ZERO to ONE ゼロ・トゥ・ワン
君はゼロから何を生み出せるか
ピーター・ティール with ブレイク・マスターズ
瀧本哲史 序文
関美和 訳
NHK出版
2014年9月25日 第1刷発行
2024年4月5日 第25刷発行
ZERO to ONE : Notes on startups, or how to build the future (2014)
起業するなら必読、と、あるところで話題になったので、図書館で借りて読んでみた。2014年と、10年以上前の著書。でも、今にもつうじるということ。だから、25刷にまで増えているのだろう。
なんとなく、 手元に置いておきたいかもなぁと思ったので、購入。
帯には、
”「 競争」じゃない、「独占」を目指せ!
スタートアップのためのバイブル
11万部突破”
と、著者の写真つきである。
加えて、
ナシーム・ニコラス・タレブ、イーロンマスク、マーク・ザッカ―バーグらのコメントがついている。
著者のピーター・ティールは、 シリコンバレーの起業家、投資家。1998年に PayPal を共同創業して会長兼 CEO に就任し、 2002年に15億ドルでeBayに売却。初期の PayPal メンバーは その後ペイパル・マフィアと呼ばれ、シリコンバレーで現在も絶大の影響力を持つ。
PayPalって、1998年だったのか!!いまなら、電子マネー、QRコード決済、ネット上での決済はクレジットカードを含めて当たり前だけれど、当時は、まったく新しいサービスだったということ。PayPalの成功の秘密がここにある、って感じだろうか。
表紙裏の説明には、
”新しい何かを作るより、在るものをコピーする方が簡単だ。
おなじみのやり方を繰り返せば、見慣れたものが増える、つまり1がnになる。
だけど、僕たちが新しい何かを生み出すたびに、ゼロは1になる。
人間は天から与えられた分厚いカタログの中から、何を作るかを選ぶわけではない。むしろ、僕たちは新たなテクノロジーを生み出すことで、世界の姿を描き直す。
それは幼稚園で学ぶような当たり前のことなのに、過去の成果をコピーするばかりの世の中で、すっかり忘れられている。
本書は、新しい何かを創造する企業をどう立ち上げるかについて書かれた本だ。”
とある。
そして、ページをめくっていくと、瀧本哲史さんの日本語版序文が掲載されている。あぁ、2014年はまだ生きていたんだ・・・・。瀧本さんの進める本なら、絶対に読む価値ある、と思える。
目次
日本語版序文 瀧本哲史
はじめに
1. 僕たちは未来を創ることができるか
2. 一九九九年のお祭り騒ぎ
3. 幸福な企業はみなそれぞれに違う
4. イデオロギーとしての競争
5. 終盤を制する ―ラストムーバー・アドバンテージ
6. 人生は宝クジじゃない
7. カネの流れを追え
8. 隠れた真実
9. ティールの法則
10. マフィアの力学
11. それを作れば、みんなやってくる?
12. 人間と機械
13. エネルギー2.0
14. 創業者のパラドックス
終わりに ―停滞かシンギュラリティか
感想。
うん、まぁ、面白い。
たしかに、起業しようと思っているなら、絶対に読んでおいた方がいい。
私自身は、もう起業はしないかなぁ、と思ってはいるものの、個人事業主としての事業はあるので、法人格にしないにしても、自分で仕事をやっていくうえで参考になることはあるかな?ということを念頭に読んでみた。
たぶん、正しいことを言っている。競争しちゃだめなんだよ。日本の電機メーカーの衰退だって、過度な競争で互いにつぶし合ってしまったからではないのか、と思う。食品製造業界も過度な競争で、日本全国としてみれば無駄な設備投資になっている。日本中のレトルト製造装置(カレーとか、パスタソース、調味料・・・レトルトするなら、高温高圧のレトルト殺菌機は必須)は、多分、その稼働率を100%にしたら日本人が毎日毎食レトルトを食べても余るんじゃないか?!と思う。
どの製品も、そんなに際立って特徴があるわけではない。スーパーにいって、たまたま安売りしていたものを購入するまでだ。カップスープ類もそうかな。白物家電も、何が何でもパナソニック!とか日立!とかいうファンも、中にはいるかもしれないけれど、似たり寄ったりの物のなかからコスパのよいものを選ぶのが一般人だろう。
そう、競争してる。
そういう世界は、スタートアップが参入する余地はないし、そもそも、参入する価値もない。
ゼロから1を作り出すこと、競争ではなく独占すること。かつ、正しく営業すること。物が良ければ黙っていても売れるなんて、嘘だ。営業は大事。人任せにしないで、自ら営業すること。
なんと、これは、ピアニストの反田君の言葉といっしょではないか。
私にとって、一番のテイクアウェイは、この「営業すること」かな。だまってて、お客が来るわけないよね。うん、うん。
気になったところ、覚書。
・「独占はすべての成功企業の条件なのだ」のあとに、トルストイの『アンナ・カレーニナ』の冒頭が引用されていた。「 幸福な家族はみな似かよっているが、 不幸な家族はみなそれぞれに違っている。」そして、
”企業の場合は反対だ。幸福な企業はみな違っている。”と。まねっじやだめってこと。
なぜか、この1か月くらいで、なんどもアンナ・カレーニナの引用に出会う。直近なら、 ポール・オースターの『4321』でも主人公ファーガソンが読んでいた。意を決してよんでみようかな・・・。
・企業間で似たようなことで競い合い、共倒れすることを シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』に例えている。 モンタギュー家はキャピュレット家を目の敵にし、 キャビネット 家はモンタギュー家を目の敵にした。 その結果は、、、。悲劇だ。
ウィンドウズ対クロームOS、binng対Google、エクスプローラー対クローム、、、挙げればきりがない。
・スタートアップが小さく始めた後、周辺市場に拡大する計画を練る時は、市場全体を破壊してはならない。できるかぎり競争をさけるべきである。
・どんなスタートアップも、 指数関数的成長を始める前のアーリーステージでは、同じように見える。「ひとつのもの、ひとつのことがほかのすべてに勝る」ものがなくてはいけない。
・「隠れた真実」が存在しない世界は、完全な正義が実現していることになる。が、現実にはそんな世界はない。不正義も、不道徳も、はじめからそこに問題を見出すのはごく少数。奴隷制、ジェンダー格差、かつては、不正義でも不道徳でもないと思う人がほとんどだった。そこに、「隠れた真実」があることに気が付いた人が、変化をおこしてきた。事業も同じ。「隠れた真実」に気づかなければ、新しいことはできない。
・スタートアップが成功する秘訣の一つは、創業チームが互いのことを十分知っていること。一緒に上手くやっていけるだけの理解、経験を共有していた方がいい。そして、全てのチームメンバーがフルタイムで同じ場所で、四六時中一緒に働くこと。コンサルも、パートタイムも、リモートワークもいらない。一緒に働くことを心から楽しんでくれる人を雇う。
そう、仕事は、誰と一緒にやるかが、究極の肝。そして、そこに、全身全霊を傾ける情熱が必要。一人でもそうでない人がいると、組織は簡単に空中分解する。
ほんと、不機嫌は伝染しやすいから、要注意。
・「 paypalay の経営者として 僕が取った 最善の策 は1人に一つの責任を任せることだった」「役割をはっきりさせることで、内部の対立が減る。たいていの社内の争いごとは、社印が同じ仕事を競うときに起きる。社内の競争をなくせば、 単なる仕事を超えた 長期的な関係を築きやすくなる。」
なるほど、確かに。社内対立は、似たような仕事をしているから起こる。
・AIやIoTとの共存について、「生産性をあげるのに、人間を排除するようなやりかたではうまくいかない。
「これから数十年の間に最も価値ある企業を作るのは、人間をお払い箱にするのではなく、人間に力を与えようとする起業家 だろう」
・どんなビジネスでも答えをだすべき、7つの質問
1 エンジニアリング ブレークスルーとなる技術を開発できるか?
2 タイミング いまが始めるのに適切か?
3 独占 大きなシェアがとれるような小さな市場からはじめているか?
4 人材 正しいチームか?
5 販売 プロダクトをつくるだけでなく、それを届ける方法はあるか?
6 永続性 この先、10年、20年、生き残れるポジショニングができているか?
7 隠れた真実 他者が気づいていない、独自のチャンスをみつけているか?
そして、最後の章では、
”何よりも自分の力を個人のものだと過信してはならない。 偉大な創業家は、彼ら自身の仕事に価値があるから重要なのではなく、社員 みんなから最高の力を引き出せるから重要なのだ。” と。
たしかに、ビジネスを始めるならとても勉強になる一冊。
独自技術があるだけでもダメってこと。自分一人でやるっていうのもダメってこと。
そう、ビジネスは人と人とのつながりでできている。
ゼロから生み出す仕事をどれだけできているか・・・。
なかなか、刺激になる一冊。起業していなくても、するつもりが無くても、今の仕事のありように疑問があるなら、いや、なくても、一度読んでみると参考になると思う。
10年前の本だけれど、今でも読む価値あり。
