『張良』  by 宮城谷昌光

張良
宮城谷昌光(みやぎたにまさみつ)
中央公論新社
2024年12月10日

 

新聞の広告でみかけた。ちょっと気になったので、図書館で借りて読んでみた。予約してから、数か月がかかった気がする。読売新聞の連載小説だったらしい。

 

内容紹介には、
秦に祖国・韓を滅ぼされた張良は、秦への復讐と韓の復興を誓う。多くの食客を使って素早く情報を集め、劉邦に軍略を授けてその覇業を助けた張良の鮮烈な生涯を描く。”
とある。

 

著者の宮城谷さんは、 1945年 愛知県蒲郡市生まれ。 早稲田大学文学部卒業。 出版社勤務の傍ら立原正秋に師事し、創作を始める。91年(平成3年)『 天空の舟』で新田次郎文学賞、『 夏姫春秋』 で直木賞を受賞。他、 司馬遼太郎賞、吉川英治文学賞菊池寛賞などさまざまな受賞歴在り。『三国志』『劉邦』などの作品もあり。

 

あとがきを含めると465ページの大作。


表紙をめくると、「 張良関連地図」と、中国の地図もある。しかし、 私はこれが苦手だ。 北方謙三の『三国志』も、『楊令伝』も、若いころに夢中になってよんだけれど、どうも、地図が頭に入らない・・・。井上靖の『敦煌』もそうだった・・。似たような名前が多すぎだろ!とつっこみたくなる。なので、 読みながら 時々 地図に戻りつつ、、、。

 

目次
韓の兄弟
韓非と方士
暗雲
食客
壊敗の時
流木
遠い路
始皇帝
博浪砂(はくろうさ)
老人と黄石
項伯
預言
不老不死
大乱のきざし
大沢郷の炎
出会い
破壊力
連合軍
韓国再建
一進一退
再出発
ふたつの路
再会
西方の光
鴻門の会
漢王
彭城の戦い
死闘
漢王朝
黄石公
あとがき

 

感想。
なるほど。
新聞小説だったからだろうか、余計な装飾がなくて、たんたんと物語が進んでいくテンポのよさを感じる。分厚いけれど、結構、読みだしたらあっという間に読んでしまった。

すこし、この時代の話が頭にはいった。面白かった。

もちろん、出てくる人の名前、土地の名前は、あれ?さっきもでてきた?ってなんども確かめながら。こういう小説こそ、読書メモにすべきは、登場人物の名前と土地の名前。誰がどこの国の人で、誰と誰が親子で、誰が誰に仕えているのか。いったい何人の人が登場したのか。。。。数えきれない。私が読書メモにのこしただけでも50人近くにのぼる・・・。

 

だいたい、中国史に詳しいわけでもなければ、キングダムに詳しいわけでもない私は、張良がいつの時代の人なのかも知らずに読み始めた。

 

時代はまさに、キングダム。始皇帝が秦として全土を制覇する少し前から物語が始まる。そして、始皇帝に母国「」を滅ぼされ、弟を殺害された恨みを晴らすために、張良は立ち上がる。楚の国、魏の国、趙の国、秦に恨みをいだく周辺国の人々と交わりながら、祖国の再建をめざして立ち上がる。再建のためにふさわしい王の子孫を探す。張良自身は、国を治めるタイプではなく、誰かをサポートするタイプ。そして、劉邦を支えて韓王とする。でも、この劉邦が、いがいとダメ男なのだ。秦の土地を攻撃して奪ったと思ったら、酒池肉林の宴会、、、。張良はそれをたしなめたり・・・。

 

今日の敵は明日の味方。今日の味方は、明日の敵・・・。戦国の世を生き抜いた張良。その生きざまはかっこいい。強いだけでなく、賢い。やはり、正義が勝つお話には心が晴れ晴れする。

 

いちばんの山場は、始皇帝を暗殺しようとするところか。失敗してしまうのだが。

 

張良は、遊学するといって若い時に楚の国にいく。その時、倉海君という人物に出会い、そこで観相者(人相を見るひと)に、「王佐の才」があり、太公望の如き軍司になるだろう」といわれる。そして、その通りに、王を支える人となるべく、剣も知も磨いていく。

 

が、祖国に戻ったときに秦の王政(のちの始皇帝)に攻撃され、弟を含む親族を惨殺されてしまう。その恨みを晴らすべく、逃避行をつづけながら、復讐そして韓再建の機会をまつ。その張良についていったのが、様々な力をもつ「方士」と呼ばれるひとたち。風をよんで世の中を読む南生や、父の時代より身近だった桐季、堂巴、倉海君の甥の珠干などなど、、、。そして、博浪砂(はくろうさ)という場所で、始皇帝を襲うのだが、失敗。でも、この勇気ある行動が、始皇帝を襲った英雄として、後に支援者を得ることになる。

 

読みならがら、へぇ、、、そういう関係だったのか、、と、いまさらながら始皇帝の時代が理解できた。

 

まぁ、要するに、始皇帝というのはとんでもなく悪い奴で、諸国の人々に恨まれていたのだ。そして、その上をいく悪いやつが、始皇帝が立ったのちに丞相にまで上り詰めた李斯(りし)。儒学者を粛清したり、焚書をすすめたり、残虐の限りをつくしたひどいやつ。秦の中で、李斯と趙高が政権にいたが、二人の中も悪かった。李斯は、始皇帝が亡くなった後、比較的まともな長子・扶蘇が後継者となると自分に都合が悪いので、悪事をはたらき、末子・胡亥を後継者にしたてる。そして、結果的には、胡亥の時代に秦は滅びる。

悪は、長続きしないのだ。


ちなみに、他の悪王の象徴は、夏王朝の桀王と殷王朝の紂王で、夏桀殷紂(かけついんちゅう)といえば、暴君を意味する言葉となっている。

 

張良は、何度となくピンチにも陥るのだが、そのたびに周りに助けられる。かつ、旅の途中で出会った不思議な老人に太公望兵法書を渡され、自分の運命は王になることだと言われる。その老人は、張良
「これを読めば王者の師となるだろう。 10年後には興隆し 13年後には孺子よ、われをみることになろう。済北の穀城(こくじょう)山の麓にある黄石がわれ なのだ。」といった。

 

物語は、老人と出会ってから、10年、そしてさらに13年の月日がながれていく。何十年に及ぶお話なので、スパンが長い。それでも、テンポよく世の中の流れが描かれていて、すいすいと読める感じ。

 

なるほど、張良という軍司がいたのだということ。始皇帝はわるだったということ。秦という国の強さが長続きしなかった理由は、腐った政治にあったということ。いろいろと、今更ながらに中国史も深いなぁ、、と思った。

 

戦の後、最後には黄石を探し当てる。穀城山へ何度探しに行ってもみつからなかったのだが、老人に出会ったときのように夜明け前に山に行くと、そこで光り輝く黄石をみつける。張良はそれを持ち帰って、宝物にした。

 

どこまでが史実なのかは知らないけれど、物語としても面白い。にしても、紀元前のお話なのだ。不思議なことも色々起きるけれど、それもフィクション、ノンフィクションに関係なく面白い。電話もない時代、情報合戦だったんだなと思う。武器だって、刀か弓か。始皇帝を暗殺しようと企てたときなんて、鉄槌である。およそ30キログラムの鉄の塊を始皇帝の乗る馬車に投げて、暗殺しようとしたのだ。そのために楚の力持ちが駆り出されている。失敗してしまったけれど、ね。

 

こういう、アナログなところが時代小説の面白い所だ。中国史ものは、読み始めるとハマっちゃうのがわかる気がする。善と悪をはっきりかき分けてもらえると、わかりやすくていい。色々読んでいると、また、点と点がつながるのが面白い。歴史ものを読むなら、テンポがいい小説がいい。彼の作品は他もそうなのかな?宮城谷さんの他の小説もよんでみたいな、っておもった。

 

読書は楽しい。