ブッダ【第10巻】アジャセ
手塚治虫
潮ビジュアル文庫
1993年3月10日 第1刷
2001年2月25日 第31刷
第9巻の続き。
タイトルのアジャセは、登場人物の名前。マガダ王国のセーニャ・ビンビサーラ王の王子で、父を殺すと予言されている。
目次
第五部
第9章 竹林精舎
第10章 幽閉の王子
第六部
第1章 サーリプッタとモッガラーナ
第2章 非難する群れ
第3章 死の沼地
主な登場人物
・ブッダ:出家してすでに15年以上。すでに悟りを開き、ブラフマン(梵天)に予言されたように各地に教えを説いて回っている。
・タッタ:ブッダを慕うバリア出身の盗賊。ダイバダッタにそそのかされてマガダ王国の兵士となっている。
・ミゲーラ:タッタの妻。盲目。
・ダイバダッタ:バンダカの息子。ずる賢く、ブッダを慕いつつも自分が一番になりたいと思っている。タッタと共に、マガダ王国に入り、アジャセ王子の遊び相手になっている。
・ビンビサーラ王:マガダ国王。息子であるアジャセ王子に殺される運命にあると、アッサジに予言されたことがある。
・アジャセ王子:マガダ国の王子。賢い。父を殺す運命だと言われていることを嫌う。
・アナンダ:シャカ族の生き残り。悪道におちて強盗殺人を繰り返していたが、ブッダに出会って、改心し、ブッダの弟子となる。
・リータ:アナンダに拾われた奴隷の女。一緒にブッダの弟子となる。
・サーリプッタ:サンジャヤという聖者の弟子。東に霊気を感じると言って出かけた先で、アナンダにであいブッダのところまで連れて行ってもらう。
・モッガラーナ:サーリブッタと同じサンジャヤの弟子。アッサジのように未来を予言したり、過去を言い当てる不思議な能力を持つ。
ブッダと弟子たちは、教えの旅を続ける。そして、ブッダは、マガダ王国に十数年ぶりに戻ってくる。ビンビサーラ王は、大歓迎する。城では、タッタやダイバダッタが仕えていた。ダイバダッタは、ブッダにアジャセ王子を引き合わせる。アジャセは我儘盛りで、ブッダにも偉そうな口をきくが、ブッダは「私はあなたの家来ではありません」と毅然と接する。
36歳になったビンビサーラは、41歳で息子に殺されるという予言に怯えながら生きてきた。そして、「この死の恐怖の苦しみかをどうしたらなくせるか?」とブッダに聞く。ブッダは、「逃げられない運命なら、勇気だ。覚悟だ。正しい行動だ。正しい生活でその日をまつのです」といった。ビンビサーラは、在家でブッダの弟子となる。
ブッダを信用する父の姿が面白くないアジャセ王子は、ダイバダッタを頼る。が、ダイバダッタもまた、ブッダの教えを信じ、広めようとしていた。ダイバダッタは、カッサパやアナンダたちに、弟子が増えたからには団体としての規則が必要だと称える。そして、早起きや掃除、坐禅、食事などの規則を守ることを語り、自らも頭を丸める。
ビンビサーラ王は、マガダ王国の都ラージギルの北にあるカランダカ竹林園という土地を、ブッダたちに提供した。そこは、後に竹林精舎と呼ばれ、ブッダの教えを広める根拠地となった。
アジャセ王子は、ますます面白くない。ブッダを殺すために竹林園へいくと、弟子に説法しているブッダに矢を放つ。ブッダは、瀕死の重体にとなり、デーパはかつて瀕死自分を救ってくれた恩返しにと必死で看病する。ブッダは一命をとりとめる。
アジャセ王子がブッダに矢を放ったことを知ったビンビサーラ王は、アジャセ王を塔に幽閉する。それを聴いたダイバダッタは、アジャセ王子のもとに行き、「父上を殺すという予言をしたブッダが悪い」というアジャセ王子に、その運命を変えるためには王に引退して旅に出てもらい、二度と会わないようにすればいい、というのだった。ダイバダッタは、無理にでも王を引退に追い込むために、少しずつ王の食事に毒を盛り始める。
幽閉されて1年が立つ頃、アジャセ王子は自分に食事を運ぶようになった奴隷の女の子に恋をする。が、そのころマガダ王国で疫病がはやり、その少女も病魔に倒れる。アジャセは、その少女を治療してほしいと医者らにいうが、スードラの治療はしないと断られてしまう。アジャセは自分でその少女を介抱した。そして、スードラ(奴隷)でも、同じ人の姿をしているのに、なぜ差別されなくてはいけないのか?と疑問を持つようになる。回復した少女とアジャセ王子は、一緒に出奔を試みるが、少女は衛兵に殺されてしまう。
少女の死刑は、陛下の命令だったとダイバダッタに聞かされたアジャセ王子は、父への激しい憎しみを覚えるのだった。
マガダ国で流行った疫病は、ブッダにも襲い掛かり、ブッダは著しく体力を失ってしまう。そして、後継者を考えるようになる。ブッダは、アナンダにアッサジのような予言者を探してくるようにといい、糞掃衣(ふんぞうえ:仏弟子の正装)を与え、旅にだした。
予言者探しの旅に出たアナンダだったが、かつて強盗をはたらいていたアナンダだとわかると、町の人たちはアナンダにつらく当たった。施しを受けることも難しい中、ボロボロになりながらもアナンダはブッダに言われたことをやり遂げようと旅を続ける。アナンダの必死の姿にアッサジが精霊としてとりつき、アナンダをサポートし始める。
自分ではアッサジが取り付いているのは見えないのだが、出会った人に
「あなたは、精霊に護られている」と言われる。アナンダは、どのような精霊なのかをその人に聞くとそれは、ブッダと共に修行をつんだアッサジだということに気がついた。そして、自分はブッダの弟子であることを話すと、その人はその教えを教えてほしいといった。
「あらゆる苦しみはかならず原因から生まれる。ブッダはそれらの原因を説き明かされる。あらゆる苦しみは、必ず止めることができる。ブッダはそれらのとめる方法を説き明かされる。」
その人、サーリプッタは、その話を聞いて、これからはブッダを生涯の師にしようと考え、アナンダをつれてモッガラーナと師匠サンジャヤの元に帰る。そして、ブッダの話をみんなに聴かせると、モッガラーナもその人こそ生涯の師だといって、サンジャヤと別れ、一緒にブッダの元に向かう。モッガラーナは、ブッダのこともアッサジのことも言い当て、未来のことも語った。他の弟子たちもサーリプッタとモッガラーナについて、総勢250人の弟子がアナンダと共にブッダの元へ向かった。
アナンダは、モッガラーナに人殺しの自分がこれからもブッダのそばにいられるのだろうか?と未来を聞く。モッガラーナは、
「あなたはこれからもブッダの手足として働く。そして、ブッダの死ぬ日も一番近くいる」
と予言した。
ブッダの元に、大勢の弟子をつれてアナンダが帰ってくる。そして、ブッダは、サーリプッタとモッガラーナこそ、私のあとつぎになる人間だと言って、自分が寝起きしている菩提樹の下へ案内した。
ダイバダッタは、自分が一番弟子のつもりだったので、二人が上座に招かれることが面白くない。そして、教団の組織化とそのリーダーには自分がふさわしいととうとうとかたり、ブッダに自分こそがブッダの後継者だといいよる。ブッダは初めて怒った。
そして、そのころから、人びとからのブッダへの嫌がらせが始まる。ブッダの教えを慕って家をすてて出家する人々の家族からの怒りがまねいた嫌がらせだった。
また、アナンダに取り付いていた蛇の化身が再び現れて、ブッダをヘビ毒で殺害しようとする。身体をはってそれを食い止めたのは、リータだった。リータはブッダの身代わりに亡くなった。悲しみに沈む、ブッダとアナンダだった。
ブッダは、再びブラフマンに出会う。そして、竹林精舎にとどまって弟子に説法を続けていたブッダに、「怠けている。生きる人も死ぬにも苦しみ続けている人を救うために旅にでろ」と言われる。
ブッダは、再び説法行脚にでることを決意する。そして、竹林精舎に1000人の弟子を残し、サーリプッタとモッガラナーナに後をまかせ、アナンダ一人をつれて北へ、北へ、コーサラ国へ向かった。二人は、大雨に打たれながら、沼地を歩く。それは、苦行をもとめたっブッダが、熱にうなされるアッサジを背負い、デーパと三人で歩いた沼だった。そして、当時と同じ、バンダワの町にたどり着く。ヴィーサーカーに結婚しようと言い寄られて断った町だったが、かつての活気はなく、死者の墓だけが目に付いた。そこで、幻覚薬で正気をうしなっているヴィーサーカーを発見する。
続きは、第11巻。
どうやら、アナンダというのは、重要な人物らしい。調べてみた。
阿難陀(アーナンダ):釈迦の従兄弟であり、長年にわたって最も多くの教えを聞き、釈迦の身辺の世話をしてきた人物。釈迦の最後の旅にも同行しており、入滅の際には、悲嘆にくれる他の弟子たちを慰め励ましたとされている。
元強盗だったというのはフィクションのようだけれど、シャカ族出身で、従兄弟というのが史実らしい。
ここまで読んできてわかるのは、ブッダの旅は直線的ではなく、円環的なのだ。だから、過去に訪れている場所や出会った人が再び物語に出てくる。ブッダの旅そのものが輪廻のように円環している。登場人物は手塚治虫のフィクションもあるけれど、たどった道は仏伝によるものと思われる。
