日本史の内幕
戦国女性の素顔から幕末・近代の謎まで
磯田道史
中公新書
2017年10月25日 初版
2023年9月20日 23版
本屋さんで目に入ったので、買ってみた。帯の磯田さんの写真がわかいなぁ、、、と思ったら、2017年の本だった。ま、いいか、ということで読んでみた。
帯には、大ヒット40万部突破!とあるけれど、、、これまで目にしたことが無かった。
そして、
” 書簡が伝える 西郷どんの性格は
秀頼は秀吉の子ではない?
忍者の子孫たちとの交流
信長と同日同時刻 生まれの男の話
小説や 教科書ではわからない 魅力
西郷隆盛の性格は 書状から見える。 豊臣秀頼の父親は本当に 秀吉 なのか。 著者が原本を発見した 龍馬の手紙の中身とは。 司馬遼太郎と伝説の儒学者に奇縁があった。ーーー 日本史 にはたくさんの謎が潜んでいる。 著者は全国各地で 古文書を発見・解読し、真相へと 分け入っていく。 歴史の本当の姿は、古文書の中からしか見えてこない。小説や教科書ではわからない日本史の面白さ、魅力がここにある!”
とある。
著者の磯田さんは、 1970年岡山県生まれ。『武士の家計簿』の作者だ。彼の古文書を読み解くことによる歴史の解説は、教科書より、ずっと真に迫る感じがして楽しい。
目次
まえがき
第1章 古文書発掘、遺跡も発掘
第2章 家康の出世街道
第3章 戦国女性の素顔
第4章 この国を支える文化の話
第5章 幕末維新の裏側
第6章 ルーツをたどる
第7章 災害から立ち上がる日本人
感想。
あぁ!!面白かった!
各章に、たくさんの短いエッセイが入っている感じ。初出一覧をみると、読売新聞の連載やら、雑誌の記事をあつめたものらしい。どのエピソードも数ページと短いので、気になったところだけを読むのでも面白いと思う。
目次には、それぞれのエピソードのタイトルもついているので、興味のあるトピックスを選ぶのは簡単。
磯田さんは、古本屋さんの知り合いが日本中にいる。だから、これは?と思われる古文や書簡がでてくると、磯田さんの元に連絡が入るようだ。あるいは、ふらりと立ち寄れば、店主に「こんなんありますよ」と紹介される。
そして、それを読み解くのだからすごい。
博物館とかにいくと、昔の人の字のうまさに驚くが、上手いからと言って即読めるわけではない・・・。いつか、読めるようになってみたいなぁ、、と思いながらも、、、、なかなか、、、。
秀頼が秀吉の子どもか?というのは、昔からよく話題になるテーマだけれど、磯田さんによれば、秀頼が秀吉の本当の子どもだとすると、淀殿は、佐賀県唐津の肥前名護屋城(ひぜんなごやじょう)に同行していないといけない。秀吉が、大陸進出のために居とした九州の名護屋城だ。一応、「淀の御前様も御同心のよし申し候」という書簡はあるらしいが、それ以外の証拠がない・・・と。そして、磯田さんは、他の記録に出てこないのがおかしい、、、と。
まぁ、本当の子だろうか、本当の子でなかろうが、淀殿が秀頼を溺愛したことにはかわりなく、、、徳川との対決も変わりなかったと思うけど・・・。
とはいいつつ、、、こうやって、歴史の真相をさぐっていくのが面白いのだろう。
信長は最後は魔王となって、僧侶も女子供も焼き殺してしまったわけだが、その中に「美女」を処刑したという歴史もあるらしい。それが、反信長の心情を煽ったかもしれない、と。
そりゃね、一般人にしてみると、美人が惨く殺されるのを見れば、そんなことをしたリーダーは憎し、、、となるよね。
やはり、部下だけでなく、一般人からも 嫌われてしまった リーダーは、早晩失脚しやすい、、、と思う。
司馬遼太郎と儒教家の話というのは、中根東里(1694~1765)の話だった。中根東里は「徳川開闢以来、稀有の才である」と 江戸後期の鴻儒碩学が絶賛した人物で、 明治に井上哲次郎が、昭和に安岡正篤が「 陽明学者」として若干紹介しているが、あまり知られていない。 若い時、 己の名が残らぬよう作品を燃やして、隠れ続け 自分の存在を消したのだそうだ。そして、磯田さんは、『無私の日本人』で取り上げたらしい。
で、その中根は鎖国下の日本で「唐音」つまりは、中国語を身に着け、大蔵経全巻を読破した。最澄・ 法然・日蓮のごとき聖人の行を成し遂げた人物。荻生徂徠も、中根の唐音知識を利用した。そんな 中根には、長年には妻はなかったが、子供たちをいつくしんだ。そして、下野国の佐野の「植野」という小さな村で寺子屋の師匠として生きた。
中根の死後、寺子屋だけが残り、それが明治になって植野小学校、さらに植野国民学校と改称された。 敗戦の色が濃くなった 昭和20(1945)年6月 この学校に戦車隊が移住してきて 将校たちが学校の裁縫室に寝起きした。 この将校の中に、福田さんという人がいた。 福田さんは 中根のすごした庵のまわりを散歩しては、植野の村人と歴史の話をしていた。戦後、この福田さんは、中根のように心をこめて文章を書き始めた。福田さんのペンネームを「司馬遼太郎」という。
読みながら、鳥肌がたった。
司馬遼太郎の作品には、戦争の体験が大きく影響していることは広く言われている。でも、この中根の庵の話は初めて聞いた。私にとっては、安岡先生が名をあげる人、中根という人物と、司馬さんが思想の中でつながっていたかもしれない、、、とおもうだけで、鳥肌モノなのだ。
司馬さんが、ものを書くことで戦後と向き合ったのは、中根がいた地面で寝起きしたこととは無関係ではないかもしれない、、、そう思うと、、ぞく ッとする。
他にも、寺子屋のすばらしいさとか、幕末に活躍した西郷どんとか坂本龍馬のなにげない書簡についてとか、江戸の火事、江戸に隕石が起きた話、、、などなど、どのエピソードも、へぇ!ほぉ!の連続。
教科書の歴史の流れをある程度分かっていた方が楽しめるとは思うけれど、知らなくても、本書を読んで興味をもった時代や人物について、教科書で調べ直すっていうのも楽しいかもしれない。
ちなみに、私は、旅行中に本書を読んでいたのだけれど、帰宅してから山川の日本史の教科書を引っ張り出して確認したりした。
歴史の探求には終わりがない・・・。そんなことを感じる一冊。
歴史は、どこまでも深い。
読書は楽しい。