マネーの世界史
我々を翻弄し続ける「お金」エンタテインメント
ジェイコブ・ゴールドスタイン
松藤留美子 訳
KADOKAWA
2024年12月06日 初版発行
MONEY (2020)
日経新聞 2025年2月8日 朝刊で紹介されていた。 記事では、お金の信用とその変遷についての内容が紹介されていた。そして、
”・・・・・本書にちょっとだけ登場するアダム・スミスとデイヴィッド・ヒュームの話も面白い。彼らは、関税率を上げて貿易黒字を生み出せば、金保有量を増やして国を富ませられるという主張に反対して、自由貿易を唱える。大英帝国のグレイトな繁栄は、賢人たちの言う通り、関税率を引き下げて、交易を活発化させたことにある。現代的な問題にも数多くの示唆をくれる。”とも。
つまり、トランプの関税対策とはまったく反対の対応によってイギリスは偉大になったということ。まさに、現代的な問題に多くの示唆、ってところだろう。
面白そうだったので、図書館で借りて読んでみた。
著者のジェイコブ・ ゴールドスタインは、 ジャーナリスト、作家。 ポッドキャスト「what’s your Problem?」のホスト。 スタンフォード大学を卒業、コロンビア大学ジャーナリズム大学院を修了。 妻と二人の子供と共に ブルックリンに在住。
訳者の松藤さんは、東京都出身。東京外国語大学卒業。森野そら名義でフィクションの翻訳もあるとのこと。
KADOKAWAのHPにある本書紹介によれば、
”我々が翻弄され続けてきたマネー5000年史
お金がどのように生まれ、歴史的に引き継がれ、現代の経済システムに組み込まれてきたのか――古代から現代までの5000年以上にわたる貨幣・マネーの壮大な歴史を軽妙な語り口で展開する「お金エンタテインメント」。”
とある。
目次
はじめに マネーはフィクション
Ⅰ マネーの発明
第1章 マネーの起源
第2章 紙幣を発明したとき、経済革命が起きたが、その後、何もかも忘れることにした
Ⅱ 人殺し、少年王、そして資本主義の発明
第3章 いかにして金細工職人が偶然、銀行を再発明したか(そして英国を大混乱に陥れたか)
第4章 確率を使って金持ちになる方法
第5章 タイム・トラベルとしての金融――株式市場を発明する
第6章 ジョン・ロー、マネーを発行する
第7章 百万長者の発明
Ⅲ さらにマネーを
第8章 誰もがもっとマネーを手に入れられる可能性がある
第9章 だが実際のところ:誰もがもっとマネーを手に入れることなんてできるのか?
Ⅳ 現代のマネー
第10章 金本位制:ある愛の物語
第11章 そいつを中央銀行などと呼ぶな
第12章 マネーは死んだ。マネーよ、永遠なれ
Ⅴ 21世紀のマネー
第13章 いかにして部屋の中のふたりの男が新しいタイプのマネーを発明したか
第14章 ユーロのおおざっぱな歴史(そして、どうしてドルのほうがうまくいくのか)
第15章 デジタル・キャッシュのラディカルな夢
第16章 SBF
おわりに:マネーの未来
感想。
お~!これは、面白い。たしかに、エンターテイメント。知っていそうで知らなかったお金の歴史、歴史こぼれ話、、、といった話が楽しい。経済学を優しく説いてくれているようなところもある。さすが、KADOKAWAの軟らかさか。
お金、つまり「現金」の話から、最後はビットコインまで。あぁ、なるほど、まさにお金の世界史だ。
物々交換からお金が生まれてきたという歴史の流れは、世界史でも日本史でも同じこと。
最初にお金が生まれたころは、豚や七面鳥をバナナやパイナップルと交換する代わりにコインが発明された。
コインは、金や銀、あるいは青銅といった、そのものに価値のあるものだった。それが、いつしか「紙」でできた紙幣が登場。紙幣は、いってみればただの紙切れだ。それをその紙幣を発行するひとが価値を保障した。コインから紙幣の流通によって、信用の裏付けが必要になったのだ。
そして、銀行というものが登場する。資金を集めるために会社は投資家からのお金を集めた。それを銀行が仲介した。金融の登場。資金が欲しければ会社をつくればよい、という時代になった。電球を発明したエジソンは、会社をつくることによって資金集めをした。会社の信用は、特許によって守られた。お金ができたのと特許の仕組みができたのは関係していたのだ。そして、エジソンのつくった ジェネラルエレクトリック(GE)は、 電気ランプを 普及させるだけでなく、 世界初の送電網もつくりあげた。そのことによって、人々はオイルランプによる明かりから電球による明かりを手に入れた。それは、生産性を2万倍にあげたことに相当する。
そして、機械化が進む。今度は、機械に仕事を奪われた人々による反抗運動が高まる。「ラッダイト運動」だ。ストッキング製造にかかわる手仕事をしていた人々は、機械に仕事を奪われた。そして、機械の破壊行動にでた。まぁ、とんでもない暴動だ。現代に置き換えれば、AIやロボットの仕事に奪われたことを恨んで、そこらじゅうのパソコンやらデータセンター、 配膳ロボットを叩き壊す、、、って感じか。死刑囚まで発生したラッダイド運動も、最終的には人間の負けで終わる。機械化にはかなわなかったのだ。
金本位制から金本位制廃止までの流れの歴史、そして、中央銀行誕生の歴史。本書に出てくる説明は、物語でも聞いているかのような流れを感じる。
1840年代のアメリカは、誰でも紙幣を発行できた。そして、発行したがる人も多かった。州紙幣というものもあったが、隣の州へいくとつかえなかったりもした。そして、アメリカは中央銀行の設立の必要に迫られる。そしてできたのが、 連邦準備制度理事会(FRB)だ。
日本なら、藩のお金が廃止されて、円に統一されたってかんじか。
今考えると想像がつかないけれど、国中で異なるお金が流通していた時代があったのだ。でもやっぱり不都合がおおくって、中央銀行が誕生。国をこえた単位でそれが起きたのが、欧州の通貨統一、ユーロの誕生。
ユーロ誕生秘話には、ドイツ東西統一との駆け引きがあったという。しらなかったぁ。東西統一で強くなりたいドイツと、ドイツがこれ以上強くなると怖い周辺国。マルクをすててユーロに統一することをドイツが受け入れるなら、ドイツの東西統一をみとめてやろうじゃないか、と。
いやぁ、、、知らなかったなぁ。
お金の話。まだまだ知らないことがある・・・。
最後の方は、リーマンショックからビットコインまで。つまるところ、「信用」なのだ。景気というのは、まさに「気」なのだ。
今週も、アメリカトランプ政権と各国の関税合戦が続いている。これは、勝者のいないルーズ&ルーズの戦だ、、、というEU。その通りだと思うけど、本当にトランプはいつまでこの政策をつづけるのだろうか・・・。
気になったところ、覚書。
・元寇に失敗して日本に敗れたクビライ・カーンは、1287年、新しい紙幣を発行した。
紙幣の発行は、ヨーロッパとアジアで、同時に起きていた。
・BANKの語源。
14世紀に ヴェネツィアでは両替商が金の預かり業務を始めていた。 そしてその金を他の人に貸し出す業務も行っていた。 両替商は、大運河(カナル・グランデ)にかかる、 人でごったがえす橋の上のベンチに腰をかけていたので、〈バンキュリー〉=〈ベンチに腰を掛ける人〉と呼ばれていた。これが、banker(バンカー)=銀行家、Bank(バンク)=銀行の語源。
・年金は、個人か政府かどちらかが勝つ。長生きすれば個人、短命なら政府。ハレー彗星を発見した数学者エドモンド・ハレーは、 友人アイザック・ニュートンの『 自然哲学の数学的原理 プリンキピア』の出版に尽力しつつ、 出生と死亡の推計に関する論文を発表。それが、現在の年金システムの掛け金と年金支払い予測の基本になっている。
・証券取引所の取引時間が短いのは、売り手と買い手との取引機会を高めるため。要するに、多くの人が一時に集まるようにしたということ。どちらも、取引相手がたくさんいたほうが、相手を見つけやすい。そして、市場は機能しやすくなる。
・株式市場の重要な点は、上昇することではない。株の適正価格を見極めること。
これは、『お金のむこうに人がいる』に通じる。
・米国憲法第1条第8節:「特許の要点とは、 新しい アイデアを生み出して世界に広めさせるための金銭的インセンティブを人々に与えること」
銀行の仕組みも、特許だった。
・デビッド・ヒューム( スコットランド 哲学者)の言葉。
「 全ての水はどこへ通じるにせよ 常に一定の高さにとどまる」
これは、物価と貿易がバランスされることにも当てはまる。
・インフレ、デフレの中では、「価格」が変化したことがイコール「増えた」「減った」ではない。住宅が購入価格より、高くなっていたとしても、その時の貨幣価値が落ちていれば、必ずしも「あがった」とは言えない。
個人的には、これは世の中のインフレ、デフレだけでなく、その人にとってのお金の価値が年齢によっても変わることも重要だと思っている。20歳の時の10万円と、50歳の時の10万円。どっちが「使用価値」が高いかって考えると、どう考えても20歳の時の10万円の方が貴重だ。だから、お金は「必要なことに使う」という考え方が重要だと思っている。若い時こそ、人生において「重要なこと」にお金を使うのだ。20歳の経験の価値は、50歳の経験の価値とはまた違うものだ。
・アメリカで中央銀行ができた当時、人びとにとっての国民的暇つぶしは、「 銀行制度やマネーについて 論争する」ことだった。まだ、野球は発明されていなかったのだ・・・って。
つまり、野球に夢中になれるようになったというのは、経済的に安定し、豊かになった証ということかもしれない。
・世界大恐慌の1929年から数年、人びとは、物々交換にもどった。市場は大混乱。そして、ルーズヴェルト大統領の就任の日、銀行の取り付け騒ぎに対して、ルーズヴェルトは、「 我々が恐れなければならない唯一のものは、恐れそのものです」といった。
マネーは、人びとが信じるからマネーなのだ、ということを ルーズヴェルトは理解していた。
・ 銀行への信頼を失った時、人々は貯金をマネーとは考えなくなった。だから 預金を紙幣(bill、note)の形で引き出した。 そして 紙幣 への信頼を失った時、 人々は 紙幣を金に交換した。 しかし ルーズヴェルトは 金の所持そのものを犯罪化した。そして、金本位制は捨てさられた。多くの経済学者が反対したルーズヴェルトの政策だったが、結果的には 金本位制を廃止した後に世界各国の景気は回復した。
・1999年1月1日:単一通貨ユーロの会計上の導入開始。
2002年1月1日:ユーロ紙幣と硬貨の流通開始。
ずいぶん昔の気もするけれど、四半世紀前。
・ビットコインを発明したサトシ・ナカムラは、現在もだれなのかわかっていない。でも、だれであろうと、たとえ犯罪人だったとしても、なにも問題はないのがビットコインの仕組み。
お金と経済の仕組みが物語のように楽しめる一冊。面白かった。
最後の方に出てくる一文がマネーのすべてを語っている。
” マネーの歴史は大体のところ 人々が実際には気づかないうちに マネーに変貌するものの歴史だと言える。”
お金なんて、フィクションだ、ってね。
あの世では、日本円もドル紙幣も通用しないだろう。お金は、生きているうちに使おう。
読書は楽しい。
