『うつくしい人』  by 西加奈子

うつくしい人
西加奈子
幻冬舎文庫
平成23年8月5日 初版発行
平成27年9月20日 9阪発行

 

フェイスブックの中で勝手に紹介されていた本。平成23年、つまり、2011年の本。単行本は2009年らしい。古いけど、、、西加奈子は結構好きだし、読んだことがなかったので、図書館で借りて読んでみた。

 

裏の内容紹介には、
” 他人の目を気にして、びくびくと生きている百合は、単純なミスがきっかけで会社を辞めてしまう。発作的に旅立った離島のホテルで出会ったのは、ノーデリカシーなバーテン坂崎とドイツ人マティアス。 ある夜 3人はホテルの図書室で写真を探すことに。片っ端から本をめくるうち百合は、自分の縮んだ心がゆっくりと ほどけていくのを感じていた・・・・。”

読み終わったあとに、この紹介文を読むと、あれ?なんかちょっと違うな?という気がする。

 

幻冬舎HPの本の紹介には、
”会社から逃げ出した女、丁寧な日本語を話す美しいドイツ人旅行者、冴えないバーテンダー。非日常な瀬戸内海の島のホテルで出会った三人を動かす、圧倒的な日常の奇跡。心に迫る傑作長編!”
とある。
うん、こっちのほうが、、、、まだピンとくる。

 

物語のメインは、3人がホテルで出会って、互いに影響し合うことだけれど、図書室での写真探しは、最後のキーであって、そこに至るまでの人間同士の関わり合いが、主題な気がする。

 

著者の西加奈子は、 1977年 テヘラン 生まれ。 カイロ、 大阪に育つ。 2004年『あおい』でデビュー。07年『通天閣』で織田作之助賞、13年『ふくわらい』で 河合隼雄物語賞、15年『サラバ!』で 第152回 直木賞受賞。

サラバ!』は、私の好きな本の一冊。

 

感想。
うん、面白かった。やっぱり、西加奈子だ。甘くない。でもハード過ぎもしない。主人公のダメっぷりは、けっこう作者の厳しい視線を感じる。

 

主人公の蒔田百合、32歳は、とことん人の目を気にして生きて、疲弊して、、、人に流されて生きてきた32歳って感じ。正直、読んでいて「あほか」と言いたくなるくらい自分が無いとも思うし、一方で姉が「神童から引きこもりへ・・・」という現実を抱えているという境遇は同情もしてしまう。裕福な家庭に生まれ育っているので、いまだに実家からの金銭的支援もある。意外と、いるかもね、こういう女性、、、ともいえる。そういう、30代女性の面倒くささみたいなものが描かれている。

 

あとがきで、西自身が 作品を改めて読み返してみて「随分面倒な精神状態にあったのやなこの作者」と、自分につっこんでいる。
「 選んでいる言葉に 切羽詰まった様子があって、書いた頃から結構な時間が経っているためわずかでも読者の気持ちになって読めたけれど、やっぱり 前半はとても苦しいものでした。」と。

 

自分に自信を持てなくなっていた主人公が、会社の仕事でミスを上司に指摘されて、「 疲れているのね」と言われたとたん、コピー機の前にへたり込んで泣いてしまう。そして、そのまま退職。。。。

もしかしたら、あるかもね、、、とも思える職場離脱。。。。。

物語に特に目次はないのだけれど、1,2,3,と区切られている。

 

以下、ネタバレあり。

物語の初めは、すでに退職した百合が、初めての一人旅に羽田空港から 高松空港へ飛ぶ場面。一人旅であることを周囲がどう思っているのかが気になって仕方がない。おばちゃん組の機内での大胆さに、疲れる。

 

辞めた会社は、28歳で転職した先。その転職も、元同僚が転職するというので、自分も面接をうけたところ、自分だけが受かってしまったという過去。

 

裕福な家庭の2人姉妹である百合は、3歳年上の美人姉がいる。でも、姉は、ずっとちやほやされていたのに、中3の冬に男にさらわれたことをきっかけに、「美しき被害者」のまま、高校生に。そして、高校でいじめを受けたことから、引きこもりが現在進行中。36歳で、家からでない。部屋から出ないのではなく、家の中ではピアノを弾いたり、楽し気に暮らしている。が、社会とのかかわりがゼロ。姉が高校でいじめられていたことを知りながら、百合自身も高校生のときには周囲の流れに流されるままにいじめに加担していた。そんな自分に嫌気がさしているのに、社会人になっても友人に流されている自分に疲れている百合。

 

そんな百合は、親にお金を出してもらっているマンションでひとりぐらし。そして、退職を機に、どこかへ一人旅へと計画する。「どこかへ行く」という行為で、自分が変われるという期待も微かにある。海外へいくか?お金はいくらでもあるけれど、結局は、瀬戸内海の島へ。

 

高松空港に着陸すると、フェリーで島へ向かう。悶々とした気持ちのままでいた百合は、明るい親子に目を奪われる。なぜか、百合にも優しく、むじゃきな母子。ささくれた心の百合。

 

泊るのは、高級リゾートホテル。そして、そこのバーで働く坂崎という白髪の男、片言日本語をはなすドイツ人のマティアスに出会う。

ホテルには、図書室のような施設があり、そこで百合は姉が好きだった本を見つける。ブローティガンの『愛のゆくえ』。目に入った途端、胸をぎゅん、とつかれたような気分になる百合。

「素敵な物語なのよ、百合ちゃん」姉がそう言って、百合を見ているような気がした。

 

坂崎は、バーで働いていると言いながら、主にバーの準備の時間に働いていて、自分の仕事が終わると、その図書室で本を読むのを習慣にしているという。

百合は、バー「アカシア」に通い、坂崎と話をする。といっても、坂崎は話し上手な男ではない。ただ、淡々とビールをつぐ。マティアスもまた、ビールを飲む。

 

マティアスは、お金があって、働く必要がなく、仕事をしていない、24歳だという。百合の若い男バージョンのような人間。

ホテルに来てからも、従業員や他の客の視線ばかりを気にしていた百合だったが、坂崎やマティアスと時間を過ごすうちに、かたまっていた心がほぐれていく。

百合は、自分のなかの姉への思いや、自分のダメさをマティアスにいっきにまくしたてる。
でも、マティアスは、百合の日本語が速すぎて、ほとんど理解できずに、ポカンとしていた。坂崎は、淡々と仕事を続けていて、聞いていた気配がない。。。誰も聞いていない、、こんなすごいこと、吐露したのに・・・。まぁ、、いっか、、、となる百合。

 

そのままアカシアで飲んでいたら、「僕の部屋に行きましょう」というマティアス。まさか、ベッドに誘われるつもりもなく、ただ、部屋で続きの宴会に誘われていると思った百合は、マティアスの部屋に行く。ところが、しばらく飲んでいると「では、ベッドにいきましょう」というマティアス。「いや、それは、ないでしょ」とあっさりの百合。「そうですか。やっぱりだめですか」とマティアス。そもそも、性欲がないというマティアスの告白。「だったら、それでいいじゃない」・・・。16歳の時に、母が亡くなり、それでもお金にこまることはなく、なんだか生きているけれど、性欲すらわかない自分はおかしいのではないか、、、というマティアスの悩み。

 

悩みは、ひとそれぞれ・・・。

 

「いいから、ご飯食べに行こう」
ホテルを出て、気晴らしに散歩をして、食事をする酔っぱらいの百合とマティアス。

旅の途中、「姉」からの電話を無視する百合。でも、姉の好きだった本を見つけて、姉のことをおもう妹。

酔った勢いで、なんだか、意気投合する百合、マティアス、坂崎。

 

「アカシア」で飲んでいた時に、坂崎が読んだ本の中に、時々、メモや写真をみつけるという話をしていた。本は、お客さんが置いていったものが多く、種類はてんでバラバラだけれど、坂崎は、適当に手にして、適当に読むのだという。それお客さんの思い出がつまった本を。

 

マティアスは、坂崎がみつけた「写真」をみつけよう!といいだし、3人で、ひたすら図書室の本をパラパラとめくり続ける。
結局、写真は見つからない。

でも、三人で一緒に探したことに、それぞれが満足感を覚える。

 

最後は、予定通りにホテルをチェックアウトし、坂崎とマティアスと別れた百合は、ホテルの豪華車で、シャビーなフェリー乗り場まで送ってもらい、フェリーに乗り、帰途につく。

デッキにでると、雨が降ってくる。お気に入りの赤いスーツケースが雨に濡れる。
「これくらい耐えてもらわねば、困る。いくら綺麗でも。タフでなければ

 

帰りのフェリーの上の百合は、タフになっていた。
そして、携帯を取り出すと、『姉』に電話する姿で、THE END.


う~ん、坂崎も、マティアスも、かなり微妙な人物設定だけれど、悪くない。ちょっと、世間からずれているけれど、坂崎は実は図書室にあった英語も読める、かつてアメリカの大学で物理を教えていたという過去も明かされる。

みんな、それぞれの人生があって、それぞれの悩みがあって、他人はそれほど人のことを気にしていない。。。

そんなもんだよね、って感じ。

いかにも、平成の女子物語という気もする。
けど、あっという間に読めて、なんだか、ま、いっか、っていう気になる一冊。

瀬戸内海のこんなホテル、行ってみたいね、って気もする。 

 

百合という一人の女性の話でありつつも、姉妹が互いに影響し合う話でもある。瀬戸内海ののどかな海に豪華なリゾートホテルという現実から逃避した非日常と、日常へ帰っていく最後の場面は、読んでいて、ちょっとホッとするような感じもする。

 

非日常は、日常があるから特別なのだ。

旅は、やっぱり、旅で、日常の延長とはちょっと違う。

だから、「どこかに行く」ことで、ちょっと変われる気分になれるのは、正しいのかもしれない。

 

西加奈子、やっぱりいいな。

読書は、楽しい。

 

旅にでたくなる。