迷いを断つためのストア哲学
マッシモ・ピリウーチ
月沢季歌子 訳
早川書房
2019年4月10日 初版印刷
2019年4月15日 初版発行
How to Be a Stoic: Using Ancient Philosophy to Live a Modern Life (2017)
『QUEST「質問」の哲学』の中で、エピクテトスの考えを深めて説明している本として紹介されていた本。
『STOIC 人生の教科書 ストイシズム』の中でも、たびたびでてきたエピクテトス。
ちょっと、気になったので図書館で借りて読んでみた。
表紙裏の説明には、
”目の前の「問題」に立ち向かってはいけない。価値のありかを見抜き、そこに全力を注ぐ。クールに、ストイックに。人生訓の元祖「ストア哲学」に学べば、現代人の迷いは完全に解消する。生物学にも通じた哲学教授が、奴隷から身を立てた古代ローマの哲人エピクテトスの『語録』や皇帝マルクス・アウレリウスの『自省録』を独自の視点でひもとき、理性的かつ情熱的なそのエッセンスを軽妙に説き語る。”
とある。
著者のマッシモ・ピリウーチは、 ニューヨーク市立大学の哲学教授。 ローマ出身。 イタリアのフェラーラ 大学で遺伝学、アメリカのコネチカット大学で生物学、テネシー大学で哲学の博士号を取得。 他の著書にAnswer for Aristotle(アリストテレス への答え)など。
訳者の月沢さんは、翻訳家。 津田塾大学英文学科卒業。
目次
1章 まっすぐではない道
2章 ロードマップ
1部 欲求の原則 何を求め、何を求めないのが適切か
3章 わたしたちの力が及ぶもの、及ばないもの
4章 自然に従って生きる
5章 ソクラテスとの球技
6章 神か原子か?
2部 行動の原則 世界においていかに振る舞うか
7章 人格(美徳)の重要性
8章 大事な言葉
9章 ロールモデルの役割
10章 身体障害と精神障害
3部 受容の原則 状況にいかに対処するか
11章 死と自殺について
12章 怒り、不安、孤独にいかに対処するか
13章 愛と友情について
14章 精神的訓練の実践
付録 実践哲学としてのヘレニズム哲学
感想。
ふ~ん、なるほど。
エピクテトスって、もともとは奴隷だったんだ…アウレリウスって、皇帝の名前だったんだ…。様々な哲学の分類についても、そうか、ソクラテスとアリストテレスは違うのか、とか、、、、と、今更ながら知ったことがチラホラ。
今の私には、断つべきほどの迷いはないからなのか、心に響く読書というよりは、知識に響く読書という感じだった。
でも、いつの頃からか自分で実践していた「心配してもコントロールできないことは心配しない」という原理原則は、ストア哲学に源流があるということがわかった。若い頃は、色々心配したり悩んだりしても、歳をとって経験を積むことでどうにもならないことはどうにもならないし、心配したり悩んだりしても仕方がない、ということが経験から学ぶことができて、図太くなれる。ストア哲学は、それを経験を積む前にも理論的に理解させてくれる哲学ってことかもしれない。
たぶん、ストア哲学で最も大事なことが、「自分で管理できることを管理する」なのだと思う。
明日の仕事がうまくいくかどうかは結果論であって、自分で管理できることではない。明日の仕事のために、最善の準備をするというのは自分で管理できること。結果をクヨクヨと心配する暇があったら、準備しとけ!ってこと。
「賞賛はコントロールできないもの」
これは、人生でいえば、「老後の健康」を今心配するなら、今できる「健康管理」をしておけ、ってこと。金銭面の心配もそうかもしれない。政府に給付金だ、免税だと要求するより前に、自分でできる節約や貯蓄だってあるはず。あるいは、大規模地震や富士山噴火だって、自分の力どころか、全人類の力を集結したところで阻止できることではない。だったら、それに備えられることをしておけ、ってこと。
そう思うと、実にシンプルになる。
と、まぁ、そう簡単にはいかない複雑系が社会ってものでもある。。。たとえ複雑系だとしても、自分でできることに取り組む、ってしていると、意外とシンプル。
『成瀬は都を駆け抜ける』の成瀬は、まさにストア哲学で生きているから、読んでいて気持ちいいのかもしれない。
気になったところを覚書
・ストア哲学者にとって、真理(ロゴス)が神であるか、自然であるかは、究極的問題ではない。認識すべきは、みずからの人間性を育み、他者を(そして自然を)慈しむこと、そして世俗的な富に対しては、極端ではなく適度な距離を置くのがまっとうな生き方だということ。そうすれば、人生を満喫することができる。
・エピクテトスの人生:エピクテトスは、55年頃に現在のトルコのパムッカレに生まれた。奴隷の生まれで、本名はわかっていない。ローマ皇帝ネロに書記官として仕えたエパプロディトスという裕福な自由民(解放された元奴隷)が主人だったので、若い頃をローマで過ごした。生まれつきか、虐待が原因かは不明だけれど、片足の自由がきかなかった。エパプロディトスは、エピクテトスを大事にし、ストア哲学を学ぶことを許した。68年にネロが没すると、エパプロディトスはエピクトテスを奴隷の身分から解放した。(古代ローマ時代には、賢く、教養のある奴隷が解放されることはよくあった)エピクトテスはローマ帝国の首都で学校を開き、皇帝ドミティアヌスが哲学者を追放する93年までそこで教えた。
その後、学校をギリシャのニコポリスにうつした。その学校には、皇帝ハドリアヌス、皇帝マルクス・アウレリウスも訪れた。
エピクテトスは生涯結婚しなかったが、友人の子供を引きとって育てるのに手を貸してくれた女性と一緒に暮らした。
・エピクテトスの言葉:「後悔は感情的エネルギーの浪費」
過去は変えられない。コントロールできない。
・ストア哲学のコスモポリタニズム
中心から:自己→親戚→同郷の市民→同国人→人類
ソクラテスは、「 どこの国の人かと聞かれたら、アテネ人だとかコリントス人であるとかではなく、世界の市民であると答えるべきである。」といった。
息子に対して、「地球に愛される人に育ってほしい」、というヤマザキマリさんの言葉とかぶる。
・エピクテトスの言葉:「 完璧さや具体的な答えを求めるのは愚か者のすることだ。」
ストア哲学とは様々な葛藤に可能な限り効率的に人間らしく対処する術を磨くことである。完璧は求めず 具体的な答えは 提示しない。
・ソクラテスが分類した4つの美徳:実践的な知恵、勇気、節制、公正さ。ストア哲学は、これらの美徳を取り入れ、人格の特性に緊密に関連づけている。
・仏教、キリスト教、儒教、ヒンドゥー教、ユダヤ教、道教、アテネの哲学など伝統的な宗教や哲学のすべてにみられる6つの中核となる美徳。
1 勇気:外的、内的な抵抗に直面しながらも目的を達成しようとする意思の強さ。勇敢、忍耐、真正性、 誠実さ など。
2 公正さ: 健全な地域生活の基礎となる 市民としての強さ。 公平性、 リーダーシップ、 市民権、 チームワークなど
3 慈悲心:他者を「気にかけたり、助けたり」する 対人能力の強さ。愛情、親切心など。
4 節制: 過剰なことから身を守る強さ。 寛容、謙虚、思慮深さ、自制心など。
5 知恵: 知識の習得や 活用に伴う認知能力の強さ。創造性、好奇心、判断力、大局観など。
6 超越性: 神羅万象につながりを見出し、それに意味を持たせる強さ。謝意、希望、精神性など。
・アリストテレスは、倫理的徳と知性的徳を明確に区別した。倫理的徳は、天性の資質と成長に伴い身に着ける習慣の双方から生じ、知性的徳は、成熟した精神から生じる。
(アリストテレスは、ストア哲学者ではない)
・ひとりでいることを寂しさに変えるのは、自分自身の選択であり、姿勢。たとえひとりであっても、無力さを感じる必要はない。
・ストア哲学の3原則
1.美徳は最高の善であり、その他は無関係である。
2.自然に従う
3.コントロールできるものと出来ないものを区別する。
・”「誰かが急いで入浴しているなら、入浴のしかたが悪いと言わず、急いでいるといいなさい。」
→ 「判断を交えずに話す」:相手に対して、良し悪し、善悪を交えずに事実を話す。
最後の付録には、ソクラテス哲学、プラトン哲学(アカデメイア派)、アリストテレス主義(パリパトス派、リュケイオンの学徒)、キュレネ派、エピクロス派(庭園派)、キュニコス派、ストア派と、それぞれの哲学についての概要が示されている。いずれも、ソクラテスを出発点としているけれど、それぞれ分岐しているという思想的関係の図もついている。
ということで、ちょっと、思想の整理になる一冊。
とはいえ、やはり、私には、まだまだ哲学の世界はよくわからない…。
くわえて、「日本のこころ」との関係性も考えてみたいけれど、まだ思考材料収集段階という感じ。まぁ、こつこつ材料を積み上げていくと、いつか、ぽろっとひもとける日が来るかもしれない。
ちょっと、面白い一冊だった。
読書は楽しい。
