ブッダ【第11巻】祇園精舎
手塚治虫
潮ビジュアル文庫
1993年3月10日 第1刷
2014年1月1日 第53刷
第10巻の続き。
祇園精舎といえば、『平家物語』の冒頭にある「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」だけど、歴史・地理としては、古代インドのコーサラ国に存在した、ブッダが説法を行った重要な仏教寺院(僧院)。ということで、ブッダの説法の旅も残りわずか、、、、全12巻も残りわずか…。
目次
【第六部】
第4章 狂女ヴィサーカー
第5章 ルリ王子との再会
第6章 意志と意志
第7章 解放の日
第8章 ダイバダッタの陰謀
第9章 ナラダッタ
第10章 祇園精舎
主な登場人物
・ブッダ:釈迦
・アナンダ:シャカ族。ブッダの弟子。ブッダと共に説法の旅に出る。
・ダイバダッタ:ブッダの後継者は自分だと信じ、アジャセ王子を巻き込む。
・アジャセ王子:マガダ王国ビンビサーラ王の息子。ダイバダッタとグルになって父親を死の淵においやる。
・ルリ王子:コーサラ国、パセーナディ大王の息子。
・ジェータ:ルリ王子の息子。
・スダッタ:コーサラ国の富豪。のちにブッダのためにジェータと共に祇園精舎をたてる。
コーサラ国への旅の途中、バンダワの街で正気を失ったヴィサーカーと出会ったブッダとアナンダ。狂気に満ちたヴィサーカーは、ブッダに久しぶりだと言われても、ブッダが誰だかわからない。そして、ブッダに刃物を振り回す。このまま掘っておけば、薬物中毒で死ぬ運命のヴィサーカーをみて、ブッダは、薬をやめさせ、一緒に旅につれていくという。「こんな狂人をつれてあるくのか?!」と嫌がるアナンダに、人は誰でも気を確かに持てなくなることがあるというのだった。
そして、狂ったままのヴィサーカーをつれて、三人は説法の旅をつづけた。ブッダは、ヴィサーカーを信じて連れて歩いた。そして、ある日、ヴィサーカーは正気を取り戻した。
三人は、アヌバイネーヤ村に到着する。ブッダがカピラヴァストゥの城をでて、出家を決心して髪をそったところだった。
そして、三人は、コーサラ国へ向かう途中、カピラヴァストゥの城近くの砦へいく。待っていたのは、大人になったルリ王子だった。そして、コーサラ国へいく旅は不幸の旅だというルリ王にブッダが見せられたのは、シャカ族が奴隷とルンピニ河の治水工事で酷使されている姿だった。ルリ王子は、自分は征服者でシャカ族をどう扱おうが勝手だといい、ブッダの父かつてのスッドーダナ王がみじめな姿で地下牢に閉じ込められている姿をブッダに見せた。
おもわず、「父上!」と叫んで牢にかけよるブッダだったが、スッドーダナ王はブッダを息子と認識することができないほど衰えていた。
ブッダは、「あなたは哀れな人だ」とルリ王子にいうのだった。
ブッダとアナンダは、牢に閉じ込められる。そこに、シャカ族の代表バッディヤが「ルリ王子の許可をもらうので、シャカ族の前で希望の話をしてほしい」と懇願しに来る。ルリ王は、ブッダの話で活気づいたシャカ族が反乱を起こすのも楽しいといって、ブッダに奴隷となっているシャカ族たちの前で話をすることを許可する。
ブッダは、あつめられたシャカ族の前で話をした。そこには、かつての妻のヤショダラ、養母のパジャーパティ、そして息子のヤーフラも来ていた。人々は、大歓声でブッダを迎えた。ブッダが会堂の台座の上に座ると、800人のシャカ族は水を打ったように静まり返った。
ブッダは、目の前のシャカ族たちの苦しみ、そしてルリ王子のにくしみに凝り固まった心をどうしたらとけるのかを静かに考えた。そして、語り始めた。
「雲、あの大空の雲をみなさい。雲は、一度として長い時間同じ形をしていない。それにときには雨を降らせ、嵐までおこさせる。人間の運命もそんなものだ。
人の一生は、雲のように変わる。けっして、一生涯おんなじように幸福だったり不幸だったりするものではない。
しかも、雲は自分の力で変わっているのではなく、風の流れとか気温とか、太陽とかのせいで変わるのだ。
人間の運命も、いろんな原因がもとで変わっていく。」
そして、かつてのカピラヴァストゥのバラモンたちが贅沢に明け暮れ、腐っていったことに絶望し、自分がシャカ族の世界、肉親を捨てて出家する運命となったことを語った。
「我が子ラーフラさえ捨てて・・・」とブッダが語ると、話を聞いていたラーフラは思わず駆け出して父ブッダのもとへ走るのだった。
ブッダは、「大きくなったな」と20歳になったラーフラを受け止めつつも、いまはシャカ族のために話しているから、一緒に座って話をききなさい、といった。
奴隷として働かされた恨みを晴らしたいというシャカ族には、この苦しい結果には原因があるといい、コーサラ人に仕返しをすればまた死人が出る、因果の繰り返しにしかならないといった。ルリ王子が憎いというシャカ族には、ルリ王子こそ何百人も殺し、自分の母親まで見殺しにした思いを背負った悲惨な人だといった。一緒に話を聞いていたルリ王子は、だまれー!と憤りつつ、過去の自分の行いになんとか自己正当化の理由を考え苦しむのだった。
ルリ王子は、ブッダを殺せば楽になると考え、自ら剣をとってブッダのところへ行く。だが、無抵抗で見つめ返すブッダの眼力に、倒れ込み、「どうしたらこの苦しみから抜け出せるか教えてくれ!」と泣き崩れた。
そして、二人は、何時間も話し合った。だが、どうしてもブッダの言葉を理解できないルリ王子は、「もう出ていけ!」といって、ブッダにアナンダと一緒に砦から立ち去るようにいう。ブッダは、「苦しみから逃れたければ、ルンピニ河のほとりの二股の木の下へきなさい。そこで待っています」といって、去っていった。
ルリ王子は、結局、ブッダのもとを訪れる。そして、ブッダに「私は心の医者のようなものだ。語っているのは、患者の苦しさをとりさるための治療法であり、その治療を実際にやるのは、患者自身だ。自分でその治療法をやらない限り、苦しみは一生とれない」といわれる。
一度、カピラヴァストゥの砦に戻ったルリ王子は、ブッダに戻ってきてもらうように人を使わす。二人は、話し合いを続けた。12日間続けた。そうして、ルリ王子は、シャカ族を解放することを決意するに至った。
ルリ王子は、すっかりブッダの教えに魅せられ、コーサラ国にもブッダの教えをひろめたいといって、ブッダとアナンダをともなってコーサラ国へかえっていった。
一方、そのころブッダがいなくなったマガダ王国の竹林精舎では、ダイバダッタの陰謀が始まっていた。ダイバダッタは、マガダ王国で父に幽閉されているアジャセ王子の元に通い、王に徐々に効く毒をもって早くに引退することを促し、アジャセ王子が即位できるのを手伝うといった。代わりに、そのあかつきには、自分がブッダの弟子たちの最高指導者と指名してもらう約束をとりつけた。ダイバダッタはアジャセ王子が幽閉されてから4年間、ずっと王に毒を盛り続けていた。そして、とうとうビンビサーラ王は倒れて、アジャセ王子が即位することとなる。
そして、ダイバダッタは、竹林精舎の修行僧たちに、今日からは自分がルールだと宣言する。カッサパ三兄弟やブッダから後を任されたサーリプッタ、モッガラーナは、もちろん大反対。「ダイバダッタについていきたいものだけついていけばいい」というと、弟子の1/4ほどがダイバダッタと一緒に竹林精舎を出ていった。タッタは「俺について来れば、コーサラ国に仕返しできる」と言われて、ダイバダッタについていくのだった。
ダイバダッタは、一旦、象頭山に弟子300人をつれていき、弟子たちをそこに待機させると、一人アジャセのもとへ向かう。アジャセ王子は王座にすわり、父である王だけでなく、母である妃も牢へいれた。ダイバダッタと一緒に象頭山まで来ていたタッタは、ブッダとの約束(人殺しはしない)を破ろうとしている自分に悩み、一人カピラヴァストゥにブッダを追いかけていく。ミゲーラを残して去っていくタッタ。これは、二人の最後の別れとなる。
竹林精舎に残ったサーリプッタとモッガラーナは、ダイバダッタが留守の象頭山に向かい、ダイバダッタについていった弟子たちに向かって、「仏の使者から君たちを連れ戻せといわれた」といった。「仏の後光」と言われる太陽に向かって立った時に自分の影ができる自然現象によるサーリプッタの後光をみせられた弟子たちは、全員サーリプッタについて竹林精舎に帰っていった。ダイバダッタが、象頭山に戻ったときには弟子は一人も待っていなかった。
そのころ、ブッダの一行は、アナンダ、ヴィサーカーそして、新しい弟子のラーフラ(息子)、バッディヤ、アヌルッダ、コンビラをつれてコーサラ国に向かっていた。途中、ブッダはナラダッタ(1巻から登場していた畜生道におちた元バラモン)の最期をみとる。自然にゆだねて静かに亡くなっていくその姿に、感銘を覚える。そしてその日から、ブッダは、自分の生涯の終わりの日を深く考えるようになった。
コーサラ国に入ったブッダらは、町はずれの墓地を歩いているときにスダッタという富豪にであう。墓地は薄気味悪いと思っていたスダッタだったが、ブッダと出会い、死者は怖くない、お前が怖いと思うから怖いのだと言われる。そして、お金や死の心配は、その心配をやめればよいのだといわれ、開眼する。ブッダの教えをもっと町の人にも広めたいと、自分の財産を最高の僧園をつくることにつぎ込もうと決心する。それが、後に祇園精舎といわれる大僧園となる。その大僧園となる土地は、ルリ王子の息子であるジェータが、スダッタの熱心ぶりに感銘し、さしだした荘園だった。
最終巻、第12巻に続く。
