新渡戸稲造に学ぶ近代史の教訓
草原克豪
芙蓉書房出版
2022年6月22日 第一刷発行
草原さんの新渡戸稲造シリーズ、第三弾・・・。と、私が勝手に名付けているだけだけど。
これまでに読んだ二冊が面白かったので、本書は蔵書にしてみようかと、購入した。古本で購入したのだけれど、帯がついていた。
”「 敬虔なクリスチャン、 人格主義の教育者、 平和主義の国際人」・・・・ こうしたイメージは 新渡戸の一面に過ぎない!
従来の評伝では書かれていない「 植民学の専門家として 台湾統治 や満州問題に深く関わった 新渡戸」に 焦点を当てたユニークな新渡戸稲造論。”
『新渡戸稲造 1862~1933 我、太平洋の橋とならん』を読んだ時に、これは、歴史の教科書だなぁ、、、と思ったので、「近代史」としっかりタイトルに入っている本書を読んでみた。
まえがきに、
”依然、福原書店から『新渡戸稲造 1862~1933 我、太平洋の橋とならん』と題する評伝を上梓した。 これにより それまで知られていなかった新渡戸稲造の全体像をほぼ 明らかにすることができたと思う。 読者からは「 歴史の勉強になりました」 との感想もいただいた。 思いがけないことだったが、 考えてみると、 なるほど納得できる。 なぜなら、 全体像から見えてくる 新渡戸の人生は 日本の近代史 そのものだからである。”とあった。
そして、自国の歴史を知らなすぎる日本人に、新渡戸の生涯をたどりながら近代史を、、、という意図で書かれた本だそうだ。
目次
まえがき
第1章 新渡戸稲造の知られざる顔
1 「 クリスチャン、教育者、 国際人」は新渡戸稲造の一面に過ぎない。
2 新渡戸に関する誤解
3 新渡戸を通して日本の近代史が見えてくる
4 全体像から見えてきた 新渡戸の素顔
第2章 新渡戸稲造と植民政策
1 台湾の産業開発への貢献
2 日露戦争と朝鮮・満州
3 日本の植民学の学統
4 海外雄飛のすすめ
5 新渡戸の植民地相
6 日本の植民政策の特徴
7 誰のために 統治するのか
第3章 新渡戸稲造と日米関係
1 カリフォルニアの日系移民排斥
2 悪化する日米関係の改善への努力
3 反日移民法の衝撃
第4章 新渡戸稲造を悩ませた満州問題
1 満州経営の体制
2 国際問題化する満州
3 満州事変から満州国建国へ
4 新渡戸の軍部批判
5 アメリカ世論との対決
6 不寛容な国際社会への警笛
第5章 日本の敗戦と占領政策
1 大東亜戦争への道
2 GHQによる 日本弱体化政策
3 道義国家としての品性
4 「 学問の自由は、高等なる判断力を養うこと」
5 「 和をもって尊しと為す」
あとがき
主要参考文献
感想。
今回も、勉強になったぁぁぁ!!!日露戦争が第二次世界大戦までの、日本の黒歴史が、黒ばかりではないということも含めて、色々目からウロコ。もちろん、歴史の解釈は様々あるだろうけれど、私たちはあまりに学校で教えられてなさすぎる。
だいたい、歴史の授業というのは、たいてい一年が時間切れで近代史まで行き切らない、、ということが多かったように思うけれど、実はあまり語りたくなかったから、、、大正時代くらいまででお茶を濁していたのではないだろうか、、、なんて思ってしまう。
目次をみて、気になるところを読むだけでも、参考になると思う。これまでに著書でもでてきた言葉が繰り返されているので、私にとっては復習しているようで読みやすかった。
満州というのは、特によくわかっていなかった。私にとって、草原さんの本を通じて理解できたのは、そもそも、「満州は中国ではなかった」ということ。清王朝を建設した満州族の土地であり、中国の土地は伝統的に万里の長城までであって、その先の満州はかつて一度も中国の一部であったことはなかった、ということ。
え?!そうだったの??
という感じ。
で、ロシアと日本で、それぞれの安定のために、せめぎ合った。。。
だけど、中国は今では当然のように伝統的に中国の土地であるような顔をしている。台湾然り。いやいや、最近じゃぁ、フィリピンもベトナムも、、南シナ海全部、、、、。結構、中国については厳しいことが書かれている。昔から、平気で嘘をつく、、、と。国連でもそうだったのだ。。。新渡戸ですら、「支那人は語学の才があり、交際の術に富、嘘をつくことがでる。」と語った。
植民政策については、本書の様に詳しい本はこれまで読んだことがないと思う。新渡戸は「植民は文化の伝播である」といったという。たしかに。植民に限らず、国際的に交流していくには、自国の文化を知ってもらうというのは大事なこと。言葉も。イギリスのブリティッシュ・カウンシルや、フランスのアリアンス・フランセーズといった語学学校は、政府主導で自国の言語や文化を広めるために設けられた組織だそうだ。しらなかった。そして、驚いたのは、中国政府が推進している孔子学校という中国語と中国文化を教える学校があって、2019年で世界に550校あるのだそうだ。知らなかった。。。し、ちょっと怖い・・。
本書の中で、満州植民地化に対して、朝鮮での植民地化が上手くいかなかった理由も述べられている。歴史の違い、、、ということだろうか。ここはちょっと深いので、ひとことでは言い切れない。でも。3・1運動の背景には、武断政治による民意の無視が否定できない。
アメリカで、排日移民法が成立してしまった背景に関しては、たしかに、日米の関係悪化というものがありはしたけれど、最初は、法案は成立しないだろうとみられていたそうだ。それが、アメリカ国内における政権争いのネタとなっていって、とうとう、排日移民法が成立してしまった・・・。
まるで、今のアメリカの民主党と共和党の政策論争を見ているようだ・・・。
外交上の課題より、内政上の問題で政治が流れるということがあるということ。実のところ、他にもたくさんあるだろう・・・・。結果だけ見ていると理解できない。これは、重要な視点。
新渡戸が活躍した国際活動のなかで、太平洋問題調査会というものがあった。これがあったから、晩年、新渡戸は「排日移民法」を成立させたアメリカの土地は、廃止されない限り二度とを踏まない、と決めていたのに、日本のためにアメリカに渡って、講演を続けたのだ。
第5章の敗戦後のGHQの話も、興味深い。「国体」維持のために、日本の立場を守ってくれたジョセフ・グルーの名前が、でてきた。グルーの名前が私のなかでつながった。
東京裁判に対する国際法的におかしな点があったことは、弁護人清瀬一郎によって指摘されたが、明確な理由がないままに却下されてしまったということもあった。要するに、それまでの国際法で、勝者が敗者を、 A 級戦犯を裁く「 平和に対する罪」、 C 級戦犯を裁く「人道に対する罪」なんていうものは、それまでなかったのだ。
戦争に負けるって、、そういうこと・・・。
他、気になったところ。
・稲造が、札幌農学校へ行くことをきめたきっかけ。東京英語学校在学中に、文部省から来た若い教諭から「 社会を良くするために必要なのは科学の知識だ。法律や政治だけでは西洋には勝てない」と聞かされたこと。
・稲造の言葉。「 自分は日本人の前では日本人を悪く言うが、外国人の前では日本人を弁護している」
これ、すごく大事。自分の同輩というのか、仲間のことを外で悪く言うのは最悪である。日本人が外国で日本人をけなすのは、本当に良くない。それをきいた人は、そこから尾ひれはひれついて、悪い噂の悪循環になる。さすが、中庸の国際人、新渡戸稲造。
・稲造の言葉。植民地にかぎらず、海外に行ったときに日本人が大事にすべきこと。「身体の健康、強固な意志、独りを楽しむ風を養うこと。」 日本人だけで徒党を組むな。
と、まだまだ、たくさん、おぉ!と思うことがあった。
あくまでも、草原さんの新渡戸論、近代史だろうとは思うけれど、たくさんの新しい気づきがあった。ほんと、近代史、知らないなぁ・・・・。
やっぱり、歴史って大事だな。
もうちょっと、勉強しようと思う。