『禁断の魔術』 by 東野圭吾

禁断の魔術
東野圭吾
文藝文庫
2015年6月10日 第1刷
2019年6月20日 第15刷 


図書館で、「今日返却された本」の棚(仮置きみたいなラック)にあったので、暇つぶし用に借りてみた。東野圭吾、 面白いけど どうせまた同じ感じだろうと思いつつも、、やっぱり、面白い。

 

本の裏の説明には、
”高校の物理研究会で湯川の後輩にあたる古芝伸吾は、育ての親だった姉が亡くなって帝都大を中退し、町工場で働いていた。ある日、フリーライターが殺された。彼は 代議士の大賀を追っており、また大賀の担当の新聞記者が伸吾の姉だったことが判明する。伸吾が失踪し、湯川は伸吾のある”企み”に気づくが・・・。シリーズ 最高傑作!”
とある。

まぁ、どれも、最高傑作だと思うけどね。

 

物語は、
”腕時計で時刻を確認した。午後11時を少し過ぎている。 ロビーに残っていた客が三々五々引き上げるのを見送った後、 吉岡は手元の端末に目を落とした。”とはじまる。

そうか、吉岡というのが、主人公か。とおもいきや、、、全然違った。こんな、脇役?!にまで名前をつけるし、こんな脇役で物語を始めるとは、、、東野圭吾にまんまとハメられた・・・。

って感じで、読みだしたら、一気読み。  天才物理学者・湯川さんシリーズ。もう、湯川さんときたら、福山雅治の顔が思い浮かんでしまうのは、やむ無し。。。

 

今回の殺人事件にまつわる物理科学は、「レールガン」。レールガン(Railgun)は、物体を電磁気力(ローレンツ力)により加速して撃ち出す装置で、火薬を使わずに、電気を通すことで発射体を撃ち出す。まぁ、、、普通に生活していたら、聞くこともなければ、使うこともない装置・・・。渋いなぁ。
さすが、もとエンジニア。

 

で、今回の物語は、その物理科学技術の謎解きではなく、だれがどうして?だれを殺したのか?!情報源は?というミステリー。テーマは、政治家、不倫、環境保全のための地域振興反対活動、町工場、孤児、10代の恋愛、恩師と生徒。まぁ、盛りだくさん。だけれど、わかりやすいストーリー。やっぱり、面白いわ。

 

以下ネタバレあり。

 

今回の主人公は、湯川の高校の後輩にあたる、古芝伸吾くん。後輩といっても、20年も年下。物理研究室の部員が入らなくて、なんとか盛り上げるためにOBである湯川にお願いした、という関係だった。その伸吾くんが、帝都大学に合格し、入学することを湯川に報告に来る。伸吾君は早くに両親を亡くし、9歳年上のお姉さんと二人暮らしだった。暮らしは豊かではない。奨学金をもらっての大学生活が始まるところだった。

ところが、姉がホテルのスイートルームで死体で発見される。

姉は、殺されたのではなく、子宮外妊娠のあげく、破裂、出血多量でなくなったのだった。その相手は代議士の大賀だった。大賀は、不倫発覚をおそれて、伸吾の姉が倒れた現場に居合わせながら、救助を呼ぶことなく逃げたのだった。伸吾の姉は、新聞記者として大賀と仕事の付き合いがあり、そこから男女の仲に発展していたのだった。姉が死んだことのショックに加え、病院では妊娠していたことを聞かされ、さらに驚く伸吾。しかも、ホテルの従業員の話によれば、あきらかに姉はだれかと一緒にいた時に亡くなっている・・。伸吾は、姉の遺品からその相手が大賀だったことを突き止める。

 

そして、伸吾の大賀への復讐計画が始まる。大学をやめて、高校時代に湯川に教えてもらった「レールガン」の仕組みを高度化して、大賀を殺害するという計画だった。

伸吾は、レールガン作製とその実験のために、大学を辞め、とある町工場に就職する。そこの社長娘、高校生の倉坂由里奈は、数学を教えてくれる伸吾に恋心を抱く。そしてに、夜遅くまで真面目に働く伸吾に惹かれて、遅くまでに作業場に残る伸吾のもとを訪れたある日、伸吾が謎の技術開発をしていることを知る。高校卒業したての伸吾と、高校生の由里奈。互いに恋心を抱かないわけがない、、、ていう展開。そして、伸吾の姉の話をきいた由里奈は、伸吾の計画に協力するようになる。

 

一方、大賀は、とある地方都市・光原町にスーパー・テクノポリス(最先端の科学技術を取り扱う研究所)建設推進をしていて、環境破壊だと反対運動を封じ込めるために、その筋の人を雇ったりもしていた。反対運動をしている人間のひとりが、長岡という記者で、或る時、その長岡が自宅で殺害されているのが見つかる。

 

スーパー・テクノポリス建設反対運動の主要メンバーが殺害されたことから、大賀と事件の関係が捜査される。ところが、もちろん大賀は犯人ではない。犯人は、長岡と一緒に建設反対運動をしていたはずの地元レストラン経営者だった。その男は、買収されたのだ。それを長岡に指摘されて、カッとなって、、、、ネクタイで絞め殺してしまった。。。

 

警察は、長岡が大賀と伸吾の姉の関係を把握していたことを掴む。長岡の殺害も、最初は忽然と町工場から姿を消した伸吾が関わっているのかと思われたが、「伸吾は殺人をおかしたりはしない」という湯川の言葉通り、伸吾は長岡殺人とは無関係だった。だが、長岡が殺害されて以降、行方不明のままの伸吾。伸吾の周辺調査が進む。そして、湯川は由里奈が伸吾をかばっていることを確信し、由里奈に事情を聴く。伸吾がレールガンを使って姉の敵討ちをするつもりであることをとうとううちあける由里奈

湯川と警察は、伸吾が大賀を狙うとおもわれる、光岡町で開かれる野球の始球式会場へ向かう。マウンドの上で一人になった大賀ならば、レールガンでも狙うことは不可能ではない。

 

もともと、大掛かりな装置が必要なレールガンは、拳銃のように隠し持ってターゲットに近づける装置ではなく、車で運ぶ必要がある。警察は、レールガン装置が社内に設置されている車を発見。だが、そこには伸吾はいなかった。それがダミーであると見破った湯川は、伸吾が逮捕される姿は見たくないといって、一人帰宅する様子をみせながら、近くのショッピングセンターへ向かう。

ショッピングセンターの駐車場で、本物のレールガン装置と伸吾を見つける湯川。湯川を追いかけていた内海薫は、驚きを隠せない。なぜ?!ショッピングセンターにいるとわかったのか?!

 

最後に、伸吾がレールガンを大賀に向けてセットしていたのを止めたのは、湯川による説得だった。リモートで発射コントロールしようとしていたことを見抜いた湯川は、ちょちょいのちょい、、と、リモートコントロールをいじって、コントロール権を奪取する。湯川は、伸吾にレールガンを教えた。でも、それは人を殺傷するためにおしえたわけではない。でも、伸吾がそれを殺傷のために使おうとするならば、レールガンを教えた自分に責任があると考えた。止めるのは、自分の責任。湯川は、伸吾と伸吾の姉が、技術者であった父親を深く尊敬していたことを知っている。

 

伸吾のお父さんは、かつて、アメリカで地雷を製造する会社にいた科学者だった。しかし、ベトナムで傷つく人々の現実を知り、自分が間違っていたと悟る。そして、亡くなる前は日本に戻り、地雷除去のための技術開発に従事していたのだった。そのことは、伸吾も知らなかった。まだ、幼い伸吾には父はそのことを語っていなかった。湯川は、伸吾のお父さんがかつて働いていたという会社に行って、その話をきいたのだった。

 

そして、

”「科学を制する者は世界を制す」というのは、お父さんの言葉だった。でも、今君がやろうとしていることは、天国のお父さんを喜ばせるだろうか?”

伸吾は、大賀殺害を思いとどまる。

 

あぁ、師弟の美しき物語・・・・。

 

そして、伸吾の姉を見殺しにした大賀だけれど、物語の最後の方では、二人は不倫ではあったけれど、互いに信頼しあう同士のような関係であり、大賀も秘書に言われてやむにやまれず現場を逃げ出してしまった、、という状況がわかってくる。伸吾の姉が愛した人が、極悪非道の人でなくてよかった、、、という感じ。

 

あぁ、今回も、一気読み。

やっぱり、東野圭吾、おもしろいわぁ。。。

また、やられた、、、って感じ。