『ジェイムス JAMES』 by パーシヴァル・エヴェレット Percival Everett

ジェイムス
パーシヴァル・エヴェレット Percival Everett
木原善彦 訳
河出書房新社
2025年6月20日 初版印刷
2025年6月30日 初版発行
JAMES(2024)

 

2024年にThe New York Timesの記事で、ベストセラーに選ばれていた本。Kindleで、原書を購入していた。ちょっと読んでから、ジムの奴隷言葉の英語が読みづらくて、積読になっていた。そうこうしているうちに翻訳版がでたので、図書館で借りて読んだ。

 

アメリカでは、様々な賞を受賞。
The Sunday Times Bestseller
Winner of the Pulitzer Prize for Fiction
Winner of the National Book Award for Fiction
Winner of the Andrew Carnegie Medal for Excellence in Fiction
Shortlisted for the Booker Prize
Shortlisted for the Dublin Literary Award
Finalist for the Orwell Prize for Political Fiction

 

そして、図書館の予約が回ってきたときには、日経新聞の書評でも紹介されていた。

著者のパーシヴァル・エヴェレットは、1956年生まれ。 アフリカ系アメリカ人作家。あえて言うなら、黒人。 南カリフォルニア大学卓越教授。数々の作品が、ブッカー賞ピュリツァー賞の最終候補になったり、受賞したりしている。

 

河出書房のHPでは、
”逃亡奴隷ジェイムズの過酷な旅路の果てに待つものとは──。ハックルベリー・フィン」過激な笑いと皮肉でくつがえした、前代未聞の衝撃作。全米図書賞&ピュリツァー賞受賞。”
と紹介されている。

そう、あの『ハックルベリー・フィン』のニューバージョンなのだ。ハックと一緒に逃亡を続けたジムが、本書の主役。ハックと一緒に逃亡にでるあたりまでの物語、川に流されているときに客船をみつけ、そこで死体を見つけるのも同じ。いかさまペテン師にだまされたりつき合わされたり、色々な場面はかぶる。でも物語はジム(ジェイムス)の視点で語られるし、途中からフィンとはぐれ、ジムならではの逃亡劇となる。

 

目次
第一部
第二部
第三部
謝辞
訳者からのおことわり
訳者あとがき

目次をめくると、主な登場人物、ミシシッピ川流域の地図。

 

感想。
面白かった!!!
一気読み。
読み始めたらとまらなくて、半日で一気読み。411ページの単行本だけれど、めちゃくちゃ面白かった。
もちろん、『ハックルベリー・フィンの冒険』を読んでいた方が楽しめる。どこからがエベレットの創作なのか明確になるし、混ざっているから楽しい場面もあるし。

ハックのお父さんが飲んだくれのどうしようもない男で、父親から逃げるために川をめざしたというのは同じ。トム・ソーヤーが、サイコパス系ともいえる独断坊主である描かれ方も笑える。自分でなんでも決めて、周囲をしたがわせる姿はずるがしこい可愛くない小僧だ。

逃げ出した島で、ジムといっしょになったハック。二人で逃亡旅が始まる。マムシに噛まれてジムが生死をさまよったり、二人の筏がバラバラになったり、川岸に流れ着いたり、、、『ハックルベリー・フィンの冒険』と同じように、二人が協力しながら生きのびていく。

 

ジムが逃亡するきっかけは、ジムの持ち主であるミス・ワトソンが、ジムを売りに出そうとしたこと。しかも、妻・セイディーと娘・エリザベスとは別で、ジムだけを。奴隷として別の土地へ売られてしまったら、二度と妻とも娘とも会うことはできない。ジムにできるのは、逃亡奴隷になってでも自由を手にして、いつか妻と娘を取り返すこと。

本書では、ちょうど奴隷解放をめぐる南北戦争が勃発する中でのジムの逃亡劇。そして、最後は、ハッピーエンド。

 

以下、ネタバレあり。

原作と同じで、ジムはミス・ワトソンの奴隷。でも、奴隷の子供達に奴隷としての生き方を指南する役などもしている。

「白人の気分が良ければいいほど、私たちは安全」と子供たちに教える。

ハックには、
「ミス・ワトソンとダグラス未亡人の前では、 お二人の望み通りのものをちゃんとイエスに願っている ってところを見せるだよ。それで丸く収まるだ。
  時々 新しい釣り竿が欲しいとか言って、 わざと 叱られる ネタを混ぜるのもええだ」
などと、シニカルに指南。

 

作者のエベレットがアフリカ系アメリカ人で、黒人であるからこその深さがあるともいえるのかもしれない。そのあたりの雰囲気は日本人の私にはちょっとわからないけど。

 

2人での逃亡中、洪水で流されてきた家のなかでジムは死体を発見する。原作では、ただの盗賊の死体だった気がするけど、、、本作では、それは、実は、ハックのお父さんだったことになっている。でも、それをジムはハックには内緒にする。そして、「なぜ、内緒にするんだ」と自問自答するジムの心の葛藤が新鮮。

 

また、ジムがはなす「・・・・んだ」という奴隷言葉は、実はジムの演出であることが次第にハックにもばれていく。ジムは、実は字も読めれば字も書ける。だからこその読書家であり、 逃亡途中に盗賊たちが置き去りにしたヴォルテールの『寛容論』と『最善論』、 ルソーの『人間不平等起源論』などを手に取る。ハックには内緒だけれど、キルケゴールだったらどうするだろう?と考えるジム。ハックが寝た後に、ヴォルテールの一冊を開き、ドイツの地方に思いを馳せるジムだった。盗賊たちの残していった紙と鉛筆がジムの宝になる。


逃亡中、ジムはハックとバラバラになってしまう。そして、ジムは歌がうまいからと歌手として雇われて、白人エメットらによる「黒人仮装」団にまじることとなる。雇い主は、「奴隷制反対」だというエメットだが、実際にはジムを金で縛る似非奴隷反対者。そして、その団体にいた「実は黒人」の血をひくメンバーのノーマンと一緒に、ジムは団から逃亡。

逃げ込んだ客船の中で、「奴隷生活」になじんでボイラー作業人として働いている黒人を憐れむジム。客船のボイラー爆発で、船は沈没、ジムたちは川に投げ出される。必死に流木にしがみつこうとする中、ジムは、離れ離れになっていたハックの姿を目にする。ノーマンもまた水に沈もうとしている。「助けて!」の二人の声を耳にしたジム。二人は別の方へそれぞれ流されていく。二人を助けることはできない。ジムは、ノーマンではなく、ハックを助ける。

そして、ハックとジムの旅が続くのだが、「なぜ僕をたすけたの?」というハックに、「お前の父親だから」と答えるジム。
およよよ!!すごい、話の展開。

 

そして、最後は村に戻るジムとハック。死んだとばかりおもわれていたハックは、大歓迎をうける。でも逃亡奴隷であるジムは、こっそりと村にもどり、セイディーとエリザベスの無事をハックに調べてくれるようにお願いする。が、ハックが告げたのは、二人は別の奴隷工場へ売り飛ばされた、という事実だった。

ジムは、二人の売られた先をハックに突き留めてもらい、ひとりで二人を救いに行く。そして、最後は、そこにいた奴隷たちと共に反乱を起こし、二人を取り戻したジム。

ジムは、奴隷たちをしばっていた工場に火をはなつ。「みんなを北に逃がせ!」


”風が強くなり、炎を大きく燃え上がらせた。
「行きましょう」とセイディーが私の横で言った。
私たちは走った。 みんなが北へ向かった。街道を行く者もがいれば、 獣道を行く者もいた。 私はリジーを腕に抱えていた。 彼女は何度も 小声で言った。「パパ、パパ、パパ」”

 

そして、最終章。アイオワ州に逃げたジムとセイディーとリジー。モリス、バック、と一緒に逃げた黒人も一緒。地元の保安官と道でばったりあい、怪訝な顔できかれる。

「逃亡奴隷か?」と彼は訊いた。
「そうです」と私は言った。
「黒ん坊ジムって名前の者はいないか?」
私は、一人ずつ指さして名前をいった。
「セイディー、リジー、モリス、バック」
「で、あんたは?」
「私はジェイムズ」
「ジェイムズ何? 苗字は?」
「ただのジェイムズ」

 

THE END.

 

本作では、ジムはシニカルに言えば「普通の人」なのだ。奴隷ではなく、人なのだ。自分や家族のために、白人が機嫌を損なわないように演出できる、ある意味「白人を手の平で踊らせている」のがジムなのだ。そして、最後に家族を取り戻して、自由を手に入れるジェイムス。

あっぱれ!

 

ジムが時々ハックに言って聞かせる話が、奴隷言葉でありながら、深い。

「わしはこう思うだ。規則に頼らねえと何が正しいか分からねえようなら、、、、それから、人に説明してもらわねえと何が正しいか分からねえようなら、、、決して正しいことなんてできねぇだ。 善悪の区別を神様に教えてもらわねえと分からねえなら、 そんなものは一生かかっても わかりゃしねえだ。」

ハックは、言う。
「けど、法律では・・・・」

「善悪と法律は何の関係もねえだよ。法律はただ、わしが奴隷だといっとるだけだ」

本当に、法律も人間が犯した過ちであることもある。

 

物語の中で、何人かの奴隷たちが死んでいく。ジムに鉛筆をあげたいがために、白人から鉛筆を盗んできてくれたヤング・ジョージ。短くなって、おそらくその白人はその鉛筆を使わない。にもかかわらず、ヤング・ジョージが鉛筆を盗んだと言って木に縛り付け、ヤング・ジョージは殺される。

サミーという少女もまた、ノーマンとジムと一緒に逃亡をはかって川に飛び込み、白人の乱射する銃でうたれて亡くなってしまう。生まれた時から奴隷として働き、何の希望もなかったサミーが、初めて自分の意志で自由を手にしようとジムたちと行動をした。そして、殺されてしまう。あのまま持ち主の元にいれば、殺されることはなかった。でも毎晩のレイプは続いたであろう。サミーにとっての幸せは生きのびることだったのか、一瞬であっても自由を手にしたことだったのか・・・。 

 

本当の自由人とは、どういことなのか。

もちろん、冒険物語として楽しく、面白い。かつ、奴隷制がない今の時代においても、「ジム」である自分に囚われている「ジェイムズ」がいるのではないかとの思いもよぎる。

 

いやぁ、面白かった。お薦めの一冊。

パーシヴァル・エヴェレットの作品、他も読んでみたくなった。