『王妃の離婚』  by 佐藤賢一

王妃の離婚 
佐藤賢一
集英社
1999年2月28日 第1刷発行 
1999年7月30日 第4刷発行

 

2024年8月3日 日本経済新聞で、【半歩遅れの読書術】にて紹介されていた本。面白そうと思って、図書館で予約した。 同じ 記事を読んだ人だろうか、1999年の本なのにたくさんの予約者がいた。秋になって、ようやく順番が回ってきたので、借りて読んでみた。

紹介者は、上田岳弘さん。夏にぴったり、と紹介していたのだ、、、。まぁ、季節は関係ない。記事によれば、

”舞台は15世紀末のフランス。当時の国王であるルイ12世は、王妃であるジャンヌ・ドゥ・フランスとの「婚姻の無効」を争う裁判をしていた。なぜ「離婚」ではなく、「婚姻の無効」なのかといえば、当時のキリスト教の教えを元に作られた法律であるカノン法では、離婚が認められていなかったためだ。

ルイ12世は、もともと結婚が成立していなかったことを正式に認めさせ、婚姻を取り消すことによって、別の相手と結婚をしようとしていた。随分な横暴ではある。国民の多くは、真実の在り様はともかくとして、形式的に裁判は進み、国王の訴えが認められるだろうとみていた。ところが、王妃は全面的に戦う姿勢を見せる。そんな理不尽な仕打ちを受ける王妃のために、国家の最高権力者に向かうべく立ち上がった男がいた。弁護士フランソワだ。”とある。

 

ルイ12世が、一人目の王妃と離婚(婚姻の無効成立)し、その後アンヌ・ド・ブルターニュ(Anne de Bretagne, 1477–1514)と結婚し、ブルターニュ地方をフランスに統合するきっかけをつくったというのは、史実。

 

本作は、小説であって、フィクションではあるけれど、フランスの時代背景をもとに書かれた作品。翻訳作品ではなく、著者は日本人の佐藤賢一さん。

 

佐藤さんは、 1968年山形県鶴岡市生まれ。 東北大学 大学院 文学研究科でフランス史を専攻。 ヨーロッパ近世の絶対主義を研究する。

 

目次
プロローグ
第1章 フランソワ は離婚裁判を傍聴する
第2章 フランソワ は離婚裁判を戦う
第3章 フランソワ は離婚裁判を終わらせる
エピローグ

 

感想。
面白かった!!
久しぶりに、小説として面白かった!!

日本史もままならない私が、なにもフランス史の小説なんて、、、とも思うのだが、最近、ワインつながりで西洋史とくにフランス史を学ぶ機会があり、あ、あのシャルル・・・あのルイ、、、と、ちょっと、点と点がつながって面白かった。

15世紀が舞台なので、キリスト教がルールだった時代。王の婚姻も教会がみとめるものだし、裁判というのは教会で聖職者らによって行われるものだった時代。へぇ、、ほぉ、、という驚きと、女と別れたい男がじたばたする姿は現代とも通じる変わらなさと、、、。
面白かった。

 

ストーリーには、二つの軸がある。
ひとつは、もちろん、ルイ12世ジャンヌ・ドゥ・フランスとの婚姻の無効裁判。婚姻からすでに22年たち、ジャンヌは47歳になるというのに、理不尽にこの結婚はなかったことに、という裁判に立たされる。

もう一つは、プロローグから登場するフランソワ・ぺトゥーラスというかつてのパリ大学カルチェ・ラタン世界の神童で、分けあってパリを追われ、今はナントで弁護士をしている男。そのフランソワが、かつての恋人 ベリンダとの悲しい別れを引きずりながら、ベランダとの中を引き裂いた、ルイ11世(ジャンヌ・ドゥ・フランスの父、暴君)への恨みをつのらせ、見世物になっている王妃の裁判傍聴をしたことから、裁判に巻き込まれ、心の立ち直りを見せる物語。

 

だから、目次にある通り、お話は、フランソワの行動が軸に展開する。

 

以下、ネタバレあり。

かつてのフランソワは、パリ大学の神童であり、聖職者への道が約束されていた。だが、 家庭教師で訪れたスコットランド系貴族カンニガム家の娘、ベリンダと恋に落ち、2年間の同棲生活をしている。聖職者なので、結婚はできない。だが、「結婚しよう」とベリンダにせまるフランソワ。物わかりのよい女を装って、そんなことはできない、というベリンダ。
駆け落ちしようとした日、パリの暴動に巻き込まれ、二人は別れ別れになってしまう。

プロローグでは、そんなフランソワの若かりし頃の話が。

 

そして、フランソワは、ルイ12世とジャンヌとの離婚裁判を傍聴しに来ている。裁判はキリスト教の法律であるカノン法によって進む。裁判はラテン語で行われ、そもそも離婚をみとめていないキリスト教なので、「この婚姻は成立してなかった」ということを証明するために両者は争う。

原告のルイ12世はフランスの 国王である。だれでれも、逆らいたくはない。が、王妃は、原告のいう「婚姻の無効」を否定した。だから、裁判は盛り上がる。
王妃側の弁護人は、老齢のよい男なのだが、人が良いだけでは弁護人は務まらない。かれが呼んできた王妃側の証人は法廷で、みんな国王に有利な証言をしてしまう。

そもそも、婚姻の無効を成立させるために必要なのは、カノン法によれば肉体的交わりがなかった、ということ。婚姻は、 子孫繁栄のためにするので、 そのための肉体の交わりが必要。だが、国王は、22年間、一度も王妃に愛情を感じたことも、王妃を抱いたことも無いので婚姻は成立していない、と主張するのだった。

それに対して、「ノン・クレド」いいえ、と否定する王妃。

国王の弁護人は、であれば、王妃が処女ではないことをここで証明してみせよ、という。

15世紀である。法廷で、下半身を晒しものにして、それを証明してみせよという弁護人。また、そのような要求が罷り通る時代。
が、恐れ多くも王妃である。傍聴人や、街の人々、特に一般女性は怒り爆発!!!


フランソワも、国王の弁護人に嫌悪感を感じざるを得なかった。もともと、自分がパリから追放されただけれなく、ベリンダとの別れの原因をつくった、にっくきルイ11世の娘であり、王妃が窮地に立たされることをこの目で確かめたくて裁判の傍聴にきたものの、国王側のきたないやり方に、憤るフランソワだった。

 

そして、裁判所をでると、裁判関係者の護衛についていた近衛隊のひとりに声をかけられてハッとする。それは、ベリンダの弟ホーエンの姿だった。フランソワは、ホーエンから姉は死んだと聞かされてショックを受ける。ホーエンは、姉を死においやったフランソワを恨んでいた。 ホーエンによれば ベリンダは フランソワ が二度とパリに戻ってくることはないと知った時、ショックのあまり食事を取らなくなり、衰弱してなくなったというのだった

それもこれも、 全ては憎き ルイ11世のせいじゃないか。 そんな ルイ11世の娘である王妃なんてどうなったって構うもんか、、、そう思っていたのだが、、、。

 

ホーエンは、フランソワに姉の恨みとばかりに殴りかかる。気を失うウランソワ。血だらけで担ぎ込まれ、気が付いたのは、なんと、王妃の館だった。

そして、王妃とその弁護人の老人から、王妃の弁護をお願いされる。

 

なんと、ベリンダは、フランソワと別れた後、王妃のもとで働いていた。そして、ことあるごとにフランソワがいかに素晴らしい男性だったかと王妃にはなしていたというのだ。ベリンダの弟ホーエンは、それを知っていた、だからこそ、自分で殴って気絶させたフランソワを、この館に運んできたのだ・・・。

そして、フランソワは、王妃がベリンダのことを知っていることに親近感を覚え、その弁護を引き受けることとする。

かつてのパリ大学の神童、とうとう、世間大注目の裁判の舞台へ。

 

そして、法廷にたったフランソワは、王妃の処女性を確かめる前に、国王の性的交わり能力の確認が必要だと法廷で言う。国王の男根をこの場で公開してみせよ、というのだ。王妃は法廷に立っているが、国王は原告として法廷に姿も現さない。傍聴人たちは、そうだそうだ、へなちょこだからここに来れないんだ!と弥次を飛ばす。国王への宣戦布告。

ちなみに、裁判はラテン語なんで、傍聴人の弥次は裁判記録にはのこらない・・・

 

そして、王妃のためにかつて王妃の医師であった男を証人喚問する、と宣言する。その男の行方は分かっていないにもかかわらず・・・・。

 

かつて、パリ大学の神童だったフランソワは、いまではパリ大学教授となっている学友とその教え子たちの力を借りて、必死の思いでその男を探し出し、法廷で王妃に有利な証言をしてもらうことに成功する。その医師を探しにパリを音連れている間、フランソワは、自分と同じフランソワと名乗る学生に、世話になる。彼は、かつてフランソワとベリンダがくらしていた家に、一人でくらしているのだった・・・。かつ、ホーエンから引き継いだというかつての二人の思いでの品々を大事に保管していた。。。学生フランソワ、何者??

 

裁判は、医師の証言があったことで、王妃側に有利に流れが変わる。医師は、国王が王妃の住む館で夜を共にしていたという証言をする。それでも肉体的交わりはないというなら、国王が性的不能者だったのではないのか?そうでないなら、それを法廷で証明してみせよ、と迫る。

 

が、そう簡単に敗訴できないのが国王側。刺客を送り込まれたり、脅迫が効かないなら懐柔しようとしてきたり・・・・。

国王は、なんとしても王妃と別れて、ブルターニュ公国の女公アンヌと結婚して、ブルターニュを手に入れたいのだ。そして、王妃のことなんてこれっぽっちも思いやりをもった接し方をしない。

 

フランソワは、だんだんと、王妃がこの裁判に勝って、婚姻が継続することになっても、それが王妃の幸せにつながるのだろうか、、、と、王妃のことを憐れむ思いが生じてくる。もともと、自分を追放したルイ11世の娘であり、憎むべき相手であったのに、裁判のための打合せを通じて、王妃の人柄をしり、ベリンダとの思い出を共有できる幸せを感じ、徐々に王女の魅力に魅せられていくフランソワ。

そして、なぜ国王と別れたくないのか?ときくフランソワに、「嘘をつかれたくないだけだ」と、答える王妃。国王からの寵愛をうけた時期もあった王妃は、それすらもなかったことにされることが耐えられなかった。寂しかったのか・・・。「醜女と言われてもかまわない。でも、あの愛情の日々すらも嘘と言われるのは、、、、」と悲嘆する王妃。

フランソワは、王妃がいかに美しく、自分だって王妃、あなたに惹かれると訴える。だったら、それを証明して見せて、私を抱いてと、、、。

抱擁し合う二人。。。。
が、、、フランソワは、ベリンダとの駆け落ちに失敗し、パリを追放された際、なんと男根を切り落とされていたのだった。性的には交わることが二度とできない体になっていたのだった。。。その姿を王妃の前にさらすフランソワ。。。

パリを追放されたフランソワが、二度とベリンダの元に戻らなかったのは、それが理由だったのだ・・・。

それでも、フランソワと王妃は、互いの愛情を確かめ合う。

 

結局、裁判は、国王の勝利となる。でも、王妃にはもう婚姻継続へのこだわりもなくなっていた。フランソワに愛されているということが、王妃の心を解きほぐした。

そして、その後、一つの秘密が明かされる。証人となる医師を探しにパリに行った際、フランソワの世話をしてくれた、学生フランソワは、なんと、ベリンダが生んだフランソワの子どもだったのだ。


最後は、フランソワにはローマ控訴院の弁護士という新たな出世の道が開かれ、息子のフランソワとも出会うことができ、王妃も明るい気持ちでこの先を生きていくのだろう、、、と、ハッピーエンド。

フランソワの鬱屈した精神、王妃の卑屈な精神、、、どちらも、二人の出会いによって解き放たれ、それぞれの明るい未来を歩みだす、そんな最後はすがすがしい。

 

いやぁ、面白かった。
フランスの歴史の勉強にもなったし、なかなかの傑作だと思う。

まだまだ、日本の歴史を勉強したいけど、同時にフランスの歴史も並べてみると楽しい。
ちなみに、ルイ12世(1462–1515)が生きた時代、日本は、戦国時代

1493年 - 明応の政変:将軍足利義材(後の義稙)が追放され、細川政元が新たに将軍を擁立。幕府の内紛が続く。
1497年:加賀一向一揆が勢力を強め、自治的な支配を行う。
1500年代初頭:毛利元就(1497年生)、武田信玄(1521年生)など、戦国の名将たちが台頭する時代の準備段階。
1543年:ルイ12世の死後しばらく経ち、鉄砲が種子島に伝来し日本社会に大きな変化をもたらす。

って、chatGPTが教えてくれた。 

ちょうど、読んでいる途中の『まんが日本の歴史』とかぶる。

megureca.hatenablog.com

 

また、西洋史でいえば、フランソワは、トマス・アクィナスパリ大学時代に学んでいる。トマス・アクィナスは、1225年頃~1274年、13世紀の人。日本なら、鎌倉仏教が盛んになっていった頃。

 

歴史は、重ねてみると面白い。

そのきっかけを与えてくれる、読書は楽しい。