情報分析力
小泉悠
祥伝社
令和6年11月10日 初版第1刷発行
新聞の広告?で見かけて気になったので 図書館で借りて読んでみた。
著者の小泉さんは、 1982年 千葉県生まれ。 早稲田大学社会科学部、 同大学院政治学研究科修了。 政治学修士。 民間企業勤務、外務省専門分析員、 ロシア科学アカデミー 世界経済 国際関係研究所(IMEMOEAN) 客員研究員、公益財団法人未来工学研究所特別研究員を経て、東京大学先端科学技術研究センター(国際安全保障構想分野) 准教授。 専門はロシアの軍事・安全保障。新領域セキュリティの諸課題に関する研究。
と、もともとは、ロシア関係の分析専門家らしい。今回は、その「分析」の中身というより、方法論に焦点をあてた著書みたい。
表紙をめくると、” 自分の中に「情報分析装置」を作る7つの講義”とあり、目次が掲載されている。わかりやすい。
目次
はじめに
第1章 ロシアのウクライナ侵略はどう分析されたか?
溢れる偽情報といかに向き合うか
第2章 情報分析で大事なスタンス
「情報」とは何か
第3章 情報を取る
どのように 定点観測するか
第4章 集めた情報を分析する
「位置」を描き、具体論で語る
第5章 情報をまとめる
情報分析のための文章術
第6章 情報分析で陥りやすい罠
「予断」と「偏り」の中で
終章 不確実な時代の情報分析
感想。
面白かった。
最初 ページをめくった時は、 ページの余白が多くて、これはキャリアポルノ系?とおもったけれど、そうでもなかった。ところどころ、大事な文章が太字になっているので、ついつい、太字文字ばかりが目に入ってしまうが、ざっとよむなら1時間かからない。ちょっとしっかり読んでも2時間くらい。
「はじめに」と目次を読むだけで、情報分析をするうえで気を付けるべきことの概要が把握できる。いたって、シンプルだけれど、結構大事なことが描かれていると思う。
別に、国際政治の諜報員でなくても、私たちは日々の暮らしの中で情報をあびて、それに影響されて生きている。玉石混合の情報から、自分にとって必要なもの、 大事なものを見極めるというのは、誰にとっても大事なこと。
私の身近なところでいえば、「通訳」をするときにも、相手の情報をいかにすばやく正確にアウトプットにつなげるかが重要になる。頭の中で、情報処理している。処理する前に、無意識に分析している。著書の言うことを、自分の生活の場面に置き換えて読むと、なお面白い。
うまいこと言うなぁ、と思ったのは、情報分析というのは、料理みたいなもの、というたとえ。
食材(情報)だけがそろっていても駄目で、調理(分析)するというプロセスがなければ食べられる料理にならない。
うんうん、なるほど、そりゃそうだ。
ネットで情報ならいくらでも揃えられる。ただ、その情報だけがインプットされても、食べられる「料理」にはならないということ。
ただ、情報ばかり持っている人は、
”「 あの人はやたらに色々なことを知っているけれども、何が言いたいのかイマイチよくわからないな」ということになってしまいます。”って。
あ~、わかるなぁ。わかる、わかる。
私は、情報をたくさん知っている人ではないけれど、自分で発言していても、時々、あれ?知っていることの羅列になってない?って、自分につっこみたくなることがある。人は、おもわず自分の知っていることを披露したくなっちゃうんだよね・・・。でも、それは、、、誰のためにもなっていないかも。情報は分析して、発言するなら、「so what?」にならない言葉にしないといけない。
「はじめに」をよむと、各章でなにを焦点に書かれているかもよくわかる。これは、とても分かりやすいハウツー本。最後に「罠」についても語られているし。
なるほど、と思ったところ覚書。
・大事なこと。”「 情報(インフォメーション)と情報資料(インテリジェンス)の区別。 集めた食材(情報)を調理(処理)してお客さん(情報受容者)が食べられる料理( 情報資料)に仕立て直さなければなりません。”
・身銭を切る。「予算の範囲」でやるのか、「身銭を切る」のかで、結果は大きくことなる。 自腹でもいいからあの情報が欲しいと分析者が思い詰めている時というのは、たいていいいところに手が届きかかっている時。「身銭を切ってでもさらなる情報が欲しくなるまで 分析対象に入れ込む」ことが大事。
たしかに、たしかに、「タダ」ではなく、「身銭を切る」のは大事。本もね、本当は身銭を切った方が、ちゃんと読む気がする・・・・。
余談だが、ナシーム・ニコラス・タレブの『身銭を切れ 「リスクを生きる」人だけが知っている人生の本質』は、私が最も影響をうけた本の一つ。
・国家インテリジェンスの手法
公開情報 or 非公開情報
非公開情報 = HUMINT(人的) + TECHINT(技術的)
TECHINT = SIGINT(信号) + IMINT(画像)、GEOINT(地理空間)+ MASINT(計測・痕跡)
SIGINT = COMINT(通信)+ ELINT(電子)
ファイブ・アイズででてきた言葉が、こんなところにも。
・定点観測することで、変化が見えてくる。
事例; ウクライナ侵略が始まる少し前からプーチン大統領を始めとするロシア 政府高官たちは 「ウクライナ政府」という言葉を使わなくなり 変わって 「キエフ政権」という言い方をするようになった。
ずっと注視していることで、変化をよみとる。
・情報のチャネルをつくるには、 一次情報を確認する。また、自分で何かを言い切る時には、出典を明らかにする。
” 新聞の記事が興味深いと思ったら必ず出典になる 発言の全体や調査レポートを探して 読んでみること”
”重要なのは誰でも見られるものだから とメディア 報道をバカにせず最大限活用する姿勢です。 誰でも見られるようなもの さえ見ていないのでは、 突っ込んだ分析などできるわけがないのです。 開口は広くとってそこから深く潜っていくための 突破口を探しましょう。”
・ 情報をまとめるには、文章にするのが一番。 うまくまとまらない時には寝るのが一番。
・ 自分の作った「迷宮」から抜け出すために、組み替える、 忘れる、 やり直すということが大事。
・ 著者にとっての情報分析。
” 私はロシア人でもないので、給料は日本の文部科学省からもらっていて、具合が悪い時は日本の医療保険の世話になり、歳を取ったら日本政府から年金を受け取ることになるでしょう。 だから 情報分析の目的は、この先何年かの間の日本の (というのは 政府という意味ではな、日本社会や個々の日本人のことです) 利益に資することでなければならない。
・ 分析者は、継続的なアウトプットで自分を鍛える。書くという作業が情報分析でもある。
・情報分析も、AIも人間のためのツール。情報分析には人間についての理解がどうしても求められる。人間への理解を深めるために、「文学を読む」ことが大事。ロシア人の思考は、 ドストエフスキーに影響を受けている。であれば、 ドストエフスキーを読むことが、ロシア人の理解につながる。
なんと、最後は、「文学を読む」で締めくくられる。これは、 ピーター・ドラッカーと同じではないか。
やはり、文学こそ深淵なる哲学かもしれない。
うん、あっという間に読めるけれど、中身のある、なかなか楽しい本だった。結構、おすすめ。
