『ものがたりで学ぶ経済学入門』 by 根井雅弘

ものがたりで学ぶ経済学入門
根井雅弘
中央経済社
2019年8月20日 第一版第1刷発行 
2020年5月25日 第一版第3刷発行

 

できるだけわかりやすそうな経済の本、、、、を求めて、図書館で見つけた本。借りて読んでみた。

 

著者の根井さんは、1962年生まれ。 京都大学大学院経済学研究科教授、経済学博士。  現代経済思想史専攻。著者多数。

 

表紙の裏には、「あらすじ」が。
”高校三年生の経太君は進路に迷っていた。
ところが、ひょんなことから経済学者、杉本先生の中学三年生の息子、栄一君の家庭教師をするようになり、杉本先生との対話から経済学の世界に魅了されるようになった。
アダム・スミスマルクスケインズくらいの名前だけは知っていたが、勉強をしていくうちに高校の教科書で学ぶ事柄とは違う、本物の経済学の世界を垣間見るようになった。
偉大な経済学者と夢の中で対話するまでになった経太君の経済学修業。一体、経太君はどこへ向かおうとしているのか。
高校までの受験勉強から大学での本格的学問への橋渡しを試みた異色の経済学入門。”
とある。

 

目次
第1章 経済学をもっと知りたい!
第2章 グラスゴウ大学の道徳哲学者に会う
第3章 経済学生誕の地はイギリスかフランスか?
第4章 アダム・スミス国富論』が出版される
第5章 「見えざる手」の独り歩き
第6章 古典派経済学の形成
第7章 リカードからミルへ
第8章 マルクス経済学
第9章 マーシャルと新古典派経済学
第10章 ケインズ経済学
終章 経済学をより深く学ぶために

 

感想。
おぉ!!!これは、初めて経済学の本がわかりやすいと思った。アダム・スミスの「見えざる手」への間違った解釈が、本書ではすっきりと解説されている。何より目からウロコだったのは、時代の背景がわかっていないとそれぞれの経済学者の意図が理解できないということ。そりゃそうなんだけれど、ただ、名前と実績をならべられても頭に入ってこなかったのは歴史を理解していなかったからか、、、と腹落ちした。そして、いかなる経済学も国益にとってどうなのか、という点が最終論点になっているということ。だから、ケインズから学んでもわかりにくいのだ。やっぱり、時代の流れで学んだ方がいい。本書は、順番に「経太」君が、杉本先生から学んでくれるので、わかりやすい。中三の栄一君がでてくるのは、中学の教科書でもこれこれとでてくるよ、という説明のため。

 

そして、重要な経済書からの引用は、その著書とページまで注釈にいれてくれているので、名著の解説本にもなっている。一次資料を読むのが原則だけれど、これはこれで、大変ありがたい。読んでみてよかった。

 

物語の中で、経太は、国語の先生から、受験に小論文が必要な大学をめざすなら「天声人語」(朝日新聞)や夕刊文化面には目を通すことをアドバイスされている。たしかに、新聞ってメイン記事だけでなくて、そういうところに結構いい文章があるんだよね。日経新聞なら「大機小機」はいつも面白い。最近、じっくり新聞を読んでいないので、新聞をもっとちゃんと読もうと思った。

著者は、「 経済学は一生かけて学ぶに値するだけの 偉大な伝統を持っていると信じている」と言っている。50代でも遅くない。経済学、ちょっとずつ学んでいこう、と思える一冊だった。本文中にでてくる書籍だけでなく、最後にはお勧めの本もたくさん紹介されている。少しずつ、これらの本も読んでみようと思う。


頭の整理と覚書
グレゴリー ・マンキュー: 29歳でハーバード大学教授になった秀才。伝統の「Ec 10」を担当。『Principles of Economics』(訳書『マンキュー経済学』東洋経済新報社)は、経済学の教科書になっている。物語の中では、経太が最初に読む本。ウィキ情報によれば、マンキューは長年共和党だったけれど、2019年にトランプ政権を批判して共和党員をやめると発表。「見えざる手」についても正しく解説。

 

・「Ec 10」:史上3人の担当しかいない経済学の授業。オットー・エクスタイン(1927ー84、ナチスドイツからアメリカへ亡命)、 マーティン・フェルドスタイン(1939ー2019)、グレゴリー ・マンキュー(1958ー )。

 

・レッセ=フェール:自由放任主義

 

・映画『マリーアントワネットに別れを告げて』:フランス革命(1789)前後の物語。アダム・スミスの生きた時代を知る参考になる。

 

・映画『マルクス・エンゲルス』(ラウル・ペック監督、2018):マルクスエンゲルスの生涯の参考になる。

 

・「資本主義」ということばは、産業革命以降に社会主義者たちが現体制を批判するために用いたのが言葉の始まり。


アダム・スミス】(1723-1790 )
・1723年6月5日生まれ。イングランドスコットランドの合同後に生まれた。産業革命前。
スコットランドの道徳哲学者。グラスゴウ大学教授。
・師は、 フランシス・ハチスン、デイヴィッド・ヒューム、 ウィリアム・ ロバートスン
・『道徳感情』(1759):人は、想像できるので他人に同感(共感)することができる。周囲の人々の感じ方と調和するとき、人は慰めを感じることができる。調和するにはある程度「自己抑制」も必要。「中立な観察者」の感情を配慮できる人であることが、社会の調和に必要。この自己抑制が「見えざる手」につながる。
・『 諸国民の富の性質と原因についての一研究(国富論)』(1776)
・『国富論』が出版された1776年は、アメリカ独立宣言の年。『国富論』の最後は、アメリカの植民地を手放す時期が来ているという趣旨の文章で終わっている。
・マンキューの解説によれば、
 「 スミスの偉大な洞察は、価格が調整されることで、多くの場合、個々の意思決定主体を社会全体の厚生を最大化するような結果へと導くという点にあった」
 「見えざる手」は、利己心ではなく、厚生を最大化する心のことを言っている。
・「資本主義」という言葉の由来となる「商業社会」で、「生産的労働」と「非生産的労働」を区別して考えた。産業革命前夜の社会背景の中では、目に見える形でモノを生産する労働が「生産的労働」と考えらえた。
・資本投下の優先順位:農業→製造業→国内商業→外国貿易、が自然であると考えた。外国貿易を偏重する政策を重商主義として批判。


フランソワ・ケネー】(1694-1774) 
アダム・スミスが尊敬していた外科医。 ポンパドゥール 公爵夫人侍医として、 ベルサイユ宮殿の中二階に部屋をもっていた。
フランス革命前の「旧体制」(アンシャン=レジーム)時代(厳しい身分制度)、「重農主義」を唱えた。重農主義とは、フィジオクラシー(=自然の支配)で、「農業」を唯一の生産的産業とする考え。
重商主義(貨幣=富)への批判
・『経済表』(1758):地主階級、生産階級、非生産階級のあいだの収入・支出の関係をしめし、拡大再生産、単純再生産、縮小再生産、を説明。

 

デイヴィッド・リカード】(1772ー1823)
産業革命後のイギリスで活躍。
・ 土地の生産物が3つの階級 (資本家、地主、労働者)の間にどのように分配されるか その法則を追求した。
・『 経済学及び課税の原理』(1817): スミスの価値論の批判的検討から初めて、みずからの価値論を提示し、それと分配の理論を結び付けた経済理論。
・ 資本蓄積の進行→ 労働需要の増加→ 市場 賃金の上昇→ 人口の増加→ 穀物需要の増加→ 劣等地の耕作の拡大→ 穀物価格の上昇→ 地代の上昇と自然賃金の上昇→利潤率の低下
  前立の低下を回避するためには外国の安価な穀物が輸入できるようにする貿易の自由化が必要だと主張。 産業資本家階級の立場。
・ 比較生産費の原理で、「世界の工場」としてのイギリスの国益を正当化。
・スミスにとって「資本主義」は発見だったが、産業革命の進行とともに世界の工場となったイギリスの経済学をリードしたリカードは、資本主義体制は、「自明」のものだった。


トマス・ロバート・マルサス】 (1766ー1834)
リカードと同様に、産業革命後のイギリスで活躍。
・『人口論』(1798):食料は等差数列的(1,2,3,4,5・・・)に増加し、人口は等比数列的(1,2,4,8,16・・・)に増加するので、人口抑制の必要性は自明である。

 

ジョン・スチュワート・ミル】(1806-73)
・ イギリスの経済学者であり 19世紀の偉大な教養人。
・ 経済学史上では「最後の古典派」という位置づけ。
・ 資本主義から一足飛びに社会主義へと体制移行するよりも、資本主義の弊害を着実に除去していった方が個人の自由が守られるという立場に至った。
・ 資本主義を革命によって 打倒して社会主義体制を樹立しようとした マルクスマルクス主義とは 対照的。
・『 経済学原理』(1848): 生産法則と分配法則の峻別
・『自由論』(1859):
・『ミル自伝』(1873):父ジェームズ・ミルによる早教育。3歳でギリシャ語、8歳でラテン語、12歳で論理学、13歳で、経済学。
・「功利主義」を説いたジェレミーベンサム(1748-1832)は、父の友人。
・「人間は、快楽の追求という利己的な一面を持つ一方で、みずからすすんで苦痛を引き受けることもできる。また、快楽は身体的・物理的な者だけでなく、内面的・精神的なものもある。
・『功利主義』:「満足した豚であるより不満足な人間である方がよい。満足した愚か者よりは不満足なソクラテスの方がいい

 

カール・マルクス】(1818ー83)
・ドイツの哲学者。ロンドンで没。
・『経済学・哲学草稿』(1844):翻訳本は哲学者・長谷川宏氏の光文社古典新訳文庫あり。
・『資本論』(1867):第1巻のみマルクスが出版。2巻(1885)、3巻(1894)は、マルクスの親友エンゲルスが編纂して出版。「労働の搾取」。
マルクスの不満は、古典派経済学が「私有財産」の枠内でしか物事を考えることができないこと。
・『共産党宣言』(1848):エンゲルスとの共著。「今日でのあらゆる社会の歴史は、階級闘争ブルジョア(資本家階級)とプロレタリア(労働者階級))の歴史である」


アルフレッド・マーシャル】(1842-1924)
ケンブリッジ大学教授。数学者。ケインズの先生。
ヴィクトリア朝の繁栄の影にかくれた貧困の実態にふれ、社会問題への関心を高める。転じて経済学者になる。
・「需要と供給の均衡」は、仮定された時間の長さを明確にすることで包括できる。生鮮食品のようなものは短い時間で均衡するが、技術や設備のようなものは長い時間で均衡する。
・「 強き人間の偉大な母であるケンブリッジが世界の送り出す人物は、 冷静な頭脳と温かい心(cool heads and warm heats)を持って、 自分の周りの社会的苦悩に立ち向かうために、 その全力の少なくとも一部を喜んで 捧げようとし、 また、 洗練された高尚な生活に必要な物質的手段をすべての人に提供することは、どこまで可能であるかを明らかにするために、 できることをやり遂げるまでは満足しないと決心しているものであるが、 こうした人々をたくさん育てるため、 私の貧しい才能と限られた力でできることを可能なかぎりやりたい。」

 

ジョン・メイナード・ケインズ】(1883-1946)
・『 雇用・利子及び貨幣の一般理論』(1936)
有効需要(貨幣支出を伴う需要)の大きさが、 社会全体の産出高、国民所得、雇用量を決定する。
・利子は、「 流動性をある一定期間 手放すことに対する報酬」と定義する。
非自発的失業は賃金率が均衡 水準よりも高いがゆえに生じるのではなく社会全体の有効需要(国内に限れば消費と投資)が足りないから生じる。


経太君が、アダム・スミスから順番に夢の中で出会って、杉本先生の助けをかりながら経済学を学んでいくのだが、途中からは数式も結構でてくる。経済学って数学も必要だ。そして、産業革命前後のイギリスで経済学が発展したというのは当然のことなのだとわかる。最後のケインズになってくると、外国貿易もふくまれてきて、どんどん複雑系になってくる。そして、だんだんチンプンカンプンも増えてきたのだけれど、経済学の入門として必要なことは理解できた気がする。

大人で、経済学を学び直したい、経済ニュースをもっと理解したいという人にお薦めの一冊。

 

根井さんって、しらなかったけど、他の著書もよんでみようかな、という気になった。