「悔いなく生きよう」
瀬戸内寂聴
祥伝社
令和2年2月10日 初版第1刷発行 (2020年)
寂聴さんを悼む続きとして、『ひとりでも生きられる』に続いて、これもまた図書館で借りて読んでみた。
悔いなく生きよう、と。
すでに、悔いもなければ、反省もないかもしれないけど?!?!
この一冊も、寂聴さんのいろいろなエッセイを集めたもの。初出が1999年から20002年くらい。
本書自体は、平成17年9月に刊行された『寂聴生きいき帖』を再編集したものとのこと。
第1章 子供の頃の記憶、私の人生
第2章 老い、死について
第3章 女という性
第4章 仏教の教え
第5章 旧友、友達との交流
第6章 世の中、社会について思うこと
と、テーマごとにまとまっていて、幅広い分野について、寂聴さんの想いがつづられている。
あらためて、寂聴さんの人脈の広さをかんじる。そして、ご友人の中には、寂聴さんよりさらに年上だったり、大正・昭和の時代に活躍された方々も。ご縁のあった方々の名前が、私には歴史の人?!としてしか認識できなくて、ちょっと歴史を感じる。
それでいて、若い人とも交流されていたし、生涯現役って、そういうことなんだな、と思う。
山田詠美さんに紹介されたフランス作家、アニー・エルノーに触発されて『場所』という作品を書いたこととか、江藤淳さんとその奥様の話とか。平塚らうていのこととか。
第一章「父という男」と言うエッセイで、父親のことを書いている。寂聴さんたち姉妹に対しては、淡白だったという。そんな職人気質の父親が、寂聴さんが若い恋人と駆け落ちをして夫の家を出た時、初めて、京都の寂聴さんに宛てて手紙をくれた、と。
「お前は、子供を捨て、人非人(にんびにん)になったのだ。鬼だ。今更人間らしいことを考えるな。鬼になった以上は、めめしい人情などに引っ張られず、大鬼になれ。」と誤字、当て字だらけの手紙が届いたそうだ。
初めて、父に対して泣いた、と。
小説を書きたいという、寂聴さんの才能については、半信半疑であったろうが、こんな娘は勘当するという態度をとり、送金など一切してはくれなかった、と。父親の筋の通し方に納得していた、と。ただ、父親は、その後体調をくずし、療養しながら生活することになる。しかし、京都の暮らしに疲れ果てた寂聴さんは、ある時、父親の健康不調を知りながら、仕送りを無心する手紙を書いた。
そして、娘に金を送るために、早く元気になろうと灸の治療に出かけて、そこでそのまま亡くなってしまう。そして、最後の時、「は、る、み」と唇を動かしたと、姉から聞かされる。「あんたが、殺したのよ、、、、」と姉。
最初の24ページ、、、ここで私は、ぼうだの涙を流してしまった・・・・。
家族の愛の話には、めっぽう弱いのだ・・・。
そして、さらに、このエッセイの最後に、
「この頃、私は、自分の酒を呑む仕草が父ににていることに、ふと、気が付く。
あの世に行ったら、どの縁のあった男よりも一番早く、父に逢い、ゆっくり二人で酒を組み合したいと思っている。」と。
おぉぉ、、、、
ここでも、ぼうだの涙、、、、、。
今頃、天国で、お父さんと美味しいお酒をたのしまれているだろうか???
あれ?得度出家した人は、天国にいくのか?ん?極楽か??
これは、「新潮45」2000年6月号掲載のエッセイとのこと。
寂聴さんが、80歳手前、ってころ。
80歳で、父親のことを思い出すときって、どんな気持ちなのかな、と、ふと思った。
以降のエッセイは、泣くような話ではないのだけれど、心にきゅんとくる話、そうだそうだ!と憤りたくなる話、色々。
寂聴さんは、何度か、社会問題への抗議で、断食をされている。
湾岸戦争で多国籍軍によるイラクへの空爆が続いていた1991年。
2001年10月、米軍がアフガニスタンを攻撃した時。など。
断食とまでいかなくても、原発反対への活動、被災地の慰問、本当に最後まで活躍されていた。
本書の中に、タリバンが、バーミヤンの遺跡を破壊した痛ましい事件にも触れられている。あれから、再び、、、タリバンは、アフガニスタンの人々の平和な暮らしを奪っている。
人間はどこまでも愚かなのだろうか、、、。
また、少年犯罪や、自殺者の増加についても、嘆いていらっしゃる。
「智恵と智識は違う。智恵とは、自分の行くべき道の方向を、自分の力で、誤らずに判断する能力を持つことである。」
道を誤らずに判断する力。
智恵。
それは、モノを知っているという事ではない。
判断する力。
自分のアタマで考えられる力。
それには、読書が必要、と言われている。
「なぜ人を殺してはいけないの?」と子供に聞かれて、何と答えていいかわからないという親の投稿が新聞に掲載された。そういう投稿があること、またそこに共感すると言う人がいると聞いて、寂聴さんは心から驚愕したという。
私も、そう思う。
世のなかには、問答無用で、説明などいらないことがある。
その一つが、
「なぜ人を殺してはいけないのか」だと思う。
また、「なぜ自殺しちゃいけないのか」もしかり。
ダメなものは、ダメなのだ。
寂聴さん曰く、あえて言うならば、「おまえは人間だから」と。
そうですよね。
そうです、その一言でいいですよね。
と、私は言いたい。
「悔いなく生きよう」というのも、また、なんともそのまんまのタイトルだけれど、人間、「やったことより、やらなかったことに後悔するものだ」、とよく言われる。
やってみて、ダメなら仕方がない。
やりもしないで、「本当なら、、、」とか、「でも、、もしも、、、」とか、、、何の役にも立たない。
そうだよなぁ、、、と思う事がたくさん書いてあった。
こういうことを、明確に、はっきりを口にして言ってくれる人が、また一人減っちゃったんだなぁ、、と思うと、やはり、寂しい。
でも、人は必ず死ぬ。
順番といえば、順番。
その日が来るまで、悔いなく、頑張ってみよう。
そんな気持ちになる一冊だった。
読書は楽しい。