世界秩序が変わる時
新自由主義からのゲームチェンジ
齋藤ジン
文藝春秋
2024年12月20日 発行
先日、エネルギー関連の将来見通しについての話をしていた時、友人が面白いと言っていた本。直接、エネルギーの話ではないのだけれど、グローバルな潮流の話だという。すぐに読みたかったので、Kindleで購入。
内容紹介には、
”日本は今、数十年に一度の千載一遇のチャンスを迎えている。東西冷戦後の世界秩序を支えてきた「新自由主義」が崩壊し、勝者と敗者がひっくり返る“ゲームチェンジ”が起きているのだ―。マネーの奔流を30年近く見てきたコンサルタントによる初の著書。”
とある。
著者の齋藤ジンさんは、在ワシントンの投資コンサルティング会社共同経営者。1993年に単身で渡米。ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院修士。投資関連コンサルティング業務を営む米国のG7グループを経て、2007年、オブザーバトリー・グループを米国で共同設立。ヘッジファンドを含むグローバルな機関投資家に対し、各国政府の経済政策分析に関するコンサルティングを提供。本書の中にも出てくるのだが、トランスジェンダーであることを公言されていて、TVなどにも出ているらしい。私は知らない・・・・。
目次
はじめに 日本復活の大チャンスが到来した
第1章 新自由主義とは何だったのか?
第2章 私はいかにして新自由主義の申し子になったのか
第3章 「失われた30年」の本質
第4章 中国は投資対象ではなくなった
第5章 強い日本の復活
第6章 新しい世界にどう備えるか
感想。
さら~っと読める。文春新書にしては、軽めな感じ。内容は、たしかにグローバルな経済見通しとして、興味深い。著者の文章が、堅くないのかもしれない。~しました。~なののです。と、話を聞いているかのように読める。
『ハイエク入門』を読んだ後だから、なおさら読みやすいカジュアルな感じがした。『庭の話』の「Anywhere」と「Somewhere」の人の話ともつながる。経済の基礎が頭に入っている人なら、1~2時間で読める。
要するに、第二期トランプ政権が現実化したように、すでに「新自由主義」の時代も崩壊に向かっていて、世界をリードする国は変わりつつある。そこに、日本のチャンスはある、と言う話。
一番なるほど!と思ったのは、日本の失われた30年の本質は、バブル崩壊後に「雇用を守った」ことにより、富ではなく負の遺産の痛み分けが行われたことによる、ということ。公的資金による銀行救済という大きな話だけでなく、会社も社員を解雇するより雇用を維持して、みんなで給料をあげずに頑張った、ということ。
なるほど、たしかに、それはそうかもしれない。
私も、サラリーマン時代に技術系社員の再配置問題に携わっていて、はたして、これが本人にとっても幸せなことなのか?おおいに疑問に思ったことがある。解雇はしない。その代わり、技術をもって生産現場で働いていた係長クラスの社員が、営業職などに配転された。工場の仕事の需要が変わったのだ。生産品目が変わることもあれば、生産方法が変わることもある。自動化の流れで、必要とする人の数は減る。だから生産現場から営業職へ。人によっては、華麗なる転身もあるが、少なくない人が新天地になじめずにメンタルに痛んでしまったり、、、。「雇用を守る」というのが、「人を大切にする」ということにつながるのかは、ケースバイケースだったと思う。
ちなみに、私が勤めていた会社はその後も大いに成長している。それは、本業(食品)から派生した別の事業に大きく舵をきったことによる。変われないと、残れない、そんな時代だった気がする。
強い日本の復活と言うのは、日本が「信頼される国」だから、海外からの投資も無くならないはずだということ。それは、でも、、、、どうなのかな、と私は思う。確かに、国策として半導体工場の誘致とかあるかもしれないけれど、誘致では継続しないのではないだろうか?日本から生み出されたもの、日本のR&Dが回復しないと、「労働力提供」の国になってしまうのではないのか?と、ちょっと、疑問に思った。信頼されているといのは、確かに、良いことではあるけど。
いずれにしても、世界が大きな変化の波に来ているのは間違いない。
気になったところ、覚書。
・ 新自由主義は、性別、 人種、国籍など属性の異なる 各個人が、 市場を通じて世界中から自由に参加する システムを目指すので、より平等で民主的な世界を目指す価値観でもあった。 マイノリティの尊厳、 権限、機会の尊重も1990年代以降、急速に浸透した。 ところが 今、新自由主義に対し、世界各地で強烈な反発が巻き起こっている。 新自由主義の世界観は信認を失い、 既存システムが大きく揺らぎ、 機能しなくなっている。 それが、 トランプ現象やブレグジットだけでなく、米中対立や ウクライナ戦争をつなぐ共通の背景、病根である。つまり、新自由主義の崩壊。
・既存システムを支えてきた世界観が変化する時(つまり、新自由主義崩壊のとき)、 新しい 勝者や敗者が生まれる。新自由主義へのパラダイムシフトが起きた時、主導し、カジノオーナーになったのはアメリカ。アメリカは、日本を勝てないテーブルに座らせた。(日米経済摩擦)
・「自由放任主義」:レッセ・フェール。フランス語で「なすに任せよ」を意味する言葉。経済学において政府が個人の経済活動に干渉せず、市場の働きに任せるべきであるとする考え方。20世紀初頭、世襲大侯貴族による権力乱用に対して、第三身分やブルジョワと呼ばれた商人たちが、自由に市場で儲けることができる社会となった。
・1995年 WTO(世界貿易機関(World Trade Organization)) 設立。新自由主義の象徴。2001年に中国も加入。
・1995年 シェンゲン協定が発効。ドイツ、フランス、ベルギー、オランダ、ルクセンブルクが国境審査を取りやめ。現在の加盟国は29カ国。
・草の根のトランプ支持者は、「新自由主義から取り残された人々」。明確に目指す社会があるわけではなく、「既存システムを壊してくれる人」として、トランプを選んだ。
・「大蔵省解体」:日本における既存システム解体事例。当時、著者は武藤敏郎大蔵財務次官と議論したが、「国民の反感」からのシステムの解体であるということを、武藤さんも当時はよくわからなかったという。
・「 資本主義の本質的な欠点は恵みの不平等な分配である。 社会主義の本質的な美徳は悲惨の平等な分配である。」 ウィンストン・チャーチル卿の言葉。
・ヘッジファンドのオーナーとは何者なのか。まず、全員がワーカーホリックである。勝負そのものの持つスリルが「生きている感」となっている。 ギリギリの勝負をしてない時に感じる 虚無感があり、その恐怖から逃げるために、バケーション中でも仕事をする。
・中央銀行の2つの金融政策スタンス。
① FEDビュー:FRB( 連邦準備制度理事会)のスタンス。 金融政策の範囲をより広義に捉え、必要な場合、 特に大きな金融ショックの際は積極的に金融緩和を実施すべきだという立場。 バーナンキ 元 FRB 議長など。「リフレ派」とも呼ばれる(アベノミクス)。
② BISビュー: BIS(国際決済銀行)のスタンス。市場にバブルの兆候が見られた場合、速やかに予防的な金融引き締めを実施すべきとの考え方。白川日銀総裁など。
・日本がバブル崩壊時に「雇用を守る」政策をとった理由。
” 職を失うということは 単なる経済問題ではなく、「社会的な恥」であり 人生の敗者であるかのように受け止める風習であった”
・ 世界が 新自由主義的な競争体制に移行する中、 あえて逆張りしてチャーチルの言う 「悲惨な平等の分配」を選んだ結果が、「失われた30年」。
・ 65歳以上 高齢者と定義するとすでに世界の高齢者の 24%程度 つまり 4人に1人は中国人。
・これから日本がチャンスである理由。バブル崩壊以降、雇用維持で守られた「ゾンビ社員が退職」する。失われた30年とは、ゾンビ社員退職までの30年だった。
私は、2020年に50代前半で脱サラしたけれど、たしかに「無職」であることが「社会的な恥」であるという感覚は、わかる気がする。かつ、「一つの職業」にとどまっていないと、一人前ではないような感覚。同世代が、還暦を迎え、会社の社員構成が変化している。たしかに「ゾンビ社員」がいなくなるまでの30年か、、、と思うと、ちょっと切ない。私たち、ゾンビ社員世代だったのか。。。。もちろん、ゾンビではない人もたくさんいるんだけどね。
今の若い人は、転職が成長のステップになっているという。そういう価値観も、斬新的に変化するといいのだろうと思う。でも、続けることで見えてくるものもある。
道は色々ある。
自分で選んだ道であるというのが、大事なことのように思う。
世界は大きな変化のときにある。経済の大波にのれなかったからといって、命を取られるわけではない。
チャンスの神様は前髪しかない。
出会ったら、その前髪をつかもう。
自分の頭で考えて、自分で決めて、その手でつかもう。
