『アメリカはなぜ日本より豊かなのか?』  by 野口悠紀雄

アメリカはなぜ日本より豊かなのか?
野口悠紀雄
幻冬舎新書
2024年8月30日 第1刷発行
2024年9月10日 第2刷発行

 

新聞の広告で見かけて、気になったので図書館で借りて読んでみた。予約してから順番が回ってくるまで、数か月かかっていた気がする。幻冬舎の本だし、、、まぁ、買うほどでもないかと順番を待っていたのがまわってきた。

 

裏の内容紹介には、
アメリカと日本の国力の差は、縮まるどころか広がる一方だ。いまや一人当たりGDPでは2倍以上の差が開き、専門家の報酬はアメリカのほうが7.5倍高いことも。国民の能力に差はないのに、国の豊かさとなると、なぜ雲泥の差が生じるのか? その理由は「世界各国から優秀な人材を受け入れ、能力を発揮できる機会を与えているかどうかにある」と著者は言う。実際に大手IT企業の創業者には移民や移民2世が多く、2011年以降にアメリカで創設された企業の3分の1は移民によるものである。日本が豊かさを取り戻すためのヒントが満載の一冊。”とある。

 

著者の野口さんは1940年東京生まれ。東京大学工学部卒業。  たくさんの著書がある。何と言っても 一番有名なのは『「超」整理法』中公新書 1993)ではないだろうか。というか、1991年に社会人になった私にとっては、「超整理法の人」なのだ。私の行動指針に、それなりの影響を与えたと思う。それから、いくつかの著書を読んでいるけれど、いつも、何かしらの気づきをもらえる。超整理法から30年たって、私も人生経験を積んだせいか、全てが「新鮮な驚き」にはならなくなっているけれど、やはり、そういう視点もあるか、と参考になることがある。

megureca.hatenablog.com

 

『「超」整理法』もそうだったけれど、本書も、タイトルにインパクトがある。「はじめに」は、「 アメリカはなぜ豊かなのか? これは50年以上に渡って私が抱き続けてきた疑問である」と始まる。私も、なんでなんで?って思いながら、読んでみた。

 

目次
はじめに
図表目次
第1章 日米給与のあまりの格差
1 日米給与格差は、信じられないほどに開いてしまった
2 実質賃金が回復するアメリカ、下落が続く日本
3 日本とアメリカのどこが違うのか?
第2章 先端分野はアメリカが独占、日本の産業は古いまま
1 先端企業がアメリカをリードする
2 アメリカはなぜ先端分野ほど強いのか?
3 AI ブームで引き起こされた半導体ブーム
4 日本の半導体産業は、世界から取り残されている
5 半導体復活に必要なのは、補助金ではなく、技術・投資・人材
6 デジタル化を進めるほどに、赤字が増える日本
7 脱印鑑は実現せず、事務負担は増えるばかり
8 日本は GDPでドイツに抜かれた
9 「バブル後最高値更新」の中身の、なんと空虚でみすぼらしいことか
第3章 円安に安住して衰退した日本
1 異常な円安が進み日本人が貧しくなった
2 円安になれば企業の利益が増える
3 異常な円安(1):日本円だけがコロナ前の水準に戻れない
4 異常な円安(2):購買力平価に比べて、円安すぎる
第4章 春闘では解決できない。金融正常化が必要
1 賃金と物価の好循環は始まっていない
2 生産性向上を上回る賃上げは、スタグフレーションをもたらす: 2024年春闘の評価
3 低金利政策で企業の生産性が低下
4  20年以上の金融緩和政策で日本が衰退
5 日本経済は停滞を続ける(その1): スタグフレーション
6 日本経済は停滞を続ける(その2): 消費支出の落ち込み
7 日本経済正常化のために、金融正常化が必要
8 長期金利が2%を超える、新しい経済の構築
第5章 アメリカの強さの源泉は「異質」の容認
1 コロナ ワクチン開発で示されたアメリカの強さ
2 エヌビディアは典型的アメリカ企業
3 古代ローマから続く最強国の条件は「寛容」
第6章 強権化を進める中国
1 中国政府の強権政策が経済を抑圧している
2 アメリカに押し寄せる中国からの不法移民
第7章 トランプはアメリカの強さを捨て去ろうとする
1 移民が大統領選の最大 争点に
2 移民が増えれば、 インフレは収まる?
3 「もしトラ」に備える
4 第1次トランプ政権の経済政策を振り返る
5 大統領への過度の権力集中
6 ローマは非寛容になって衰退した。 アメリカは?
7 ハリス氏は 第2次トランプ 政権を阻止できるのか?

 

感想。
う~ん。なるほど。2024年11月のアメリカ大統領選の前の出版なので、第7章の答えの一つはすでに出ている。「もしトラ」ではなく現実の第二次トランプ政権が発足し、著者がアメリカの強さの根源であるという「寛容」はすでに捨てさられている。

エマニュエル・トッド が言うように アメリカはすでに終わっているのか・・・?!

megureca.hatenablog.com

 

著者の言うこれまでのアメリカの強みは、「寛容」とそれがもたらした「多様性」「革新する力」だったということ。目次を読むだけで、おおよそ内容がわかるだろう。かつ、章ごとにまとめが付いているので、まとめだけ読めば10分で読める本かもしれない。

また、アメリカの強さが述べられているというよりは、著者の考える「日本の弱さ」が述べられている本、ともいえる。それに対する施策は、乱暴に言うと、デジタル化と金融正常化、と言っているように読める。豊かさをGDPで語っているので、そうなるのかもしれない。ここは、私はトッドの意見に一票。豊かさはGDPで測る時代ではないように思う。

 

第1章にあるように、 確かにアメリカと日本の給料格差は激しい。でも、物価の格差も激しい。それは、円安がもたらした部分もある。 でも、今の円安になる前、コロナ前から給料格差は激しかった。では生活も日本の方がまずしかったのか?というと、そんなことはないような気がする。物価も低いんだから、、、。

 

円安の問題は、第3章、第4章で述べられている。

 

海外で事業を展開している企業は、円安になると円換算した利益が増えて見える。それに安住したから停滞しているというのが著者の主張。いやぁ、それはあなた,、企業の中で働いたことないでしょ?と突っ込みたくなる。経営者はそこまで馬鹿じゃないですよ、と言いたい気がする。さすがにそこまで短期志向なら継続性がない。まともな経営者なら、そこまで馬鹿じゃないですよ、、、と言いたい。

ただ、円安によって見た目の利益があがり、株価が上がる、という現象があるのは事実。健全ではない。株価に一喜一憂するのも、まともな経営者のすることではない。。。と私は思う。

 

金融政策については、私には良し悪しはわからないけれど、補助金」や「低金利」が、生産性の低い投資につながったというのはわかる気がする。ちょっと同意。貧しい人に魚をあげるのではなく魚の釣り方を教えるべき、という話があるが、補助金は魚をあげているようなものではないのか?スタートアップや新規事業のための補助金であれば、政策として「成長戦略」だと思うけれど、「ゾンビ企業」をつくってしまう補助金はちょっと違うかな、、、と思う。

 

日本はアメリカの後追いをしている時代ではない。日本としての持続可能な成長戦略がきっとあるんじゃないのか?と思う。

 

著者がいう半導体に必要なのは補助金ではなくて「技術・投資・人材」というのは、他の産業にも当てはまる。技術は、人がつくるもの。だから、「人材・投資・技術」の順かな、と思う。


他、気になったところ、ちょっと覚書。
・”日本の半導体産業を衰退させたのは、材料メーカーと異なり 自社製品のことしか考えない 大企業体質なのである。”
 なんでも自前主義でやろうとする大企業への批判。まぁ、確かに当たっているところはある。でも、トランプの関税政策でサプライチェーンに支障がでたら、自前主義が強みをもつかもしれない?とも思った。

 

・” 春闘賃上げに当たっても、本来労働組合が要求すべきは企業の利益を縮小することによって 賃上げを行うことであるはずだ”
 これは、異議あり。いまどき、企業の利益を縮小して賃上げを迫るっていう組合は、無いと思う。ちょっと昭和的だな、と感じた。そもそも、組合活動というものがすでに衰退しているともいうけど。

 

・” 円安による訪日観光客増加は、生産性向上に寄与しない”
いやいや、、、短期的には確かにそうかもしれないけれど、円安がきっかけだとしても訪日してもらうことで、観光客受け入れに関する学びがある。オーバーツーリズムも社会問題となって初めて対策を考える「機会」が生れる。対策としてデジタル化も進むかもしれない。そう考えれば、将来の生産性向上につながるのではないか?と思う。

 

・” アメリカの長期金利は高い。だから高収益率の投資しか行われない。この違いが その後の両国の生産性に大きな差をもたらした。”
うん、これは、同意。低金利が、無駄な投資をもたらした、というのは否めない点がある。それは同時に、高収益投資への機会損失でもある。

 

・” アメリカの大統領が 関税率を変更できる理由。 それは「通商法 301条」があるから。”
 今回のトランプの大統領令発動署名をみていると、アメリカの強みなのか弱みなのかわからなくなるけれど、関税については「通商法 301条」で、” 貿易相手の不公正取引に対抗する制裁手順”が定められていて、措置の発動は大統領が行い、議会の承認は必要ない、となっているから。

 

時代は、アメリカに追いつけ、ではない。アメリカの様にはなってはいけない、、、な気がする。問題提起は鋭い視点。ただ、その原因や対策提案については、どうかなぁ??というところもあった。

 

「本当にアメリカは日本より豊かなのか?」という疑問が生じてくる一冊だった。考えるきっかけとして、面白い。

 

まぁ、やっぱり、こういうテーマは、面白い。どれが正解なのかは、いずれ歴史が示してくれるのだろう。経済と政治は、誰にも予想できない。そう理解したうえで、様々な視点の意見を聞いてみることが自分の思考の助けになる。

 

私は、日本はまだまだいける!と思っている。

だから、日本人を辞めるつもりはない。

辞めないからには、日本を盛り上げよう。