『ビジネスと地政学・ 経済安全保障』  by 羽生田慶介

ビジネスと地政学・ 経済安全保障
「教養」から実戦で使える「戦略思考」へ
羽生田慶介
日経BP
2025年3月24日 第1版第1刷発行

 

2025年6月14日の日経新聞書評で紹介されていた本。

 

記事には、
”トランプ関税をめぐる対立やロシアによるウクライナ侵略など地政学リスクと、これに伴うサプライチェーン(供給網)の寸断など経済安全保障への備えは企業に欠くことのできない経営課題になりつつある。本書は様々な地政学リスクについて、ビジネスの場での備えを解説する。
紛争や制裁による供給途絶や、安保を理由にした国家によるM&A(合併・買収)の差し止めなど、企業が直面する経済安保リスクを10項目に分類する。これらに対応するための経営者の心構えや、企業の部門別の対応策を具体例をもとにわかりやすく示している。
書店に並ぶ「教養としての地政学」とは一線を画し、「経営課題としての地政学」の重要性と対策を実践的に説く。”
とあった。

 

今の私の生活には、直接的にはかかわりは薄くなったけれど、やはり、「地政学」と言う言葉にはアンテナが立つので、図書館で借りて読んでみた。 316ページ、 ソフトカバーの単行本。

 

表紙をめくると、袖には、「はじめに」で述べられるチェックボックスつきのリストが付いている。なんとも、日経BPっぽい。。。。

” 次の項目に一つでも該当すれば あなたの会社には 「地政学リスク」が潜んでいます!
□  取り扱ってる商材が先端技術である
□  国家安全保障上の「懸念国」に 製造拠点や研究開発拠点がある
□  外国企業と共同で研究開発に取り組んでいる
□  国家安全保障上の「懸念国」から 部材やソフトウェアを調達している
□  調達先が特定の国に集中している
□  商社を返した調達が多く原産地や 一次生産者が把握できていない
□  政府機関やインフラ運営企業向けに納入している
□  本社所在地以外で製造拠点の新設・増設 (M & A を含む) の計画がある
□  国家安全保障上の「懸念国」に駐在員や出張者がいる
□  重要技術に関わる部署に外国籍の従業員が在籍している”


著者の羽生田 慶介(はにゅうだ けいすけ)さんは、オウルズコンサルティンググループ代表取締役CEO。経済産業省大臣官房臨時専門アドバイザー、内閣府知的財産戦略本部国際標準戦略部会委員、一般社団法人エシカル協会理事、特定非営利活動法人フェアトレード・ラベル・ジャパン理事、特定非営利活動法人ACE理事、一般社団法人グラミン日本顧問、多摩大学大学院ルール形成戦略研究所副所長・客員教授経済産業省(通商政策局にてFTA交渉、ASEAN地域担当)、キヤノン(経営企画/M&A担当)、A.T.カーニー(戦略コンサルティング)、デロイトトーマツコンサルティング執行役員・パートナーを経て2020年にオウルズコンサルティンググループを設立。政府・ビジネス・NPONGOの全セクターにて社会課題解決を推進。豊富な経営コンサルティング経験と規制制度に関する深い理解を背景に官民のルール形成に注力している。・・・
と、、、やたらと著者紹介が長い・・・・。これもまた、日経BPっぽい・・・・。


目次
はじめに
第1章  地政学リスクは「カイゼン」「現場力」ではどうにもならない
第2章 三つの地政学メガトレンドを見極める。
第3章 三つの メガトレンドを乗りこなす
第4章 日米欧中の 安保戦略を解剖する
第5章 企業が直面する10大地政学・経済安保リスク
第6章 地政学・経済安保リスクへの部門別対応策
第7章 地政学・経済安保対応における経営者の心構え
おわりに

 

感想。
う~~ん、、、、、日経BPだ。。。。
たしかに、第6,7章で、実践的な話をしているというのだけれど、、、、経営企画は、経営トップ直轄で経済安保統括部門を捉えろとか、IT部門はサイバー攻撃に備えろとか、、、あたりまえじゃろが、、、、って感じがする。

 

しいて言えば、これまでまったくリスクマネジメントをしてこなかった会社ならば、参考になるかもしれない。日本の場合、地震がおおいことから、BCP(事業継続計画)をリスクマネジメントとして随時見直す会社が大半ではないだろうか。そこに、「地政学」的視点が必要なのは、この変化の激しい時代にあっていうまでもない。

 

著者は、自分がビジネスの現場にいたことがないのではなかろうか?と言う感じがする。若いな、、、って。「カイゼン」や「現場力」は、そもそもリスクマネジメントのためのものではない。なぜ、ここで持ち出す???

 

そして、地政学(ESG、DEI含む)に目覚めた人たちを「意識高い系資本主義」と揶揄する日本を、かなり第三者的視点で表現している。私には、ところどころに「so what?」だった。

全部を読むというより、コラムだけとか、興味のあるところだけ読む方が楽しめる本のように思う。全体を読むと表面的な感じになってしまう。私の興味が表面的なのかもしれないけど。


例えば、コラムの中にあった
サステナビリティ 対応を コストと捉えるか 価値創造の起点として位置づけるかが今後の企業の競争力を決める大きな鍵となる・・・・(中略)・・・・日本企業は、、、、 国際的な信頼を勝ち取る 姿勢を今こそ 確立しなければならない。” 
と言う文章は、今こそと言うより、ずっと前から、そりゃそうでしょう、、、と言う感じが私にはする。

 

研究開発や技術の点に焦点をしぼると、外国人が国内の研究開発にいた場合に、意図せず「技術の輸出」になる可能性がある、というのは正しいようでいて、どうだろう?と疑問に思う。外国人に限らず、研究所に配属される人間は、通常技術漏洩防止の観点から秘密保持の誓約をして社員になる。日本で得た情報をただ海外にもっていって広めたら、情報輸出ではなく、情報漏洩である。つまりは犯罪。海外で事業を展開するためにあえて外国人を研究所に召喚することがある。その場合、帰国後に事業展開するためには、事業上の契約が別途法人間で必要になる。当然、海外拠点であればそれ相応の契約になる。

意図的に、技術搾取の目的をもって自国の国民を、他国の企業に潜入させて技術を盗む、、、っていうのは話が別だ。実際には、起きているわけだが・・・・。

 

重要技術の漏洩防止対策は、地政学をいうまでもなく、企業にとっての最重要リスクマネジメントである。

 

第4章では、日本、アメリカ、欧州、中国、それぞれの経済安全保障戦略が述べられている。第二期トランプ政権による、一方的な関税措置は、ますますグローバルサウス諸国の連携を強め、BRICSの存在価値を高めるだろう、、、って。うん、それはすでに起きている。

 

第5章では、企業が直面する10大地政学・経済安全保障リスクがまとめられている。
1 サプライチェーンの混乱
2 研究開発 技術管理の制約
3 M&Aの阻害
4 ビジネスチャンスの喪失
5 サイバーリスクの高度化
6 DX の停滞
7 戦争・ 人権侵害への加担
8 従業員の逮捕・拘束
9 リスクマネジメントのキャパオーバー
10 「板挟み」のグローバル経営

どれも、なんとなく、さもありなん。

 

対応のしようがないな、、、と思うのは、7  戦争・ 人権侵害への加担。家電製品として製造した製品が分解され、特定のパーツが、軍用に転用されていることが明らかとなったケース。ウクライナに飛んでいるドローンに、日本製のパーツが使用されていることが明らかになっているという。あるいは、 新疆ウイグル地区の監視カメラに、日本製のカメラが転用されているとか。。。


サプライチェーンの混乱は、コロナ禍でも経験したので、企業は様々な二次調達先などを検討せざるを得なくなっている。ちなみに、コロナ発生時、オーストラリア政府が中国に対してウィルス発生源についての調査を求めたことにたいして、中国は豪州産大麦、石炭への課税、禁輸措置をとった。加えて、ワインに218.4%のアンチダンピング関税を課し、豪州ワイン業界は大打撃を受けたそうだ。

 

シンガポールシンクタンク であるISEASユソフ・イシャク研究所が2024年4月に公表した ASEAN諸国の有識者への調査では、「信頼できる国」という項目(その国は、世界の平和安全保障・繁栄・ガバナンスに貢献するために正しいことをすると信頼していますか?)で日本は同調査開始以来6年連続で首位なのだそうだ。これは、誇らしい。

 

日本は、国際法を尊重し擁護する責任あるステークホルダーと認識されているということ。今のアメリカは、国際法無視だ・・・。

 

最後に、地政学リスクマップの作成についての記載がある。それは、考えられるリスクを起点にして考えるのではなく、「回避すべき事業状態」(決して起きてほしくないこと)を起点にして考えるべきということ。これは、重要な指摘だと思う。

起きてほしくないから、考えたくない、、、では困るし、「回避すべき事業状態」をどれくらい現実に即して考えられるかということが重要だと思われる。サイバー攻撃なんて起きるわけない、ではなく「サイバー攻撃で受注システムがダウンしたらどうする?」と考える必要があるということ。

 

どんな本もそうだけれど、何をもとめて読むのか、、、によって、人によってその価値はことなる。本書を読むなら、目次をよく見て、必要と思うところを読むのを薦める。全部を読むと、コンサルの第三者的な視点が気になってしまう・・・。 

 

さらっと読むのが良い一冊。一般的な話にすると、どうしてもこういう本になっちゃうんだろうな・・・・。