秩序破壊
21世紀という困難な時代
ヘレン・トンプソン
中野剛士 解説
寺下滝郎 訳
東洋経済新報社
2025年4月8日発行
(その1)の続き。
目次
ペーパーバック版への序文
序論
<第Ⅰ部 地政学>
第1章 石油の時代が始まる
第2章 アメリカに石油供給の保証は望めない
第3章 生まれ変わるユーラシア
<第Ⅱ部 経済>
第4章 ドルはわれわれの通貨だが、それはあなた方の問題だ
第5章 メイド・イン・チャイナにはドルが必要
第6章 ここはもうカンザスじゃない
<第Ⅲ部 民主主義政治>
第7章 民主主義の時代
第8章 民主主義的租税国家の盛衰
第9章 改革の行方
結論 変われば変わるほど
追記 2022年以後――戦争
訳者あとがき
<日本語版解説>
エネルギーを軸に回転する世界(中野剛志)
覚書。
第Ⅱ部 経済
・ ブレトンウッズ体制::第二次世界大戦後の国際経済秩序を安定させるために定められた固定為替相場制。各国通貨は米ドルに固定。米ドルは金に固定され、金-ドル本位制。
・ 1971年8月 ニクソン大統領はドルと金の交換停止を宣言。石油輸入が増えたことによるアメリカの貿易赤字累積への対策。 貨幣が金属に交換できない世界(不換紙幣)の世界は 人類史上 前例のない貨幣現象であった。
・ブレトンウッズ体制の終焉は、 オイルショックと相まって 経済に深刻な変化をもたらした。 官民の債務は爆発的に増加し、 1974年から2016年までの間に世界の GDP に占める世界の債務総額の割合は2倍以上に増えた。インフレと共に失業率も上昇。
この時期に、経済組織と経済政策に対する反国家的アプローチが、 政治的に台頭し始めた。
1978年 ポール・ヴォルカーがFRB議長に任命
1979年 マーガレットサッチャーが政権につく
1980年 ロナルド・レーガンが大統領に
フリードリヒ・ハイエク、 ミルトン・フリードマンらの主張に導かれ、 新自由主義が擡頭。
・スターリング圏: 1930年代に誕生。イギリスの 旧植民地 やイギリスと密接な関係にある諸国が、自国の通貨を スターリング( 英ポンド)に固定し、 外貨準備として多額のポンド残高を維持し、資本規制をイギリスの それに合わせるという通貨と為替相場に関する取り決め。
・ マーストリヒト条約:1992年、ECをEUに発展させ、ユーロ導入を決め、欧州統合を政治・外交・司法まで広げた条約。加盟国に「マーストリヒト収斂基準(Maastricht criteria)」を課す。
財政赤字:GDP比3%以下
政府債務残高:GDP比60%以下
物価上昇率や金利も安定
ユーロは、2002年流通開始。
・ 中国の猛烈な経済成長、 ユーロダラーにおけるグローバルなドル金融市場の出現が相まって、 国際通貨・金融環境の激変、 オイルショック、 アメリカ経済の広範囲に及ぶ混乱がおこった。 これらのことは 2007年~08年の金融危機を起こし、 トランプのような中国に敵対的なインサイダー 兼 アウトサイダー 大統領が出馬する政治環境をつくった。
・ 21世紀初頭の世界経済において、 アメリカが得た経済的利益と中国が獲得した貿易上の優位性は、 事実上の新しい国際通貨秩序を確立し、予見可能な将来にわたっての低金利が続くと見る向きもあった。
・ 2007年から08年の金融危機は、中国の経済的台頭、その原油価格への影響による生産活動の停滞、 ユーロダラー市場、 そしてそれぞれが信用状況に与えた影響という複雑な相互作用が積み重なった結果として起こった。 住宅バブル だけが原因ではない。
・ FRB による 量的緩和(QE)、 国債利回り押し下げによって、資産価値のインフレが起き、 銀行のバランスシートは改善され、 資金調達 が容易となった。 このことは、企業が生産能力に投資するよりも、自社株買いのために借入で行う強い誘引を生み出した。
・中国の「一帯一路」は、ユーラシアへの回帰。アメリカとの協調と警戒が入り混じる2013年に提唱。参加・不参加で、ヨーロッパの分断を招いた。
・AIIB:アジアインフラ投資銀行。習近平国家主席が2013年に提唱し、2016年に設立された国際開発金融機関。中国が主導。イギリスはヨーロッパの中で率先して参加。
・ 地政学は世界経済全体に影響を与え 持つようになった今日、 EU はこうした競争へのEU 全体のアプローチによって得られる規模の利益によって、集団的妥協を伴う加盟国それぞれの不利益を埋め合わせることができるかどうか、という根本的な問題に直面している。
第Ⅲ部 民主主義
・貴族主義的自由主義:一部のエリートによる収奪的な民主主義。 貴族主義的自由主義は、収奪された国民の反対により民主主義国家を揺るがす。 福祉制度を持つ民主主義的国民国家を目指すべき。(イギリスのEU離脱、ベテラン議員・マイケル・ゴーヴ)
・ ローズベルトのニューディールは民主主義の再生に取り組んだ 政治の代表的な事例として位置付けられている。大きな政府。
・歴史的には、ネイションフッドは徴兵制や、経済的支援によってつくられてきた。 かつて アテネが市民海軍を持つ必要性からアテナの民主主義を推し進めたように、国家のために死を厭わず、敵を殺すことを求められた市民は、その後、選挙における投票から排除されることはなくなった。 スペインやポルトガルのような非交戦国とは対照的に、 ほぼ全ての交戦国が戦時中または戦後に完全な男性普通選挙を立法化した。 女性が経済面で戦争努力の中心となった国では、 女性も参政権を獲得した。フランスでは、兵役に服することをきっかけに、 北アフリカからフランスに移住した イスラム教徒たちがフランスの市民権と選挙権を獲得した。
・ リンカーン、ゲティスバーグ演説:1863年11月19日。 南北戦争の後。
”of the people, by the people, for the people”
南北戦争の犠牲を無駄にせず、自由と平等に基づく国家を再建する決意。
リンカンはゲティスバーグ演説において、 戦争で流れた血を受け止め、 アメリカ共和国建国の物語を共有された民主主義的ネーションフットの物語へと想像力豊かに作り変えようとした。
・ 特定の 民主主義国家において、ナショナルな市民権に対する比較的強い信念が生まれたとしても、国家とその国家が代表していると主張する想像の共同体に政治的に同一化する意志と能力を持つ国民とのあいだの整合性が一定に保たれることは 難しい。
・ 古代ギリシャの歴史家 ポリュビオス:
「いかなる種類の国家も、それが建設された時点で2つの要因から衰退する可能性があった。 1つは外部からくるものでもう1つはそれ自体の内部に起こる変化によるものである。」
・ そもそも代議院制民主主義とは、民主主義的な統治形態なのか、それとも貴族主義的な統治形態なのか?
・ ドイツの政治経済学者で社会学者のマックス・ウェーバーは、代議制民主主義は永遠に デマゴークを生み出すと考えた。ウェーバーは、 ひとたび参政権の拡大がなされた民主主義は、 有権者が選挙で指導者を選ぶ必要性から容易にカエサル主義という独裁制に墜ちる恐れがあると主張した。
・ ローズヴェルト政権は ニューディール法によって確立された住宅および住宅ローン金融に関する数々の連邦政府の権限を利用して、 もっぱら白人のアメリカ人による住宅所有を支援した。 その結果 ニューディールは住宅における人種隔離を激化させた。 政治的に見て ローズベルトが改革を進めようとするならば それ以外にほとんど 方法がなかった。連邦議会で 南部民主党の支持がなければ ニューディールは実現しなかったと思われるからである。
・ ドイツ人はホロコースト以前に自分たちが一つの民族として何者であったのかを未だに記憶し、 だからこそ ホロコーストの罪を現在進行形の歴史の一部として認識することができるのか、 あるいは、 アウシュビッツを一つの国民的アイデンティティの終着点であると同時に全く別の国民的アイデンティティの出発点でもあると考える道徳的義務があるからこそ 1つの民族となり得たのか そのどちらかである。 国内に滞在するトルコや北アフリカ出身の ゲスト ワーカーをドイツ 市民 の物語に同化させることは一筋縄ではいかない。
・ アメリカにおける1973年の徴兵制の事実上の終了はアメリカ共和国にとって 象徴的な出来事であった。 アメリカ連邦政府は本国が軍事的脅威にさらされているという意識を持たず、 ユーラシアでの戦争に 徴兵制の軍隊を使用したが、 それは一部の市民を選別して銃を取る義務を免除するものであった。 これが政治的波紋を呼び、 アメリカのネーションフッドという理念の脆さが露呈した。
・ジミー・カター: アメリカのエネルギー自給率を回復させる一環として 省エネに推進が提案された時、「 省エネはアメリカの流儀ではない、 生産こそアメリカの流儀だ」といった。レーガン政権も同じ対応をとった。
・ 冷戦時、軍事設備と巨大な兵器産業は「 軍産複合体」をうみだした。アイゼンハワー は、「 軍産複合体」の背後にある「技術革命」が、「公共政策そのものを科学技術 エリートの 欲しいものにさせてしまう危険性を孕んでいる」と警告した。
・ 1970年代からの金融部門の成長は貴族主義の過剰に拍車をかけた。 金融中心の経済が進むと金融資産所有者の政治的影響力が高まる一方、 組織労働者の賃金交渉力は低下した。
・マクロ経済問題においては インフレに象徴される民主主義の過剰こそが永遠に危険である。 このリスクを防ぐために金融政策を民主主義政治から切り離し、 中央銀行を独立させなければならないというのが多くの国の政府が下した結論だった。
・ アメリカの上院定数は、有権者数に関係なく 各州から2人の上院議員が選出される。
・ トランプは 市民権と国境問題を 政治的に利用することにより、 制限的なアメリカのネーションフッドを深い井戸の底から汲み上げ、大統領選に立候補した。トランプが 貴族主義の過剰にあからさまに加担したこと、それ自体は道徳的というよりもむしろ 政治的な観点から論外であった。
・ トランプは 大統領就任後、世界最大級の石油会社 エクソンモービルの CEO レックス・ティラーソンを 政権最初の国務長官に任命した。 背後に、連邦政府が利益の一部を受け取る約束があった。
・ アメリカの CO2排出量が中国のそれを上回った最後の年が2005年であるが、 この時、 民主、共和党とも北京の貿易・通貨慣行によってアメリカ製造業の雇用が奪われていると非難していた。 非難された中国は、ユーラシアへと野心をのばした。
・ グリーンエネルギーが生み出す 地政学的力学は、 石油や天然ガスが長らく生み出してきた力学と共存していくであろう。 中国は今後も 中東からの石油に依存し続けると思われ、 中国が中東に依存している限り、アメリカが ペルシャ湾から撤退することは難しい。
盛りだくさんで、頭の中の整理はついていないのだけれど、いっぱい材料が提供された感じ。
やはり、エネルギーが自給自足できるようになったら、世界はガラッと変わるのだろう。核融合発電、是非とも日本も頑張ってほしい。地上で小さな太陽をつくれれば、太陽光発電にたよらなくてもよくなる。地球外からのエネルギー、あとは潮力かなぁ。
まずは、省エネ、省プラスチック、、、一人ずつの積み重ねが世界平和にだって、繋がるかもしれない。
怖ろしいことに、ウクライナやガザの報道にも慣れてきてしまっている。あんなことは起きてはいけないはずなのに・・・。なぜ、紛争が起きるのか、その原因を取り除くのは、やっぱりエネルギー問題かもしれない。。。宗教問題だって、戦争になった瞬間にエネルギー消費合戦になるわけだし・・・。
盛りだくさんの1冊でした。
時間があれば、かなり、おすすめ。
