中野京子と読み解く 名画の謎
旧約・新約聖書 篇
中野京子
文芸春秋
2012年12月15日 第1刷発行
中野さんの『脳から見るミュージアム』と同様に、図書館の特設コーナーに飾られていた本。面白そうなので、借りてみた。
表紙をめくると、
” せっかく絵を味わいたいと思っているのに、宗教画 だからと敬して遠ざけるのでは、あまりにもったいない。
本書は、もっと 宗教画を楽しみたい人、名画を通して聖書や歴史や画家について知りたいと思う人のための一冊です。”とある。
著者の中野京子さんは、北海道生まれ。 作家、ドイツ文学者、早稲田大学講師。 西洋の歴史や芸術に関する広範な知識をもとに、絵画エッセイや歴史解説書を多数発表。『 名画の謎 ギリシャ神話篇』、『怖い絵』シリーズなど。
目次
聖書の登場者たち
The Old Testment 旧約聖書の章
鼻はやめて指に ミケランジェロ『 アダムの創造』
知恵と引き換えの死 クラナハ『楽園』/ マザッチョ『楽園追放』
人類初の殺人者 ブレイク『アダムとイブによって見つけられたアベルの肉体』/ コルモン『カイン』
天までとどけ ブリューゲル 『バベルの塔』
神様は謎かけばかり レンブラント『イサクの犠牲』/ カラヴァッジョ 『イサクの犠牲』
颯爽たる脇役 ヴィルマン『ヤコブの夢のある風景』/ ドラクロワ『ヤコブと天使の闘い』
愛はあったのか? ルーベンス『サムソンとデリラ』
美女と生首 アッローリ『ホロフェルネスの首を持つユーディト』/ ジェンティレイ スキ『ユーディトと次女』
Intereval 大罪は7つだけ? ポス『7つの大罪 と四終』
The New Testment 新約聖書の章
おめでとう、と言われても・・・ ダヴィンチ『受胎告知』/ ロセッティ 『見よ、われは主のはしためなり』
誰も気づかない ブリューゲル『ベツレヘムの人口調査』
有名人と記念撮影 アルトドルファー『東方三博士の礼拝』/ ボッティチェリ『東方三博士の礼拝』
洗礼と生首 フランチェスカ 『キリストの洗礼』/ クリムト『ユーディットⅡ/サロメ』
弟子たち カラパッチョ 『聖マタイの召命』
マグダラのマリア ティツィアーノ『悔悛するマグダラのマリア』/ クリヴェッリ『 マグダラのマリア』
最後の晩餐 ダ・ヴィンチ『最後の晩餐』
裏切り者の接吻 ジョット『ユダの接吻』
イエスは見た ペラスケス『キリストの磔刑』/ティソ『十字架上のキリストが見たもの』
ヨハネ黙示録 デューラー『黙示録の四騎士』
子が偉大なら母もまた ティツィアーノ『聖母被昇天』
裁きの日が来たら ミケランジェロ『最後の審判』
おわりに
感想。
おもしろ~い!
目次にでている絵は、すべてカラーで印刷されている。もちろん、そんなに精細な写真ではないけれど、教科書でも見たことのありそうな絵がずらり。絵が示している聖書上のイベントや重要事項については解説が載っている。かつ、目次にあるようにそれぞれの絵を説明するタイトルが面白い!
「鼻はやめて指に」というのは、聖書の中で神がアダムに命を授けるために、鼻に息を吹き込むのだが、それでは絵にならないので、ミケランジェロは、指から指へ、、命を吹き込んでいるかのようにえがいたのではないか、と。
指と指が触れ合うシーン。
そう、あの映画『E.T.』の名シーンもここからきているのだ。
そして、中野さんの解説の数々は、キリスト教、ユダヤ教の人々が聞いたら憤慨してしまいそうなものもある、のだけれど、「おわりに」は、そうであったならば「どうぞお許しください」と書いている。
” 宗教画も神話画と同じように エンターテイメントとして楽しめばいい、 と言うと クリスチャンの方々は不快かもしれませんが、ご容赦頂きたい。 お稲荷さんを毎日拝んでいる我が同胞に対して、異教徒の外国人が「狐なんぞに手を合わせるなんて」とせせら笑ったとしても、我々は誰も大して怒りません。 狐を祀るに至った民衆の心を知ってほしいと願うばかりです。。。”
って。
たしかに。
そして、この ミケランジェロの『アダム 創造』のアダムには、立派なおへそが描かれているのだが、母から生まれるときのへその緒によってできるはずのへそが、神がつくったアダムにあるのはこれいかに?!
なんていうツッコミが、面白い。
また、聖書に出てくる登場人物と、その物語が説明されていて、それぞれの絵が示しているシーンがよくわかる。そうみて見ると、ただ絵画として見るより、多くの物語が見えてくる。
面白いのは、こういった宗教画は、「ある瞬間」を写し取ったものではなく、いくつもの時系列の出来事が、一枚に同時に描かれているということ。あぁ、なるほど。たしかに、そうだ。
静物画や風景画では、あまりそういう描かれ方はしない。人物画でもそうか。でも宗教画となると、物語が一枚に書き込まれている。
日本の古い襖絵などもそうだ。合戦の場面や祭りの絵画もそうだ。
物語を一枚の絵に描きこむ。そうか、そういうものだ。確かに・・・。
本書と合わせて、『聖書の解剖図鑑』を読んだら、宗教画がもっと楽しくなると思う。
聖書をよくしっているなら、そんな必要はないけれど・・・・。
旧約聖書で、弟アベルをころした兄カイン。神の愛、親の愛情をめぐる兄弟間の葛藤をユングは「カイン・コンプレックス」と名付けた。カインこそが、アダムとイブの長男で、人類初の殺人者。
アブラハムは、ファラオに妻・サラを献上してしまう。そして、自分の命を守り、財産を増やす。中野さんの「いいんだろうか。少なくとも、ワタクシ的には、とうてい尊敬できる男じゃありません」というツッコミが楽しい。そんなアブラハムの息子がイサク。しかし、アブラハムは神にいわれて息子イサクの命をも奪おうとする。それを天使に止められたシーンが描かれているのが『イサクの犠牲』。
ミケランジェロの『アダムの創造』も『イサクの犠牲』も素晴らしい絵だ。けど、彼自身は、性格も激しく、ケンカで人を刺殺して、逃亡生活中に死去したらしい。。。
「大罪は七つだけ?」では、七つの大罪はキリスト教用語としてよく知られているけれど、聖書に明確に記載されているわけではないという話。 6世紀後半、ローマ教皇グレゴリウス1世によって、現在の形になった。
「傲慢(pride)」
「貪欲(greed)」
「淫乱(lust)」
「憤怒(wrath)」
「大食(gluttony)」
「嫉妬(envy)」
「怠惰(sloth)」
あわせて、最近のものも紹介されていた。
マハトマ・ガンジー「新・7つの大罪」
「原則なき政治」
「道徳なき商業」
「労働なき富」
「人格なき教育」
「人間性なき科学」
「良心なき快楽」
「犠牲なき宗教」
2008年ヴァチカン 新時代のための「7つの大罪」
「遺伝子組み換え」
「人体実験」
「環境汚染」
「社会的不公正」
「貧困を起こすこと」
「淫らなまでに金持ちになること」
「麻薬」
これらは、「神の法に対する重大な違反」なので、告解しないままに死ぬと地獄行きだそうだ。
他も、章につづくタイトルが面白いので、ついつい、読み進めてしまう。
絵も多いし、あっという間に読める。
絵を知ることで、聖書を知り、聖書をしることで、絵を知ることができる。
サロメも聖書のお話。サロメによって首を切られたヨハネこそが、イエスに洗礼をさずけた予言者。
クリムトの『ユーディットⅡ/サロメ』(ヴェネチア近代美術館)は、いつか本物を観てみたいなぁ。
あとは、やっぱり、バチカンのシスティーナ礼拝堂もみて見たい。『最後の晩餐』は20代の頃に観に行った。これは、どうしても見たくて、修復作業が行われている間だったけど、観に行った。バチカンもその時に訪れているはずなのだけれど、覚えていない。そのころは、宗教画だとしか思っていなくて、ミケランジェロの絵に惹かれていなかったかもしれない。
こうして本で出合って、本物を観てみたいと思う絵がひとつでもあれば、ラッキー。
そういう、出会いもありがたい。
