『砂の器 (下)』 by 松本清張 

砂の器 (下)
松本清張 
新潮文庫
昭和48年3月30日 発行
平成2年5月25日 55刷改版
平成16年2月20日 91刷

 

砂の器(上)の続き。

megureca.hatenablog.com

 

裏の説明には、
”善良この上ない元巡査を殺害した犯人は誰か? そして前衛劇団の俳優と女事務員殺しの犯人は? 今西刑事は東北地方の聞込み先で見かけた“ヌーボー・グループ”なる新進芸術家たちの動静を興味半分で見守るうちに断片的な事実が次第に脈絡を持ち始めたことに気付く……新進芸術家として栄光の座につこうとする青年の暗い過去を追う刑事の艱難辛苦を描く本格的推理長編である。”
と。


犯人に近づいたと思ったのもつかの間、手がかりの「紙吹雪女」成瀬リエ子と宮田の死。

刑事の今西は、吉村を伴って、宮田が心臓麻痺で死んだという場所を訪れる。成城行きのバスが通る世田谷の国道から少し入ったところ。宮田の自宅とも劇団のけいこ場とも離れている、なぜこんなところで宮田は死んだのか?

 

付近で吉村が「失業保険金給付総額」と書かれた、年代と金額が書かれた紙を拾う。空白になる年もありつつ昭和24年から34年まで。宮田の死と関係するのか?ないのか?とりあえず、手帳に挟んで持ち帰る今西だった。

 

劇場に聞き込みに行ったことで、宮田が秋田で目撃されていた謎の男だったことがわかる。でもなぜ?吉村によれば、事件発生当初新聞で「カメダ」という地名が話題になっていたので、意図的に怪しげな行動をする男役を犯人が宮田にやらせたのではないか、と言うのが二人の推理だった。

 

一方で、関川の女・恵美子は、関川に促されて引っ越した先が今西の妹のアパートで、今西は、恵美子が関川のことを熱く語ると妹に聴かされる。今西は、なぜかその恵美子に会ってみたくなる。そして、妹のアパートで恵美子に会い、「和賀」に関する関川の記事の話題になり、関川の話をする様子を見て「関川とできている」と直感する。関川と親しいのかと聞かれて狼狽する恵美子。もう仕事に出る時間だからとその場を去ろうとする恵美子だったが、お雪に薦められたみかんを食べてから、ゆっくりと立ち上がるのだった。

その様子を見て、今西はお雪に「いいお嬢さんだな。あの女給さん、妊娠しているよ。」と言った。お雪も言われてみれば・・・と、こんなにすっぱいみかんをぺろりと食べちゃったし、と。

妊娠とみかんを結びつけるのも、なんだか、昭和だな・・・。


和賀は、婚約者の佐知子とその父親である元大臣田所重喜と食事をするなど、仲睦まじくすごしている。和賀の音楽は、「ミュージック・コンクレート」と呼ばれる様々な音の組み合わせのような新鋭ミュージックで、自宅には特設の防音室も持っていた。和賀には、アメリカに行く話が持ち上がっており、アメリカで招待公演も期待されていた。重喜は、旅費などの面倒を見るつもりでいた。順風満帆の和賀の人生。それを羨む関川。

 

関川は、恵美子から新しいアパートの大家さんとその兄と言う人にあった話を聞く。その兄が警察の人だと聞くと、すぐさま引っ越せという。また、恵美子に妊娠を告げられる。前にも関川の子供をおろしている恵美子は、今度こそは生んで育てたいといいはる。あなたには迷惑をかけない、一人で育てる、と。関川は、そこまで言うのならと恵美子が子供を産むことを認め、引っ越しの準備をさせる。

 

が、恵美子は、引っ越した先で、すぐに死ぬ。駆けつけた医師は、死産とそれによる出血死だという。鑑識医のみたても、そうだった。何かにお腹をぶつけたことで、出血・流産したのだろうと。

次々と死んでいく人々。

 

今西は、和賀のことを調べ始める。そして、自宅の特殊な音楽室で、「超音波」を発生させることもできることを突き止める。と同時に、世の中には「超音波で金属に穴をあける」技術や、「人々を不快にさせる高周波・低周波」があるという情報を得る。殺人にも使える技術ではないのか・・・。

 

同時に、関川の身元も洗い出す。が、関川からは何も怪しいものはでてこなかった。

今西は、三木彰一に手紙を送り、その後被害者である三木謙一の足取りに、新しい情報はないかと尋ねる。返事には、三木謙一の詳しい足取りが書かれていたが、やはり、東京に出向いた理由は不明のままだった。

 

今西は、三木謙一が東京に来る前に訪れたという伊勢市の旅館に出向く。すでに、秋田、亀嵩と出張をして成果を得られなかったことから、職場に遠慮して自費で、かつ妻にも「ちょっと旅行」といって、伊勢にでかけるのだった。そして、そこで、三木が宿の女中に、明日には郷里にかえるといっていたのに、翌日になって突然東京に行くといって宿を後にしたことをきく。突然の行き先の理由は女中にもわからないが、そういいだす前の日、三木は、時間潰しに近くの映画館にいった、というのだ。

 

今西は、その映画館に行く。三木を東京に呼び寄せたものはなんだったのか?映画館に頼んで、当時上映されていた映画を調べ、東京に戻ってから映画配給会社にたのんで、つぶさに映画をみて見るのだが、ヒントは得られない。予告編、広告篇など、みて見るがわからない。ヌーボー・グループの誰かとつながるのでないかと思っていたけれど、彼らの顔はフィルムにはでてこなかった。

 

一方で、亀嵩に調査に行ったときに三木の話を詳しく聞いた老人から現地の特産品の「算盤」が送らてきたことから、再び、亀嵩に意識が向く。そして、岡山県児島郡にあった「慈光園」(ハンセン病療養所)へ、三木謙一がかかわったと思われる人物について調べ始める。それが、「本浦千代吉」であった。

今西は、関川、和賀の戸籍を調べていくうちに、もう一人の男、本浦千代吉の息子である「本浦秀吉」との関係を疑い始める。


そして、ついに明らかになったのは、三木が映画館でみたのは、まさに自分が保護していた「本浦秀吉」であったということ。それは、映画ではなく、田所一家と一緒に写真に納まる「和賀英良」であったということだった。田所家が地元も名家であり、映画館の館主は田所家をたたえて、最近の一家の様子の写真を飾っていたのだった。

 

和賀は、戦後の混乱時、本人の届け出があれば死亡確認が無くても、両親の名前を記載して戸籍を新しく作れることを利用し、和賀になりすましていた本浦秀吉だったのだ。

関川は書く、和賀の音楽への批評がある時から「誉め言葉」になっていることに違和感を覚えた今西は、関川が和賀に借りをつくった、つまりは「恵美子の堕胎」の手伝いをしてもらったと推理する。堕胎だけのつもりが、超音波のコントロールが悪く、死に至らせてしまったのでは?という推理。また、俳優の宮田を死に至らしめたのも、「音」による誘導があった可能性が示唆される。宮田が死んだ近くで拾った「失業保険金給付総額」のメモは、超音波出力のコントロール方法の記載だったのだ。

 

物語は、アメリカ行きの飛行機に乗り込む寸前に、逮捕される和賀の場面で終わる。今西に促され、和賀の腕をつかんだのは、若手刑事・吉村だった。空港には多くの和賀ファン、婚約者の佐知子が和賀を見送ろうと駆けつけていた。

 

”「22時発、サンフランシスコ行のパン・アメリカン機にご搭乗なさいます和賀英良さまのお見送りの方に申し上げます。和賀英良さまは急用が起こりまして、今度の飛行機にはお乗りになりません。和賀英良さまは今度の飛行機にはお乗りになりません・・・・」
ゆっくりとした調子の、音楽のように美しい抑揚だった。”

THE END.

 

結局、下巻の最後の最後の方になって、「慈光園」の話が出てきてハンセン病患者の話につながる。和賀本人から真実が語られるのは逮捕後なのだろう。

 

時々、今西の推理がぶっとんでいる!という感じで、むちゃを感じなくもないけれど、まぁ、面白かった。
映画『砂の器』は、観たことがないけれど、いつか、Amazon primeでやっていたら、観てみようかな・・・・。

 

推理小説は、ついつい先を急いで読んでしまうので、あれ?なんで突然秀夫がでてくる?となってしまった。若干こじつけな今西の捜査もでてくるけれど、まぁ、小説だからね。

 

国電、算盤、夜行列車、夫の帰りをまつ妻、、、昭和だ。難しいトリックではなくて、読んでいてわかりやすいともいえる。戦後の混乱期、戸籍を本人の申請で勝手につくれたっていうのは史実なんだろう。パン・アメリカンと言うのも懐かしい。1991年には破産しているパンアメ。今の人は聞いたこともないかもね。

 

それにしても、男同士の嫉妬と友情と、、、、いつの時代も小説のネタの一つなんだな。

推理小説は、色々なネタがあって、それはそれで面白い。

松本清張、やっぱり面白いな。トリックが、昭和でアナログなところがいい。地方への国電での移動が、また旅に行きたい気持ちを誘う。次は、どこに行こうかな‥‥。