恵。多恵は50歳を過ぎて、四万十川の流れる田舎で一人暮らし。報道は加熱し、自分の自宅にまで報道陣が押し寄せていることをしった多恵は、由愛をつれて静かな四万十川畔の宿にいく。四万十川にかかる沈下橋を散歩しながら、夜空とほたるとに抱かれるふたりの物語。

どれも、ちょっぴりしんみり。

 

中絶、危篤、納骨、戦争、病死、母子家庭、離婚、犯罪、、、。

 

なかなか、重いテーマでありながら、主人公の女性の明るい未来を思わずにいられない、そんな物語。

 

ふわぁっと、さらさらと、読んだ。

日本を旅する原田さんらしく、何気に観光ネタが満載。

 

白神山地を観光するには、実は、世界遺産になった場所にいくのではなくてそとから眺めるのだ。「白神山地」という名称で世界遺産にすることで、青森県秋田県での争いもあったらしい。白神山地は、1993年12月、屋久島と一緒に、日本で初めてのユネスコ世界遺産に登録された

 

平成15年に最後の一羽「キン」が死亡した日本のトキ。学名は、ニッポニア・ニッポンというのだそうだ。かつては日本中に生息していたけれど、明治以降激減し、昭和9年に天然記念物に指定された。コウノトリもそうだかが、トキも野性のドジョウやら魚を餌とする。餌となる生き物がいなくなると、繁殖できなくなってしまうのだ。自然がなくなることで、鳥の生きるすべがなくなる。その自然を無くしているのは人間の営みだ。。。「コウノトリの郷」のコウノトリは、旧ソ連から譲り受けた。「佐渡トキ保護センター」のトキは、中国から譲り受けた。こういう素敵な国際交流もあるのに、ね。

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長良川は、岐阜県からはじまり、伊勢湾に流れる一級河川長良川鵜飼いのために、観光の時間、あたりの商店はみんなで電気を消すのだそうだ。ちなみに、一級河川とは、国土保全上又は国民経済上特に重要な水系で政令で指定されたものを「一級水系」と呼んで、一級水系に係る河川のうち河川法による管理を行う必要があり、国土交通大臣が指定(区間を限定)した河川が「一級河川」。河川法なんてものがあるんだね。

余談だが、川は、国土交通省管轄。でも、川でおきた事件は、海から1つ目の橋までが国土交通省管轄で、それより上流は警察になるらしい。

 

沈下橋は、四万十川にかかる欄干のない橋。川が増水すれば水に沈むので沈下橋。沈むことを前提に作られているので抵抗をなくすために欄干がない。これ、去年「通訳案内師」の「地理」の問題ででたんだよね。わからなかった。

 

小説を読んでいても、こんな地理の話が勉強になったりする。沈下橋。一度渡ってみたいな。

 

さら~~っと読めて、短編集だから話題が次々変わるので、どんどん楽しめる。

短編集って、お得感ある。

あ、ちなみに、ちょっと夢中になって電車の中で読んでいたら、一駅乗り過ごしてしまった・・・。電車の中での読書は、夢中になりすぎないように注意しましょう。

 

でも、読書は楽しい。