52ヘルツ のクジラたち
町田そのこ
中央公論新社
2020年4月25日 初版発行
2021年4月10日 15版発行
知り合いが、2023年に読んで良かった本としてあげていたので、 図書館で借りてみた。どんな本なのか全く知らなかった。 町田さんの本も、読んだことはないと思う。でも、装丁もなんだか可愛らしいし、 ファンタジーみたいなお話かと思ったら、、、、違った。
重い・・・・・。
そして、 先日ある映画を見た時に『52ヘルツのクジラたち』 という映画の予告をやっていて、まさに、本書を原作とする映画だった。ほんと、何も知らずに、借りてしまった。そして、何も知らずに、読んでしまった・・・。
最後に、「この作品はフィクションです。 実在する人物 団体などとは一切関係ありません。」とあるので、ほんと、ただの小説なのだろう。でも、あまりにも重くって・・・驚いた。
図書館の本だけれども、 ご丁寧に「2021年本屋大賞1位」を取った時の帯が後ろに添付されていた。
帯には、
”52ヘルツのクジラとは・・・。 他の鯨が聞き取れない高い周波数で鳴く、世界で1頭だけのクジラ。たくさんの仲間がいるはずなのに何も届かない、何も届けられない。 そのため、世界で一番孤独だと言われている。
自分の人生を家族に搾取されてきた女性・ 貴瑚と、母に虐待され「ムシ」」と呼ばれていた少年。孤独 ゆえ 愛を欲し、 裏切られてきた 彼らが出会い、 新たな 魂の物語が生まれる。”
とある。
そして、帯裏には、本編スピンオフ「ケンタの祈り」として、ケンタの言葉が・・・。
目次
1 最果ての街に雨
2 夜空に溶ける 声
3 ドアの向こうの世界
4 再会と懺悔
5 償えない過ち
6 届かぬ声の行方
7 最果てでの出会い
8 52ヘルツのクジラたち
感想。
泣いた。泣いた。泣いた。
泣かずには読めない。
これは、絶対に電車では読めない本だ。最後には希望の光が見えるけれど、絶望に続く絶望の物語、、、、で、いったい、どこへ行ってしまうのか、、。
物語は、貴瑚(きこ)という女性が、都会を離れて遠くの海の街に一人で引っ越してくる場面から始まる。そして、どうして貴瑚が一人で田舎町にやってきたのかという回想がストーリに織り込まれる。現在進行形の中では、貴瑚が海の町で出会った、どうみても虐待されているとしか思えない少年の絶望が続く。貴瑚の絶望の振り返りと、少年の絶望の現在進行。そして、現在の貴瑚は、少年を救おうとする。。。ざっくりいうと、こんな話。
その貴瑚の過去がすさまじ過ぎる。。。。映画ではどう描かれるのかわからないけれど、とにかく、、、、悲しい。。。。貴瑚の過去を回想するシーンを読んでいると、息がとまりそうなほど、、、、悲しい・・・。だって、本来なら一番守ってほしい、一番愛してほしい母親に愛されず、奴隷のように使われてしまうのだ。母親が再婚したことで、連れ子の貴瑚が、悲しい想いをするというのは、ありがちのストーリーかもしれないけれど、ひどすぎる。。。高校を卒業して、新しい人生を歩もうとしていた貴瑚を義父の病気が阻む。結局、義父の介護に24時間を奪われつくした貴瑚・・。
でも、本書の救いは、そんな貴瑚に、ちゃんと愛の手を差し伸べる人たちが現れること。でも、差し伸べられた愛の手も、貴瑚が上手く受け止めることができず、、、。
あぁ、とにかく、よくこんな悲しい環境を描けたな、、と思う。でも、普通に起きていても不思議じゃない。。。親子、離婚、再婚、義父、友人、恋人、自殺、虐待、痴呆、、、。
映画にもなるようだけど、、、、ちょっとだけ、ネタバレ。
登場人物
三島貴瑚:主人公。亡くなった祖母が晩年に一人でくらしたという大分の海の見える家に引っ越してくる。そして、人生に絶望した昔の回想や、町で出会った少年のために生きる決心についてがストーリーとなる。
村中真帆:貴瑚が引っ越した祖母の改修をしてくれた業者の青年。なにかと、貴瑚に優しくしてくる。口が悪いけれど、まっすぐで善い人。
ケンタ:村中の後輩にあたる青年。ずけずけと物を言ってしまう村中に、ときどき「失礼っすよ」とくぎをさす。
愛(いとし):貴瑚が町でであった少女のような少年。口がきけない。虐待されていて、たまたま出会った貴瑚に、助けを求める。名前をたずねると、家では「ムシ」と呼ばれている、と貴瑚に告げる。貴瑚は、「ムシ」とは呼べないので、「52」と呼ぶようになる。それは、貴瑚が気持ちを落ち着けるために聞く「52ヘルツのクジラ」の鳴き声を、愛に聞かせたところ、おちついたことからの呼び名だった。
牧岡美晴:貴瑚の高校の同級生。回想シーンの中では、死のうとしている貴瑚を見つけて、助けてくれた恩人。貴瑚が突然美晴にも黙ってどこかへ行ってしまったのを気にかけて、大分まで追いかけてくる。物語の中では、最後まで、貴瑚の最高の友だち。
アンさん:美晴の仕事仲間のおじさん。美晴が貴瑚を死の淵から救ったときに、いっしょにいたことから、貴瑚を家族の虐待から救い出すことに全力を尽くしてくれる。物語の最後に、アンが実は、トランスジェンダーだったこと、アンの貴瑚への愛は、友情をこえた感情であったことが明かされる。だから、恋人にダマされている貴瑚を救おうとしたが、それが貴瑚の恋人の逆鱗にふれ、、、、。アンはアンで、カミングアウトすることで親を不幸にしてしまうと悩んでいた。
新名主税(ちから):家族の虐待から抜け出した貴瑚が働き始めた会社のボンボン。職場で貴瑚がケガをしたことがきっかけで、恋人同士となるが、主税は社長である親が決めた婚約者との結婚が決まり、それでも貴瑚のことは愛人として守る、と、、、ぬかす。それに甘んじてしまおうとする貴瑚を止めようとしたのがアンだった。
琴美:愛の母親。だが、育児放棄したうえ、虐待。村中の同級生で、もとは町一番の美人で、クラスの人気者だった。
サチゑさん:村中の祖母。以前の町内会長さんで、だれもが従ってしまう怖そうなお婆さんだけれど、最後は貴瑚に理解をしめし、愛を救うために智恵を授けてくれる。琴美の母親であった昌子を訊ねてみては、と教えてくれる。
生島昌子:琴美の母。琴美が小さいうちに、夫の娘への甘やかしに反発し、離婚。愛の祖母にあたるが、離婚後は琴美とも縁がきれていたので、愛のことは知らなかった。
生島秀治:昌子の再婚相手、現夫。愛が虐待を受けているという状況を貴瑚からきき、親権の手続きをとらないと、面倒なことになるけれど、貴瑚が今の状態で親権を得ることは難しい。18歳になるまで、愛の親権を昌子がとって、家で引き取る、と提案してくれる。
とまぁ、色々な人物がでてくるのだけれど、貴瑚の家族(母親、義父、父親違いの弟)、主税、琴美を除けば、みんな貴瑚や愛のことを大事に思ってくれる人たち。人間関係は、そんなに複雑ではない。
貴瑚は、私生児。その後再婚した母は、義父との間に男の子をもうける。弟がうまれたことで、実の母や義父から高校を卒業したあとまで虐待をうける貴瑚。信じていた母にまで、「おまえが死ねばいい」といわれ、絶望する貴瑚。死のうとしていたところを救ってくれた友人たちがいた。それが、美晴とアンさん。しかし、こころの支えだったアンは、貴瑚に好意を抱いていたが、貴瑚はそれに気づかない。そして、そのアンの警告を聞かずに、貴瑚は新しい恋人・主税との人生を歩もうとする。でも、主税は、貴瑚を愛人にしたいだけだった。それを警告してくれたアンは、貴瑚への思いが届かなかったことや、自分のアイデンティティの悩みなどから自殺してしまう。
それをしっても、アンを罵り、貴瑚に暴力をふるおうとする主税。またしても絶望した貴瑚は、主税の目の前で自分の腹に包丁を突きさす。。。
一命をとりとめた貴瑚だったが、主税の親から二度と息子に近づいてくれるなと大金を渡される。貴瑚は、主税と会うつもりもないし、お金など欲しくなかったが、そのお金で、もう全ての人と縁を切って、一人で生きようと決める。
そして、引っ越してきたのが大分の海の見える町だった。
そして、まだ絶望の淵からふらふらとしている貴瑚の前に、もっと絶望している愛が現れる。貴瑚は、虐待され、親に怯えて口がきけなくなってしまった愛を守ろうと心に誓う。そして、愛と筆談で会話をしながら、愛が生きる道をいっしょに探そうとする。愛がかつてはいっしょに暮していたちほちゃん(父親の妹)にあいたいというので、福岡まで探しに行くが、ちほちゃんも、その母親である愛の祖母も既に亡くなってしまっていた。そのちほちゃんさがしには、貴瑚を追いかけてきた美晴も協力してくれる。
美晴の協力を得ながら、ちほちゃんは見つけられたものの、亡くなっていたのでは、愛をあずけることはできない。貴瑚は、自分で愛の面倒をみようと決断する。だが、今の貴瑚が愛の親権を得て、きちんと養育するのは難しい。最後は、サチゑさんの智恵で、愛の祖母にあたる昌子さんら夫婦に助けられる。
まぁ、最後は、たしかに、ハッピーエンドともいえる。
本当に、愛にも、貴瑚にも、心休まる時間が訪れますように、、、と祈らずにはいられない。また、貴瑚の祖母が、なぜ一人で大分のこの町で晩年をすごすことになったのか、、という貴瑚もしらなかった過去もサチゑさんから明かされる。
なんともいえない、、、愛の物語。
52ヘルツのクジラの鳴き声、きいてみたいな、、、って思った。
いやぁ、参りました。
ちょっと読んだら出かけようと思っていたのに、読み始めたら止まらず、、、。
鼻水と涙でぐしょぐしょになってしまった・・・・。
いやぁ、、これは、映画は観に行かないな・・・。
素敵なお話だけれど、悲しい過去が多すぎる・・・。
帯についていた、おまけの「ケンタの祈り」は、ちょっと楽しい村中へのエール。
あぁ、読み応えのある一冊だった。
一気読みだったけど。
本屋大賞1位だったんだ、知らなかった。
やっぱり、知らないことが多すぎる・・・。
読むなら、思いっきり泣いても大丈夫な環境で読むことをおすすめ・・・。