デューン砂丘の子供たち 新訳版 上
フランク・ハーバート
酒井 昭伸
早川書房 ハヤカワ文庫 SF
2024年3月10日 印刷
2024年3月15日 発行
*当初は1978年11月~1979年1月に三分冊でハヤカワ文庫SFから刊行された、『デューン砂丘の子供たち』の新訳版の二分冊のうちの上巻です。
CHILDREN OF DUNE (1976)
DUNE 三部作の最後、『デューン 砂漠の救世主 新訳版 下』の続き。『砂漠の救世主』と同様に、序文にブライアン・ハーバート(フランク・ハーバートの息子)の言葉がある。 1976年ハードカバーで世に出るや『砂丘の子供たち』はたちまちベストセラーとなったそうだ。
『砂漠の救世主』の最後、ポール・アトレイデスは、盲人となって砂漠の果てに消えていった。チェイニーも、ポールの双子の子供を産んだ時に死んでしまった。次は、ポールの妹、アリアと双子の子供達の物語、、と期待させる終わり方だった。
本の裏の説明には、
”皇帝ポール・アトレイデスが砂漠の中へと歩き去り、10年が過ぎた。惑星アラキスは緑のオアシスが散在する別天地になりつつある。だが、この緑化は帝国を破滅に導く陥穽だった! そんななか、宿敵コリノ家はポールの双子の遺児レトとガニーマを暗殺し、帝国の覇権を取りもどさんとする。砂の惑星は恐るべき危機を迎えていた――ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督により映画化された『デューン 砂の惑星』。その傑作未来史第三部の新訳版!”
とある。
感想。
面白かった。まだ、上巻しか読んでいないけど、面白い!たしかに、第二作の『砂漠の救世主』は、一連の物語で言うと「転」の部分で、本作が「結」にむけてのストーリーなのだろう。
以下、ネタバレ含む。
裏切りにつぐ、裏切り。え?そこは手を組むの?え?やっぱり、騙し合い??ポールの双子、レトとガニーマの双子ならではの意思疎通、アトレイデス家に伝わる秘匿言語「チャコブサ語」による暗号の会話、孫たちの想いがみえているのか?祖母にあたるジェシカの毅然とした強さ。アリアは、双子に対する摂関政治をしながらメランジに毒され、仇敵ハルコンネンに憑依されてしまう。妻の心変わりに心痛めるダンカン・アイダホ。。。
砂漠の星、DUNEは皇帝ポールの時代に始まった改革で、様がわりしている。惑星の半分は緑が茂るようになり、砂漠の主・砂蟲の生息地も狭まっていく。まさに人類の活動による惑星の環境変化。アラキスは、ポールを神と崇めたフレメン達によって繁栄したが、時代とともにその初心を忘れた現代のフレメンたちで、腐っていく。出てくる兵器はSFの世界だけれど、人びとの権威闘争は、今の時代とかわらない・・・・。
今では、『DUNE』は、環境ハンドブックとしても使われるようになっているらしい。
人びとが手に入れた快適な環境に堕落していく先の悲劇。人がつくった灌漑施設で水の貴重性が失われたことによる、規律の崩壊。人のために水を増やし砂漠が減っていくことが、アラキスにとっては危機となる。メランジを生み出す砂蟲の生息地域をなくしてしまうということは、アラキスは宇宙貿易による収入減を失うということになり、経済的優位性の喪失は、宇宙社会での没落を意味した。
う~ん、現在の社会問題を描いた作品みたいだ・・・。
ちょっと、覚書。
登場人物
レト:先帝ポール・アトレイデスの息子。本作では9歳。レトは、祖父の名前。胎児のときに、先人たちの記憶をもって覚醒した。。
ガニーマ:レトの双子の妹。9歳。レト同様、胎児のときに、先人たちの記憶をもって覚醒した。
ジェシカ:ポールの母。レトの妻。双子の祖母。ベネ・ゲセリット。ポールが皇帝になったのちには、惑星カラダンで平和に暮らしていたが、アラキスの荒廃を心配して、孫たちに会いにアラキスへやってくる。実は、嫁いだ先のアトレイデス家の仇敵ハルコンネンが実の父であった。
アリア:ポールの妹。ジェシカの娘。双子の摂政を行うが、メランジの大量摂取によって、次第にメランジ中毒となる。精神のスキに、ハルコンネンが憑依し心を乗っ取られてしまう。
ダンカン・アイダホ:演算能力者(メンタート)。ポールの死後、アリアと結婚する。だが、メランジ中毒で変わってしまった妻・アリアよりも、先帝の妻・ジェシカとともにアリアの陰謀に向かい立つ。
スティルガー:ポールに仕えていた老フレメン。タブールの群居洞(シエチ)の指導者(ナイーブ)。双子を守っている。次第にアリアよりもジェシカを信じる。
ガーニー・ハレック:ジェシカの右腕。
イルーラン:ポールの妃。一度もポールに愛されなかった。
ウェンシシア:イルーランの妹。故シャッダム四世の娘。惑星サルーサ・セクンドゥスにすむ。
ファラッディーン:ウェンシシアの息子。コリノ家次期当主。アリアによる暗殺を逃れたジェシカは、ダンカンに連れられてサルーサ・セクンドゥスにやってきて、ファラッディーンにあう。
伝道者:謎の辻説法者。変わってしまったアラキンを嘆き、先帝を批判する説法をする。盲目。人々は、ポールなのではないかと考える。アラキンにも、ジェシカにも、ポールだという確信はない。でも、いたるところに、ポールの面影が・・・・。
本作では、コリノ家が登場して、アトレイデス家をつぶして、アラキスを乗っ取ろうとする。アリアはアリアで、ハルコンネンに精神をのっとられ、アトレイデス家でありながら、双子から権力を奪おうとする。
だんだんと、アリアの様子がおかしくなっていく。双子は、アリアがメランジ中毒になっていることをわかっている。自分たちは、同じ間違いはしないと誓っている。そして、完全に心をハルコンネンに乗っ取られたアリアは、悪政へと向かっていく。
アリアは、アラキスにやってきた母ジェシカですら、暗殺しようと企てる。あるいは、ダンカンに母の誘拐、拉致監禁を依頼する。母娘の無言の対決。ジェシカは、教母として、いまだにアラキスであがめられているが、朝の謁見のすきを狙ってアリアはジェシカを暗殺しようとして、失敗。ジェシカを助けたのは、老フレメン、かつてのフェダイキン、ガーティーン・アル=ファリーだった。老フレメンとダンカンにまもられ、誘拐を装ってアラキスを脱出するジェシカ。
アラキスでの内政の混乱は、ライバルにとってはつけ入るスキ。コリノ家のウェンシシアは、人食い虎を使って、レトとガニーマを暗殺しようとする。アラキスでその陰謀に加わったのは、一部の裏切り者のフレメンだった。
レトとガニーマは、人食い虎によって、自分たちの暗殺が企てられていることを察して、二人だけで砂漠に行き、アラキス復活のために戦う。レトは、フレメンの伝説の土地ジャクルートラーに向かう。ガニーマは、レトは暗殺されたということにして、一人でシエチに戻る。
アラキスを脱出したジェシカは、惑星サルーサでファラッディーンと対面。ジェシカはレトが予言した通り、ファラッディーンを教育することになる。
・生まれる前から先人の記憶が大量にあるガニーマとレトの会話のなかで。
「あまりにも知識が多いと、単純な意思決定はしにくいものなのね」
・人類のために大きな決断をしようとする双子。崇拝は危うい。自分たちは先帝ポールの双子であるけれど、神ではない。だから、どちらかが死んだことにして、人びとを目覚めさせる計画。でも、本当に危険が伴う。ガニーマはレトに向かって「あなたはオリシスじゃないのよ」という。
オリシス:太古の神話では、冥界の王オリシスは、弟のセトに殺されたが、妹のイシスに蘇らされた。
・レトがスティルガーに向かって言う言葉。
「父は神から人間にもどしてやらないといけない」
宗教に溺れる人を救済するには、ポールが神ではないということを人々に理解させる必要があるという言葉。一方で、スティルガーにしてみれば、先帝ポールは崇拝の対象でもあった。
・シエチの本来の意味:フレメンにとって「危険にさいして集まる聖域」
今では、意味が極端にゆがめられて、閉じ込める異常な閉所となってしまっている。
・ベネ・ゲセリット代表団がジェシカに言った言葉。
「惜しみなく教育を施され、預言者講和にも精通するあなたならば、強大な宗教の腐敗が万民を脅かすことはすでに承知しているでしょう。」
ジェシカは、この言葉をきいて、カラダンからアラキスへやってきた。そして、目にしたアラキ―ンは、すっかり不寛容な場所、制約の多い場所、理不尽な場所、独善的な場所になってしまっていた。それは、アリアのせい。
ジェシカは、最初、アリアに何が起きているのかわからなかった。でも、ある時、アリアの指が、仇敵ハルコンネンの癖と同じ動きをしたのをみて、アリアがハルコンネンに憑依されていることに気が付く。メランジ中毒の結果だった。
・”政府というものは、そうするだけの余力があるとき、例外なく貴族的な形態への傾向を深めていく。歴史上のいかなる政府も、この傾向を逃れたためしはない。そして貴族性が強まるほど、政府はますます支配階級の利益を専一に考えて振る舞うようになる。たとえその支配階級が世襲制の王族であろうと、経済帝国の寡頭制執政者らであろうと、既得権に凝り固まった官僚機構であろうとだ。
『反復する現象としての政治学』 ベネ・ゲセリットの修行教本”
ひとりで砂漠へ旅立ったレトは?
伝道者はポールなの?
アリアは、自分を取り戻せるの??
と、まだまだ、先が読めない!!
う~ん、お見事!の作品。
まぁ、下巻をよんでから、かな。
