新渡戸稲造はなぜ『武士道』を書いたのか 愛国心と国際人
草原克豪
PHP新書
2017年3月1日 第一版第1刷
草原さんの新渡戸稲造シリーズ、手元に欲しかったので、買って読んでみた。
『新渡戸稲造 1862~1933 我、太平洋の橋とならん』(2012)の後に出版された本で、PHP新書なので、コンパクト。だけど、やはり、そこそこぶあつい。 363ページ。新書としては分厚いほうだろう。でも、940円、お得。ただ、すでに絶版のようで、古本で600円で購入した。
帯には、稲造の写真と、
”世界と対等に渡り合った 真の国際人。
世界的ベストセラー『Bushido』を著し、 初代 国際連盟事務次長をつとめた新渡戸の壮絶な人生に迫る。
・新渡戸の発信力の秘密
・新渡戸の人格を形成した4つの決断
・「日本には武士道という 倫理 道徳がある」
・ 誤解される 武士道
・ 新渡戸はアメリカ人に何を伝えたのか
・近代日本の実相を世界に発信した 英文 『日本』
・アメリカ反日世論との対決”
表紙裏の内容紹介には、
”『武士道』は、 狭い意味での武士道の解説書ではない。武士道論というよりは 日本の道徳思想文化論である。 新渡戸 はこの本で、日本には 宗教教育はないが武士道というものがあり、それが日本人の道徳の基礎となっていることを、広く世界に伝えようとした。 その文章からは、新渡戸のある思いがひしひしと伝わってくる。それは、日本および日本人に対する揺るぎない自信と誇りである。新渡戸こそは 近代日本の 稀に見る 発信者であった。
人一倍 熱い 愛国心を持って、 世界と対等に渡り合った日本の発信者、 新渡戸稲造の人生から『武士道』 執筆の思いに迫る。” と。
目次
はじめに
第一章 「 我、 太平洋の橋とならん」
第二章 「日本には武士道という 倫理 道徳がある」
第三章 「排日運動はアメリカの建国理念に反する」
第四章 「 東洋と西洋は互いに相手から学ぶ必要がある」
第五章 「日本の植民政策の原則は国の安全と原住民の利益重視」
第六章 新渡戸に学ぶグローバル思考
主な参考文献
感想。
面白かった。
すごく、わかりやすい。
勉強になる。
日本人として、「日本のこころ」を理解するのに、とても参考になると思う。そして、そうだ、新渡戸稲造のような人がいて、日本人にはこういう心があった、道徳があった、、、と思えると、誇らしく思える。問題は、その日本人の道徳を、今の私たちもちゃんと受け継げているだろうか?ということ。
新渡戸の行動は、徹底した「知行合一」の精神に基づくともいえる。新渡戸にとってはそれはクエーカー教としての神との契約だったのだろう。思っているなら、行動しろ!と。
行動!アクション!動け!と、背中を押されている気持ちになれる一冊。
もっと、新渡戸稲造について学んでみたくなる。かつ、この明治維新から昭和にかけての日本の歴史について、私たちはもっと知るべきだという気がする。
本書の中で、著者の草原さんも指摘しているのだが、日本において、戦争前後の歴史についてはあまりきちんと教育に組み込まれていないように思う。台湾総督府の意味とか、満州事変とか、ただただ、日本の軍が暴走した負の歴史、、かのように聞かされてきているのではないだろうか。少なくとも、昭和時代に私が受けた教育はそうだったと思う。満州事変なんて、あまり語らずに戦争のきっかけになった、、くらいでお茶を濁されている気がする。でも、それはいかんのだ。やっぱり、なぜそういうことになったのかを知らないことには、歴史を知ったことにはならない。出来事とその年代を記憶したところで何の価値もない。歴史は物語だ。いくつもいくつもの出来事、人が絡み合って、蓄積され、、、そして、ある表面的なところだけが語られたのでは、本当に歴史を理解したことにはならない。
歴史って、深いんだなぁ、、、、と改めて思った。
気になったところを覚書。
・ 明治維新後の急激な改革は、当の武士階級から封建時代の特権を取り上げてしまう。そのため武士の子は西洋の学問を学ぶことでしか出世の糸口を掴むことができなくなった。
・新渡戸の人格を形成した4つの決断。
1 英語を学ぶために9歳で上京。 母には「偉い人になっておくれ」と言われた。
2 札幌農学校への転入。クラーク博士の教え。10代の苦悩と煩悩の時。
3 アメリカ留学。札幌農学校卒業後、官職を経て、東京大学へ転入。その授業の程度の低さにあきれて、アメリカ留学を決断。
4 メリー・エルキントンとの結婚。クエーカー教として結婚。
・『武士道』は、学術論文ではない。日本人の道徳について、西洋人に伝えるために書いた。そのために、西洋人にわかりやすい人物や出来事と対比させて説明している。博識でないとできない技。
・1920年代、駐日大使 ポール・クローデルの言葉。「私がどうしても滅びてほしくないひとつの民族があります。それは、日本人です。 あれほど 古い文明をそのまま現代に伝えている民族は他にありません。・・・日本は太古の時代より 文明を積み重ねてきたからこそ明治になって急速な発展が可能になったのです。 ・・・彼らは貧しい。 しかし高貴である。」
・・・そんな風に言ってもらえていた時代があるのだ・・・・。「高貴」であるなんて、、、今、言えるだろうか??
・新渡戸が好んで使った言葉。
Sense of proportion : バランス感覚を持て。
Grasp of things:物事の核心をつかむ。
・”新渡戸は、 近代日本の諸制度はその多くを 海外から導入したが、それは国内における内発的な成長の成果であり、 連続性を損なうものではなかったということを強調する。”
猿真似だと揶揄されることもあった中、新渡戸は、日本の内発的な成長があると言った。これは、夏目漱石をはじめ、「内発」の不足を指摘した日本人とは異なる解釈。
・新渡戸の考え。
「 自由という概念は自分勝手なことをすることではない。自由は 社会の秩序と法律の完備が伴って初めて実現できるものである」
・宗教の世界と現実の世界との矛盾や葛藤についての新渡戸の考え。
「人間は相対の領域を通じてしか絶対の領域に達しないのだ」
絶対的真理(宗教的なこと)を語るには、相対的なこと(現実の矛盾にあふれた世界)の経験が必要、ということ、と、私は理解した。
・「国民は、理性よりはむしろ感情に大きく動かされる」という理解の上で、外交につとめた。
・学問の第一目的は、「心をエマンシペートすること」と「精神をリベラライズすること」。
emancipate:政治的・社会的・道徳的・知的拘束からの解放。
Liberalize:自由化する。心を広く寛大にする。
これは、まさに三浦梅園の教えではないだろうか。
・日清戦争後、下関条約で、清国に対して「挑戦は独立自主の国」であることを認めさせ、遼東半島、台湾、澎湖諸島(ほうこしょとう:台湾の西にある諸島)が日本に割譲することになった。が、南下政策に野心をもやすロシアが、ドイツ・フランスに呼び掛けて、三国干渉。日本は、遼東半島を放棄する。その三年後には、ロシアが遼東半島の旅順と大連を租借し、不凍港を手にする。
何度きいても、イマイチ頭に入っていなかった日清戦争から日露戦争への動きが、本書で見えてきた。歴史の勉強に素晴らしい本。
・日本の国際連盟からの脱退について。意気消沈で帰国した松岡代表は、国民の歓呼の出迎えで帰国した。
”このような視野の狭い狂信的な国民論を煽った 新聞や雑誌など ジャーナリズムの責任は重大である。”
そして、 新渡戸は、 諸外国が日本を一方的に非難するのは日本について誤った報道のためであるとし、「日本人は この国を他の国々に理解してもらおうと努めてこなかった。 日本に関する知識が不十分なのは、 諸外国の人々の過誤とばかりは言えない。 それは私たちの過失である」といった。
理解してもらえないと愚痴る前に、理解してもらえる努力をせよ!ってことかな。
実に多様な視点を供してくれる一冊だった。「第六章 新渡戸に学ぶグローバル思考」も、実に、興味深い。
私たちは、「持続可能な社会」を如何に築くのか。日本は世界においてどのような役割を果たすべきなのか。
検討課題は山積みである。
でも、考えることも、行動することも、止めちゃいけない。
昨日のアメリカ大統領・選討論会、民主党候補者カマラ・ハリスさんの言葉のように
”We must go forward.”
前に進もう。
色々な意味で背中を押してくれる一冊。
読書は、楽しい。