『沈む祖国を救うには』 by 内田樹

沈む祖国を救うには
内田樹
マガジンハウス 新書
2025年3月27日  第1刷発行

 

出版された時から、内田樹さんの本なので、気になっていた。繰り返し、様々な媒体で目にするので、図書館で借りて読んでみた。

 

表紙には、内田さんの写真とたくさんの文字。マガジンハウスっぽい。

” ステルス増税、物価高放置、低賃金・・・
  なぜ日本は冷たい国になったのか
・「 虚無感」 に苛まれている 有権者たち
・「 食料自給率」 が低い  その思想的な要因
・ 第2期 トランプ 政権誕生の「最悪のシナリオ」
・ 百年後に残る都市は「東京」と「福岡」のみ
激動の国際社会の中で沈みゆく「祖国」に未来はあるのか?”

相変わらず、激しい言葉。

 

まえがきには、”本書は、 2024年に書いた時評的な書きものを集めて、 原型をとどめぬまでに加筆したものです”とあった。「解」は書かれていない。内田さんが、どうして日本はこんなになってしまったのか?と考えたこと、とのこと。解がないのは、その解決方法が「僕にもわからないんです」と。でも、本署を読むことで、 沈む 祖国のために身銭を切ってくれる大人の頭数を増やすということを期待している、と。

 

目次
第1部 冷たい国の課題
 第1章 衰退国家の現在地
 第2章 世界の中を彷徨う日本
 第3章 温かい国への道程
第2部 冷たい国からの脱却
 第4章 社会資本を豊かにするために
 第5章 教育と自由

 

感想。
うん、なるほど。相変わらず、切り込んでくるなぁ、という感じ。
強く共感する点と、え?そう?ちょっとちがうんじゃない?と思う点と。それでも、読んだ後に、読んでよかったというのは、「祖国」つまりは日本のために今何が起きているのかを考える切り口を与えてもらっている、という感覚。

 

エッセイ的な感じで、 取り上げている問題が深刻な割には さらっと読みやすい。じっくり読むというより、あぁ、世の中はこういうことがおきているなぁ、とさーーーっと全体に目を通すように読むのがいいかな。仕事で向き合っている社会課題の話題がでてきたら、じっくり、しっかり読むといいかも。とくに、情報の原典が引用されているわけでもないので、アンテナを立てるために読む本かも。アンテナが立ったら、自分でももっと深く知らべて、考えてみればいいと思う。

 

気になったところ、覚書。
・” 明治維新のあと、先人は日本人が、日本語で高等教育を行える高校・大学を短期間に作り上げた。 これは見事な達成だったと私は思う。彼らは 「教育は海外にアウトソースしてはならない」ということ、 高等教育を自国語で行えることが植民地にされないための必須の条件だということを知っていたからそうしたのである。”

 たしかに、ほんとに、そうなのだ。日本語で学べるというのは、すごいことなのだ。それを味方にしないのはもったいない。

 

・ ”選挙というのは、有権者が自分たちの立場を代表する代議員を選ぶ 貴重な機会であるという認識が日本からは失われつつあるようだ。
  投票する人たちは「 自分たちに利益をもたらす 政策 を実現してくれる人」を選ぶのではなく「 自分と同じ部族に属する人」に投票しているように私には見えた。
(中略)
自分自身にとってこの社会がより住みよくなることよりも「 自分のような人間たちからなる部族」が 権力や財貨を得ることの方が優先する。 これが「アイデンティティ・ポリティクス」と言われるものである。”

 それじゃ、だめだよね。

 

権藤成卿(せいきょう)の『君民共治論』:最近、復刻された。「君民共治」の理想を語っている本。読んでみると、「こういう世の中なら、俺も暮らしてみた」とついおもってしまう、とのこと。
どんな本なのか、ちょっと、興味ある。共産主義的な感じもするので、ちょっと微妙。

 

・韓国の大統領はしばしば「レームダック」化する。
レームダック:政治的な文脈では、特に「残りの任期を務める力のなくなった指導者」を指す言葉。英語の「lame duck」。もともとは「足の不自由なアヒル」を意味し、そこから転じて「役に立たないもの」「弱体化したもの」といった意味。

 

・”選挙の「白票」は現状肯定でしかない。”
民主制における選挙とは 全幅の信頼を託せる人を選ぶことではない。 むしろ、 国や自治体に害をなす可能性のある人をできるだけ 公職につけないためのものである。
 なるほど。そう考えると、今度の参院選も、やはり、投票に行くのは必須。

 

・ 中高生の親が、子供の夢・進路に口出しすることについて。「好きにしたらいい」というのが一番だと。「お金はだすけど、口は出さない」親でいいのだ、と。
” 確かにそんな都合のいい親は子供の成長を妨げるかもしれない。 でも、大丈夫である。 好きに生きたって、 子供達はやっぱり きちんと 挫折したり、 他の人たちに傷つけられたりして、 いつの間にか人間的成長を遂げる。 親が「 子供を傷つける 役」をわざわざ引き受ける必要はない。”

これは、すばらしい、と思う。私には子供がいないから、簡単に共感、賛同できるのかもしれないけど。私が今、こうして結構幸せに暮らしているのは、親からお金を出してもらい、やりたいことをやらせてもらったからだ。世の中は、甘くない。それは、親じゃなくて、世間が教えてくれる。だから、親ぐらい、子供の味方でいいじゃないか、うん、そう思う。


自民党が、国民に向かって「愛国心を持て」と口走っているが、” 愛国心プロパガンダで生まれるものではない。”
本当に愛国心を涵養したいのなら、「 世界のどの国にも住みたくない。 何が何でも この国で暮らしたい」と 全国民が思えるほど居心地の良い国をつくればいい。”

なるほど。そりゃそうだ。居心地の良い国って、どういう国だろう、って考える機会があることが大事かも、ね。

 

・” 権力や財貨と違って、文化資本 は いくら他者に贈与しても 目減りすることがない。”もっと、文化資本を豊かにする方がいい、ということ。内田さんは、自宅を公共の道場(合気道)として提供することで、文化資本がひろがる拠点としている。

 

・教育に関して。
” 産業界からの圧力が一番激しい。 彼らは「 即戦力になる人材を作って送り出せ」と 教育現場に圧力をかけてきます。 でも「即戦力 」って一体何ですか
・・・(中略)・・・
彼らが言う「 即戦力」というのは知識や技能ではないということになる。「 即戦力」というのはそういうものではなくて「メンタリティー」のことなんです。 要するに 「使い勝手が良い」という意味なんです。 上司の命令を何でも「はいはい」 と聞く、 残業も 休日出勤も厭わない。辞令1本で 翌日から 海外勤務に飛び立つことができる。 そういう 「イエスマン」の心身を形作って卒業させろ。 産業界は大学に対してそう要請しているわけです。”

教師が、そんなことに順っていたら、「使い捨てしやすい人間」を世に送り出すことになってしまう。建学者たちは、そんなことのために学校をつくっていない。

 

うん、なるほどねぇ、と、うなる点がいくつも出てくる。

解はない。

でも、解を与えられるより、問題を与えられることの方が大事なのだよね。

内田さんのよいところは、専門家だとか、有識者だとか、そういうことではなく、たとえ、自分の専門領域でなくても、自分の意見をしっかりと言ってくれるところだと思う。声をあげること。それが、内田さんのような立場の人の使命なんだろう。

 

そして、自分の頭で考えよう。

自分にできることを、やろう。

選挙にいくことは、できるよね。でも、白票はいかん。