『思考の整理学』 by 外山滋比古

思考の整理学(ワイド版)
外山滋比古(とやましげひこ)
筑摩書房
2017年1月25日 初版第1刷発行 
2020年9月1日 初版第6刷発行 
*この作品は1983年筑摩書房よりちくまセミナー 1として刊行され 1986年にちくま文庫として 刊行されたもののワイド版です

 

先日、山田仁史さんの『人類精神史 宗教・資本主義・Googleを読んでいてでてきた。 著者が「異なる層」という考えに触発されたという一冊。気になったので、図書館で借りて読んでみた。

megureca.hatenablog.com

 

元祖 自己啓発本という感じだろうか。今でも売れ続けている。だから、図書館で新しい出版の物を探したら、この(ワイド版)があったので、借りてみた。字が大きくて、読みやすい。こりゃ、高齢者向けだ。つまり、年をとっても手に取りたくなる本なのだ。

 

著者の外山さんは 1923年生まれ。 東京文理科大学英文科卒業。 お茶の水大学 名誉教授。 英文学に始まり、 テクスト、 レトリック、 読書、 読書論、 エディターシップ、 思考、 さらに 日本語論の分野で独創的な仕事を残した。2020年7月、逝去。

有名な方なので、著書を読んだことはある気もするけれど、読んだ端から忘れている気もする。。

目次は、Ⅰ~Ⅵまでにわかれていて、章のタイトルはないが、さらなる細かな項にはタイトルがついている。あえて章にタイトルをつけるなら、、、
Ⅰ思考の基本、Ⅱ時間の効用、Ⅲ方法論、Ⅳ忘却と記憶、Ⅴ言葉、Ⅵ具体と抽象、ってかんじだろうか。。。。

それぞれ、短いエッセイの集まりのような感じなので、目次にある言葉から、気になるところだけ読んでもいいかも。とはいっても、、、、200ページの本。字が大きいし、文字数はそんなに多くない。言葉も難しくない。わりと、あっという間に読める本だった。シンプルで読みやすいのだろう。東大、京大で一番読まれた本、というのが本の宣伝文句になっているけれど、、、だからなんだ、、、って感じ。。。筑摩書房には、もうちょっと格式高い広告文章をつかってもらいたいもんだ、、、、なんてね。

 

感想。
なるほど。やっぱり、元祖、キャリアポルノだな。自己啓発本。繰り返しいわれることが、書かれている、って感じ。けど、文学的でもあって、面白い。確かに、良い本だと思う。

私の中で新鮮に思えたのは、

1.「覚えるためには、いかにうまく忘れるかが大事」

2.「言葉にしていると、大事なことは自分だけのことわざになる」

という2点。


何かのために記憶して覚えたいということは、 学生だけでなく 社会人になってもある。 そんな時大事なのは、不要なことは忘れて、大事なことだけを記憶に残すということ。

たしかに、何でもかんでも記憶に残していると、 いざその記憶から何かを取り出そうとした時に 頭の中がごちゃごちゃする。 大事なのは残したいことだけ残すということ。 本を読むときも、 自分にとって大事だったと思ったことだけ記憶に残せばいい。 何もかも 記憶しようと思って読むから、一大事になっちゃう。

そうね、確かに。 そう言われてみて本書を読んで 私の記憶に強く残ったのは 上記の2点だけということ。

 

「自分だけのことわざ」というのは、 自分にとって大事な 原理原則になるということともいえる。 私なら、ことわざじゃないけど、大事にしている
科学・技術は、世のため人のため、平和目的でつかわれなくてはならない
だろうか。
この言葉も、誰かの言葉だったのか、今では記憶にない。でも、それは、私の中では絶対真理なのだ。そして、テクノロジーだけでは世界は救えないのだ。。。。ロシアを見てみよ、北朝鮮を見てみよ、、、。

 

前にグロービスの講師が、 同じ本を何度も読んでいると自分がその著者になった気がすると言っていたが、 それも 似たようなことだろう。 繰り返し自分で口にしていると、 その言葉があたかも自分の言葉のような気になってくる。 自分だけのことわざ。ちなみに、 そのグロービス の講師が、 繰り返し読み込み、研修でも使用していた本は、『 信念に生きる ネルソン・マンデラの行動哲学』( リチャード・ステンゲル)。 マンデラは、南アフリカ共和国アパルトヘイト(人種隔離政策)と戦い続け、 1994年に行われた初の全人種による選挙で 自ら大統領となった人物。その講師は、マンデラの生きざまが、自分のなかの「ことわざ」のようになっているといっていた。使命を持って生きるということ。

 

他にも、なるほどと思う表現は出てくる。

・グライダー思考と飛行機思考。ただ滑空するだけなのはグライダー思考。自らエンジンをかけて飛行するのが飛行機思考。現代の学校教育は、上手なグライダー乗りをつくっているだけで、創造力育成にかけている、といって批判し、飛行機思考の大切さを説いている。

これは、、、、本書は1980年代の本だけれど、今と何も変わっていないではないか・・・・。おまけに、その後ゆとり教育なんてものまで導入されちゃって、日本の教育は迷走し続けている。

 

思考は時間をかけて発酵させるべき。夜思いついたことなら、朝もう一度考えてみる。また、もっと違う時間軸では、過去の文章でも、数年後にはちがう熟成のされかたをしていることもある。時間の効用ははかりしれない。形にならずに、モヤモヤとしている状態の思考を「くらげなすただよえる・・・」と。古事記だ。どこか文学的。

 

書いてみること、声に出して読み上げてみること、言葉を口にすること。これらも思考の整理に重要な役割を果たす。言葉にした時、現在形なら創造的だし、過去形ならただのゴシップだ、、、と。なるほど。

私は、早起きをする。

私は、早起きをした。

全然違う。創造的でありたいなら、現在形をつかってしゃべってみろって。○○さんがXXしたんだって、という会話に創造性はゼロ。

 

山田仁史さんの『人類精神史 宗教・資本主義・Google』の中で触発されたと出てきたのは、現実には一次的現実と 二次的現実があるという話。 一次的現実とは実際に自分が経験するリアルな体験。二次的現実とは、読書やTVといった何かのメディアを通じての経験。そして、昔は一次的現実しかなかったのに、印刷技術ができて本が生れ、TV映像技術ができてTVが生れ、いまではVRの世界。メタバースは、、いうほど台頭してこないけど。

本書の中では、現代の生活は二次的現実が一次的現実を圧倒してしまっている。が、 一次的現実に目を向けることが大切であると言っている。そこには、汗のにおいがある。 サラリーマンの思考は 汗の匂いがあって 一次的現実に目を落としていることが多い。が、学生のそれは、読書に頼っていて、生活に根差していない、と。

1980年代は、そうだったかもしれないけれど、、、二次的現実、VRでそだった世代が社会人になるにつれ、 サラリーマンの思考も汗の匂いがしなくなっているような気がしなくもない・・・。

 

他にも、面白いと思った言葉を覚書。

「ひとつだけでは、多すぎる」: 一つだけを信じ込むと、 他のものが見えなくなってしまう。 その1つがうまくいかないと後がない。 いくつかのものを競争させるぐらい の方が思考はうまくいく。思考は、いくつかの材料があって混ざった方がいい。でも、 何でもかんでもごちゃ混ぜになると、不味いカクテルみたいになる。
いい塩梅、が必要ということ。

 

知識は集めすぎると、雑然たる断片的知識の山になって、調べる前よりもかえって 頭が混乱してくる場合すらある
 これは、私にも、あるある、、、だ。脱線して脱線して、、、何を調べようとしていたのかもわからなくなったり、、、。
ゆえに、「 調べる時にまず何を 何のために調べるのかを明確にしてから情報収集にかかる」のが大事。

本も、なんで読もうと思ったのか忘れたくらいなら、思い出すまで読まないほうがいいのかも、、、読んでいて思い出すこともあるけど。

 

メモを取るより耳に集中しろ。 講義メモを取る暇があったら、 聞くことに集中した方がいい。サラリーマンの会議もそうだ。やたらめったらメモを取る人がいるけれど、あるいは、全部録音したがったり、、、大事なことだけ記憶すればいい。まぁ、現代は、AIが要約してくれるけど。まぁ、それだって、要約をあとから読み直したり聞き直したりするわけで、LIVEで聞いたことをそのまま理解して、記憶にとどめたほうがよっぽど効率がいいし、同じ時間をつかうなら、それくらい集中して過ごした方が、時間をむだにしない。

ながら○○は、やっぱり、よくないんだよね。

 

欧揚修の三上馬上、枕上、厠上。 優れた考えを思いつくのは、 馬に乗っているとき、寝ようとするとき、トイレに行っているときなど、 ぼんやり、 あるいは 力んでいない時ということ。心が安心しているとき、頭は自由になる。

 

欧揚修の三多文章上達の秘訣三か条。看多( 多くの本を読むこと)、做多(さた: 多くの文を作ること)、商量多( 多く 工夫し、推敲すること)。

 

・” これからの人間は機械やコンピューターの できない仕事をどれくらいよくできるかによって社会的有用性に違いが出てくることははっきりしている、 どういうことが機械ではできないのか、それを見極めるには多少の時間を要する。創造性といった抽象的な概念を振り回すだけでは仕方がない。”

 

これらみんな、1983年に書かれた言葉である。今でも通用しちゃうというのは、喜ぶべきことか、嘆くべきことか。。。。 

 

なるほど、読んだことがないなら、一度は読んでみる価値のある本だと思う。たしかに、レトリックがうまい。なるほど、ベストセラーなわけだ。もう少し、外山さんの本をよんでみてもいいかな、と思った。

 

うん、読書は楽しい。

そして、大切なことだけ記憶にとどめればいい。

これ、大事!