『あなたは、誰かの大切な人』 by  原田マハ

あなたは、誰かの大切な人
原田マハ
講談社
2014年12月17日 第一刷発行

 

図書館の原田マハさんの棚で見つけた本。借りてみた。
装丁には、ロシア系ユダヤ人のアメリカの画家、マーク・ロスコの”Mural No,4”。

どこかに続く、扉みたい。

『ギフト』に続き、これも、短編集だった。

megureca.hatenablog.com

 

『あなたは誰かの大切な人』、というのは本のタイトル。それぞれの短編にそれぞれのタイトルが。

 

目次

最後の伝言
Save the Last Dance for Me

 

月夜のアボカド
A Gift from Ester’s kitchen

 

無用の人

 

緑陰のマナ
Mana in the Green Shadow

 

波打ち際のふたり
A Day on tje Spring Beach

 

皿の上の孤独
Barragan’s Solitude

 

6つの作品がおさめられている。

 

ちょっとだけ、ネタバレありの覚書。

 

「最後の伝言」は、お母さんのお葬式になかなかやってこない父親にイライラする姉妹の物語。式が終わりかけたころにやってきた父親は、お母さんとの思い出の歌を、泣きながら歌い、棺に寄り添う。ダメおやじだったけれど、お母さんもお父さんを憎めなかった。そんな夫婦の愛に、ダメおやじながら、心を許す姉妹の話。

 

「月夜のアボカド」は、美術館で働く39歳の女性・マナミが主人公。ロサンゼルス郡立美術館に勤める69歳の友人アマンダと、その友人・79歳のエスタとの交流の物語。3人は、マナミが出張してアメリカに行くと、アマンダの家でアマンダのお料理を楽しむ間柄。エスタはメキシコ料理が大得意。アマンダのワカモーレのおいしさの秘密は、庭でとれるアボカドだった。そんな美味しいお料理をめぐる、エスタとマナミとそれぞれの結婚、家族、恋愛の物語。美味しいものに癒されたくなる、そんなお話。

 

「無用の人」は、1か月前に亡くなった父から手紙を受け取る娘の話。美術が好きで、アートの世界に行くと言った聡美に、特に興味も示さず、好きならやればいい、という興味なさげな態度だった父親。母とは熟年離婚していた。そんな父の死後に職場に届いた父からの手紙。封筒に入ってたのは、アパートの鍵だった。知らない住所。行ってみると、そこで待っていたのは、何もない畳の部屋にポツンと、昔、父の本棚からこっそり読んだ岡倉天心茶の本。そして、ふと顔を見上げると、窓越しに見える満開の桜だった。父も、父なりのアートをもっていた。

茶の本』からの一節が引用されている。

”おのれに存する偉大なるものの小を感ずることのできない人は、他人に存する小なるものの偉大を見逃しがちである。”

あぁ、小さなものにも感動する心の余裕、無くしてはいけない、、と思った。


「緑陰のマナ」は、おふくろの味にまつわる物語。マナとは、旧約聖書に登場する奇跡の食べ物。異国情緒あふれるトルコの景色が舞台。そこで、亡くなった母が残してくれた最後の「梅干し」を現地の友人と分け合う日本人女性の物語。

 

「波打ち際のふたり」は、両親の介護問題を抱えるようになった年頃の、女友達同士の友情物語。介護に追われても、友達と過ごす時間は大事。色々抱えながらも、二人旅をすることで、それぞれが癒されていく。離れていても、支え合える友人のありがたさ、しみじみ思う。

 

「皿の上の孤独」は、メキシコを代表する建築家、ルイス・バラカンに憧れて、メキシコシティのルイス・バラガン邸までやってきた建築業界で働く女性。かつての仕事仲間も、ルイス・バラガン邸にあこがれていた。でも、メキシコシティへの旅は、彼と一緒ではなかった。長く友人であり、一度も恋愛に発展したこともなく、それぞれが結婚もしていたが、ちょっと切なく、彼を思う、そんな物語。

 

どのお話も、ちょっと、ダメ男だったり、痴呆がはじまった親だったり、なにかしらの問題を抱えている人がでてくる。
そこにも愛がある感じ。それが、原田さんの作品の優しさを感じるところかなぁ。

 

『ギフト』は、あまったる~~~い、感じだったけれど、こちらの方が人としてセツナイ。

痛いところついてくるなぁ、って思う。

男と女のあいだに、恋愛ではなく、友情は成立するのか。古くて新しい、そんなテーマも見え隠れする。

そして、彼女の作品は、仕事で頑張っている女性が主人公であることが多い。
彼女自身が、サラリーマンをやめてフリーランスで美術業界で仕事をしてがんばってきたことで、働く女性を応援したい気持ちがあるのかな。

 

この中で、私が一番好きだったのは、「月夜のアボカド」
定職につくでもなく、好きな料理をしていただけの彼が、彼女が持ち帰るレシピでだんだんと腕をあげていく。そして、彼自身の仕事にもつながる。マナミは、レシピの主であるエスタに食べてもらうために、彼のつくった料理をニューヨークまで持っていく。そして、
「いつか、彼を連れてらっしゃい」と、エスタに言われる。一緒に、庭のアボカドを取りましょうって。


国を越えて料理で繋がる感じ。彼が、マナミが美味しいとおもったレシピを一生懸命再現しようと奮闘する感じ。みんな、それぞれ自分の好きなことに没頭しつつも、美味しい食べ物でつながっている。愛情でつながっている。なんか、いいなぁ、って思う。

美味しい食べ物は、人を幸せにする
これって、万国共通だ。
言葉が通じなくても、美味しものがあれば、笑顔を共有できる。

やっぱり、私は食が好きだ。

と、そんなことに改めて気が付いてしまう。

 

食いしん坊は、人生を楽しめる。

勇気をもって、そう言い切ってしまおう!!

今日も、美味しいもの食べるぞぉ!!

 

『あなたは、誰かの大切な人』