『クスノキの番人』 by  東野圭吾

クスノキの番人
東野圭吾
実業之日本社
2020年3月25日 初版第一刷発行

 

最近の新聞の文庫本売り上げランキングで見かけて、東野圭吾だし、やっぱり面白そうと思って図書館で探してみた。単行本は、2020年。単行本ならすぐに借りられるかと思って予約したけれど、やはり、予約している人は他にもいて、数週間は待っただろうか。さすが東野圭吾

どんな内容なのか、全く知らずに借りたのだが、本の表紙には、おそらくクスノキなんだろうと言う大きな木の絵。そしてそのクスノキには、しめ縄のようなものが結ばれていて、ろうそくが灯されている。空には満月が。うん、なんだか、謎めいた絵の表紙。

 

Amazonの本の紹介文を引用すると、
”恩人の命令は、思いがけないものだった。
不当な理由で職場を解雇され、腹いせに罪を犯して逮捕された玲斗。
そこへ弁護士が現れ、依頼人に従うなら釈放すると提案があった。
心当たりはないが話に乗り、依頼人の待つ場所へ向かうと伯母だという女性が待っていて玲斗に命令する。
「あなたにしてもらいたいこと、それはクスノキの番人です」と……。
そのクスノキには不思議な言伝えがあった。”


単行本は、国内50万部の突破のベストセラーだったらしい。しらなかったなぁ。2020年3月、ちょうど、コロナ感染が広がって国内でもドタバタしていた頃だ。

 

東野圭吾さんは、1958年大阪府 生まれ。大阪府立大学工学部 卒業。 1985年『放課後』で 第31回 江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。代表作と言えば、『 容疑者 Xの献身』、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』だろうか。読めば楽しい作家さん。だけど、私自身は、彼の作品を全て読んでいるわけではない。時間があったら読んでみよう作家リストに入っているけど。

 

感想。
うん、やっぱり、面白かった!! まさに、奇蹟のはなし。
Amazonの広告に、東野さん自筆の
”小さな奇蹟を 時々 無性に書きたくなります。” 
というコメントが載っていたのだけれど、ほんとに、奇蹟のはなし。

 

ミステリーではない。SFでもない。だから、奇蹟のはなし、かな。『ナミヤ雑貨店の奇蹟』に近い。そんなこと、あるわけない!っていうちょっと不思議な、スピリチュアルな、でも、もしかしたらあるかもしれない、、、なんて。
空想の世界かもしれないし、想像すれば叶う世界かもしれないし、、、、。

 

楽しく読める。
でも、私は、時々、涙と鼻水でぐずぐずになりながら読んだ。最後なんて、、、涙で文字が歪んで見えない、、、。ティッシュとお友達になりながら読んだ。
そう、私は、親子、姉妹、家族、兄弟、、、人々との愛情物語に滅法弱い。悲しくて泣くのではない。人の愛に包まれて、人が成長していく物語が、滅法好きで、滅法弱い。
うえぇぇ~~~ん。がんばれ~~~!自分の道を切り開けぇ!!って、応援したくなる。
いやぁ、楽しかった。

 

451ページ。結局、一気読み。途中、ドリンクバーのあるファミリーレストランで遅めのランチをしながら1時間以上居座り、読んでいたのだけれど、どうにも涙が止まらず、一旦本を閉じて、自宅に帰ってから続きを読んだ。

 

一言で言えば、親を亡くして祖母に育てられた青年が、無気力に生きていた中、遠い親戚にあたる高齢女性から、人生やり直しのチャンス与えられ、生きる希望に目覚める。そして、最後は、彼自身が、女性の助けになるという話。そして、そこにクスノキの不思議な力が関係してくる。そんな奇蹟、あったらいいな。そして、信じたくなる人もいるだろうな、って話。ディズニーの世界か、ハリーポッターの世界か。。。でも、俗世に生きる人間臭さが漂うことで、大人のおとぎ話になっている。

 

以下、ネタバレあり。

 

主人公の直井玲斗は、小学生の時に母・美恵子を亡くし、祖母・富美に育てられた20代の青年。貧しかったので大学へは行かず、高校をでてから製造業で働いた。でも、会社でおきた食品異物混入が自分の整備ミスだといわれてやる気を失う。そんな時、高校の同級生がクラブの黒服で贅沢に生活しているのをみて、黒服の世界へ入る。でも、ホステスの女にハメられて、退職。次に働いた「トヨダ工機」では、製品の不良を隠してものを売る社長に反発し、クビに。何をしても続かないのだった。そして、金はなくなり、生活に困る。そんな時、「トヨダ工機」の後輩から、手軽に盗めそうな高価な機械を社長が汚い方法で手に入れたから、盗んで転売すれば、、、と持ちかけられ、、、失敗して、留置所行き。

玲斗を留置所から救ってくれたのは、見知らぬ弁護士で、弁護依頼人は明かせないという。無事放免されたら、その依頼人の玲斗への依頼を受けることを条件に、無料で弁護をしてくれるという。玲斗は、コイントスで答えをだした。どこの誰だか知らないけれど、留置所からだしてもらって、その依頼人の依頼にこたえよう、と。

住宅侵入の罪は、無事に示談となり、玲斗は釈放された。そして、弁護士に連れられて依頼人のところへ行く。

素直に、依頼人のところへ向かう玲斗に、弁護士は言った。

「これからは、コイントスに頼るのではなく、自分の頭で考え、しっかりとした意見の元に答えをだしなさい」と。玲斗が「表がでたから依頼を受ける!」といったコインは、世の中では裏、と言われる面だった。。。日本の硬貨は、製造年月日が書いてある方が裏。

 

高級ホテルの一室で待っていた依頼人は、60歳すぎとみえる威圧感のある女性だった。前に会ったような気もするけれど、知らない女性。女性は「ヤナッツ・コーポレーション 顧問 柳澤千舟」と書かれた名刺をだして、玲斗とは以前2回会ったことがあるという。「あなたは小学生だったし、覚えていなくてもしかながない」と。

千舟は、玲斗の伯母だった。千舟は、玲斗の母・美恵子にとって腹違いの姉にあたり、20歳も年の離れた姉妹だった。千舟の父・宗一の再婚相手が富美で、その娘・美恵子が不倫の末にシングルマザーで生んだのが、玲斗。千舟と美恵子は、美恵子が不倫の末に妊娠したときに縁を切る形となり、関係をたっていた。

突然現れた、伯母さん・千舟。玲斗は、千舟にいわれるがまま、柳澤家が代々守ってきたクスノキの番をすることとなる。月郷神社にあるクスノキの大木は、願いが叶う木で、スピリチュアルスポットとして知られていた。昼間はだれでもお参りする事ができるが、夜間は、予約をした人のみが、そのクスノキに「祈念」をする事ができる。

玲斗は、祈念を予約した人にその準備をし、クスノキを守るのが日課となった。

 

玲斗は、クスノキが願いをかなえてくれるなんて信じられなかった。でも、社務所にある過去の記録を見ると、ずっと昔から人々は祈念しにきている。祈念は、とくに決まった価格があるわけではなく、祈念した人が、自分で納得のいく金額を封筒に入れて置いていくのが習わしだった。千舟は、そのお金は玲斗が生活するのに使っていい、というのだった。

祈念の記録簿をみていると、祈念の予約は、新月の日、満月の日に集中していた。おなじ苗字の人が数年後に来たりしてることにも気が付いた。千舟によると、新月や満月の夜は、クスノキのパワーが高まるのだという。そして、満月の日に予約してくる佐治寿明と顔見知りになる。

 

佐治が祈念にきたある日の夜、玲斗は怪しい人影を見つける。それは、寿明の祈念をこっそり調べている娘の優美だった。祈念中にクスノキに他の人が近づくのは御法度であり、玲斗にはそれを防ぐ責任がある。玲斗は優美を寿明が祈念しているクスノキから引き離そうとする。そうして、出会った二人。優美は、父・寿明が度々夜中に外出するし、昼間にも母と自分に秘密で出かけていることを知り、不倫をしていると疑っていた。そして、玲斗は優美の「父の不倫のなぞ」を解明する手伝いをすることとなる。

 

寿明は、不倫をしているのではなかった。優美もよく知らない寿明の兄・喜久夫がクスノキに祈念した思いを、受け取りに行っているのだという。喜久夫は、若い時にピアニストを目指して進学したが、挫折し、アルコール中毒で身をくずし、施設で療養していたが、数年前に亡くなっていた。優美の祖母、つまり寿明と喜久夫の母・貴子は、喜久夫を溺愛しており、息子がアル中になって、夫から見放されても、こっそり支え続けていた。しかし、喜久夫が亡くなったころから貴子の痴呆症状がすすみ、いまでは施設にいて、息子や優美のこともわからなくなっていた。寿明は、喜久夫がクスノキに祈念したのが、どうやら自分で作曲した曲らしく、母に捧げる曲なんだという思いをクスノキから受念する。つまり、だれかがクスノキに預念(願いを預ける)て、だれかがその預念を受念(願いを受け取る)のが、クスノキの奇蹟だった。

父の不倫疑惑が払拭された優美は、父の「兄の曲をピアノで演奏して母に聴かせたい」という思いに共感し、クスノキからの受念を手伝うこととなる。

そんな親娘をみまりつつ、玲斗は千舟に色々と指導されながら、社会人らしい振舞い、言動、容姿を身に着けていく。千舟自身の原点である箱根の「柳澤ホテル」、現社長が切り開く「ヤナッツホテル」に泊ることで、柳澤家の事業を体感し、千舟の心からお客様に喜んでいただきたいという思いに共感するようになっていた。

佐治家の不倫疑惑が払しょくされ、今は亡き喜久夫の作曲した曲を貴子に聞かせる作戦は、大成功となる。貴子のいる施設で演奏会を開催し、貴子は「キクオの曲だ」と言って涙を流すのだった。

一方、ヤナッツ・コーポレーションの方は、すでに顧問で実質上の経営に意見できなくなっていた千舟だったが、現職の経営陣がすすめる「柳澤ホテル」閉鎖計画を止めることはできず、会社の方針は、「お客様」から「収益性」重視に変わっていってしまう。口では、「私は、もう引退した身だから」といって、現経営陣を否定するようなことは言わない千舟だったが、本来の「お客様第一」の気持ちをどこかに引き継いでいきたいという思いを強く抱いているのだった。

玲斗は、あるとき気が付く。千舟が、「今日は私がクスノキの番をするから、玲斗は渋谷のヤナッツホテルに泊りなさい」といった日のことを。祈念予約者の帳簿には、飯倉という千舟も玲斗もしる男性の名前があったが、ほんとうは、千舟自身が預念していたのだ、と。

そして、玲斗は、千舟の預念を受念する。

 

千舟の想いは、玲斗に伝わった。玲斗は、「柳澤ホテル」閉鎖措置の撤回に向けて、強硬手段にでる。千舟が参加する最後の役員会に、口実をつけて同席し、千舟に代わって「柳澤ホテル」への想いを延々と演説するのだった。

 

そして、、、千舟が抱えていた苦しみ、想い、全ては、玲斗に。。。。

腹違いの妹・美恵子を助けてやれなかった無念、玲斗が思いがけず自分を受け入れてくれたことへの感謝・・・・。

 

最後は、涙、涙、、、、。

 

クスノキの想いは、血縁者でなければ受け取れない、と言われていた。でも、血のつながりはなくても、、、想いは、、、相手のことを思う気持ちがあれば、想いは繋がる、、、。そんな、もう一つの逸話も交じっている。

 

心あたたまる、大人のおとぎ話。

 

うん、やっぱり、東野圭吾、面白い。

読書は楽しい。

 

携帯の待ち受け画面を、大楠にしたくなった。

佐賀県 武雄神社 樹齢3000年の大楠 (2020年12月 撮影)