『 高校生のための現代思想 ベーシック 』  筑摩書房

ちくま評論入門【二訂版】
高校生のための現代思想 ベーシック
岩間輝生: 元東京都立高等学校教諭
太田瑞穂 :東京都立西高等学校
坂口浩一 : 東京都立小山台高等学校
関口隆一 :筑波大学附属駒場高等学校
筑摩書房
2021年11月20日 初版 第1刷発行

 

現代思想を勉強しようと思ったわけではなく、 丸山眞男に関する本を図書館で検索していたら出てきた本。とある勉強会のテーマで、丸山眞男が話題になったので。しかし、書架を探しても見つからず、係りの人と一緒になって探してみた。検索で出てきたのとはちょっと違うかも?でも、きっとこれです、といわれて手にしたのが本書。

高校の教科書というか、副読本なんだろうか?
「高校生のための、、、、」となっている。

 

はじめにでは、
” この本は自分の頭で考えようとする若い人々のために、その思考を豊かで確かな場所に導くことを願って編んだものである。(中略)人間は自己と世界を深く考えることで自由になる。この本が若い人々の思考が目覚める場となれば 弊者たちの喜びはそこに尽きる。”と。

ほほぉぉぉ。。。高校生の時に出会ってみたかった一冊かもしれない。

 

そして、
” 評論とは何だろうか。 およそ言葉というものは、対象を、描くか、 歌うか、 論じるか、に大別できる。 小説は描く、詩は歌う、 評論は論じるのである。評論は、 その主題を分析することによって読者にそれを我がものとして考えさせる文章である。 評論は耳に訴えるのではなく、目に訴える。 目を通して頭に訴え、そして初めて心に働く 文章である。 頭とは、理非曲直を見分ける判断力、あるいは理性である。評論は理解に関わらない雄弁や美的な装飾を嫌う。 評論は感情ではなく、理性に訴えるから読者を考える人間に返す。 この世界で必要とされる資質は自分の頭で考えようとする意欲と、自由な人間であることを恐れない勇気である。”

ほほぉぉぉ・・・・
高校生の時に出会ったら、どう感じたかな。
今こうして目にすると、まさに、目に訴えられ、頭に響き、うんうん、と頷きたくなる。

そして、はじめには、
”最後に、評論は、 人の置かれた様々な制約を超えて理性による合意を深め、友情を求める声であることを強調しよう。 世界はその現実が危機的であるほど、友情と共感を求めている。この本は 友情を求める様々な声でできているのである。”

へぇ、、、、。

 

目次
はじめに
この本の構成と使い方
第一部 評論への招待
第二部
 第一章 〈私〉の中の〈世界〉 問いかける言葉
 第二章 〈他者〉と向き合う 呼びかける言葉
 第三章 AIと人間 究める言葉
 第四章 都市という現象  広がる 言葉
 第五章 〈世界〉の中の〈私〉 関わる言葉
 第六章 芸術の創造力 形づくる言葉
 第七章 ことば、この人間的なもの ことばの言葉
 第八章 問いとしての現代 考える言葉
 第九章 明日の世界を構想する みちびく言葉

 

感想。
面白い。
そうか、そんな風に解析しながら読んだことなかった。こういうスキルというか技というか、、、高校生の時に学んでいたら、もっと新書などを理解するのに役に立ったかもしれない。私は、高校のときに何を学んだんだろう?しかも、これは、現代語の授業にあたるのか?哲学とか倫理の授業はあったけど、そこで論じられていることをどのように「読む」のかのスキルを習った記憶はない。
一方で、習わなくても、自然と身についてきたことのようにも思う。。。

 

第一部では、評論文を読むためのスキル。第二部では、具体的にどう読むのか、注釈や問題と解答の形で実際の評論文を題材に解説がされている。取り上げられている評論文そのものも面白いし、その解説も面白い。

 

第二部は、ほとんど読み飛ばし。丸山眞男のところだけはしっかり読んでみた。解説を読まずしても、自然とそう読んでいる。一応、我流でも評論文を読めているらしい。

 

第一部のスキルについてちょっと覚書。

・表論文の読解に必要なこと。
 what:筆者の主張を理解する。
 How:論の構造を理解する。

 

・表論文構造のいろいろ
 ① 序論 本論 結論 型
 ② 起承転結 型:序論 本論 結論、演繹型と帰納

 

・構造を示す言葉、記号
 指示語:あれ、それ、これ、、、、が何を指すのか
 接続詞:そして、しかし、だが、、、
 形式段落

 

・結論につながる言葉
  つまり~
  まとめて言えば、~
 ~ に違いない
 ~と言える

 

・構造をなすもの
 ①  段落相互の関係
 ② 対比
 ③ 具体と抽象
 ④  レトリック (比喩)

 

レトリックの色々(修辞法)
 隠喩:例「人間は考える葦である」
 直喩:例「 彼はドンキホーテのようだ」
 換喩:連想させる。赤い頭巾をかぶった少女を「赤ずきんちゃん」とよぶ
 擬人法: 抽象、無生物に人間としての性質を与える。例「 社会は病んでいる」
 提喩:類と種の比喩。「花見に行く」の花=桜

 

表論文を読んでいると、矛盾する主張にでくわすことがあるけれど、より高いレベルでは活用されていることがある。それをアウフヘーベンという。

 

” ドイツの哲学者ヘーゲルは矛盾する概念をより高い段階で統一し、生かすことを止揚アウフヘーベン」と呼んだ。”

 

アウフヘーベンって、普段の会話では使わないと思うのだが、勉強会で時々耳にする。

「それをどうアウフヘーベンするかってことですよね」とか。。。

こんな風にきくと、私は赤面してしまう・・・・。日本語使えよ!!って。難しい言葉をつかうって、恥ずかしいこと、、、って感じる私がおかしいのだろうか。まぁ、他に置き換えようのない言葉が無ければしかたがないし、そこにいる全員が共有している専門用語なら、、、ね。 Jargonってやつ。

 

ちなみに、本書の中で、小林秀雄の『無常ということ』、丸山眞男の『 現代における人間と政治』が取り上げられていた。他には、伊藤亜紗福岡伸一、ブレディみかこ、加藤周一上野千鶴子内田樹、、、、、たくさんの人の評論が教材として取り上げられている。気になるものだけ読んでも楽しいかも。私は、読み飛ばしたけど、、ね。

 

加藤周一の『日本文化における時間と空間』からの抜粋も、なかなか面白い。
” 文化は外部のどこかにあるのではない。 立ち居振る舞いから無意識の考えに至るまで浸透している。 だから、死んだものが生きているものを支配することにもなるだろう。私たちが 文化への明察を書くならば。”
日本の文化は、 行為が社会にどういう結果を及ぼしたか(結果責任)よりも、当事者がどういう意図を持って行動したか(意図の善悪)が話の中心になる。” 

 

なるほど、これは、どちらかというとWEIRDな人達と近い。

megureca.hatenablog.com

 

なかなか、楽しめる一冊。じっくりは読まなかったけれど、手元に置いておいてもいいかも、と思った。しかも、教科書だからなのか、なんと1000円(税抜き)!かなりお得感がある。