『名画の力』  by 宮下規久朗

名画の力
宮下規久朗
光文社新書
2024年7月30日 初版 1刷発行

 

日経新聞、2024年8月3日の書評で紹介されていた本。図書館で借りて読んでみた。

 

記事では、
”術史家が美術の持つ力や作品の魅力をつづったエッセー。「名画の力とは、現場で作品に向き合ったときこそ発揮される」と指摘する。コロナ禍を経験した今、こうした指摘が実感を持って迫ってくる。近年話題となった展覧会を中心に、伝統の持つ力、現代美術、それを飾る美術館まで7章に分けて、幅広く論じている。美術の鑑賞方法は一様ではなく、多様な楽しみ方があることを教えてくれる。(光文社新書・1320円)”とあった。

 

作者の宮下さんは、1963年 愛知県名古屋市生まれ。 美術史家、 神戸大学大学院人文学研究科教授。 東京大学文学部美術史学科卒業、同大学院修了。

 

表紙は、 カラヴァッジョの「リュート 弾き」(サンクト・ペテルブルク、 エルミタージュ美術館)の可愛い少女。

はじめに、で、前作があることが紹介されている。『欲望の美術』『美術の力』『名画の生れるとき  美術の力Ⅱ』とあるそうだがら、これらが読んでいなくてもたのしめます、と。

 

目次
序章  群像表現から見る人々の営み
第1章 伝統の力
第2章 巨匠たちの舞台
第3章 現代美術の奥行き
第4章 聖と俗を結ぶ
第5章 知られざる画家たち
第6章 美術における光
第7章 美術館と公共性 

 

感想。
うん、面白い!
これは、読書というよりも、絵画集を眺めているように楽しめる。もちろん、作品の解説もあるし、美術はどうあるべきかなど、新書ならではの論文的な性格もある。でも、ただ、見ているだけでも楽しい。

 

掲載されている作品はすべて、カラー印刷。紙も上質の白い紙。新書で1200円は、安くはないけど、作品集と思ったら安い。

 

とうぜん、作品は小さいくしか載せられていないけれど、どこの所蔵かが書いてあるから、みたければそこに足を運べばいいのだ。もちろん、エルミタージュ美術館とか、ほいほいとは訪問できないけれど、、、いつか!という夢が持てる。

 

序章の群像表現では、たくさんの人が多く描かれた街中、公園などをよく見ると、当時の人々の生活の様子がわかる、という話が面白い。スーラの「グランドジャット島の日曜日の午後」とか、ゴッホの「ジャガイモを食べる人々」とか、だれもが見たことがあるような絵画がたくさん紹介されている。

 

それぞれの絵の見どころ解説でもあり、美術館好きにはたまらないと思う。

 

日本の展覧会などで紹介された海外所蔵の作品も多く紹介されていて、やはり、海外の作品であっても日本にやってきて「展覧会」でみられるという幸運が、ありがたい、と思った。

 

また、同じ作品でも「どこでみるか」で違う、という話があり、まさに、、、さもありなん、とも思う。

 

先日、友人宅で着物好きの友人と話していて、反物を買うならそれを織っている人のところで買いたいという話から、博物館でみる仏像ではなく、ふだんその仏像がいる寺社でみないと「魂抜けている」よね、とか言う話になった。そして、友人宅にある海外で購入してきた絵画をみながら、この絵画たちはこのお家が居場所になって、思い出と一緒に眺めてもらえるんだよね、、、と。

 

そう、その作品をどこで見るのかも、大事。外の明かりがはいる場所なのか、となりに何が飾られているのか。。。。

 

モネの睡蓮も紹介されているのだが、外の光の中での絵として、『日傘をさす女性』も紹介されている。この、『日傘をさす女性』が、私に似ていると言って、フランスで働いていた後輩が、モネの家で購入したポスターを贈ってくれたことがあるのだが、しばらく自宅の壁に貼っていたけれど、やっぱり、日本の日差しのなかだとなんだか違和感をかんじたのだ・・・。大好きな絵ではあるけれど、どこかにしまってしまった。

カレンダーの絵は、そんな難しいこと気にしないのに、、、ね。

 

表紙をかざったカラバッジョについては、美術と公共性というテーマの中でも取り上げられている。いまでは世界中の美術館にカラバッジョの作品があるけれど、やっぱりみるならイタリアで、というのが著者のお薦め。なんでも、著者はカラバッジョについての著作もあるらしく、カラバッジョの大ファンみたい。私も好きだ。色使いが好き。甘くない色が好き。

 

また、公共性のはなしで、日本では一般的な街中にある「女性のヌードの像」というのは、実は、海外からみると異様なのだそうだ。

 

そもそも、ヌードとは、単なる裸ではなく、人に見せるために美化された裸体のことだそうで、裸体(ネイキッド)とは区別される。古くから脈々と受け継がれてきた芸術ではあるのだが、西欧ならば美術館の中で愛でる作品、ということらしい。

 

なんでも、日本の街中にヌード像がたくさんあるのは、戦後の表現の自由に喜ぶ人々が、戦時中の反動のようにヌードを飾ったから?!とか。

面白い。

 

本書の中では、洋画だけでなく、日本画も紹介されている。やっぱり、日本画もいいし、水墨画もいい。


最近、本の虫になって活字ばかり追いかけているけれど、やっぱり、絵が好きだ。美術館に行きたい病がむくむくと・・・・。

 

今度の旅は、芸術の旅にしよう。。。そう思った。

 

読書もいいけど、絵画鑑賞も、やっぱり好き。 

本書を片手に、実際の所蔵美術館にいくのも楽しいかも。