『世界をひらく60冊の絵本』(中川素子、平凡社新書)の 「第七章 命に出会い、命を知る」からの紹介本。図書館で借りて読んでみた。
不思議な、強烈な絵。『世界をひらく60冊の絵本』の説明によると、
”田島は、この絵本には、 光沢ミラーコート紙を使っているとのことだ。
おかげで泥絵の具を使っているにもかかわらず、 絵が 重量感に満たされてしまわず、 美しい青色の水の透明感 や流れを作り出している。 水も大胆に描いているようだが 水の細かな 飛沫など 絵の具に混ぜた溶剤などで繊細な表現も表している。”
とのこと。
わりと大型の絵本に、強烈な絵の具なので、力強さがドーンと寄せてくる感じ。ヘタウマというのか、大胆な構図とバランスの悪い人の姿、魚の姿。なんというか、、、誤解を恐れずに言うと、男っぽい荒々しさがある。
少年が川で魚をとろうとして網を持って追いかけている。
足が滑って、少年は水の中に真っ逆さま。
水の中で伸ばした指が、魚に触れた。
おどろく少年と魚が見開きいっぱいに広がる。
のがすもんかと、少年はいっしょうけんめい魚をおいかけ、
つかまえた!
少年が、素手で捕まえた魚をバケツにいれて、一休み。
目が覚めると、魚はバケツを飛び出して草の上でぐったりしている。
死んじゃダメ、死んじゃダメ、
必死になって魚を抱えると、魚はつるりと水の中へ!
「あっ」
川辺に立ちつくす少年と、水の上で飛び跳ねている魚の絵でおしまい。
なんてことはない。
魚と少年のお話。
なるほど、命のお話。
なんというか、昭和っぽいなぁ、、、と感じた。
作者の田島さんは、1940年、大阪生まれ。幼少年期を 高知県で過ごす。多摩美術大学 卒業。『ちからたろう』で ブラティスラヴァ 世界絵本原画展〈金のりんご賞〉、『 ふきまんぶく』で 講談社出版文化賞絵本賞など、国内外で受賞多数。 2009年、 新潟県十日町市の廃校を丸ごと空間 絵本にした「鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館」を開館。
と、読み終わってから、著者紹介を読んで、なるほどなぁ、、、って思った。描かれているのは疎開先の川での思い出だろうか。。戦争で失われていく命、、、、。そんな世界の隣にある自分の生きている世界。魚の命。捕まえることの楽しさと、死んでほしくない気持ちと。。。すごい、だいたんな絵の絵本だけれど、深いおもいがあるのかも、、、って思った。「鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館」、ちょっと、気になるな。
私としては、そんなに好きな絵ではない。けど、まちがいなく印象的。
同じお話を、優しいタッチの淡い絵で描いたら、、、、おとなしすぎるんだろうな。やっぱり、この絵があってのこのお話かもしれない。
戦火の中でも生きる子供達。
ル・クレジオの『ブルターニュの歌』の中の、「子供と戦争」の記憶がよみがえる。
同じお話でも、その背景を思うと、重みが違って感じられる。
いろんな読み方があっていいよね。
だって、絵本だもの。