異次元緩和の罪と罰
山本謙三
講談社現代新書
2024年9月20日 第1刷発行
日経新聞、2024年10月26日の朝刊書評で紹介されていた本。図書館で予約していたのが、ようやく回ってきたので借りて読んでみた。
記事では、
”元日銀理事が冷静な筆致で今春まで11年続いた「異次元緩和」の問題点や今後の金融政策の正常化の難しさを丁寧に説く。異次元緩和以前の日銀マンの思考体系がよくわかる一冊だ。”と紹介されていた。
私は、日銀の役割やその影響力については、いまだに良くわかっていない。幸運なことに、日銀の友人、財務省の友人の話を聞いたりする機会はあるのだけれど、やっぱり、まだまだ、よくわからない。なんなら、黒田元総裁の話を直接伺ったこともある。でも、いつも、頭の中にハテナ?が飛ぶ。本書は、元日銀理事がかかれた「黒田さんのやった異次元緩和」を批判的に総括した本ということ。う~ん、わからないなりに、なにかわかるかな?と思って読んでみた。
著者の 山本さんは 1954年福岡県生まれ。 76年日本銀行入行。 98年、企画局企画課長として日銀法改正後初の金融政策決定会合の運営にあたる。金融市場局長、 アメリカ州統括役、決済機構局長、 金融機構局長を経て、2008年、 理事。 金融機構局の担当理事として リーマンショックや東日本大震災後の金融決済システムの安全に尽力。12年、 NTT データ経営研究所 取締役会長。18年、オフィス金融経済イニシアティブ代表。
目次
第1章 異次元緩和は成功したのか?
第2章 高揚と迷走の異次元緩和 前代未聞の経済実験の11年
第3章 異次元緩和の「罪」 その1
すべては物価目標2%の絶対視から始まった
第4章 異次元緩和の「罪」 その2
超金融緩和が財政規律の弛緩を生み出した
第5章 異次元緩和の「罪」 その3
介入拡大が市場をゆがめる
第6章 異次元緩和の「罰」 その1
出口に待ち受ける「途方もない困難」
第7章 異次元緩和の「罰」 その2
なぜ立ち止まれなかったのか?
第8章 異次元緩和の「罰」 その3
国と通貨の信認の行方
第9章 中央銀行を取り戻せ
第10章 中央銀行とは何者か
あとがき
感想。
う~ん、やっぱりわからないけれど、著者の主張は、異次元緩和を11年も続けたのは間違いだった、ということ。これまでにも新聞でも本でも、何度もでてきた「異次元緩和」という言葉。どう異次元で、それがなぜ「罪」であり、残された「罰」なのか、たしかにちょっとわかったような気にはなった。
わからないぞ?と思う用語がでてくると、すぐに、その言葉の解説がでてくる。一般人に向けて、優しく書いたんだろうと思われる。でも、著者の言う論理そのものが、え?そうか???と、私には理解できないところも多かった。
特にわかりにくかったのは、金融緩和によっていわゆるゾンビ企業が生き残り、「生産性の低い企業」が「デフレ」を長引かせた、ということ。う~ん、、、、生産性が低かったら、コストが高くなるので、価格をあげないと売れないから、インフレになるんじゃないのかなぁ?大企業で大量生産することによって生産性が上がったから、コストが下がって、デフレになってきたんじゃないの???
う~ん、、、よくわからない。
著者の説明によると、
” 物価が上がりにくい環境が続いた理由には生産性の低い企業の温存が恒常的な値下げ競争を生み出してきたことにあると見ている。 ある産業に生産性の低い企業が複数 残存すれば、 一部の企業がどんなに 生産性向上の努力をしても、 生産性の低い企業が主導する 値下げ競争に巻き込まれやすい。物価を押し上げようとして行った 異次元緩和だったが 生産性の低い企業の温存を通じてむしろ 過当競争を引き起こし 経済の停滞を長引かせた。”
生産性の低い企業が、なぜ値下げ競争を主導できるの???この理論がよくわからない。
まぁ、用語含めて、本書からの学びを覚書。
・ 異次元緩和の成果はわずかで日本経済の活性化にはあまり 貢献しなかった
・「マクナマラの誤謬」: 数字にばかり こだわり 物事の全体像を見失うこと。ケネディ政権下で 国防長官を務めた ロバート・S・マクナマラに由来する言葉。 ベトナム戦争の際 得意のデータ分析を駆使して「北爆」を実施したが、数字だけにたよった作戦はうまくいかず、1975年、南ベトナム解放戦線の手によってサイゴン陥落。
・政策金利を急激に上げると、地方銀行の保有有価証券に含み損をもたらす。それは、銀行の預金流出をもたらす。
・本書の中で、何度も言及される本。『ボルカ―回顧録- 健全な金融、良き政府を求めて』( ポール・A・ ボルカー、 クリスティン・ ハーパー共著 日本経済新聞出版 2019年)
ボルカ―は、 人々が経済計画を安心して立てられる状態を重視し、物価の安定とは「名目」と「実質」が概ね 等しい状態を言い、望ましい物価上昇率は基本的に0%程度との考えを主張していた。つまり、黒田さんのような「インフレ2%」の物価目標を中央銀行が立てることには反対の思想。
・ 財政ファイナンス: 中央銀行による国債の引き受けや、中央銀行からの借り入れで財政赤字を賄うこと。 世界の多くの国がこれを禁止し、 日本でも財政法第5条によって禁じている。
むむむ?日銀が大量に国債を買っているのって、財政ファイナンスじゃないの??と思ったら、法律上は、第五条にふれないらしい。なぜなら、日銀が買っている国債は市場からの買い入れの形態をとっているから、と。むむむむ・・・・。何という屁理屈。。
・なぜ、財政ファイナンスは、禁じられているか。日銀ホームページからの引用。
「 中央銀行がいったん国債の引き受けによって政府への資金供与を始めると、その国の政府の財政節度を失わせ、ひいては中央銀行通貨の増発に歯止めがかからなくなり、悪性のインフレーションを引き起こす恐れがあるからです。、そうなると、 その国の通貨や経済運営 そのものに対する国内外からの信頼も失われてしまいます。」
・ イールド・カーブ・コントロール(YCC):中央銀行が、金利をコントロールして経済を安定させる政策のひとつ。やりすぎれば、中央銀行の独立性が脅かされるリスクがある。
「イールド」=金利(特に国債の利回り)
「カーブ」=満期の長さによって金利がどう変わっているかを表すグラフ(これが「イールドカーブ」)
「コントロール」=特定の年限の金利を意図的に操作すること
・銀行券ルール:日銀が持てる長期国債の量は、発行されている日本銀行券(=紙幣)以下にすべしという日銀自身のルール(=法的な制限ではなく、自主的な上限)
・リスクの高い長期国債の買い入れは、財政ファイナンスとみなされる可能性がある。よって、長い間行われてこなかった。あるいは、あっても銀行券ルール内であることを目標とした。が、異次元緩和で解禁され、異次元緩和開始前の2013年3月末の逸脱額約8兆円に対し、2024年の逸脱額は約465兆円。桁違いに増えた。
・ 異次元緩和による超低金利と資金の大量供給は、企業倒産の抑制につながり短期的には社会の安定をもたらしたが、 長い目で見れば 新陳代謝を遅らせ、経済の生産性を低下させた。ゾンビ企業の生き残りが、経済を低下させた、と。
・「ノルム」:人々が「当然そうあるべき」と思ってるルールや基準のこと。社会的な常識・慣習・道徳みたいなもの。賃金があがらないだろう、物価はあがらないだろう、、、という良くも悪くも「期待」。経済には、ノルムがある。
・今後の日銀の課題は、増えすぎてしまった保有国債や高リスクのETFなどを圧縮すること。ただ、急に行うと市場の混乱をもたらすリスクが高い。
・中央銀行のバランスシート(BS)と国のGDP比率 (2023,2024)
日本:BS 756.4兆円、GDP 597.3兆円、比率127%
米国:BS 7.8兆ドル、GDP 22.3兆ドル、比率35%
英国:BS 1.1兆ポンド、GDP 2.3兆ポンド、比率50%
EU:BS 6.8兆ユーロ、GDP 15.5兆ユーロ、比率48%
日本が突出して中央銀行BSが大きい。
・中央銀行の信用力の源泉は、国の信用力。円の信用力は、日本の信用力。それが、いま下がっている。
・日銀による「物価の安定」の定義: 家庭や企業が物価の動向を気にせずに消費や投資を行える状態
なるほどなぁ、と、著者の批判もちょっと共感できる気がした。でも、結果論だよなぁ、とも思う。政治も経済も、結果論からの批判ならだれでもできる。問題は、それを未来のどう活かすか?ということだろう。ただの評論家ならいらない。でも、そういった評論家のご意見が、また新しい「ノルム」を生み出す。
社会は生き物だ。
社会を正しい方向へ導くには、「どのような意見であれ、相手の言う事の5~10%は、正しいと思って話を聞くべき」と言う言葉を、最近、人生の大先輩から聞いた。たとえ、結果論だったとしても、耳を傾けるべき言葉はたくさんある。
本は、一方的に読者になることができる。
見向きもしないか、ちらりとでもみてみるか。
やはり、どんな内容であれ、読書は大事だと思う。
本書も、ちょっとは経済の仕組みがイメージできたような、気がした。。。
気分、それも、大事。
