21世紀の独裁
佐藤優
舛添要一
祥伝社新書
2025年7月10日 初版 第1刷発行
本屋さんで見つけた本。 帯には 佐藤さんと 舛添さんが向かい合った顔。インパクト強し!!思わず手に取って、ペラペラとめくってみたら面白そうだったので、購入。
帯には
” 世界は新たなフェーズに入った
独裁の中国・ロシア、トランプ”皇帝”のアメリカ。 右傾化するヨーロッパ。 日本の未来は?”
表紙裏の内容紹介には、
”「独裁」の再来
2025年1月にアメリカ大統領に就任したトランプは関税引き上げ、カナダ合併などの提案・政策をぶち上げている。佐藤優元外務省主任分析官はそのふるまいを「皇帝」に準え、舛添要一元東京都知事は「ヒトラーやスターリンの手法と同じ」と言う。ロシアはプーチン大統領が、中国は習近平国家主席がそれぞれ独裁色を強め、ヨーロッパでは反移民を掲げる右派勢力が躍進している。20世紀は「独裁者の時代」と呼ばれ、人種主義はホロコーストなどの悲劇をもたらした。それらは二度の世界大戦を経て、過去の遺物となったはずだった。それがなぜ近年よみがえってきたのか。時代の転換期を迎え、日本はどうすべきか。碩学2人が警鐘を鳴らす。”
とある。
著者の佐藤さんは、1960年生まれ。 元外務省主任分析官。 同志社大学大学院神学研究科 修了後外務省入省。
舛添さんは、 1948年生まれ。 国際政治学者。 元東京都知事。 東京大学法学部政治学科卒業後同大学法学部助手。 パリ、ジュネーブ、 ミュンヘンで外交史を研究。 東京大学教養学部助教授を経て政界へ。 厚生労働大臣、 東京都知事を歴任。
え?!そんなお年だっけ?とちょっと驚いた。佐藤さんより、一回り上。
目次
はじめに――時代の転換期に、正確な情報と分析を供する(佐藤 優)
第一章 SNSが政治を変えた
第二章 充満する国民の不満
第三章 ニヒリズムの革命
第四章 二一世紀の排外主義・反移民
第五章 独裁国家に囲まれた日本
おわりに――過ちを繰り返さないために(舛添要一)
感想。
ほほぉ、そうだったのか、と、面白く読める。なるほど、インテリジェンスの人たちはそう読むのか、今の世界を。佐藤さんも舛添さんも、それなりにインパクトの強い人たちだけれど、私は彼らのストレートな物言いが好きだ。思想的に共感するというより、姿勢に共感する。舛添さんは、なんとも残念な形で東京都知事をやめられたけれど、佐藤さんが国家権力により拘束されたのと似たようなところがあったらしい。 メディア圧力?そして、舛添さんは、フランス語 だけでなく、英語、ドイツ語、ロシア語、イタリア語にも通暁していて、ラテン語、古典ギリシア語の知識もあるそうだ。つまりは情報を原語で取り扱うことができる人ということ。知らなかった。本書の中の舛添さんの発言を読んで、彼の著書を読んでみたくなった。『ヒトラーの正体』『 ムッソリーニの正体』『スターリンの正体』などで彼の研究がまとめられているとのこと。
2025年の本なので、昨今の話題も豊富にでてくる。
第1章の SNS が政治を変えた、では、トランプ陣営がSNSを活用したように、日本国内でも石丸現象(東京都知事選)、斎藤元彦知事などがSNSによって選挙の流れを変えた事例がでてくる。
良くも悪くも、SNSなしには政治ができない時代になっている。しかし、情報の真偽は、SNSに頼らずに、もう少し自分でネタ元を確認するべきだと思う。。。プロパガンダに流されるのが人類の歴史か・・・。
全体に、二人の知識や解釈が盛りだくさんに開示されていて、読み応えたっぷり。これもまた、二人の思考であるので、他の意見もあるかもしれないけれど、二人の対談は、表面的でなく歴史に裏打ちされている感じで、読んでいておもわず、ほほぉ、とうなってしまう。
民主主義の終焉とも言われる昨今だけれど、独裁国家であっても人々は豊かに幸せに暮らしているという話は興味深い。ロシアも中国も、監視国家でありながらもそのことで安心を感じ、人々の暮らしは豊かになっているという事実。デジタル通貨は、国家にその流通をすべて把握されるけれど、現金がなければ泥棒に盗まれる心配もない。なるほど、そりゃそうだ。監視カメラで24時間監視されているので、犯罪が減って安心して暮らせる。そうだ、悪いこととは無縁の一般市民にとっては、監視されたところで「なにか?別に問題ないけど」ということらしい。
トランプ政権は、まさに皇帝のようにふるまうトランプ。
第五章の 「独裁国家に囲まれた日本」の目次のなかに、
「タチバナタカシとは何者?」という項があったのだけれど、これを目にした時に私は当然「立花隆」を思った。ところが、佐藤さんが若手ジャーナリストと『日本共産党の研究』について話をしていてかみ合わないと思ったら、NHKから国民を守る党の「立花孝志」とおもっていたというオチ。ジャーナリストのくせに立花隆もしらないのか、、、、と。 メディアのレベルが「ひどい」を通り越して、「すごい」ことになっている、、、と嘆いている。
これは、手元に置いて、時々読み返してもいいかな、と思う本だった。時事が多いので、数年後に見返した時、あぁ、あれはこうなった、、、と振り返っても面白いかも。二人は初共著らしいけれど、情報を取り扱うプロの対話が面白かった。
気になったところ覚書。
・SNSを使った政治が増えることで、日本においても今後小党が躍進する可能性が高い。 複数政党になるほど、 政策を実務的に担う官僚機構の影響力が強まることが予想される。
・官僚、政治の世界のネットワーク。かつては、大学、省の出身。現在は、 大学における人間関係が希薄になった分、中高一貫出身校のネットワークが強い。
佐藤さん:「 ちなみに、 中学・ 高校時代に、”告げ口癖”の ある人は、 社会人になっても”ご 注進型”になります。 嘘つきだった人はもっと嘘つきになります。 対して 友人間の信義に厚く、 秘密を守る人だったら、 社会人になってからも秘密を守る。」
・佐藤:” トランプは大胆不敵に見えて実は宗教的な部分を非常に大切にしています。 トランプ 自身、 プレスビテリアン( 長老派。 キリスト教プロテスタントの1 教派)。 プレス ヴィテリアンは、「神は救われる人と滅びる人を生まれる前から決めており、自分は選ばれた人間なのだ」と考えている。”
選挙期間中の銃撃で無事だったのは、自分が神に選ばれた人間だからという確信を強めた。支持者の人々も、そう信じた。
・舛添:知っておくべき人
①「 フランスの思想家 ジョルジュ・ソレル( 1847ー1922)」
サンディカリスト( 労働組合運動)の理論的指導者。『暴力論』で、 ブルジョワジーの暴力Forceに 対抗するには、 プロレタリアートの暴力Violenceが必要だと説いた。
「 民主主義とは 民衆の政治ではなく「知識人の政治」のことである。」とした。「 民意を読み取り、民意に表現を与える能力を持つものが、 民意を創作し、 民意を操作することも可能になる。 民主主義は民主主義のままで 全体主義になり得る」
② 「 イタリアの詩人・作家 ガブリエーレ・ダンヌンツィオ( 1868ー 1938)」
三島由紀夫が傾倒し、彼の『聖セバスチァンの殉教』を 1年がかりで翻訳した。 市ヶ谷 陸上自衛隊 駐屯地で自決 前に行った 演説にダンヌンツィオの強い影響がみられる。 工業社会が腐敗しデモクラシーが終わった時、 それに代わるべきものは個人の自由な連合である、とした。
・舛添:ソレルは、「ドレフェス事件」の時、 ドレフェスを擁護する人たちに対し非常に批判的だった。 当時の言論人も政治家もみな、ドレフェス事件を利用して自分が出世しようとした。ドレフェス事件は、 19894年のフランスで、 ユダヤ人のフランス陸軍大尉 アルフレッド・ ドルフェスが 軍の機密を漏洩したスパイ容疑で終身刑を宣告された 冤罪事件。
『 失われた時を求めて』を読んでいなければ、私にはまったく接点のない事件だ。フランスにいた舛添さんだからこその引用かもしれないけれど、それほど当時の大きな事件だったのだろう。こんなところで読書がつながって、ちょっと嬉しい。
・舛添:「距離の喪失」:人びとの関係性が薄らいでいく社会について。
” 誰もが SNS を使うような今、 アトム化された人々によって形成される SNS 上の”仮想共同体”が膨張し、 政治家と有権者に限らず、 人と人との距離は失われていきます。すると、 誰が代表者なのかわからない、あるいは誰が代表でも同じことになってしまいます。”
・佐藤:「宗教ゼロに移行したヨーロッパ」: 宗教的価値観のなくなった宗教 ゼロの世界では「ニヒリズム」が支配する。 共同体意識も失われ 個人がバラバラになってしまう。そして、ニヒリズムからウクライナ戦争へ。
・ フリードリヒ・ヘーゲル『 法の哲学』:「 ミネルヴァの梟は黄昏を待って飛翔する」
現在進行形の事象の全体像をくっきりと結ぶには夕方 つまり 一定の時間の経過を待たなければならない。(佐藤)
・佐藤:「 韓国大統領とアメリカ大統領の相似」: 民主的な選挙で選ばれたはずの 大統領が、 独裁的な皇帝や王の顔を覗かせている。
・舛添:「 アイデンティティ・クライシスに陥る移民たち」: ドイツは経済成長していた 1960年代にイタリア、スペイン、 ギリシャ、 トルコ などから移民を受け入れた。 ドイツはキリスト教社会でトルコ人の多くはイスラム教徒。 個人労働者のいる一つの工場内で、「国境」があるのが現実だった。第一世代がイスラム教を信仰し、ドイツ語も話せなかったの比べて、今ではかれらの第二世代、第三世代がドイツで ドイツ語を完璧に使って暮らしている。そして、自分はトルコ人なのか?ドイツ人なのか?のアイデンティティ・クライシスに陥っている。
今、ツアーガイドの仕事をしていて、トルコからのベテランリーダーが、「自分は父親(母だったか?)がドイツ人なので、豚肉(イスラム教では禁忌)も気にせず食べる」といっていたのを思い出した。ドイツにゆかりのあるトルコ人は少なくないということらしい。
・舛添:「日本が手を組むべき国」:” トランプ大統領が皇帝の顔を覗かせ始めたアメリカ、 独裁政権の中国・ロシア、 右傾化するヨーロッパ、と行先は不透明。 私は日本・イギリス・イタリアの3カ国の戦闘機を共同開発する「グローバル 戦闘航空プログラム (GCAP)が象徴的な取り組み だと感じています。”
”アメリカが暴走しかねない時には 日本とヨーロッパが協力して ブレーキをかける必要がある。”
” ヨーロッパ大陸の諸国 とりわけ フランス、ドイツと手を携えていくことが重要だと考えています”
・舛添:” ヒトラーやムッソリーニの独裁政治を 詳細に検討すると、 強力な独裁者に魂を奪われていく 大衆がいる。 彼らは、 自分で判断して行動することに疲れており、 明るい未来を描く 独裁者に身を委ねてしまう。 独裁者の嘘を見抜くには読書をはじめ不断の自己研鑽 が必要である。
やはり、大事なのは、自分の頭で考えるための材料を自分で摂取すること。
読書は大事。
