『ライオンのおやつ』 by 小川糸

『ライオンのおやつ』
小川糸
ポプラ社
2019年10月7日第一刷
 
2021年の春頃、友人が「読み終わって温かな気持ちになった」と言っていた本。

テレビドラマになったのは知っていたけれど、私は見ていない。ストーリーも知らない。図書館で予約したら、すさまじい数の予約数だった。一瞬予約するのをやめようかと思ったけれど、一応予約しておいた。そして、本屋で見かけてぱらぱらっと立ち読みして、「ホスピスの話」なんだということがわかった。悲しそうだから、やっぱり買うのはやめて、図書館の予約を待とうと思って半年以上。 2022年になって、順番が回ってきた。

 

これだけ、号泣したのは久しぶり、、、、、。

じわっと、、、ではなく、ビエーーーンって、、、泣いた。
机の上が、ティッシュの山になった。。。

自宅で読んでいてよかった。

外なら、読むのをやめていたと思う。


温かな気持ちになったという友人の感想も、わからなくはない。

彼女の言う通り、彼女は、お母様を亡くしている。だから、温かく、思えるのかもしれない。

わたしには、まだ、悲しみばかりが襲ってくる。


そうか、、、人はいつか死ぬんだよね、と、つくづく思う。

 

著者の小川糸さんは、1973年生まれ。2008年『食堂かたつむり』でデビュー。以降数多くの作品が英語、韓国語、中国語、フランス語、スペイン語、イタリア語などに翻訳され様々な国で出版されている。『食堂かたつむり』は、2010年に映画化され、2011年にイタリアのパンカレッラ賞、2013年にフランスのウジェニー・ブラジェ賞を受賞。2012年に『つるかめ助産院』が、2017年には『ツバキ文具店』が NHK でテレビドラマ化されたとのこと。
わたしは、どれも読んだことは無いし、観たこともない。

 

出版元のポプラ社のHPには、小川糸さんのメッセージが掲載されている。

ライオンのおやつ|ポプラ社

「母に癌が見つかったことで、わたしは数年ぶりに母と電話で話しました。電話口で、「死ぬのが怖い」と怯える母に、わたしはこう言い放ちました。「誰でも死ぬんだよ」けれど、世の中には、母のように、死を得体の知れない恐怖と感じている人の方が、圧倒的に多いのかもしれません。母の死には間に合いませんでしたが、読んだ人が、少しでも死ぬのが怖くなくなるような物語を書きたい、と思い『ライオンのおやつ』を執筆しました。 おなかにも心にもとびきり優しい、お粥みたいな物語になっていたら嬉しいです。」
と。

 

以下、ネタバレあり。

 

主人公は、33歳、独身の女性、海野雫。癌で余命を宣告され、荒れ狂った日もあったけれど、最後の時間にホスピスを選ぶ。幼いころに両親を事故で無くし、育ての父は,

母の弟、叔父だった。ずっと大好きだった父だけど、雫が16歳の時に「結婚したい人がいる」と告げられ、雫はその時から一人暮らしを選ぶ。もちろん、父は雫と一緒に新しい生活を始めることを望んだけれど、雫は父の荷物になりたくないから。優しかったその父にも病気のことは告げず、一人、ホスピスに向かう。父を悲しませることは、したくないから。

 

こういう、家族を思うという話に、私はめっぽう弱い。

出だしから、涙腺崩壊しそうだった。


舞台は、瀬戸内の島にあるホスピス「ライオンの家」。雫が、船で島に到着するところから始まる。12月25日に到着し、「もうすぐ二月ですね」と会話したあと、数日、、、、1か月ちょっとの人生最後の日々の物語。
「ライオンの家」を運営しているのは、マドンナと呼ばれる女性。シマ・マリという双子の老姉妹が食事とおやつを担当している。「ライオン」というのは、人生の最後、だれだってライオンくらい強く自己主張していいんだ、ということ。自分のまま、素の自分でいていい場所。それが「ライオンの家」。
「ライオンの家」では、週に一度、おやつの時間がある。自分の想い出のおやつをリクエストすると、マリさんが作ってくれる。自分の食べたいおやつを、リクエスト理由をかいた手紙で、リクエストボックスに入れる。自分のリクエストがいつ叶うかはわからない。でも、ライオンの家に来るゲストは、みんなそんなに時間がない。。。死の直前に自分のおやつがでても、もう、食べる元気がないこともある。。。でも、自分の想い出のおやつを、みんなが美味しそうに食べてくれる姿を見ることはできる、、、。


朝は、お粥。シマさんが、色々なお粥を作ってくれる。お粥がたべたいから、朝起きるのが楽しみになり、衰えていく体力の中でも、朝を迎えたいという気持ちになれる。そんなやさしいお粥。

 

おやつに、豆花(トウファ)をリクエストしたタケオさん。カヌレをリクエストしたコーヒーマスター。アップルパイをももちゃんのためにリクエストしたももちゃんのおかあさん。。。。
色々な人と、その思い出のおやつ。ストーリーのあるおやつは、なにか特別な感じがする。

 

雫は、以前のゲストが連れてきた犬、「六花」ロッカ、と仲良しになる。六花とは、雪という意味。最初は、六花をつれて散歩にも行けたけれど、次第に、六花を抱っこするのもしんどくなり、散歩に行くのもしんどくなる。。。でも、散歩で出あったタヒチ君の笑顔に癒される雫。タヒチ君は、ワインを作るためにぶどうを育てている。「ライオンの家」では、モルヒネワインを飲む。タヒチ君のワインをつかって、モルヒネの苦味をマスキングする。雫も、タヒチ君のモルヒネワインで痛みを和らげることができた。タヒチ君は、雫が島についたときに船から降りるのを手伝ってくれた青年でもあった。
だから、タヒチ君は、雫が「ライオンの家」のゲストであることをしっている。もうすぐ死んでしまう人であることをしっている。
それでも、ちょっとだけ、デートをする二人。雫、最後にデートできてよかったね。

 

ゲストの一人に、元修道女のシスターがいた。手編みのコースターのようなものを雫にくれる。認知症もあり、会話はままならない。マドンナが、シスターの言葉を代弁してくれる。
「想いきり不幸を吸い込んで、吐く息を感謝に変えれば、あなたの人生はやがて光り輝くことでしょう」

 

みんな、それぞれに、輝かしい時も、不幸な時も、色々な時間をかかえて生きていた。
でも、人は、いつか死ぬもの。


雫が、もう動くこともままならなくなった時、父が訪ねてくる。雫は、父に病気のことは伝えずにいたけれど、幼なじみには話していた。その幼なじみから聞いたのか、父はライオンの家を訪ねてくれる。しかも、会ったことのない13歳の妹を連れて。。。雫がリクエストしたミルフィーユがおやつの時間に出た日、雫は、父と妹にあう。もう、自分は食べる元気はない。。。

 

数日後、雫は、逝く。
タヒチ君、六花、父、妹、みんなそれぞれに、雫を偲んで空を見上げる。
雫、また、天国で会おうね。。。

 

何人もの人が、静かに逝く。
過去の何もかもが、許されて、逝く。

 

悲しいし、セツナイし、悲しい。
わたしはどうやって死ぬんだろう、と思うと、、、思わずにはいられない。

 

人が死ぬ場面は、悲しい。
もっと、悲しいのは、それを悲しんでいる人の描写。
愛おしい人を亡くすという、想像したくないこと。
でも、現実なんだ。

人はいつか死ぬもの。
そんなことはわかっているけれど、、、、。

 

素敵な日本語がいくつもでてくる。


「六花」、雪っていう意味。
北海道のお菓子屋さん、六花亭、だね。

 

「粥有十利」(しゅうゆうじり)。
お粥には、十の良いことがある、ということ。
朝のお粥、身体が温まり、1日のスタートのエネルギー源ともなる。
禅の言葉でもあるらしい。

 

「醍醐味」だいごみ
牛より乳を出し、乳より酪を出し、酪より生蘇(しょうそ)を出し、生蘇より塾蘇を出し、塾蘇より醍醐を出す、醍醐は最上なり。
醍醐味の語源になった、醍醐。
酪とは、ヨーグルト。生蘇とは、生クリーム。塾蘇とは、バター。醍醐は、最後の味で乳から得られる最上級のおいしいもの、ということ。

 

小川糸さんの小説、初めて読んだけれど、優しい感じがする。
でも、ちょっと、悲しい。

小川さんは、死ぬのは怖くないのだろうか?

 

死んだら、どうなるのかなぁ、、、って、考えてもしょうがないことを考える。
自分が死ぬことよりも、大切な人が死んでしまうのが怖い。
怖い。
考えたくない。

 

残される人、残す人、どっちがどっちってものじゃないけれど、
死んでしまえば、もう、悲しいとかないんだろうと思うから、残される方がやっぱり悲しい。。

 

でも、人はいつか死ぬんだよね。。。

ある日突然死ぬより、病気で残された時間がわかった方がいいのかな、、、なんて思ったりもする。比べるものじゃないか。

 

2022年1月27日、埼玉・ふじみ野市で起きた、医師の殺害事件。言いようのない悲しみ。犯人は、母親が死ぬことを受け入れられなかったのだろう。だからって、医師を怒りを矛先を向けるなんて、間違っている。どうしょうもなく間違っている。

 

生き方は、死に方。

心穏やかに、、、生きていきたいし、死んでいきたいものだ。

 

今できるのは、今できることを、今やること。

それしかないやね。

 

自分の人生は、自分で考えて、自分で決める。

 

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『ライオンのおやつ』