『Phantom ファントム』 by 羽田圭介

Phantom ファントム
羽田圭介
文藝春秋
2021年7月15日 第1刷発行

 

YouTubeを見ていて、読書関連の動画で「FIREが幸せなのか?」という文脈で紹介されていた本。動画は全部見ていないのだけれど、ちょっと面白そうだとおもったので、図書館で借りて読んでみた。

 

著者の羽田さんは、1985年東京都生まれ。 明治大学商学部卒業。 2003年 『黒冷水』で文芸賞を受賞しデビュー。2015年『スクラップ・アンド・ビルド』で芥川賞を受賞。 他の著書に、『走る』『ミート・ザ・ビート』『 盗まれた顔』『メタモルフォシス』 など。多分、私はどれも読んだことがない。

173ページの単行本。簡単に読めそう。

 

出版社内容紹介には、
FIREの先は薔薇色なのか。
外資系食料品メーカーの事務職として働く元地下アイドルの華美は、
生活費を切り詰め株に投資することで、
給与収入と同じ配当を生む分身(システム)の構築を目論んでいる。
恋人の直幸は「使わないお金は死んでいる」と華美を笑うが、
とある人物率いるオンラインコミュニティ活動にのめり込んでゆく。
そのアップデートされた物々交換の世界は、
マネーゲームに明け暮れる現代の金融システムを乗り越えゆくのだ、と。

やがて会員たちと集団生活を始めた直幸を取り戻すべく、
華美は《分身》の力を使おうとするのだが……。

高度に発達した資本主義、その欠陥を衝くように生まれる新たな幻影。
自らの価値観と生き方を問われる、いま読まれるべき傑作小説!”
とある。

 

感想。
うん、なるほど。割とコンパクトにまとまっていて、読みやすい。わりとあっという間に読み終わった。読み始めると、先が読める気がしつつもページをめくる手が止まらないって感じ。

面白いには、面白い。ただ、FIREした人の話ではない。FIREをめざしていた32歳の若き女性の物語。税引き後の年収は260万程度。配当を当て込んで株を売買。毎晩ニューヨーク証券取引所をチェックする。いつか、5000万円を元手に利息で生活するのが夢。そのために、日々の生活費を節約。友人の結婚式の招待状にも「仕事があるので」と断る。そういう生活をしている女性の話。まぁ、そういう女性が、やっぱり、お金を使うことに目覚める話、かな。

 

以下、ネタバレあり。

 

主な登場人物
華美:32歳。FIREを目指して、節約生活。外資系食品メーカーの工場で働く、地元採用枠のサラリーマン。学生時代「青守みゆ」という名前で、アイドル活動をしていたこともある。節約のため、タバコはやめた。軽自動車で通勤。勤める会社の親会社の株も買っている。今でもコスプレを楽しみ、写真を撮られることが嫌いではない。

 

尾嶋直幸:華美の恋人。32歳。同じ会社で働く、年収も同程度。やりたいことにお金を使うと言って、カメラ、自動車などへの出費を惜しまない。 車は、GT-R。華美には、「 他人の会社より、自分に投資した方がいい」という。「ムラ」と呼ばれるコミュニティに参加しだすと、次第にその犯罪者まがいのスエとよばれる主催者にのめり込んでいく。

 

乃愛:華美のコスプレ遊び仲間。

 

室田優一:華美の10年前の恋人。あっさり別れた相手から10年ぶりに華美のところにSNSの友達申請が届いた。海外で傭兵として働いている。直幸を救うために、、、と連絡をとってみた華美だった。傭兵というのは、人を殺すこともある、という優一。

 

華美は、UR賃貸住宅にすんで、住宅費を節約している。最初は、華美が毎晩株価をチェックする様子、会社の同僚と生活費の話をする様子から始まる。家では、 観葉植物を育てている。その植物の根が見えないところで育っていくように、華美は自分のお金が投資で育っていくことを何よりの楽しみにしている。

 

ある日届いた大学時代の友人からの結婚式二次会の招待状。そこに参加したときの交通費、会費、三次会にも参加したら、、などもろもろを12,460円と計算し、1万円を30年運用したら、、、、と比較する。

 

「結婚おめでとう!よかったね、我がことのように嬉しいよ~。
そして、本当に申し訳ないんだけど、その日出張が入っちゃってて、、、、」

と、メッセージを送るのだった。

 

恋人の直幸は、GT-Rで華美の家にやってくる。気がつくと新しいモノを買っている。
「そんな高そうなの、いつかったの?」とつっこむ華美に、自分への投資はしたほうがいいという直幸だった。お金に関しては、華美と正反対の直幸。

 

華美は、毎年、大学時代の仲間とのバーべキューに参加していたのだけれど、今年はまだ声がかからない。
「バーべキュー、そろそろやる?」と仲間にメールをすると、
「もうやったよ。華美はカフェめぐりで忙しくて、 バーベキュー 来ないかと思った! 恵那の二次会も来なかったし」と返事。

華美は、二次会を断ったのを忘れて、その日に直幸と一緒にいったカフェの写真をSNSにアップしていたのだった。

 

ちょっとずつ、友人が離れていくのを感じる華美。それでも、金さえ溜まれば、もっと自由になれると信じて、、、節約を続ける。本人は、デイトレーダーではないといいつつ、毎晩市場の動きに、一喜一憂。。。

 

ある時、華美は直幸の後輩から、直幸が参加しているコミュニティー(有料オンラインサロンのようなもの)に投稿している文章を見せてもらう。そこにあったのは、明らかに華美の過度な節約と投資に対しての批判だった。

「・・・・ 世間では既存の貨幣を得るためだけの投資をやっている人がほとんどですよね。 自分の友人にも株に取り憑かれてる人がいます。 海外の株を買うために、寝る時間を削り 夜にやっています。 お金では買えない 貴重な時間を費やして一体何をやっているんでしょうね。・・・・・」

後輩の彼も、毎月5980円のその有料会員になっているという。いったい、そこに何があるというのか・・・。

 

華美は、ある日のデートで、投稿のこと、また華美が付き合う遊び仲間のことで直幸と喧嘩する。直幸がはまっているコミュニティがやっているのは、会員が集まって、それぞれができること、やりたいことを助け合うということ。「シンライ」を通貨のようにして交換し合うのだという。それに対して、シンライなんかでは生きていけないという華美。そこにいたって、今より稼げるようになるわけでもないし、、、、。

 

「俺より、そんなに金のほうが大事かよ!」
「私にはお金が大事よ。なにせ直幸とちがってシンライがないからね!」
「ああ、もう信頼できないよ!」

・・・いわゆる、最悪のケンカ・・・・。

 

そして二人はしばらく、会わなくなる。

 

華美の耳に、直幸が会社を休職したという話が入ってくる。周囲の人に聞くと、どうやら、「ムラ」に嵌りまくっているらしい。ムラは、実際にスエが中心となって、長野県に独自のコミュニティーを作っていた。
オウム真理教とか、あやしい宗教集団を彷彿させる描写)

 

主催者のスエは、どうやら犯罪まがいのこともしているらしい。それを聞いた華美は、直幸を助け出したいと思い、昔の恋人・室田優一に連絡する。華美の話をきくと、他にもう一人の手助けが必要だし、250万円ほどかかるという。華美は、自分の貯蓄から250万円をだす決心をする。

 

そして、ムラに乗り込んだ優一、華美たちは、ムラで行われている異常な「自己批判」や「反省」を目の当たりにし、直幸を見つけて連れ出すどたばた。警察も出動。

無事に直幸は現実の世界に帰ってくる。

 

最後は、乃愛に誘われて、コスプレ関連の月額課金のメンバーシップに
「やってみようかなぁ」とつぶやく華美。

結局、今の自分の好きなことにお金をつかうようになる華美の姿で物語はおしまい。

 

FIREの先の話ではなかった。あれ?これでおしまい?って感じで直幸が助け出されておしまい。

 

お金をどう使うべきなのか、ってことをちょっと考えさせてくれる小説かな。

 

私に言わせれば、華美は甘い。株で儲けようとしていること自体が、すでにデイトレーダーと変わらない。本当に、「仕組み」で儲けるのなら、ドルコスト平均法に勝るものはない。
本当に、なんにもしない。株価チェックなんかしないもの。

 

若い時の10万円と、50歳過ぎての10万円は、価値が全く違う。私は20代のときから「金は天下の回りもの」とよく言っていた。若者よ、未来への投資になるなら、今使え!!と、言いたい。インフレもあるしね。

 

何が未来への投資といえるのかは、人それぞれだろうけれど、自分の好きなことは我慢せずに使えるのがハッピーだと思う。未来につながる好きなこと、旅、本、趣味、運動、、、。

 

そうそう、50歳を過ぎたら、貯金より貯筋。健康はお金を払っても買えないから、自分で健康に「なる」しかない。運動にお金を使って健康を維持できれば、将来の医療費節約にもつながるしね。

 

結局のところ、FIREだって、それで「何がしたいの?」が、大事。健康第一。

 

タイトルのPhantomは、「架空の存在・実体のないもの」っていう意味。お金なんて、人が信じるからお金なだけだからね。

 

ハラリの新作『Nexus』にも、そんな話が出てくる。まだ日本語版は読んでいないけど、英語版を読んでいる限りの私の理解は、そんな話。みんながその価値を信じるからお金として流通可能ってこと。

 

お金は、使わない限り、何も生み出さない。。。。どう使うかがほんとに大事。