『世界経済の死角』 by 河野龍太郎、唐鎌大輔 

世界経済の死角
河野龍太郎
唐鎌大輔 
幻冬舎
2025年7月30日 第1刷発行
2025年8月15日 第3刷発行

 

河野さんの『 日本経済の死角』が面白かったので、新刊紹介で見かけた時に、すぐに読んでみたいと思った。

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図書館で予約しようと思ったら、すでにすごい予約者の数。待てないので、本屋さんで買った。1200円(税別)。映画より安い。

 

同じようなタイトルだけれど、今度は、幻冬舎ちくま新書よりは、チャラいか?!とおもいつつも、唐鎌さんとの共著というところも興味を惹かれる。彼の『弱い円の正体  仮面の黒字国・日本』は、結構面白かった。

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帯には、
”「ドル基軸通貨体制」は永遠ではない。
「日本売り」(円安・国債安)は、外からやってくる?
超人気エコノミストによる初めての深堀り対論。
今こそ知るべき、国際金融のリアル”
とある。

 

裏の内容紹介には、
”新NISAの導入をきっかけに海外の金融資産を保有する日本人が増加するなど、日本経済はかつてないほど世界経済への依存度を高めつつある。
そうした中、トランプ大統領による相互関税措置を受け、国際金融市場は大きく揺れ動いている。しかし、そもそも世界経済には、日本人が見落としがちな「死角」がいくつも存在する。それらを押さえずして先の見通しを立てることはできない。
そこで本書では超人気エコノミストの2人が世界経済と金融の“盲点”について、あらゆる角度から徹底的に対論する。
先の見えない時代を生き抜くための最強の経済・金融論。”
とある。

 

1987年横浜国立大卒の河野さんと 2004年慶応義塾大卒の唐鎌さん。2廻りくらいの年の差の二人の対談。対談形式なので、読みやすい。

 

目次
はじめに 唐鎌大輔
序章 外国人にとって”お買い得な国”の裏側
第1章 なぜ働けどラクにならないのか
第2章 トランプ 政権で世界経済はどう変わる?
第3章 為替ににじむ国家の迷走
第4章 日本からお金が逃げていく?
第5章 AIと外国人労働者が日本の中間層を破壊する?
最終章 変わりゆく世界
むすびに代えて 河野龍太郎

 

感想。
うん、タイトルは「世界経済」となっているけれど、ほぼ日本中心の話。『日本経済の死角』の副読本みたい。
まぁ、面白かった。 414 ページのちょっと厚めの新書。それでも、わりとさーっと読める。『日本経済の死角』『弱い円の正体  仮面の黒字国・日本』を読んでいたから読みやすかったというのもあるかもしれない。

目次は、?と質問形式になっているけれど、結論から言えば、そんなに悲観する必要はない。やるべきことをやればいいのだ、と感じた。

 

産業革命のときも、明治維新のときにも、ある仕事は消えていったけれど、別の仕事が生まれた。社会が変化するというのは、そういうことだ。別に、デジタル社会の仕事だけでなく、人にしかできない仕事は、これからも残る。医療業界でいえば、医師はAIに代替されていっても、看護士のしごとはAIには無理と言われている。看護、介護に関する仕事はこれからも人の介在が求められるだろう。あるいは、AIを使いこなすために人がやらねばならない仕事もあるだろう。

 

『日本経済の死角』と同じで、「これが死角だ!」と明確に描いてあるわけではないけれど、要するに私たちが気が付いていないこと、っていう意味で「死角」といっている。目次には、こまかな項目もあるので、目次をみて気になったところを読むだけでもたのしめるかもしれない。生産性と言う言葉の曖昧さ、企業の内部留保の上昇、トランプがいなくなっても次なるトランプは現れる、などなど。為替については、今では変動相場が当たり前と思っているけれど、そこにも死角があるかもしれない。NISAを推奨して、 個人が海外の投資に目覚めれば円は海外へ流れていくことになる。

私は30代から海外証券への投資、つまりは投資信託を運用しているけれど、負けたものも勝ったものも色々。今なお継続中のものもあるが、私の資産の3割くらいは海外証券だ。確定拠出年金の8割は海外株式。一応国内債券インデックスも2割ほど持っているけれど、ずーーっと赤字。それでも国内債券を持ち続けているのは、日本の経済動向をモニタリングするため。儲からないからといって、海外インデックスに回すのは簡単。だって、長期的に運用すればほぼ確実に儲かる。私が選んできたものは平均すれば利回り30%を越えている。それも、長期で運用しているからこそ。そうして、 個人の資産も海外へ流れるということだ。

 

AIについては、やはりうまく活用するのが一番で、依存するのではなくて活用するのが大事なのだと感じた。だいたい、人は人工知能的なコンピューターが汎用機器に搭載されるとそれをAIとは呼ばなくなるそうだ。本書に出てきた話ではないけれど、炊飯器、洗濯機、掃除ロボット、エアコン、あらゆるもの家電を人はAIとは呼ばない。そうやって、変わっていくんだよね。また、最近のニュースで、電車やデパートの忘れ物をAIを活用して登録・検索することで、3倍もお客様の元に戻る確率が上がったのだという話を聞いた。それこそ、正しいAIの活用法。ま、忘れ物を防げる方がいいけどね・・・。

 

気になったところ覚書
・ 渡辺努『 物価を考える』( 経済新聞出版、2024年): トヨタ自動車がベアをゼロにしたところから日本の賃金 停滞が始まった可能性を紹介。

 

企業統治改革(コーポレートガバナンス改革)の影響で、 経営陣には株価連動型報酬が導入され 大企業経営者の報酬は上がっている。 一方で 人件費はほぼ横ばいで、利益余剰金は 1998年 には約130兆円だったのが、 アベノミクスが始まった 2013年には 300兆円に達し、 2023年にはついに 600兆円にまで積み上がっている。コーポレートガバナンスの影響で、自己資本強化を図った結果。
私はコーポレートガバナンスによって、企業がダメになっていったと考えている派なので、この数字は興味深い。貯めないで、労働者に還元しろ~~!!
* 「コーポレートガバナンス・コード」は 2015年に東京証券取引所が策定し、導入。数字含めて開示すべき項目が増え、個人的には社内の雑務が増え、かつ本来あった道徳的な企業文化が損なわれた気がしている。

 

アメリカの共和党は、 3つの異なるタイプの保守派の連合体だった。
リバタリアン新自由主義的政策の推進者
ネオコンサーバティブアメリカの民主主義の理念は普遍的であり 必要ならば 武力を使ってでも世界に押し広めるべきだと考える
伝統的保守: 宗教や地域共同体を重視
2017年に始まった 第1次トランプ 政権の間に 共和党から①、②が抜けて一部は民主党に合流。③にトランプ主義が加わったのが今の共和党

 

・トランプ主義: 経済ナショナリズ 国境管理の強化、 アメリカ第一主義の外交

 

トゥキディデスの罠」: 派遣を脅かす 新たな大国が出現すると既存の 派遣国がそれを認めず 最終的に 軍事対立に至るという パターン。

 

キンドルバーガーの罠」: 経済学者のチャールズ・キンドル バーガーによる1929年の アメリ大恐慌が世界的な危機へと発展した理由を説明するもの。 世界経済を安定させるための役割を担う覇権国が存在しなかったことが世界的な不況を引き起こした。

 

物価の安定は健康に似ている。 普段は特に意識せずに過ごし、 一度損なわれるといかに重要だったか を実感させられる。

 

・「 合理的無関心」 経済学者 クリストファー・シズム。 心配する必要のない時は、その件に関して無関心でいるのは合理的だということ。

 

・河野さん:「 日本経済の長期停滞の一員としてこの四半世紀 あまり 続くコーポレートガバナンス改革の副作用があると考えています」
株主だけでなく従業員、債権者、取引先、 地域など企業に関わるあらゆる ステークホルダー 全体の経済厚生を高めるという考え方が抜け、 株主のため(経営者のため)の短期的な利益を追求する傾向になってしまった。
 そうだそうだ!!私も強く共感。

 

・「モンロー主義」: 第5代アメリカ合衆国大統領 ジェームズ・モンローが1823年に 議会で行われた年次表彰演説で発表したもの。「他国に干渉しない」という主義。トランプ政権の外交に見られる。

 

・GAFAMに支配される「デジタル小作人」から日本は抜け出せるのか?『弱い円の正体  仮面の黒字国・日本』の話が繰り返される。日本のデジタル赤字は年々膨らむ一方。この先も増え続ける。一方で、人手不足を考えるとインバウンドの旅行収支黒字では相殺できない。

 

・「 イノベーションボックス 税制」2025年4月から導入された。 研究開発の費用に対する税額控除ではなく(これは従来よりあった)、 研究開発の成果として得られる所得 アウトプットに対する優遇措置の導入。 ヨーロッパやアジアの主要国ではすでに多くの国が導入してる。

 

・ 経済学的な 生産性の2つの概念。
① 平均生産性: 1人当たりの付加価値
② 限界生産性: 労働 1単位に追加した時に生み出される 付加価値の増加分
 AIや自動化の導入は、「 平均生産性」を高めても、「 限界生産性」が改善されないことがある。 ゆえに 労働需要が減少し 実質賃金も押し下げられる。「包括的イノベーション」によって、「 限界生産性」をあげることで、 労働需要が高まり、賃金上昇につながる。

 

・アセモグル、ロビンソン著『 国家はなぜ衰退するのか』早川書房、2013年): 経済成長には包摂的な社会制度が必要であり 収奪的な社会制度の下では一国は繁栄せず やがて衰退する」

 

イギリスのチャーチル 元首相の名言:
「 資本主義に内在する短所は、幸福を不平等に分配すること。 社会主義に内在する長所は不幸を平等に分配することである。」
最近、よくこの言葉を目にする。。。。

 

ジョン・ロック以前の時代において自由とは「欲望に振り回されないこと」。 仏教、 キリスト教イスラム教と言った 多くの宗教も共通し「 欲望から自由になること」を目指していた。古代ギリシャの哲学者アリストテレス もまた、自由とはまさに「欲望から解放されることだ」と論じている。 古代ギリシャでは、その自由を得るための学問が「リベラルアーツ」とされていた。何かに役に立つことを目的とするのではなく、学ぶことそのものに価値があるとされていた。 

 

そうなんだよな、最後のリベラルアーツのところを最も強調しておきたい。人生後半戦に入ると、人生の目標はますます「欲望に振り回されず」に静かに生きることになっていく。欲望は持った方がいい。でも振り回されちゃだめだ。自由を失う。

 

本当の自由とは何か。

経済からはなれて、そんなところに思考がとんだ一冊だった。

結構面白い。

幻冬舎、上手く作るな。。。。

 

読書は楽しい。