『対決!日本史3 維新から日清戦争篇』 by 安部龍太郎、佐藤優

対決!日本史3 維新から日清戦争
安部龍太郎
佐藤優
潮出版
2022年12月20日 初版発行

 

順番が逆になっちゃったけど、安部さんと佐藤さんの『対決!日本史』シリーズ。図書館で借りた。

megureca.hatenablog.com

 

先に読んだ日本史4が、日露戦争についてだったけれど、その前の維新から日清戦争について。

 

感想。

やっぱり、面白い。

初めて、日清戦争の背景を理解した気がする。要するに、朝鮮での内乱を口実に、日本がずかずかと大陸に入り込んだのだ・・・・。

 

このところ、日本史に関わる本をあれこれ読んでいるということもあるかもしれないけれど、それぞれの出来事の背景が少しづつつながってきて、歴史が私の頭の中でストーリーになりつつある。結構、楽しいし、そうなってくると、歴史ものを読んでいても、そうだったのか!ってわかることが増えてくる。やっぱり学習、勉強って、同じ出来事をさまざまな角度からインプットするのが大事。どこかの時点からか、理解が指数関数的に伸びて、生産性が高いということを体感。一冊の教科書を熟読するのもいいけど、色々な角度からインプットするのも楽しいし、おすすめ。

 

本書で一貫して主張しているのは、日清戦争の背景になっている朝鮮半島をめぐる支配権の争いは、いままさにおきているロシアとウクライナの戦争と重なる、ということ。歴史と現在をむずびつけて対話が進むので、身近に感じるし、わかりやすい。そして、お二人は、現在の日本が、「日本は憲法9条があるから大丈夫だ」とおもい込むのは平和ボケだと指摘する。ウクライナで起きていることは、回りまわって、小麦価格に影響がでて、カップラーメン300円になるかもしれないぞ、と。小麦だけでなく、エネルギー価格もすでにその影響は私たちの生活に及んでいる。もちろん、ロシアのウクライナ侵攻だけがインフレの要因ではないけれど、地球で起こる出来事は、どこで起ころうと無関係ではないのが今のグローバル時代だということだ。

そうして、朝鮮半島を巡る領地争いから始まった日清戦争、そして日露戦争ということが、本書を読むと、とてもよくわかる。

本書は、特に、西南戦争から日露戦争へとすすんだ日本の歴史について。

 

目次

序章 日清・日露戦争ウクライナ戦争 
第1章  インフレからデフレへ  松方財政の光と影 
第2章  民権論と国権論の衝突 
第3章  「万世一系天皇」という神話 
第4章  甲午農民戦争日清戦争 
第5章  公共事業としての戦争 
第6章  金本位制第1次産業革命 

 

序章では、日清・日露戦争にすすんだ背景は、「朝鮮半島」の領有権問題であり、今のロシアとウクライナクリミア半島ウクライナ東の奪取戦争と重なるという話。

ロシアとウクライナの戦争で、イタリアのベルルスコーニ元首相は、「この戦争でロシアは西側諸国から孤立した。と同時に、西側諸国は残りの全世界から孤立したのだ」といったそうだ。それは、まさに、的を得ている、と。最近のサミットで共同宣言にいたらないのは、環境問題もあるけれど、多くはこのロシアがらみのことがらだろう。ロシアへの経済制裁へ同調しないグローバルサウスの国々。ようするに、ベルルスコーニがいう「残りの全世界」だ。

いまや、アメリカもEUも、世界を一つにすることはできない。。。国連の機能だって、、、厳しい。このまま、第三次世界大戦にならないためにはどうすればいいのか、、、モヤモヤとした気持ちだけが残る。。。


先日、外務省でウクライナ支援を担当している人から話を聞く機会があったのだが、彼も、世界が一枚岩でロシアに対抗する、とはなっていないから難しい、、、と言っていた。また、日本や西側諸国における報道の偏りについても。日本語で報道されるニュースは、日本というフィルターがかかっていることを忘れてはいけない。

 

そして、日本という国としての話では、太平洋戦争に大きな反対を唱えなかった日本の宗教者についても語られる。ただ、一人、植木徹誠さんというキリスト教の社会活動家は、「戦争は集団殺人だ」と言いつづけ、逮捕されて投獄されてもその主張をかえなかった。彼は後に真宗大谷派の僧侶になった、という話が紹介される。なんと、この植木徹誠さんは「スーダラ節」の植木等さんのお父さんだそうだ。「わかっちゃいるけど、やめられねぇ」が生まれた背景に、そんな不屈のお父さんの存在があったとは、知らなかった。と共に、植木等さんも、すごいひとだったんだ、、と思わずにいられない。

 

第1章で、松方財政の影響。松方正義は、初代大蔵大臣で後に2回首相もやっている。西南戦争後にインフレ状態だった日本で、不換紙幣(金と連動しない)を乱発し、デフレを招いた。デフレによって、日本は安い国となり、若者は貧乏になり、資本は資本家に集まった。当時は、寄生地主に土地、金が集まった。まるで、今の日本を見ているようなことが、明治期にも起きていたのだ。資本が資本家に集まるというのは、格差が広がるということ。ほんと、今の日本と一緒。当時は、三井、三菱といった財閥ができていった。ついでに、ソ連崩壊時にロシアで起きた資本集中が、オリガルヒ(新興財閥)の出現につながる。

ちなみに、裕福な寄生地主の家にうまれた思想家が太宰治だ、という話が紹介されている。裕福だったからこそ、貧しい人たちのことを考えてしまったのだ、、、と。ソ連で言えば、トルストイも裕福な家庭にに生まれた物書き。生きるのギリギリの生活をしている人からは、あのような作品群はうまれないのか、、、。ちょっと、わかるような、むなしいような・・・。

 

第2章では、民権論vs国権論。民権論とは、板垣退助をはじめとする「民衆に権利を」という思想。国権論は、大久保利通らがすすめた「まずは、不平等条約の撤廃と国家独立」という思想。学校でならう板垣退助は、民衆の味方で正義の味方の様だけれど、本書によれば、板垣退助は自分がつくった自由党のメンバーが一揆を起こし始めると、自由党を解散して、自分は責任逃れをしたずるいやつなのだ、と。そうか、そういう見方もあるのか。

 

教科書以外では、板垣退助とか吉田松陰というのは、かなり極端な思想家として描かれているものがおおい。たぶん、それがほんとなんだろう。本書の中では吉田松陰『幽囚録』にかかれていた内容も紹介されていて、それは、「日本は軍をもって、カムチャッカ、オホーツク、琉球、朝鮮、満州、台湾、ルソン諸島までを支配下におさめるべきだ」ということが書かれているそうだ。侵略しろ、って言っていたわけだ。やっぱりテロリストだ。かつ、それをドクトリンにして始まったのが日清戦争だったのだ、と。

 

その時代、明治新政府は、薩長土藩出身者が多く、そうでない他藩出身の人や佐幕派だったひとにとっては、新政府にたいするルサンチマンが強かった。そんな社会情勢の中で、福沢諭吉『学問のすゝめ』が出版される。その冒頭の一文「天は人の上に人を作らず 人の下に人を作らず 」は、ルサンチマンの人々に大いに響いただろう、と。

 

そりゃ、いい言葉にきこえただろう。本は、熱狂的にうれることになる。

 

たしかに、その社会の流れの中で生まれた言葉かと思うと、ちょっと怖い気もする。そりゃ、人には上も下もない。でも、一億総中流社会って感じだな、、と思った。

 

第4章では、日清戦争の始まりについて詳しく語られる。清が衰えていく中、日本が台頭。そこに、南下政策をもくろむロシアが関わり戦争に流れていく。
きっかけは、朝鮮政府に反発する民衆が起こした「甲午(こうご)農民戦争」。朝鮮政府は、清に助けを求め、そこに日清戦争の口実が欲しかった日本がのこのこ出て行って、「朝鮮政府は内政改革をしろ」だの「在留邦人を保護する」だのと理由をつけて軍を駐留させる。そのどさくさ紛れでおこったのが日清戦争

日清戦争に勝った日本は、そこで多額の賠償金を手にしてしまう。

「戦争はもうかる」

と、勘違いしてしまったのだ。

戦後、清との下関条約で、李鴻章を下関によびつけて条約調印に繋げたのが、伊藤博文陸奥宗光だったのだ。そう、日経新聞朝刊連載中『陥穽(かんせい) 陸奥宗光(むつむねみつ)の青春』の主人公、陸奥宗光だ。こんなところとでも、点と点がつながる・・・。


そして、その財力をもって日露戦争へ突き進む・・・。

さらには、日韓併合。。。 

 

太平洋戦争へと進んだ日本を理解するには、日清戦争の前からその背景を理解しないといけないということがよくわかる一冊だった。

 

ちなみに、1875年に起きた朝鮮での江華島事件の真相についても、日本が戦争のきっかけを作るために勝手に仕掛けて、勝手に不平等条約を結ばせたということが語られている。当時の日本のやりかたのずるさがよくわかる。幕末に西洋諸国にやられて嫌だったことを、日本は朝鮮に押し付けた・・・。なんと未熟な国だったのか、と思わずにはいられない。教科書にはそんな書かれ方していないけどね・・・。

 

新書なのですぐに読める。

私には、頭の整理になって、とても参考になった。

何事も、一つの側面からだけ見ていると理解しにくい。

こういう、対話は二人の視点があるので、一気に2点読みしているお得感がある。

 

やっぱり、読書は楽しい。