『砂の器 (上)』  by 松本清張 

砂の器 (上)
松本清張 
新潮文庫
昭和48年3月27日 発行
平成18年10月25日 95刷改版
平成21年9月5日 103刷
 

荒井裕樹著『無意味なんかじゃない自分 ハンセン病作家・北條民雄を読む』で取り上げられていた本。

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松本清張の作品で、タイトルは有名過ぎるほど有名だろう。でも、はて、私は原作を読んだことがない、と思ったので図書館で借りて読んでみた。

 

(上)だけでも、新潮文庫、462ページ。

裏の説明には、
”東京・蒲田駅の操車場で男の扼殺死体が発見された。被害者の東北訛りと“カメダ”という言葉を唯一つの手がかりとした必死の捜査も空しく捜査本部は解散するが、老練刑事の今西は他の事件の合間をぬって執拗に事件を追う。今西の寝食を忘れた捜査によって断片的だが貴重な事実が判明し始める。だが彼の努力を嘲笑するかのように第二、第三の殺人事件が発生する……。”
とある。

 

著者の松本清張は、1909~1992。 福岡県小倉市生まれ。給仕、印刷工など種々の職を経て朝日新聞西部本社に入社。41歳で懸賞小説に応募、入選した『西郷札』が直木賞候補となり、1953年(昭和28年)、『或る「小倉日記」伝』で芥川賞受賞。58年の『点と線』推理小説会に「社会派」の新風を生む。 生涯を通じて旺盛な創作活動を展開し、 その守備範囲は 古代から現代まで多岐にわたった。

 

感想。
おぉ。一気読み。
推理小説で、登場人物の会話も多いので、本の厚さの割には文字数が少ないということもあるだろうけれど、上巻、ほぼ一気読み。すぐに下巻を手にした。

 

読んでみてわかったのは、別に、ハンセン病患者である本浦千代吉と息子の秀夫の物語なわけではない、ということ。すでにネタバレしているのでさらにネタバレしてしまうと、『砂の器』の犯人は、秀夫なのだが、上巻ではまだ秀夫は登場しない。長編推理小説。上巻では、まだハンセン病のハの字もでてこない。

 

以下、ホントの?ネタバレあり。

 

物語は、国電蒲田駅ちかくのトリスバーから始まる。店の客たちの様子が昭和初期を彷彿させる。その客たちは、翌日に発覚する殺人事件の犯人と被害者らしき二人の目撃者となる。

 

国電!!なんと懐かしい。

1987年、第三次中曽根内閣により、民営化。E電という愛称が使われないまま、JRとなったなぁ。。。。

 

トリスバーで目撃されたのは、50歳くらいの白髪交じりの年配の男と、30歳くらいのスポーツシャツの男。他の客の視線を避けるようにボックス席に座っていたので、店のスタッフも、客もよくは覚えていなかった。ただ、彼らが覚えていたのは、年配の男は東北弁らしき言葉を話、若い方は標準語だったということ。そして、
カメダは今も相変わらずでしょうね?」
と若い男が年配男に尋ねた会話だけだった。

 

そして、次の日の朝、始発電車の発車前点検で、「マグロ」つまりは「死体」」が国鉄検車員に発見される。

被害者は、顔はめちゃくちゃにつぶされ、血だらけで線路に横たわっていた。始発電車が動けば、さらに死体が破壊されるように線路に寝かせられていた。強い恨みをもった犯行と警察は推定する。

 

本書の主人公刑事は、45才の今西栄太郎。大正はじめの生まれ。妻・芳子との間に、10歳の息子・太郎がいる。若手刑事・吉村弘とコンビで初動捜査にあたる。「カメダ」という言葉に、カメダと言う人物を手掛かりにする。東北弁とカメダを手がかりに、蒲田付近のカメダ姓を片っ端からあたるけれど、該当する二人の知り合いは皆無。捜査は、迷宮入りしそうな様相を呈してきた。連日、捜査にかかりきりの夫の健康を気にする芳子。今西が帰宅すれば、ご飯、お風呂と世話を焼く。いやぁ、、、、昭和の風景。

 

ある朝、妻が読んでいた婦人雑誌を手にして、「全国名勝温泉地案内」という色刷りの地図を目にする。今西は、カメダは名前ではなく、地名ではないかと思いつく。

 

今西は、吉村と「羽後亀田」に向かう。国電の夜行列車で向かうあたりも昭和!
秋田県日本海岸に近い「羽後亀田」の警察署に予め「蒲田操車場殺人事件捜査本部」から連絡を入れ、調査の協力を頼む。だが、復元した被害者の顔写真を見せても、有力な情報は得られない。ただ、最近、ここらでは見かけない男が、亀田にやってきて一泊し、何もせずに帰っていったという情報を得る。

 

諦めて、帰京しようと駅に向かった二人は、駅で若者数人が記者に囲まれているのをみる。今西は知らなかったが、若手の吉村によれば、彼らは「ヌーボー・グループ」と呼ばれる進歩的な若い文化人のグループだという。
そこにいた四人は、
・作曲家の和賀英良(わがえいりょう)
・劇作家の武辺豊一郎(たけべとよいちろう)
・評論家の関川茂雄(せきがわしげお)
・画家の片沢睦郎(かたがわむつお)
だった。

 

蒲田の殺人事件とは、まったく無関係のような彼らがなぜか今西とからむことになる。

 

場面は、今西たちの捜査から、関川らの華やかな暮らしぶりに切り替わる。辛口に保守を批判する関川は時代の寵児として、もてはやされる。時には仲間の和賀に対しても辛辣とも思えるコメントを残す。「ヌーボー・グループ」のメンバーは、それぞれを尊重しつつも、それぞれがライバル意識をもっている事をによわせる。また、自由をもとめた生き方を口にしつつも、和賀は元大臣の娘・田所佐知子を恋人とし、ついには婚約する。仲間は、純愛だといったり、金目当てだと言ったり。。。関川は、成功していく和賀が面白くない、と思っているともとれる発言もみられる。

 

関川は、夜の店ではたらく三浦恵美子と恋仲になっているが、和賀の婚約を羨む関川にとっては恵美子は一時の女でしかない。それでも、関川にぞっこんなけなげな女として描かれているのが恵美子。

 

よんでいて、アホか、そんな自分勝手なことばっかり言っている男なんて、とっとと別れなさい!と恵美子に言いたくなる・・・・。自分の思い通りにならないと、すぐに不機嫌になる関川だった。二人の仲も、関川は絶対に世間に知られてはいけないといい、恵美子の店にも内緒にしている。二人でいるところを誰かに見られることを極度に嫌がる関川だった。サイコパスだな、、、と思う。
ある時、夜に恵美子の部屋からでたところを、近くに住む学生の家に遊びに来ていた若者にみられたといって不機嫌になり、恵美子に即座に引っ越しさせる。まるで、犯罪者のよう・・・。

 

と、読んでいて、ン?関川が秀夫か?と思ってしまう。が、違う。秀夫なのは音楽家で成功した若者のはず。でも、和賀にはそんな影がちっとも出てこない。

 

事件から1か月がたち、手がかりがないままに捜査本部は打ち切りとなる。今西と吉村は、二人で事件を振り返り、あきらめずにコツコツと捜査をつづけていれば、、と慰め合う。
二人は、おでんをつまみながら、血だらけになったはずの犯人はどうやって、逃げたのか、、と言う話をする。だれか協力者がいないと、人目につかずに逃げられるはずがないのだが・・・・。

 

捜査本部が解散して、ようやく家にいる時間ができた今西は、妻と巣鴨の方へ散歩に行く。そこで、思いがけずに交通事故現場を見る。交通事故にあったのは和賀だった。今西は、秋田で、巣鴨で、偶然にも和賀を一方的に知ることとなる。

和賀の怪我はたいしたことはなかったが、しばし入院することに。見舞いに来る「ヌーボー・グループ」のメンバーたち。なんとなく、昭和初期の空気が文面ににじみ出る。

 

関川に引っ越しを強要された恵美子が越した先は、偶然にも今西の妹・お雪の夫が経営するアパートだった。自分の言うとおりにした恵美子を褒める関川。「私はいつまでもあなたの影の女みたい」という恵美子には、今が大事だから辛抱しろ、と勝手なことを言う。

 

犯人が返り血を浴びたであろう服をどうしたのか、思わぬところから今西がヒントを得る。それは、某雑誌にでていた教授のコラムで「まどから紙吹雪を飛ばし続けた女」の話だった。今西は、子どもを連れて銭湯でお湯につかっているとき、ふと思いつく。紙吹雪ではなく、血のついた服を細かく切って、列車からまくというのはどうか?

 

今西は、コラムを書いた教授を訪ね、女の話は本当か?と聞く。目撃したのは実は教授自身ではないが、知り合いから聞いた本当の話だという。今西は、その人物にあって、実際に女が紙吹雪を飛ばした場所を教えてもらう。塩山から勝沼、初鹿野、笹子トンネルにかけて、と言う話をきき、一人で線路沿いに物証探しに出向く。そして、見つけたのだ、紙ではなく、布の切れ端をいくつか。中には茶色く褐色している血と思われるものの付着も。刑事の根性。

 

今西は、拾った布切れを鑑識に回す。人の血であるということが証明された。それは、被害者と同じ、O型だった。

 

この血痕分析は、化学分析で行われている。DNA分析技術がまだ確立されていなかった時代・・・・。懐かしい・・・。

 

被害者の身元が分からない日々が続いて2か月。突然、身元が判明する。警視庁に一人の男が訪ねてきて、伊勢神宮に出たまま行方不明になっている父が、もしかすると蒲田で殺された被害者ではないかというのだ。男は、岡山県からきた三木彰一と名乗った。被害者の所持品や、写真から彰一は、被害者は自分の父・三木謙一に間違いないということだった。謙一の養子であるという彰一は、父が東北弁を話すのは聞いたことがないし、東京に行った理由も皆目見当がつかないという。身元は分かったけれど、さらに迷宮へ。

 

今西は、方言について調べ始める。なぜ、岡山県出身の三木が、東北弁を話したのか。そして、警察の広報課長の協力を得て、日本における方言の分布の研究を調べている文部省の技官を紹介してもらう。そこで、岡山県ではないが、「出雲国奥地における方言の研究」という本をみせてもらう。そこには、東北と同じずーずー弁が、出雲の奥地で使われている、とあった。被害者三木謙一の出身岡山県と出雲は隣り合わせの国。今西は、中国地方の地図で「カメ」を探す。あった!「亀嵩」。

 

今西は、今度は亀嵩へ向かう。またまた、国電の夜行列車。そして、三木が地元では仏様のような人と言われるほど慕われ、かつて亀嵩で巡査をしていたことを突き止める。でも、誰に聞いても、怨恨で殺されるようなことは考えられないという。犯人への手がかりがまた一つ遠くなった。

 

一方で、紙吹雪のように犯人のシャツを電車の窓から巻いていた女はだれなのか?思いがけないところから、その女は自分の家の隣で、自殺した新劇女優・成瀬リエ子であったことを知る。今西は妻・芳子と散歩の帰りに、その美しい女優の家の前をうろつく、若い男を目撃していた。失恋につかれたというような遺書を残し、大量の睡眠薬を飲んで死んだ成瀬リエ子の部屋には、「紙吹雪女」が膝の上に乗せていたという青いバッグがあり、その面影も「紙吹雪女」を目撃したという男の「岡田茉莉子に似ている」話と一致した。

岡田茉莉子?最近、どっかでみたぞ?と思ったら、映画『秋津温泉』に長門裕之と出演した女優さん。当時、岡田茉莉子ってすごい人気だったのね・・・。

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今西は、成瀬リエ子が犯人をかくまっていたと確信する。もしかすると、目撃したあの男が犯人か?成瀬リエ子が所属していた劇団に問い合わせ、周りの聞き込みとで、宮田邦朗がその男であることを突き止めた今西は、宮田邦朗に会いに行く。

今西と話をしているうちに、「心の整理をする時間が欲しい。」という宮田だった。宮田が蒲田事件の犯人ではないが、どうやら成瀬リエ子が抱えていた秘密は知っているらしい。ことが事なだけに、一日の猶予を与え、翌日の20時に、二人は会う約束をして別れる。

 

だが、宮田は今西との待ち合わせの場所には、現れなかった。いや、現れることができなかった。翌日の新聞で、宮田の死亡記事を見つける。心臓麻痺で死亡、と。

今西が接触しようとした矢先に死んだ、成瀬と宮田。鑑識によれば、二人の死に犯罪性はなく、あくまでも自殺と自然死である心臓麻痺ということだった。

 

いったい、何が起きているのか・・・・。殺人なのか?
自然死なのか???

(下)に続く・・・。

 

え?なんで?どういうこと?
だれが、誰を殺したの?
と、けむに巻かれる感じで、すぐに(下)を読みださずにはいられない・・・。