『世界の貧困に挑む マイクロファイナンスの可能性』  by 慎泰俊

世界の貧困に挑む
マイクロファイナンスの可能性
慎泰俊(Shin Taejun シンテジュン)
岩波新書 
2025年3月19日 第1刷発行

 

2025年5月10日 日経新聞の朝刊書評で紹介されていた本。
記事には、
”著者は途上国で小口金融(マイクロファイナンス)を手掛ける五常・アンド・カンパニーの代表執行役であり、日本における第一人者である。小口金融の歴史や金融手法などをわかりやすくまとめた本書は、日本に類書がなく貴重。2000年代以降に発達したスマホ決済・金融なども解説している。金融経済学や開発経済学で焦点となっている論点も網羅しており、金融関係者の勉強にもなる一冊。(岩波新書・1056円)”
とあった。

 

気になったので、図書館で借りて読んでみた。


表紙の裏には、
”世界人口の半分近くが貧困の中にある。生活環境を変えるためにはお金が必要だが、貧しい人々にとってはお金を借りることも返すことも困難だ。機会の不平等をどうしたらいいのか―この世界的課題を解決するのが、小さな金融サービス=マイクロファイナンスだ。その実践に取り組む著者が、現状と課題を最前線から伝える。”とある。

 

著者の慎さんは、1981年東京生まれ。朝鮮大学校および早稲田大学大学院ファイナンス研究科卒。モルガン・スタンレー・キャピタルおよびユニゾン・キャピタルを経て、2014年に五常・アンド・カンパニーを創業、途上国における金融包摂に従事している。認定NPO法人Living in Peace、日本児童相談業務評価機関を共同創設。
本文の中では、「僕は生まれた時から国籍がない」と出てきた。え?!?!でも、海外でも活躍されている慎さん。

 

目次
序章 「機会の平等」のための金融包摂
第1章 お金はいかにして回っているのか
第2章 生きるための金融サービス
第3章 金融排除から金融アクセス、金融包摂へ
第4章 マイクロファイナンスの現代史
第5章 金融包摂におけるフィンテックの成果と課題
第6章 マイクロファイナンスは本当に役立っているのか
第7章 未来のマイクロファイナンスはどうあるべきか
終章 日本や先進国からできること

 

感想。
うん、これは良い本だ!とっても良かった。マイクロファイナンスについて知るという意味でもとてもよいのだけれど、読んでいてとても気持ちがいい。著者の誠実さ?素直さ?驕らなさ?加えて、とても分かりやすい説明。著者を応援したくなる感じ。

 

実際に、著者は五常・アンド・カンパニーを創業して、みずからマイクロファイナンスを実行し、「民間版の世界銀行」を運営している。本文途中で国籍がないと出てきてびっくりしたけれど、悲壮感はまるでない。苦労もしたとおもうけれど、そういう空気を感じさせず、マイクロファイナンスの可能性をきちんと評価している。

 

マイクロファイナンスという言葉がはやったのは、たしかに一昔前で、最近は忘れられているかもしれない。でも、いまでも粛々とグラミン銀行のような活動は続いている。続けることによって、効果のある点、効果の薄い点も評価できるようになってきたということ。10年くらい前に、とある勉強会でマイクロファイナンス的な活動を日本でもできないかという検討をしてみたことがある。なまじ先進国になっているだけに、金融金利と実物取引による利益とに大きな差がない、あるいは実物取引の方が利益は小さかったりするので、実現するのは難しい、というのが検討結果だった。

 

人件費の安い貧困国では、ニワトリ一羽を購入する資金があれば、餌代を考えても、30%の金利だったとしてもマイクロファイナンスでお金を借りられれば、ペイするのだ。そのお金もないがために、収入源を手にすることができず、貧困から脱せないという環境を打破するために、マイクロファイナンスは存在する。この、資本の限界生産性の違いというのは、目からウロコの高金利への許容理由だった。

 

本書の最初に、「機会の平等」がいかに大事なのか、ということが述べられている。ここでは、とくに「金融包括(Financial Inclusion) 」について。金融包括 とは、有益かつ手ごろな価格の金融サービスへのアクセスがある状態のことをいう。本書の中で述べられるマイクロファイナンスは、 金融包括が実現していない 途上国などの人びとを対象に提供される 小学の金融サービス全般(  貯金・ 融資・ 送金・ 保険など)について。

金融アクセスへの機会平等をめざしているということ。

 

いくつも目からウロコだったり、勉強になることがでてきた。覚書。


・「 全ての金融事業者の最終的な資金の拠出元は常に個人である」
 銀行に預けてあるお金だって、元々は個人のお金。投資家が手元にあるお金だって、だれかから受け取ったお金。たしかに、全てのお金は個人のお財布から。
ゆえに、人々の考えが変われば それによって資金の流れは変わり、それは社会を変えていくということ。

 

・ 金融は信用されているから、 人々がそこの金融取引に参加する。 金融機関が信用されるのは、 規制当局がきちんと 機能しているから。 
イノベーションを推進するために 規制緩和を叫ぶ人々は往々にして規制当局を悪者にしがちですが、普通の人々が騙されたりしないように努めている規制当局がいることで、 金融システムは多少の不便を抱えながらも信頼され続けているわけです”

うん、確かに。

 

貧困とは:「 リソースや能力が不足しているために、 十分に社会参加できないこと」
ここでいう リソースは第1にはお金のこと、他、暮らしている場所や周囲のコミュニティなど。

 

・慎さんの会社名「五常・アンド・カンパニー」は、 二宮尊徳1820年に設立した信用組合五常」に由来する。

 

・ マイクロ レミッタンス: 海外に出稼ぎに出た人が 途上国へ送金するために高額な手数料などを払わなくても済むようにする送金サービスなど。先進国間で使われているアプリ「Wiseワイズ」の途上国版。
ワイズは、たしかにとても便利。私も海外の友人に送金するのに使っている。海外の会社が私に報酬を支払うときにも使ってくれるとよいのだが、、、銀行の送金だと1割くらい持っていかれる・・・。

 

資本の限界生産性は、途上国のほうが圧倒的に先進国より高い。ニワトリから卵、豚が子豚を産むとか。ゆえに、マイクロファイナンスを広げるためにコスト高で金利高になっても、借り手も高い金利を許容することができる。一般に30%程度。日本で金利30%と聞いたら悪徳金融かのようだけれど、途上国ではそれでも意味がある。

 

・高利貸しがなぜ嫌われるのか?
「何もしていないのに儲けるのはずるい」と考える人が多いから? でも著者は、お金を貸す方だって、回収するのに労力がかかるのに?家主に賃貸料金をはらうときにはズルいっておもわないのに?なんか変じゃない?と。そして、面白い仮説をだしている。
近現代以前のコミュニティの維持と発展に対して、高利貸しは障害になってきたからではないのか?と。人間社会の倫理観は不変ではなく、変わってきた。例えば、中世までは、「人は皆平等である」「すべての人に最低限の教育を提供するべきである」という価値観はなかった。だが、ペストで人口が激減し労働力が不足し、 産業革命などを契機に大量の労働力を必要とすることになり、「人は皆平等である」「すべての人に最低限の教育を提供するべきである」という倫理観が必要となった。(『国家はなぜ衰退するのか』ダロン・アセモグル等)
現代社会以前は、金利を上回る事業機会が極めて少なかったために、高利貸しによって債務奴隷になってしまうという社会不安があり、嫌われたのではないか、と。

 

・「」:日本における1000年以上前からある村などのコミュニティ基盤の金融取引。無尽講、頼母子講など。互助会。

 

・世界最初の信用組合ザクセン王国

 

マイクロファイナンスの初期:バングラデシュで起こる。
 1972年:BRACブラック:バングラデシュ発展の最大功労。創設者ファズレ・ハサン・アベッド
 1976年:グラミン銀行ムハマド・ユヌス、ポケットマネーから融資を開始。2006年ノーベル平和賞
 1991年:ASA: シャフィクアル・ ハーク・ チョウドリー。 共産主義革命家から農民たちのためのマイクロファイナンス設立へ。

 

・初期の マイクロファイナンスの多くは、寄付金などが原資だった。後発は、投資家からの資金に依存がたかまり、顧客(マイクロファイナンスの借主)の利益より、投資家の利益を重視せざるを得なくなって、破綻した例が少なくない。

 

・日本の金融アプリで先進的なもの: 三井住友銀行のOlive
 知らなかったので調べてみたけれど、ポイント還元率が高くて、たしかにお得そう。。。

 

エステル・ デュフロ: フランス生まれの経済学者。 ランダム化比較試験(RCT)を用いて、 開発経済学をすすめた。著書『 貧乏人の経済学』は一読の価値ある名著、と。貧困削減政策や開発プログラムの評価のためにRCTで検証。研究の結果、
支援においては 物 (例えば 食料や服)を提供するよりも、現金を提供する方がずっと効果的である」ということを明らかにした。 
”物品支援は日本でもいまだによく行われていますが、そんなことをするよりも現金を渡すことが受益者の人々の生活改善に役立つことが示されたわけです。”
「 実際に生活がかかっている人が現金を手にすれば それを元に最善の意思決定をする」ということが示された。

 

・ スチュワート・ラザフォード:デュフロらと同じことを主張し続けたイギリス人。第一世代マイクロファイナンス企業家として、優れた顧客理解。著書『 最底辺のポートフォリオ』。

 

・SPI Audit: 社会的パフォーマンス指標 監査
 具体的マイクロファイナンスへの監査項目
1 社会的目標に沿った 戦略
2 使命感ある経営陣
3 顧客中心の製品 サービス
4 顧客保護
5 責任ある人材開発
6 責任ある成長と収益
7 環境パフォーマンス管理

 

・「 よくある金融教育はほとんど無意味」
マイクロファイナンスに関わる教育とは、金融教育、職業訓練、子供たちの基礎教育。著者は、 貯蓄や資産運用といった 金融教育は不要という考え。すべての人がそのプロである必要はないのだから、と。加えて、
私が金融教育に抱いている もう一つの違和感を少し踏み込んで言うと、 世の中にある金融教育には往々にして「 教える 私たちは正解を知っている」 という 傲慢さを感じるのです。・・・中略・・・・途上国に住む 低所得層の多くの人々は 限られたリソースと情報の中で十分でない 金融サービスを用いて最善の意思決定をしている。”

うん、この言葉が著者の謙虚さというか、本当に現場を見てきた言葉であり、重さを感じる。

 

お金の意味を色々と考えさせられる。
ほんと、良書。
タンス預金している高齢者?に是非読んでもらいたい。タンスに眠っているお金は、なにも生み出さない。自分の安心のためだけなら、本当のところいくら必要???

金融の理解にも、とても良書。

 

やっぱり、岩波新書だなぁ。960円(税抜き)にして、クオリティー高い!!