『ニック・ランドと新反動主義』 by 木澤佐登志

ニック・ランドと新反動主義
現代世界を覆う〈ダーク〉な思想
木澤佐登志
星海社新書
2019年5月24日 第1刷発行
2019年6月21日 第2刷発行

 

三宅香帆さんが、You tubeの動画の中で、面白いと言っていた本。気になったので、図書館で借りて読んでみた。
真っ黒な表紙に、白抜きの文字。かつ、各ページは黒枠どり。いかにもダークな世界が広がっている。

 

本の説明には、
”思想の〈ダーク〉な最前線、ニック・ランド
新反動主義」あるいは「暗黒啓蒙」と呼ばれる、リベラルな価値観に否を突きつける暗く新たな思想潮流は、現代において陰に陽に存在感を示しつつある。本書では、その捉えがたい核心に三人の重要人物から迫っていく―ピーター・ティール、カーティス・ヤーヴィン、そしてニック・ランド。とりわけ哲学者ランドの思想に分け入ることが、本書のさらなる目論見である。ランドと、彼が率いた研究グループCCRUの影響圏は、「加速主義」「思弁的実在論」など近年の思想動向から、多様な領域における文化的プレイヤー、「ヴェイパーウェイヴ」のような文化現象にまで広範に及ぶ。〈ダーク〉な思想に目を向けて、初めて見えるものがある。”
とある。

 

著者の木澤さんは、1988年生まれ。ブロガー・文筆家。思想、インターネット文化、ポップカルチャー、アングラカルチャーなどを領域横断的に渉猟し、執筆をおこなう。その知見を結実させた初の単著『ダークウェブ・アンダーグラウンド 社会秩序を逸脱するネット暗部の住人たち』(イースト・プレス)は多方面で話題を集めた。私は、初めて名前を聞いた。う~ん、なんだかついていけない世代ギャップを感じる。。。

 

目次
はじめに

1 ピーター・ティー
 ピーター・ティールとは誰か
 ルネ・ジラールへの師事
 学内紛争にコミットする
 主権ある個人、そしてペイパル創業へ
 ニーチェ主義とティー
 暗号通貨とサイファーパンク
「イグジット」のプログラム
「ホラー」に抗う
 啓蒙という欺瞞、そして9・11

2 暗黒啓蒙
 リバタリアニズムとは何か
 「自由」と「民主主義」は両立しない
 カーティス・ヤーヴィンの思想と対称的主権
 新官房学
 反近代主義とその矛盾
 人種問題から「生物工学の地平」へ
 
3 ニック・ランド
 啓蒙のパラドックス
 ドゥルーズガタリへの傾倒
 コズミック・ホラー
 グレートフィルター仮説
 クトゥルフ神話アブストラクト・ホラー
 死の欲動の哲学
 CCRUという実践
 CCRUとクラブミュージック
 ハイパースティション
 思弁的実在論とニック・ランド
 カンタン・メイヤスー
 レイ・ブラシエ
 ニック・ランドの上海

4 加速主義
 加速主義とは何か
 左派加速主義とマーク・フィッシャー
 右派加速主義、無条件的加速主義
 トランスヒューマニズムと機械との合一
 加速主義とロシア宇宙主義
 ロコのバジリスクと『マトリックス
 ヴェイパーウェイヴと加速主義
 ヴェイパーウェイヴと亡霊性
 ノスタルジーと失われた未来
 未来を取り戻せ?

あとがき
参考文献

 

感想。
う~ん、思想に関する話なので、ちょっと難しい。マルクスニーチェドゥルーズガタリ、カント、フロイト、、。基本的な知識がないと、理解しにくいと思う。私の表面的な理解では、なかなか読み解けなかった。聞きなれない言葉も多くて、さらっと読むと、何も頭に残らなかった・・・。ので、結局もう一度読んだ。2019年出版なので、第1次トランプ政権の最中。陰謀論とかが流行っていた頃か。基本的には、一般的な民主主義を信じる人には受け入れがたい、異端の思想についての本。リベラルな価値観を否定し、「新反動主義」「暗黒啓蒙」といった思想をつくっていった3人の重要人物、 ピーター・ティール、カーティス・ヤーヴィン、 ニック・ランドがいかなる思想をどのように広げていったのか、という説明の本。

 

彼らの思想では、ピューリタンカルヴァン主義の影響をうけた西側諸国の民主主義は、「宗教的な影響を受けた、世俗的な進歩主義」であり、その悪影響が政治、 ジャーナリズム、教育に及んでいるとする。社会正義や平等主義は、欺瞞である、と。

読んでいて、なんなんだ?!と、不愉快な感じもする。著者にではなく、そういう思想が跋扈していることに。でも、ピーター・ティールといえば、ペイパルの創業者であり、『ZERO to ONE』(2014)の著者だ。

megureca.hatenablog.com

彼の民主主義の罠である「競争を抜け出せ!」という思想が、ペイパル創業につながったということ。『ZERO to ONE』の中で、 競争は イデオロギーに過ぎないと断じられている。 例えばアメリカの教育システムは 競争への強迫観念を反映したものであり、成績による評価システムを通して生徒にステータス信仰を植え付けている、とあるのだが、私が『ZERO to ONE』 を読んだ時は、それを極端な思想とは受け取らずに読んでいた。「声をあげる」代わりに「競争から脱出」する、という思想。民主主義の否定でもあるということ。ティールの思想は、時代とともに変化はしているけれど、いつからか一貫しているのは、「 自由と民主主義は両立できない」ということらしい。

 

そういう西洋式教育システムをそのまま輸入しちゃったのが今の日本かもしれない。

megureca.hatenablog.com

 

本書の中で、一番参考になったのは、ノーラン・チャートと呼ばれる米リバタリアン党創始者デヴィット・ノーランが図解した、右派、左派、中道、そしてリバタリアン、リベラル、権威主義、保守の相関図。
図解されていたものを文字で説明するのは難しいのだが、要約すると、

リバタリアン: 個人的自由 重視、経済的自由 重視、中道
権威主義: 個人的自由 軽視、経済的自由 軽視、中道
・リベラル: 個人的自由 重視、経済的自由 軽視、左派
・保守: 個人的自由 軽視、経済的自由 重視、右派

ということ。ティールらは、リバタリアンに近い。でも、トランプ政権を支持し、強権主義も支持している。

やっぱり、わかりにくいな・・・。

 

本書の最初の方に、「ダークな思想に目を向けて、初めて見えるものもある」という一文がでてきた。異端なことにはかかわらない、といっていては、いつまでも見えないことがあるということだろう。確かになぁ、、、と思う。しかし、本書を読んだからと言って、今のアメリカのトランプ政権が支持されることが理解できたわけではないし、やっぱり、思想って難しい、、と思ってしまう。

 

要約はできそうにないので、目次を全部引用したけれど、キーワードになりそうなところを覚書。

 

・ピーター・ティールが生涯の一冊に挙げている本:フランス哲学者ルネ・ジラール『 世の初めから隠されていること』世の中で「暴力」のもつ機能について。

 

ポリティカル・コレクトネス政治的に正しい言葉遣い。 政治的/社会的に公正・公平・中立的で、なおかつ差別・偏見が含まれていない言葉や態度のこと。

 

オルタナ右翼:リベラルと対立。(Alt-rightAlternative Right) 特に2010年代後半にアメリカで注目された極右的で反主流派のネット発の政治運動。移民に強く反対。多文化主義フェミニズムLGBT運動、グローバリズムに強く反対

 

・「人新世」:最初に称えたのは、 オゾン層破壊の研究で 1995年 ノーベル化学賞を受賞した パウル・クルツェン

 

リバタリアニズム思想の根底には自己所有権という概念がある。

 

・新官房学:国家=企業は、民主主義的な「ヴォイス」ではなく声なき「エグジット」という概念をベースにデザインされている。 *官房学:17~18世紀の神聖ローマ帝国プロイセンにおいて発展した、 経済の行政管理に関する学問。

 

『アンチ・オイディプスジル・ドゥルーズGilles Deleuze)とフェリックス・ガタリ(Félix Guattari)による1972年の哲学書現代思想ポスト構造主義・脱精神分析の代表的な著作。オイディプスは、神話の中で父を殺し、母と結婚した悲劇の王。フロイトの提唱した「オイディプス・コンプレックス(幼児が無意識に母を愛し、父を敵視する心理構造)を否定し、欲望をもっと解放すべきだと主張した。

 

文化人類学者、構造主義の始祖、文化人類学者であるレヴィ=ストロースの言葉。「 世界は人間なしに始まったし人間なしで終わるだろう」(『悲しき熱帯』

 

ポスト構造主義を代表する哲学者 ミシェル・フーコーの言葉。「 人は波打ち際の砂の表情のように消滅するであろう」(『言葉と物』)


加速主義:政治的な異端。 資本主義に対する唯一のラディカルな政治的応答は、抵抗することでも批判することでも、あるいは 資本主義が自身の矛盾によって崩壊していくのを待つことでもない。 資本主義における 根絶化、疎外化、脱コード化、抽象化の傾向を加速させ、矛盾が極限まで行きつくことで、次の社会が生れるのを速めようという思想。代表的思想家が、ニック・ランド.

 

プロメテウス主義: プロメテウスとは ギリシャ神話における男神で、ゼウスから火を奪い人間に与えた罪で罰せられた。 ここで火はテクノロジーと文明を象徴している。人間は自然を制御し、技術と知識によって限界を超え、未来を自分で切り開くべきだ、という思想。 

 

本書の理解を深めるのに、だいぶ、ChatGPTにもお世話になった。フロイトオイディプス・コンプレックス論は、ラテン語読みだと「エディプス・コンプレックス」。なんだ、同じことだったのか、、、とか。プロメテウス主義も、ギリシャ神話のプロメテウスからきた言葉。やっぱり、ギリシャ神話が頭に入っていると、そういうのがさっとつながっていいんだろうな。とはいっても、ゼロから手を付ける勇気がない・・。『教養としてのギリシャ・ローマ』をもう一度、読み直してもいいかな、、、、。

megureca.hatenablog.com

 

やっぱり、読書は、点と点がつながるところが楽しい。