『せかいでさいしょにズボンをはいた女の子』  by  キース・ネグレー

せかいでさいしょにズボンをはいた女の子
キース・ネグレー 作
石井睦美 訳
光村教育図書
2020年12月28日 第1刷発行
2023年9月15日 第5刷発行


『世界をひらく60冊の絵本』(中川素子、平凡社新書)の 「第五章  ジェンダーについて考える」からの紹介本。図書館で借りて読んでみた。

 

まさに、服装とジェンダーに関するおはなし。

 

表紙をめくると、中開きの左右に、
「男の子のふく」といって、赤白チェックのスタンドカラーシャツに、濃紺のズボン。 
「女の子のふく」といって、黄色いぷっくり袖シャツに、襟元に赤いリボン、そして、ふんわりブルーのスカート。

ティピカルスタイル、って感じかな。

 

そして、表紙のカバー裏には、
”ちょっと むかし、 女の子は ズボンを はいちゃいけなかった。
女の子が きることが できたのは、きゅうくつな ドレスだけ・・・
そんなことって、 しんじられる?”
と、スカートのすそを持って戸惑う子と、ズボンをはいて逆立ちしてたのしそうな子の絵。

 

作者のキース・ネグレーは、ワシントン州在住。大学で美術を学び、2013年に美術学修士号を取得。 その後、作家、イラストレーターとして活躍している。 新聞や雑誌、ポスターや 出版物などの 紙媒体のほか、 T シャツやスケートボード、 時計など幅広く作品を提供している。

 

この絵本は、メアリー・エドワーズ・ウォーカーという実在の女性のお話をもとにしている。メアリーは、1832年ニューヨーク州オスウィーゴで生まれ、小さいころから独立心と正義感に満ちた少女だった。メアリーは、最初にズボンをはいた女性のひとりとして知られているが、当時の常識から大きく外れていた。ズボンをはいていることで何度も逮捕すらされた。

 

メアリーは、1855年に医学部を卒業し、1861年南北戦争のときに医者として活躍する。当時は、女性医師が世の中に認められていない時代だったにもかかわらず、メアリーは外科医として活躍した。 医師を引退したメアリーは、残りの人生を執筆と講演を通して、女性の選挙権と好きなものを着る権利を訴えることに使った。

 

と、こういう先人がいたから、今、私たちは好きなものを着られる、ということ。これは、アメリカのお話であるけれど、日本でも同じようなことが言えるだろう。それでも、今でも学校の制服は女子がスカート、男子がズボン、という構図は余り変わっていないけれど・・・。

 

お話は、ちいさなメアリーが、女の子がズボンをはけないなんておかしい!とおもって、ズボンをはいて街に出かけることから始まる。

 

”それはそれは すばらしい アイディア
 これは いい!
そうおもった メアリーは みんなに みてもらおうと 町へ でかけた。
すると――――”

 

まちは 大騒ぎ。
だれも、いいね!とはいってくれない。
それどころか、
「メアリー・ウォーカー ズボンなんか はいて こうかいするぞ!」
といって、ものを投げつけられるイラスト、、、、。

「するもんですか!」といいかえすものの、みんなのことばが胸に刺さった。


おうちにかえったメアリーは、どうしてみんなメアリーの着ているものに文句をつけるのか、お父さんに相談してみる。
お父さんは、

「ズボンを はいている 女の子なんて、みたことがないからだよ。
 にんげんって、あたりまえだと おもっていたことが かわってしまうのが こわいんだよ

メアリーは、
「じゃぁ わたしは やっぱり、ドレスをきたほうが いいの?」

おとうさんは
「そんなことは いってないよ」

 

うん、素敵なお父さんだ。

 

メアリーはその晩眠れなかった。でも、翌日、だれが何といってもかまわないって決心して、学校にズボンを履いていく。

 

はきごこちのいいズボン。
はやく 歩ける。

 

だけど、町はやっぱり騒ぎになり、教室に入ろうとするメアリーに、きみは男の子の服をきているからダメだという大人たち。

 

「男の子の服をきているんじゃないわ。
 わたしは、わたしの服をきているのよ!

 

そういって、教室のドアを開けたメアリー。
きっと、教室の中でも同じように言われるんだわ、、、と思いながら。

ところが!
ズボンをはいた女の子は、メアリーだけじゃなかった!!


そして、ズボンをはいた子どもたちが、男の子も女の子も、スカートをはいた女の子も、みんな楽しそうに遊んでいる姿の絵。

 

THE END

 

実にシンプルなお話だけど、胸がスカッとする感じ。

 

昭和の時代、私が中学生、高校生のときは女の子の制服がスカートなのは当たり前だった。でも、思えば、やはり自分のジェンダーに違和感を感じていた子が学年に数人はいたよなぁ、って思う。もしかすると、スカートをはいていることを辛く感じていた子もいたかもしれない。

冬はスカートだと寒いのに、なぜかタイツは履いちゃダメとかいうわけのわからない校則があったり。そして、女子はスクールジャージのズボンをスカートの下にはきだした・・・。

 

自分の好きなものを着れるって大事だ。

 

一方で、外に出かけるときに着るものというのは、自分自身の快適さだけでなく、周りの人に不快さを与えないという配慮も必要だろう。TPOに合わせた服装って、やっぱりある。ちゃんとしたお食事処に、Tシャツ、短パンというのは、お店にも周りのお客さんにも失礼だろうし、ビジネスの会合で汚れた普段着のままというのも、ちょっと気が引ける。

 

清潔であること、快適であること、見苦しくないこと。

一応、それは大事だ。

ズボンでもスカートでも、それはどっちでもいい。

その国の文化や宗教によるルールはあるかもしれないけれどね。

 

一応、何を着ていこうか迷うことはあっても、「着てはいけないもの」に迷わされることはない時代。これも、先人たちがつくってきてくれた文化何だね。

 

今の時代なら、なんてことはないお話だけど、大事なお話だ。