遺伝子は不滅である
リチャード・ドーキンス 著
ジャナ・レンゾヴァー 画
大田直子 訳
早川書房
2025年7月20日 初版印刷
2025年7月25日初版発行
THE GENETIC BOOK OF THE DEAD (2025)
2025年9月6日 日経新聞の朝刊、書評で紹介されていた本。
記事には、
”あなたの体とゲノムは「遺伝子版死者の書」である。冒頭でこのように宣言される。そしてラストでは「あなたは活気にあふれて時間旅行をするウイルスの壮大な生活共同体そのものである」と結論づけられる。
進化を「遺伝子生存のゲーム」と捉えるドーキンスらしく、「死者の書」という言葉は「代々の祖先が生き抜いて、私たち現生動物のあり方を決める遺伝子を伝えた」という考えから来ている。なるほど。だが、そこには「過去の環境」も書き込まれていると言われると、おいおいホンマかいなと思ってしまう。
しかし、周囲の環境そっくりの擬態をする魚や昆虫の綺麗(きれい)なカラー写真を存分に見せつけられると、確かにその「書」には過去の環境も記されていると納得せざるをえない。こういう少々トリッキーとも思える論法で次々とねじ伏せられていく快感。
もうひとつ「死者の書」の重要な特徴は「パリンプセスト」すなわち「以前に書かれたものに、のちに書かれたものが重ね合わされている文書」だということだ。これに異論はない。
そのような前提に立って、カバに似た陸上生活をする偶蹄(ぐうてい)目の動物からクジラのような水棲哺乳類への進化、オオカミとフクロオオカミのような全く違った系統での収斂進化、適応放散による多様性の獲得などへと話は進む。その対象は形態的な表現型に留まることはなく、動物の行動や記憶、さらには、カッコウの托卵(たくらん)のような不思議な現象も遺伝子によって操られていると、自らの名著『利己的な遺伝子』や『延長された表現型』にも言及しながら、「進化の遺伝子視点」から畳みかけてくる。
(中略)
分子生物学での遺伝子の定義は「タンパク質や機能性RNAをコードする核酸の単位」と、いささか素っ気ない。だが、『遺伝子は不滅である』とするドーキンスの手にかかると、遺伝子はじつに多彩にして豊か、そして驚きに満ちてくる。”
とあった。
著者のリチャード・ドーキンスはイギリスの生物学者・作家。1941年ケニア・ナイロビに生まれ、英国王立協会フェロー。オックスフォード大学で学び、カリフォルニア大学バークレー校をへて、オックスフォード大学講師。1976年刊行のデビュー作『利己的な遺伝子』(紀伊國屋書店)が世界的ベストセラーとなり、その名を一躍知らしめた。
え?!?!『利己的な遺伝子』って、そんなに古い本だっけ???90年代くらいかと思った。私は、分子生物学関連、つまりは遺伝子操作を含む実験を仕事にしていた時期に『利己的な遺伝子』を読んでみたけれど、途中で読むのをやめた。当時の私にはおもしろくなかったのだ。タイトル負け、って感じだった。そして、今回も生物学の話なんだけれど、タイトルには「遺伝子」とはいっている。図書館で借りてよんでみた。
訳者の大田さんは、翻訳家。 東京大学文学部社会心理学科卒業。ドーキンスの本を数冊翻訳している。
表紙をめくると、袖には、
” あなたの体とゲノムを、祖先が生きてきた世界のあり方を記憶した一冊の「本」 として読んでみよう。 そして、今地球上にいる動物・植物・微生物など あらゆる生命についても。
ドーキンスは進化生物学の金字塔『利己的な遺伝子』での考察をさらに深め、自然淘汰 という「彫刻家」が持つ素晴らしい腕前を、豊富な実例とともに鮮やかに描き出す。
樹皮やコケそっくりに擬態するトカゲやカエル、陸から海へ戻ることを選んだクジラの仲間たち、ともに超音波を使うイルカとコウモリの遺伝子の意外な共通点。宿主のカタツムリやラットを操る寄生虫の残酷な戦略、鳥のさえずりや コオロギの鳴き声に秘められたメッセージ・・・。
驚異に満ちた 進化の物語の数々が、 美しいイラストと共に 読者の知的好奇心を刺激する。「遺伝子視点」で生命自然体を俯瞰する、ドーキンス進化論の決定版!”
とある。
目次
第1章 動物を読みとる
第2章 「絵画」と「彫刻」
第3章 パリンプセストの深層で
第4章 リバースエンジニアリング
第5章 共通の問題、 共通の解決策
第6章 主題の変形
第7章 生きてる間の記憶
第8章 不滅の遺伝子
第9章 体壁の向こうへ
第10章 振り返る遺伝子の視点
第11章 バックミラーをもう少し見る
第12章 良い仲間、悪い仲間
第13章 未来への共通の出口
感想。
そうか、、、こういう本だったか・・・・。という感じ。普通に生物学の本として、興味深い。上質な紙が使われていて、カラー印刷の写真、絵が美しい。たまに、絵だか写真だかわからなくなるくらい。
多種多様な生物の話が出てくるので、パラパラとページをめくって気になる生き物のページだけを読んでも楽しいかもしれない。全部読んでいると、とちゅうでちょっと飽きてくる、、、って感じだった。興味のない動物について延々とこまごまと説明されているところは飛ばし読み、おもしろそうなところだけしっかり読んだ。
それにしても、ドーキンスって、ほんとに生物学者だったんだ、、、、って、今更ながら思った。
個人的には、先日読んだリチャード・ローズの『生物学を進化させた男 エドワード・O・ウィルソン』で描かれているウィルソンの話の方がおもしろかった。ドーキンスの話も伝記になったらおもしろくなるかな?
遺伝子そのものの話より、生物の系統樹を説明する遺伝子の話といったらいいだろうか。コウモリとイルカは超音波を使ってコミュニケーションすることが知られているが、その機能の遺伝子は似ているという。まぁ、そりゃそうだよね、、、。逆に大きく違っていたらそのほうが興味深い。
擬態する虫は、親から教えてもらうわけではなく、遺伝子にそれが書きこまれている、と。
そして、そういった遺伝子は、進化の中で色々上書きされていくので、系統樹では別々の属に枝分かれしていったものでも、同じ記憶の遺伝子がのこっていることがある、ということ。それを、「パリンプセスト」(palimpsest)=「上書きされた文章」と言っている。遺伝子は上書きに上書きを重ねられ、進化した生物の表現型となってきた。
生物学というより、動物園好きなひとには楽しい本かもしれない。
一貫して、ドーキンスのメッセージは、
「遺伝子は一時的な乗り物として生物体を利用している」ということ。
見た目には、ちっとも似ていないのに、そっくりな遺伝子を持っている動物もいるよ、ってこと。
う~ん、だからって、遺伝子が主役っていうのが、私が共感しきれないところなんだな。
気になったところ、ちょっと覚書。
・大きい動物ほど、血圧が高い。キリンは大きな心臓を持っているわけではないけれど、血圧が高い。長い首の上の頭まで、血を送らないといけないから。
・ヒゲクジラは、歯がまったくない。ヒゲのフィルターでオキアミを濾しとって、濾過摂食する。
・代謝率の低い動物:コアラ(Koala)、ナマケモノ(sloth)。 どちらも頭上で暮らしあまり 栄養豊富でない 葉を食べ、無気力と言えるくらい動きが遅い。 コアラは1日で100回以上も 排便するが、ナマケモノは逆に極端で、だいたい週に1回の排便。ナマケモノは、トイレに行くのも面倒らしい。
・プレスチン遺伝子: 哺乳類の聴覚と密接に関係している。その遺伝子は、イルカとコウモリで類似している。
・ 動物は遺伝的に認められた報酬と罰の定義を持って生まれてくる。 この定義は、祖先の遺伝子の自然淘汰によってなされる。死の可能性増大と結びつく感覚は、どれも 痛みを伴うと 定義される。
ただし、この遺伝子の定義にはエピジェネティクス(遺伝子配列は変わらないが、メチル化などにより発現のon・offが変わる)が含まれる。飢餓状態の母親から生まれた子供が肥満しやすくなるなど。
・ニワシドリ:オスは、メスを引き寄せるために豪華な庭をつくる。でも、巣として使用することはなく、あくまでもメスを引き寄せるだけ。
・微生物との共生:私たちの消化管には、39~100兆の細菌がいるといわれている。それは、人間そのもののからだを構成する細胞の数約40兆個とおなじ桁数ということ。また。ミトコンドリア(代謝のエンジンルーム、真核生物の細胞中に多数分散して存在。自己増殖)は、そこに含まれない。とすると、人間の3/4は、私たち「自身」ではない。
挿絵、写真がたくさんあるのでページをめくって、気になる絵のところだけ読んだほうが楽しめるかも。古典的生物学に、遺伝子の話を加えたって感じかな。
たぶん、イラストがなかったら途中で放り出していたと思う。
これで、4500円。。。まぁ、カラー刷りなだけに、、、、ちょっと高いかな。個人的には、ドーキンスの本を一冊読み終わったということで満足。ちょっとばかり文章に脱線が多くって、リズムが悪い。だから、『利己的な遺伝子』も通読できなかったのかも。事実の部分と著者の推論の部分がコンタミしやすい。ユヴァル・ノア・ハラリの文章とちょっと似ているかも・・・。ま、原文をよんでいるわけではないからわからないけど。
これを読んでから、動物園にいくと、もっと楽しめるかも、ね。あ、イルカとコウモリは、動物園にはいないか・・・・。
