『冷戦後の日本外交』 by 高村正彦、兼原信克、川島真、竹中治堅、細谷雄一

冷戦後の日本外交
高村正彦
兼原信克、川島真、竹中治堅、細谷雄一
新潮社 新潮選書
2024年6月25日 発行

 

2024年8月10日の日経新聞の書評にあり、ちょっと気になったので図書館で予約していた。

 

記事では、
”外相などを歴任した高村正彦氏のオーラルヒストリーである。一線の研究者がインタビューした。
集団的自衛権の行使を容認した安全保障法制を振り返った章が興味深い。国会の参考人招致憲法学者たちが「集団的自衛権違憲」と表明した。憲法学者野党の一部の政治家が呼応した。
高村氏は「国民の命と暮らしを守るべき政治家としての立場を放棄して、徴兵制になるだの軍靴の音が聞こえるだのと世論に迎合する形でデマを飛ばしまくった」と批判した。
聞き取りに当たった元官房副長官補の兼原信克氏は「日本の憲法論はイデオロギー論争」と指摘した。空想的な平和主義からの脱却を進めた安全保障法制は米国の評価も高い。(新潮社・1705円)”
とあった。

 

正直、私は政治に疎くて、政治や外交の話はよくわからない。でも、新潮選書はおもしろくて勉強になる本も多いから、、と借りてみたのだが。しばらく、、、読む気になれず、放置していた。当然、返却期限の日がやってくる。そのまま返そうかともおもったのだが、、、まぁ、一応、ペラペラ、、、と、、めくってみた。それなりに、興味深い言葉も目にはいる。ということで、サーっとななめ読みだけど、読んでみた。なんたって、でてくる政治家の名前がさっぱり、、わからない。もちろん、名前くらいは知っているけれど、何をした人なのか、、、、せいぜい、歴代の総理大臣の名前くらい。。。あぁ、、そういえば、そういう人いたな、、、って。それでもまぁ、さぁっと読んでみた。

高村氏の回想録みたいな感じ。

著者の高村さんは、 1942年生まれ 元衆議院議員、 弁護士。 1980年に初当選し、 以来連続 12回 当選。 経企庁長官、 外務大臣(2回)、 法務大臣防衛大臣 などを歴任。 第2次安倍政権の時代には、 自民党副総裁として 平和安全法制の制定に尽力。 2017年に衆議院議員を引退。 現在は自民党 憲法改正実現本部最高顧問。

 

高村氏以外で著書に名前を連ねている人々は、
兼原信克: 元内閣官房副長官補、 国家安全保障局次長。
川島真:東京大学教授。
竹中治堅: 政策研究大学院大学教授。
細谷雄一慶應義塾大学教授。

 

目次
はじめに 兼原信克
第1章 外交の失敗は一国を滅ぼす
第2章 国際貢献と世論の狭間で
第3章 外務政務次官として世界を奔走
第4章 小渕内閣外務大臣
第5章 森内閣から小泉内閣
第6章 日中関係が良好だった季節
第7章 民主党政権から安倍政権へ
第8章 平和安全法制
おわりに  高村正彦
本書 関連年表

 

感想。
ふむふむ。そういう政治の歴史、あったねぇ、、、。

新聞書評にある通り、やはり集団的自衛権に関する話が、一番なるほど、と思った。まさに書評にある通り。いつの時代も、メディアが世論を煽る構図はなくならない。現代ならば、SNSしかり。

外交に不慣れな民主党が政権をとったら、やっぱり、ぐちゃぐちゃになった・・・。2009年9月から2012年12月の3年間。。。すでに10年以上前なわけだけれど、迷走していたよなぁ、、、という記憶がある。その間に、東日本大震災もあったけど。

しかし、政党内での人事のやりとりとか、内閣人事についてのやりとりとか、政治家の世界は、よくわからん、、、と思ってしまう。国内で生活していると、つい、国内政治に注目しがちだけれど、今の世の中、外交ができずに国内政治が成り立つことはあり得ないのだ。

 

そんなこといっちゃっていいんだ、というような、高村さんの吐露もある。なかには、「なんだった小泉人気」って感じで、小泉総理への指摘も厳しい。なにが改革だったのか、と。成果は有ったかもしれないけれど、あれを改革とはいわない、と。

 

もう一つ、印象深かったのは、北朝鮮に対する高村さんの強い姿勢。
拉致問題の解決 なくして 国交正常化なし。 国交正常化なくして経済協力なし。」と、言い切ったのは、高村さんだったらしい。この言葉で、外務省として、一貫した方針となり、小泉総理の拉致問題への対応となった。加えて、「拉致問題と核ミサイル問題を包括的に解決していなければ、経済支援はしない」という方針も主張した。

残念なことに、未だに拉致問題も核ミサイル問題も解決していない・・・。


第一章のタイトルになっている、「外交の失敗は一国を滅ぼす」って、最近読んだ本にもでてきたぞ?とおもったら、昭和12年近衛総理が日米関係に対応していた時、秘書官にいった言葉だった。そして、その秘書官は、高村さんの父だったそうだ。
小学生の時から、その言葉を聞かされていたという。と、その話は本書の中で出てきたのだけれど、最近目にしたのがどの本だったか、、、忘れてしまった。。。でも、印象深い言葉である。

 

気になった言葉を覚書。

 

多国籍軍の後方支援に関するメディアや与党の無茶苦茶な質問に対して。
兼原:「 官僚は狭い官界の中で官僚同士が 専門的な議論をしますが、 政治家は大向こうの国民を相手に説得するのが一番の仕事です」

メディアは、自衛隊が戦闘機や戦車で戦場にいくかのような印象を世論に植え付けた。正しい情報発信が、何より重要・・・。デマを流すのは、罪だ。

 

「空想的平和主義」と「現実的平和主義」
だれも、戦争なんてしたくないし、平和主義でいたい。が、「空想的平和主義」に逃げてはいけない、ということ。92年のPKO法で牛歩戦術をやった国会は、異常なもの。成立に4泊5日もかかった。
 感情にうったえる印象を行動を示して、時間を無駄にするのはいかがなものか・・・。牛歩戦術で得られたものは何だったんだ?
兼原さんは、これを「55年体制下の劇場型安保国会」を演出したエコシステム、といっている。

 

・”江沢民国家主席が宮中晩さん会で中山服をきていたことが注目された。”ということ。中山服って何?と思ったら、人民服のことだった。通常は晩さん会のような場なら背広ネクタイが多いのに、あえて人民服を着たことが日本世論の反発をうけたのだそうだ。へぇ、、、そんな世論あったっけ?記憶にない。1998年のことのようだ。

 

・98年頃、外務省で「国益」とか「戦略」という言葉はタブーだった
55年体制下では、何を言っても社会党や左派メディアが反対して潰しにかかっていた。
長い戦後、、、、を感じる。

 

・兼原:”小渕・金大中時代は、最高の日韓黄金時代でした。”
2002年、日韓ワールドカップを開催したのは小泉政権時代だけれど、決定したのは小渕さんのときだった。小泉さんは引きが強い。。。

 

・高村さんが、安倍さんから外務大臣をお願いされて断ったときの話。集団的自衛権の容認についての仕事をしたかったから副総裁でいたかったということの他に、
”・・・それから消極的な理由は、 私は英語でこんにちはも言えない人なんですが、本当に大事にしていた通訳が死んじゃったんですよ。 リンガバンク 社長の横田(謙)さん 彼が死んじゃった って聞いて、 もう俺は 外務大臣はできないと思った。”
政治家にとって、それくらい通訳って大事なのだ。。。。

 

小泉政権時代の、閣僚人事でも派閥推薦をうけずに全部自分で決めた小泉さんのやり方についての高村さんのことば。
「 それはもう独裁者がそうやるんだったらしょうがないか、と」
なるほど・・・


・小泉総理時代、総裁選に出馬したことについて、高村さんの言葉。
「 勝てるとは思いませんでしたが 国債発行枠 30兆を止められればいいと思って、それが最大の目的でした。 さらに少子化は大問題であることを皆に印象付けたかった。
と、財政問題だけでなく、少子化問題について当時取り上げても、メディアもとりあげもしなかったそうだ。。。2003年の話。いまから20年前。もしも、高村総理大臣が実現していたら、少子化問題はちがう展開があったのかもしれない。。

 

・総裁選など、選挙のときの行動パターンの話の中で、とある信州の唐沢先生のことば。
長州人は1人が頭角を現すとみんなで押し上げる。信州人は1人が頭角を現そうとするとみんなで足を引っ張る。
信州の一番のご馳走は 沢蟹と言うんだが、 これはビクに入れて持って帰る時に蓋がいらない。 1匹 外へ出ようとすると 下のやつが足を引っ張るから。
と、高村さんが紹介。
そして、安倍総理は、
「信州人は本当に理屈っぽいよな」と言っていたことがあったらしい。高村さんは信州人。

ちょっと、、、、わらっちゃった。

 

・「集団的自衛権憲法違反だ」といった憲法学者に対して高村さんの言葉。
中学生でも知っている 『憲法の番人は最高裁である』ということを無視している」と。とはいっても、研究者として意見することは否定しない、と。

そういえば、「憲法の番人は最高裁」だったね。

 

・『田中耕太郎ー 戦う司法の確立者、世界法の探求者』(牧原出、中公新書)の田中さんは、国際法をもとに正義を考えた。
ちょっと、気になる。法律は得意じゃないけど・・・・。 

 

やっぱり、政治の話はピンとこないことが多いけど、高村さんなりの、そういう見方もある、ってことが語られている。

じっくり読んだら疲れちゃうけど、さっとよむなら楽しめる感じ。

 

う~ん、やっっぱり、読書は、楽しい。

にしても、やっぱり、、、政治はよくわからない・・・。だれが正しいことを言っているのか、よくわからない。。。。というか、そもそも、正解なんかなくて、あとからあれは正解、不正解、って言っていることの方が多い。最初から、「不正解」と分かっていたら、だれも戦争したりしないからね。かといって、「わかりません」で、すましていたら民主主義はなりたたないのだろう。「わかりません」でうやむやにするから、グローバルには民主主義をやめて独裁国家が増えている。

 

今、今、の答えはわからないけれど、少なくとも歴史から学ぶことはできる。やっぱり、歴史って大事なんだな・・・。

 

読書でまなべば、歴史も楽しい。

楽しく学ぶには、読書がいい。

知っていることが増えると、教科書も楽しい。

そうなのだ、知らないことばかりが書いてある本は、つまらない。

ちょっとでも知っていることがでてくると、点と点がつながって楽しい。

それが、本来の勉強の愉しみ方なんだろうな。

 

読書は、人生を楽しくする。